【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ロシアからの新たな脅威? NATOこそが現実の脅威だ(1)

アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

オバマ政権とネオコンの策謀

ウクライナがNATOの戦略的要衝にあるのは地政学上、NATOの膨張主義の最前線に位置しているからである。ウクライナはまた、ロシアのプーチン大統領を悪魔化するための欧米メディアの宣伝に利用されてもいる。マスメディアが振りまく従来の常識では、ロシアのウクライナへの「介入」が内戦の危機に至らせたというものだ。そして「ロシアの介入」は、ウクライナ東部における反政府勢力への軍事支援と、クリミア、すなわち歴史的に、文化的に、言語上はロシアであるが、1954年以来ウクライナ内の自治地域として国際的に認められていた半島の併合という形で、疑いもなくあったといえる。

しかし他の見方からすれば、ロシア国境に接するまでのNATOを拡大させたことが、ウクライナで2014年に起きたクーデター後の「ロシアの介入」の原因であると考えることが妥当でしょう。まためったに言及されないのが、それに先だっての米国とその同盟諸国によるウクライナへの介入だ。

盗聴された電話の会話(注2)から確認されるのは、米国情報機関の関係者と共に当時の国務次官補(ヨーロッパ・ユーラシア担当)だったヴィクトリア・ヌーランド氏がウクライナでの政権打倒の準備に直接的に関わっており、同年のユーロマイダン・クーデター後に首相になるべき(そして実際になった)人物を名指しさえしていた事実であった。

2014年のクーデターの際、外交官でありながら抗議行動の参加者に菓子を配っていたヌーランド国務次官補(当時)

 

2013年12月、ヌーランド国務次官補はワシントンで開催されたウクライナをめぐる国際会議において、米国が過去20年間にわたりウクライナにおける「民主主義」の推進のため、50億ドルの巨費を投じた、と語った。ヌーランド国務次官補はイラク戦争初期に、ブッシュ(子)政権の副大統領だったディック・チェイニーの外交政策顧問を務めており、その夫は同政権に大きな影響力を誇った極右ネオコンのシンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト」(PINAC)の共同創設者で、著名なネオコンであるロバート・ケーガンだ。

彼女はブッシュ(子)政権の国防長官ロバート・ゲイツ氏とペトレイアス将軍(どちらもオバマ次期政権で留任)、及びオバマ政権の国務長官であったタカ派のヒラリー・クリントン氏の影響力のもと、国務省と国防総省で自分たちの地位を固めていったネオコンの陰謀グループの一人である。

国務省および国防総省内部の抵抗を抑えるため、オバマ大統領は、当時のジョー・バイデン副大統領や選ばれたCIA顧問たちと、CIAのレオン・パネッタ長官のサポートを得た数名のホワイトハウスの顧問たちを中心とするインナーサークルに外交政策を頼るようになった(注3)。

2012年のプーチン氏の大統領再選のあと、国務省のネオコンたちは、プーチン大統領とオバマ大統領の関係強化について、またシリアへの米国の軍事行動を阻み、イランへの門戸解放の仲介に協力するロシアの役割に対して懸念を募らせていった。ネオコンたちはオバマ大統領とプーチン大統領の間に楔を打ち、シリアとイランを国防総省の攻撃リストに戻そうと決意した。ウクライナにおける危機は、彼らにとっての好機であったのだ。

クーデターの背後にいた米国の組織

米国は直接、ユーロマイダンでの抗議活動を生んだ大規模な運動を引きおこしたわけではない。しかし米国は、火に油を注ぐ点で重要な役割を果たした。仮にこれが英国で起きたと仮定して、米国からの50億ドルの投資と、米国が資金提供する数十の非営利組織(NGO)への活発な介入が、英国での民主主義のプロセスをどのように歪めることになるのかを想像してみたらいい。

その規模が、ウクライナのような貧困国家にその数倍の規模で拡大された事態を同じく想像してみたらいいのだ。米国務省の官僚たちは「民主主義」を促進するどころか、民主的に選出された政府の転覆と、国民が支持するウクライナの非同盟の対外政策を引き剥がすうえで、暴力的なネオナチのストリートギャングたちの支援を受けた共犯者であった。

過激な右翼組織の役割は、当時のCNN特派員のデイヴィッド・スピーディ記者によって次のように強調された。「いくつかのよく知られる事実が以下である。まず、極右、反ユダヤ、反ロシア、そして公然のファシスト集団たちは、現代のウクライナにかかる暗い影として、今までも、現在も、実在している。2012年の欧州議会決議は重要だが、しかし決して最も過激というわけではない極右勢力の『スボボダ』を、『人種差別的、反ユダヤ主義的、排外主義的』として非難した」(注4)。

米国が2014年の暴力的なウクライナクーデターのため利用した、ウクライナのネオナチ

 

ネオナチの「スボボダ」は、ユーロマイダン・クーデター後の政権において幾つかの主要ポストを確保さえしたが、それらには副首相、国家安全保障防衛省長官、および農業と環境の省庁ポストが含まれる。しかもスボボダよりもさらに過激な右派は、議会副議長のポストを手に入れた。

2014年2月、ラーダ(ウクライナ最高議会)に(残りの議員たちが強制的に排除されたあとでも)残っていた議員たちは、ウクライナにおけるロシア語、ハンガリー語、ポーランド語、ルーマニア語の法的地位を終了させる決議を可決し、それがクリミアとウクライナ東部にいるロシア語を話す住民の、クーデター政権への反乱を誘発する上で主要な役割を果たした。

想像してみたらいい。仮にカナダやメキシコの国内政治にロシアが介入し、米国との国境沿いに反米的な軍事同盟を作るために住民を新兵に募集するようなケースが生じたら、米国はどのように対応するだろうか?

(翻訳:レンゲ・メレンゲ)

 

(注1)February 21, 2015 Ann Applebaum「How Putin is waging war on the West – and winning」(URL:https://www.spectator.co.uk/article/how-vladimir-putin-is-waging-war-on-the-west-and-winning/).
(注2)February 7,2014「Ukraine crisis: Transcript of leaked Nuland-Pyatt call」(URL:https://www.bbc.com/news/world-europe-26079957).
(注3) March 2,2014 Robert Parry「What the neocons want from the Ukraine crisis」(URL:https://consortiumnews.com/2014/03/02/what-neocons-wantfrom-ukraine-crisis/).
(注4) March 6,2014 David C. Speedie「Rein in Ukrane’s neo-fascists」(URL:http://edition.cnn.com/2014/03/06/opinion/speedie-ukraine-far-right/).

原題:「New menace from Russia? NATO is the real threat」(URL:https://cnduk.org/wp-content/uploads/2018/02/NATO_is_the_real_threat.pdf

 

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アラン・マッキノン(Alan Mackinnon) アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

アラン・マッキノンはグラスゴー大学で医学士の学位を取り、同時に政治活動に参加し、そこで身につけた反帝国主義、平和的共存という理念に生涯を捧げた。結婚後、夫婦でタンザニアでの医療活動に従事。帰国後は平和運動の指導的役割を担いながらリバプール大学で熱帯医学を学び、その後は「国境なき医師団」の一員として再びアフリカに向かい、シエラレオネで医療活動にあたった。その際の経験から、現代の帝国主義、軍拡競争とアジア・アフリカへのNATOの拡大といった課題についてさらに理解を深める。 1990年代の湾岸戦争では、「スコットランド核軍縮キャンペーン」の議長として抗議運動を取りまとめ、2011年の「9.11事件」を契機とした「対テロ戦争」に反対し、「戦争ではなく正義を求めるスコット連合」を結成。英国の政党や労働組合、宗教団体、平和運動グループの代表を集め、アフガニスタンとイラクに対する米英の戦争に抗議活動を続けた。また、スコットランドへの潜水艦発射型大陸間弾道核ミサイル「トライデント」の配備に反対し、先頭に立って闘った。晩年はがんで片足を失いながらも、最後まで平和実現のための歩みを止めることはなかった。

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