【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅳ 忘れられたドンバスの苦悩(その1)

成澤宗男

今回のウクライナの戦争は、2月24日におけるロシア軍の侵攻で始まったと見なされている。だが細かに検証すると、実質的に開戦となったのはその8日前の2月16日の、ウクライナ軍による東部・ドンバスのドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)への攻撃から引き起こされたのではなかったか。

ドンバス側は、特に2月17日について、次のように発表している。

「ウクライナ軍は2つの人民共和国に対し、猛烈な量で砲撃を加えた。使用されたのは重砲と迫撃砲、ロケット弾、対戦車ミサイルと擲弾筒で、数時間にわたり500回以上の砲撃があった。これによって住民1人が重傷を負い、いくつかの家屋や生活インフラの一部が破壊された」(注1)。

さらに、18日の状況だ。

「2日目も続いて、ウクライナ軍がDPRとLPRに激しい砲撃を加えた。3軒の家屋と2カ所の発電施設に損害を与え、両共和国は直ちに子供たちと女性、高齢者のロシアへの避難を開始した。……18日朝以降、ウクライナ軍はDPRだけで43回の停戦違反を犯し、122ミリ砲32発や120ミリと82ミリの迫撃砲360発、4発の戦車からの砲撃を含む550回以上の砲撃があった」(注2)。

当時は、2014年2月のクーデター後のドンバスでの戦闘に匹敵する激しさを伴っていたが、ウクライナ側も「攻撃を受けた」と両共和国を非難し、後者も報復のための砲撃を否定していない。

War in Eastern Ukraine. Russian tanks surrounding and attacking the city of Mariupol. 3D rendering.

 

2月16日から始まったウクライナの攻撃

ミンスク合意に基づき、ウクライナ東部の停戦の順守状況や重火器の撤収等をモニターしている「欧州安全保障協力機構」(OSCE)の「ウクライナ特別監視団」(SMM)が発表している日報(注3)でも、2月16日以降の状況悪化が記録されている。

日報は当事者を特定しない停戦違反をほぼ毎日公表しているが、22年1月13日から1月31日までに生じた件数はDPRで2565件、LPRが1773件。爆発(あるいは着弾。一部演習も含む)はDPRで328件、LPRが705件になっている。2月1日から15日にかけては、停戦違反ではDPRが2337件でLPRが1458件。爆発はDPRが415件でLPRが299件と1月を少し上回る程度だ。

ところが2月16日から、ロシア軍の侵攻前々日の2月22日(それ以降は開戦によって記載なし)までのわずか1週間で一挙に急増。停戦違反はDPRが4391件、LPRでは5504件となり、爆発はDPRが2602件、LPRに至っては4717件に達した。

問題はどちらが攻撃したかだが、OSCEの日報に添付されている「SMMによって観測された停戦違反」というカラーの図には爆発(着弾)地点が示されているが、16日から21日までのそれを見る限り、ウクライナ側の主張とは反対に圧倒的多くがDPRとLPRの領域内で生じている。これは、前述の両共和国の主張をほぼ裏付けていよう。

しかも、国連人権委員会のHPの22年1月27日付「ウクライナにおける紛争に関連した民間人の犠牲者」(注4)という文書には、「2018年から2021年にかけての、場所ごとの敵対的な行為によって引き起こされた民間人犠牲者」と題した表が掲載されている。
それによると、この4年間での「民間人犠牲者」はドネツク・ルガンスク側が計310人で全体の81・4%を占めているのに対し、ウクライナ側は62人で16.3%に過ぎない(残り2.3%はどちらかに特定できない地域)。

国連人権高等弁務官が一昨年刊行した「ウクライナにおける人権状況 2019年11月16日から2020年2月15日まで」(注5)によれば、2014年4月14日から2020年2月20日までにドンバスの紛争による死者は推定1万3000人から1万3200人で、そのうち民間人は少なくとも3350人とされる。他にウクライナ軍が4100人、両共和国側の武装勢力が5650人とされるが、民間人犠牲者の大半が両共和国の住民であるのはほぼ間違いない。

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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