【連載】人権破壊メカニズム“知られざる核戦争”(矢ヶ﨑克馬)

第1回 東電原発事故後11年、放射線被曝犠牲の隠蔽

矢ヶ﨑克馬

1.はじめに

・事故後11年、被曝被害は一切報道されない
東京電力福島第一原発事故から11年が過ぎました。放射線被曝の隠蔽が深刻です。地震津波で犠牲になった方は非常に明瞭です。しかし「この人が放射線被曝で斃れた」という判定はほとんど臨床的にはありません。11周年でも追悼は地震津波の犠牲者に限られて報道されていました。この現状には、亡くなり方の明瞭性の問題が上記のようにありますがそれだけではありません。国際原子力ロビーの「知られざる核戦争」の事実隠蔽の国際的態勢の影響が大きいのです。

・福島事故で住民は「知られざる核戦争」の餌食になった
事実、1996年国際原子力機関(IAEA)会議を経て,国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告に「今までの1mSv/年規制に対し、事故が生じた場合は100mSvまで規制値を上げる(高汚染地に住民を居住させ続ける)」という核産業の被曝防護政策転換が具体化しました。その直後東電事故が生じ、政府がそれに従い、山下俊一氏等が素早く(原発が爆発してわずか4日目に「福島県放射能健康リスク管理アドバイザー」の委嘱を受け承諾している)住民への鎮撫/宣撫工作に走り始めたことは今や衆目の一致するところです。

しかし、政府でさえセシウム137で「ヒロシマ原爆の167倍」という放射能量で被曝犠牲者が出ないはずはありません。
事実、筆者の調査によると地震津波の犠牲者(死者1万5900人、行方不明者2523人、警察庁調べ)の10倍の規模で犠牲者が出ています。

・避難させるか住み続けさせるか:本流と逆流
世界では放射線の最先端の調査結果を取り入れ被曝規制値を厳しくしていく「本流」があるのに対して,放射線被曝を如何にして市民に受け入れさせようとするかという「逆流」があります。逆流は米政府核戦略に基づき世界中に組織化された「国際原子力ロビー:IAEA、ICRP、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)等」が画策するものです。「チェルノブイリ事故後10年」(96,IAEA)に於いて、被曝防護概念を180度逆転させたことは周知され始めていることです。

ruined 4 reactor of Chernobyl nuclear power plantin in 2016

 

被曝量を軽減させる「古典的介入」(注;介入とは被曝防止関係の措置をすること)を止めて、事故時には「永久的に汚染された土地に住民を住み続けさせる」ことを「介入」の指針として、住民説得のための「心理学的ケア」を導入して、科学者や専門家を統制し、政府からの発表に一本化させることなどが「会議の結論」部分に述べられています。

この逆転を具体的な介入指針として具体化したのが、ICRP2007年勧告です。ここでは被曝概念を今までの「計画被曝」に「緊急時被曝」と「現存被曝」状況を付け加えて、事故が生じたら最高100mSv/年まで許容することを勧告したのです。

・法律が無視され、原子力ロビー基準でコントロールされた
福島原発事故に対しては、逆流が示した路線に従って民主党政権は20mSv/年で規制しました。原子力基本法以下の電離放射線障害防止規則(電離則)等で明示されている「一般市民の被曝線量は1mSv」と法律で規制される住民保護は何の断りも無く無視されたのです。

・放射線被曝による犠牲者は皆無である
それに加えて科学・情報をコントロールして「20mSvで規制した東電事故で、犠牲者は無い」という虚偽の『世界観』が原子力ムラにより構築されました。

それに伴い今差し迫った危機は「放射線審議会」で、「健康被害は無い」ことを前提にし、法律的規制値を大幅に緩めるという市民の人権切り捨ての施策が進もうとしていることです。
被曝による健康被害は無いのか?

2.年齢調整死亡率のデータ検索および検討
まず人口調整死亡率の研究結果を述べます。
年々の死亡者を人口で除した死亡率は粗死亡率と呼ばれます。
年々の死亡率を比較しようとするとき問題点は、少子高齢化といわれるように、年が異なれば年齢構成が変わっていることです。老齢人口が増えますと当然死亡率は上昇します。これは年々の死亡率をきちっと同じ基準で客観的に比較することを妨げています。

そこで年齢構成をある年の構成に固定して比較したものを「年齢調整死亡率」といいます。ここで取り扱うデータは1985年の人口構成で基準化(年齢調整)しています。
特徴的な事実は以下のようです。

(人口調整死亡率での2011年以降の死亡異常増)
①11年以降死亡増加が認められる死亡項目
:死亡総数、悪性腫瘍、心疾患除高血圧、脳血管疾患、老衰、喘息
②14年以降死亡増加が認められる死亡項目
:結核、交通事故
③17年以降死亡増加が認められる死亡項目
:肝疾患、気管支炎肺気腫、高血圧

死亡率は老衰を除いて全て男性が高い。11年以降の異常増は老衰を除いて女性が多い(男女比で上にずれる)。

年齢調整総死亡率の年次依存を図1に示します。

図1 年齢調整死亡率年次依存

 

図1では、年次が進むにつれて年齢調整死亡率は減少しますが、11年度で突然上昇します。その後も直ぐ10年以前の直線近似した状況に戻らず高い値を維持します。特に女性は直線からのずれ(増加)が男性より大きく続いています。
11年で何が起こったのか?

関東大震災、阪神淡路大震災等の他の地震の際の死亡者増は単年度だけで、後に尾を引いていません。11年以降の異常は放射線被曝の可能性が浮かび上がるのです。

 

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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