大阪高裁に認められた「死後再審」日野町事件、第2次再審請求の即時抗告審
メディア批評&事件検証滋賀県蒲生郡日野町で1984年、「ホームラン酒店」経営の池元はつさん(当時69歳)が殺され、金庫が奪われた「日野町事件」の第2次再審請求の即時抗告審で、大阪高裁(石川恭司裁判長)は2023年2月27日、強盗殺人罪で無期懲役が確定し、服役中に病死した元受刑者の阪原弘(ひろむ)さん(当時75)について、裁判のやり直しを認める決定をした。「死後再審」だ。再審開始を認めた大津地裁決定を支持し、自白の信用性を否定して、検察の即時抗告を棄却した。
この日午後2時過ぎ、法廷に「死後再審」を認める石川裁判長の声が響いた。「父の無念を晴らしたい」。長男の弘次さん(61)ら遺族が、スクラムを組んで申し立てて再審を勝ち取った。
第2次再審請求審では、阪原さんが金庫発見現場まで自白通り、捜査員を案内したとされる引き当てで滋賀県警が復路で撮影した写真を往路の写真にして調書を作ったことが判明。大津地裁(今井輝幸裁判長)は18年7月に「警察官による暴行や脅迫的文言で自白させた疑いがあり、自白に信用性が認められず、間接事実からも犯人とは推認できない」として再審開始を決定したが、検察側が即時抗告していた。
阪原さんは、公判で一貫して無罪を主張。直接の物的証拠はなく、捜査段階での自白の信用性などが争点となった。逮捕後に金庫の発見現場まで警察官を自ら案内したとされ、確定判決で有罪の決め手となった。
ISF(独立言論フォーラム)のホームページで昨年4月1日から始めた「【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天) 」(全51回)でも紹介したが、この日野町事件の検察側が大幅な予備的訴因変更を行い、裁判所が有罪判決を出していることが今市事件と酷似している。
今市事件の場合は、東京高裁が自ら予備的訴因変更を法廷で何回も促した経緯があり、日野町事件では、「合議制の裁判官3人のうち1人が担当検事との打ち合わせで、起訴内容にある殺害場所や犯行時刻、被害品をぼかしたほうがいいと勧めていた。
裁判が長期化し、担当検事は何度か変わったが、その度に同じような働きかけをしていたという。最終的に予備的素因の追加に踏み切った理由について『裁判所は有罪の心証を持っていた。状況証拠だけで有罪にできると言われたも同然と判断したからだ。』と語る関係者もいた」という。
昨年5月27日、再審法改正をめざす市民の会主催の「再審法改正をめざす議員と市民の集い」にビデオメッセージで参加した弘次さんは「無期懲役」と書いたプラカードを胸に掲げ「父の無念の死は冤罪にある」と声を震わせた。家族がどんな思いでこれまで闘ってきたことか。
検察の即時抗告と聞くたびに「もういい加減にしろ!」とテレビに向かって叫ぶ瞬間(とき)がある。誰しも間違いがある。間違ったら謝るのが人間だ。名誉の回復どころか、冤罪者の死を待って名誉の回復を拒む姿勢では人を裁く資格はない。このことははっきりと言いたい。
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。