【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第6回 ソ連をアフガニスタンに引きずり込んで崩壊させたように…

寺島隆吉

少し横に逸れたので、話を元に戻します。

冒頭で紹介したオンライン署名の呼びかけ人は、「ウクライナの人々は、自国の独立と子どもたちの未来のために勇敢に戦っています。彼らの精神と団結する気持ちは壊されていません」と書いています。

ところが彼女は、上記の「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」の思想を受け継ぐネオナチの武装集団が、過去と同じような残酷さでドンバスの住民に襲いかかっていることを全く知らないのです。

しかし、オリバー・ストーン監督のドキュメンタリーは、新しく組織されたネオナチの武装集団が、以前と同じように、「自分たちの思想を実現するための殺戮や拷問は許される」と公言していることも、明確に映像で伝えています。

だからこそ、このドキュメンタリーはYouTube での視聴が禁じられているのです。ワクチンに疑問を呈するひとたちの運動や意見が、YouTubeで視聴が禁じられているのと、そっくり同じです。

もう少し付け足していえば、このようなネオナチを利用してドンバス2カ国に襲いかかっているウクライナ政権のやりかたに疑問を持つ人たちの中から、ドンバスの人たちの抵抗運動に加わる動きすら出ているのです。それを櫻井ジャーナルは次のように書いています(傍線は寺島)。

ウクライナ南部の港湾都市オデッサで住民がネオナチのグループに虐殺されたのは4年前の2014年5月2日のことだった。

殺された住民たちは、アメリカ政府がネオナチのグループを利用して2014年2月22日にビクトル・ヤヌコビッチ大統領を排除したクーデターに、反対していたのだ。この年の2月7日から23日にかけてロシアのソチで冬期オリンピックが開催されているが、その時期を狙ってのクーデターだった。ロシア政府が動きにくいと考えてのことだ。勿論、憲法の規定は無視されている。

(中略)

オデッサの虐殺から1週間後の5月9日、キエフ政権は戦車部隊をオデッサに突入させた。この日はソ連がドイツに勝ったことを祝う記念日で、ドンバスの住民も街に出て祝っていた。その際、住民が素手で戦車に立ち向かう様子が撮影されている。

ドンバスでは戦闘が始まるが、反クーデター派にはウクライナの軍や治安機関のメンバーだった人々が参加していることもあり、制圧作戦は成功していない。ここにきてアメリカはキエフ政権に対する兵器の供給を強化、新たな攻勢を目論んでいるのではないかと懸念する声も
聞かれる。

https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201805040000/(櫻井ジャーナル2018.05.04)

ここで、「ウクライナの軍や治安機関のメンバーだった人々」でさえ、アメリカによるクーデターに抵抗していることが分かります。

この記事が書かれたのは2018年5月だということに注目してください。この時点では、ロシアはまだドンバス2カ国の独立を承認していません。

このような孤立無援のドンバス住民の窮状を見かねて、ウクライナの軍や治安機関のメンバーだった人々でさえ、ドンバスの抵抗運動に加わっているのです。

それどころかオデッサの住民でさえ、ロシア語話者でありウクライナの政権に異を唱えただけで4年間も牢獄に捕らわれ、捕虜交換の取引で釈放されたあとも、オデッサには戻らず、ドンバスの戦いに加わるという若者もいるのです。

* ‘We will never go back to Ukraine’: DPR fighter jailed for his views by Kiev talks to RT

「寛容さを失った祖国にはもう戻らない」オデッサ出身のドネツク戦闘員は語る。 (『翻訳NEWS』2022.06.13)

オンライン署名呼びかけ人のSさんはまた、「海外で働く若いウクライナ人男性たちは、仕事を辞め、祖国を守るために帰国しています。ウクライナのトップリーダーや有名人でさえも、自衛のために戦っています」とも書いていました。

しかし、この呼びかけがどんな誤解にもとづくものかを説明するには、少し時間が必要です。

かつてソ連が健在だった頃、アメリカはソ連をアフガニスタンに誘き出して10年間、アフガンに釘付けにしたことがありました。ときのアフガニスタン政府はイスラム原理主義を捨てて世俗化と近代化を推し進めました。女性が大学に進学できるようになったのもこの頃です。

このように、この1978年に成立したアフガニスタン民主共和国は王制を廃止し社会主義政策を採ったので、これを嫌ったアメリカは裏でイスラム原理主義者を支援し、アフガンの不安定化工作を開始しました。

この動きに不安を感じたアフガン政府はソ連に援助を求め、最初はソ連政府も躊躇していましたが、結局1979年12月24日にアフガンに軍事進攻することになりました。

しかし、中東一円からかき集められたイスラム原理主義者たちとの戦いに敗れたソ連軍は、1989年に撤退することになりました。ソ連が1991年に崩壊したのは、この10年にもわたる泥沼の戦いで疲弊したことが一因だと言われています。

当時、カーター政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキーが、このような作戦でソ連崩壊に成功したことを、フランスのテレビ局インタビューで自慢していますから、これは明らかな事実でしょう。

* ブレジンスキー「アフガンのイスラムはワシントンが作り上げた」
http://www.ne.jp/asahi/home/enviro/news/peace/blum-J

ソ連をアフガンに引きずり込んで、ソ連を崩壊させたブレンジスキー大統領補佐官

 

これが有名なCIAのコードネーム「サイクロン作戦(Operation Cyclone)」と言われるものでした。アメリカ「911事件」の首謀者とされるサウジアラビア出身のオサマ・ビンラディンも、この当時は中東一円からイスラム原理主義者を集める仕事に従事し、「自由の戦士」と呼ばれていたことも、今となっては衆知の事実です。

現在、これと同じように、ロシア軍をウクライナの「泥沼」に引きずり出して疲弊させようとしているのが、ゼレンスキー大統領が世界に呼びかけている「戦い」であり、そのような作戦を裏で指導しているのも、アメリカのバイデン政権だと私は思っています。

先述の署名呼びかけ人のSさんは、このような事実を知った上で、「海外で働く若いウクライナ人男性たちは、仕事を辞め、祖国を守るために帰国しています。ウクライナのトップリーダーや有名人でさえも、自衛のために戦っています」と書いているのでしょうか。

ゼレンスキー大統領は、「テロリスト」と呼ばれてきたイスラム原理主義集団にすら、「義勇兵」として、ウクライナの門戸を開放しようとしています。プーチン大統領もこの同じ罠にはめられてしまうのでしょうか。

ここまで書いてきたとき、私の主宰する研究所の一員から、「ウクライナのために祈りを!?」と題する極めて興味深い漫画が届きました。

文面には「面白いイラストを見つけたのでシェアします。今の状況をよく表しています」と書いてありました。そこで添付の画像を開いてみると、確かに今のウクライナの現状を見事に風刺している漫画でした。

 

大手メディアではテレビその他を通じて、「独裁者プーチンからウクライナを救え!」「ウクライナのために祈りを」という大宣伝が連日のように流されていますから、このようなテレビを見ていると、確かに、巨大な熊(ロシア)が歯をむき出してゼレンスキーという若者に襲いかかろうとしているように見えます。

しかし、この漫画右上のテレビ画面から離れて、その下の現実を見ると、どうでしょうか。

ゼレンスキー大統領と思われる若者が槍をもって2匹の子熊を殺そうとしています。ところがよく見ると、熊が歯をむき出していたのは、おなかにかかえた2匹の小熊を守ろうとして槍を持った若者を威嚇するためだったのです。

しかも、さらに面白いのは、ゼレンスキー大統領と目される若者の背後に、US(アメリカ)、NATO(北大西洋条約機構)、BRITAIN(イギリス)という連中が、にやにや笑いながら、この光景を見ているのです。

私には、この3人が「我々が後に控えているから、思う存分がんばれよ」と、ゼレンスキーを励ましながら高みの見物をしている図に見えます。実に見事漫画ではないでしょうか。

漫画の左上には次の文字が書かれていて、NARRATIVE(物語)←(Vs)→ REALITY(現実)という文字のそれぞれから矢印が出ています。

NARRATIVE(物語)→「TV画面」
(Vs)
REALITY(現実)→「ウクライナの現実」

そしてNARRATIVE(物語)から下に出ている矢印は「TV画面」を示し、REALITY(現実)から下に出ている矢印は「ウクライナの現実」を示しています。

送られてきたメールには、この漫画の作者と出典は書いてなかったので分かりませんが、これを描いた風刺画作家の才能に感心してしまいました。

〈追記〉

アメリカCIAによるアフガニスタン政府への不安定化工作について、過去のブログに書いたことを思い出したので、調べてみたら、次の論考が見つかりました。

自分でも驚いたのですが、私はすでに2014年7月の時点で、ウクライナについて書いていたのでした。時間と興味がある方は、ぜひ読んでみて欲しいと思います。

* 「進行する二つの「民族浄化」― パレスチナとウクライナで、しかもアメリカの支援で」
https://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-190.html(『百々峰だより』2014 /07/17)
* 「ジョン・ピルジャー『タリバンを育てたアメリカ』 その1~3」
https://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html(『百々峰だより』2016/09/30)
https://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html(『百々峰だより』2016/10/01)
https://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-273.html(『百々峰だより』2016/10/03)

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第5章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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