【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第6回 ソ連をアフガニスタンに引きずり込んで崩壊させたように…

寺島隆吉

前章では、Change.org という署名運動のSさんから送られてきた次のようなメールを紹介しながら、オリバー・ストーン監督のドキュメンタリー(2016)『ウクライナ・オン・ファイヤー』についても触れました。

 

ウクライナ・キエフにEU加盟国首脳を外交団として派遣して!

(1)私たちは今、世界的な危機に直面しています。

(2)2022年にもなって、ヨーロッパの独立国に対して軍事侵略が行われるなど、誰が想像できたでしょう。

(3)EUの政治家たちがロシアへの次なる制裁について偉そうに語っている間、ウクライナの人々は、自国の独立と子どもたちの未来のために勇敢に戦っています。彼らの精神と団結する気持ちは壊されていません。

海外で働く若いウクライナ人男性たちは、仕事を辞め、祖国を守るために帰国しています。ウクライナのトップリーダーや有名人でさえも、自衛のために戦っています。いざという時、私たちの国の政治家やリーダーも同じように行動できるでしょうか。(以下、略)

 

というのは、私の主宰する研究所の運営するサイト『翻訳NEWS』の読者アラジン氏から、「このストーン監督のドキュメンタリーをぜひ皆さんに紹介して欲しい」との要請がコメント欄に寄せられていたからです。

しかし、そのときは夕食の時間が近づいてきていましたし、私も疲れていたので、それは次回のブログで詳しく説明するとのみ書きました。そこで、前章では、このビデオについて紹介する予定だったのです。

ところが、先のブログに載せた画像資料「1991年の約束を踏みにじって東に拡大する一方のNATO」が、このままでは分かりにくいという声が届いたので、慌てて、その説明をすることにしました。

そこで、いよいよ今回は、ドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイヤー』の紹介に取りかかることにします。

このドキュメンタリーを見ていただければ、善意に基づくものとはいえ、Sさんの署名運動がいかに「プーチンを悪魔化」して事態の解決を遅らせることに貢献するかが、分かってもらえると思うからです。

とはいえ、このドキュメンタリーをすべて紹介することはできません。

というのは、このドキュメンタリーは、「ウクライナという国が、どのようにして成立し、どのような経過を経て現在に至っているのか」を、時系列にそって実に丁寧に描いているからです。

したがって、この90分もかけたドキュメンタリーで、Sさんの主張に関わるところのみを紹介するにとどめざるを得ません。あとは、その詳細・その具体的事実を自分の眼で確かめていただきたいと思います。

YouTubeに載せられていたこの動画は、EU諸国では今や削除されて見ることができません。ウクライナ当局や裏でウクライナを支援するNATO諸国にとっては、このドキュメンタリーは余程「不都合な真実」に満ちているからでしょう。

しかし私たちは、幸いにも日本語字幕付きの映像を見ることができるのです。

それはともかく、Sさんは、呼びかけ文のなかで次のように書いていました。

 

(3)EUの政治家たちがロシアへの次なる制裁について偉そうに語っている間、ウクライナの人々は、自国の独立と子どもたちの未来のために勇敢に戦っています。彼らの精神と団結する気持ちは壊されていません。

海外で働く若いウクライナ人男性たちは、仕事を辞め、祖国を守るために帰国しています。

ウクライナのトップリーダーや有名人でさえも、自衛のために戦っています。いざという時、私たちの国の政治家やリーダーも同じように行動できるでしょうか。

 

Sさんは、ここで「EUの政治家たちがロシアへの次なる制裁について偉そうに語っている間、ウクライナの人々は、自国の独立と子どもたちの未来のために勇敢に戦っています」と書いています。

彼女は、このウクライナ紛争のそもそものきっかけは2014年にアメリカが仕掛けたクーデターにあったことを全く知らないようです。

ところが私たちは、上記のドキュメンタリーによって、次のようなことを(その大半は文字情報で知ってはいたとしても)動く映像で、改めて確認することができるのです。

(1)最初は平和的なデモだったものが次第にネオナチの武装集団が登場して、一気に死傷者が出る血なまぐさいクーデターに変わっていった。

(2)現地でヌーランド国務次官補がネオナチを初めとする暴力行為を激励していた(ホワイトハウスではバイデン副大統領が指揮していた)。

(3)オデッサ市ではクーデターに抗議する多数の市民が労働組合会館前で抗議集会を開いていたら武装したネオナチ集団が襲いかかり、組合会館に逃げ込んだ市民を火炎瓶その他で攻撃し、そのほとんどを焼死させた(炎上した会館から逃げだそうと窓から飛び降りた市民を滅多打ちにして殺戮する光景も、この映像では記録されています。現地の人の話では多くの人びとが地下室で惨殺され、犠牲者の数は120名から130名に達するという)。

(4)ウクライナは特に以前からネオナチの勢力が強く、第二次世界大戦のときはヒトラーのナチス軍に共鳴した勢力が、「反共・反ユダヤ人」のOUN(ウクライナ民族主義者組織)という組織を作っていた。

(そして1941年に「SSガリシア師団」「ナハチガリ大隊」「ローランド大隊」なる軍団を結成して、ロシアに侵略するナチス軍に合流した。これには、ウクライナ西部のガリシア地方で、1カ月半のあいだに8万人以上の人が参加したという。

(5)このOUNは、1941年にウクライナが独立宣言をすると同時に、15~20万人ものユダヤ人を虐殺した。とりわけキエフ市バビ・ヤール地区では、1941年9月29~30日の2日間だけで、3万3,771人のユダヤ人を殺さつ戮りくしている。

(この殺戮は、ウクライナだけにとどまらず、ポーランドでも3万6,750人が殺された。つまりユダヤ人を虐殺したのは、ナチスドイツだけでなく、ウクライナのOUN勢力も、それに加担した)。

このように書いていくと切りがないので、ぜひ上記のドキュメンタリーを見て、私が言っていることを自分の眼で確認していただきたいと思います。

私は、この映像を見るまでは、ユダヤ人を虐殺したのはナチスドイツだけだと思っていたのです。ところが驚くべきことに、ウクライナの民族主義者たちも、ナチスと同じように「純血民族」を至上価値とし、ユダヤ人虐殺の先頭に立っていたのです。

しかも虐殺の仕方が尋常ではないのです。私はかつて東欧への一人旅をしたことがあり、有名なアウシュビッツも訪れたことがあるのですが、そこではユダヤ人をすべて裸にした上で、ガス室で殺していました。

ところが、このウクライナの民族主義者たちは、ナチスドイツと一緒になって、ユダヤ人やロシア人を、同じように裸にした上で殺しているのですが、ロシア人に対する残酷さは特に際立っていました。

たとえば首から上を切断し、その切り取った首をバケツにいっぱい詰め込んでいったり、裸にしたうえで女性の下半身を切断し、切り取っ
た手足や首を、それが元あった場所に丁寧に並べても平気なほどの残酷さです。

ガス室で殺した方が、まだ「人道的」とも言えるほどです。よほどロシア人が憎かったのでしょう。そのことが先述のオデッサにおける惨劇、現在のドンバス攻撃の残酷さにつながっています。

 

オリバー・ストーン監督『ウクライナ・オン・ファイヤー』https://odysee.com/@pomchannel:e/98:35

 

このような眼をそむけたくなるような映像が、このドキュメンタリーにはいっぱい出てきます。しかし、このような映像を「残虐だから」という理由で、網掛けして見えなくしてしまったのでは、彼らの犯した本当の残虐さは、私たちに伝わってきません。

最近のドキュメンタリーでは、このような網掛けをした映像が少なくないのですが、それは、「人道的配慮」を口実に、権力者が自分の犯した罪、「人道に対する罪」を覆い隠そうとする策略のように見えてなりません。

「個人情報保護法」も同じような働きをしているのではないでしょうか。というのは、民衆が団結しようと思っても、企業や組織の上部は、「個人情報を保護する」という口実で、今までつくっていた職員名簿を廃棄し、お互いの連絡先を私たちに決して教えようとしないからです。

企業や権力はすべて私たちの情報を握っているのに、下層民衆は権力者の情報はもちろんのこと、お互いの情報すら知ることができないのです。

この法律は権力者を守るためのものであって民衆を守るためのものではない、と思うようになった所以です。映像への網掛けも同じでしょう。

私が自治会長をしていたとき、非常時や災害対策用に、お互いの連絡・援助網を作ろうとしたら、電話番号すら自治会名簿に載せることを拒否する住民がいて驚きました。このように、いつのまにか「個人情報保護法」の思想に洗脳されてしまって、住民自身がその弊害に気づいていないのです。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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