「食の安全」だけが問題ではない!食品偽装横行がもたらす日本の食料危機

片岡亮

・事態を放置してきた日本政府

昨年2月、長年にわたる大規模なアサリの産地偽装が熊本県で発覚し、県は2カ月間“熊本産”の出荷を停止する事件が起きた。

Manila clams kept in water

 

今年に入っても鹿児島県で、中国産のゴボウを国内産と偽って販売していたケースが明らかになった。輸入ゴボウは泥を落とす日本国内の規定があり、同県出水市の業者は社長の指示で従業員が泥をまぶして国内産に偽装。わかっているだけでも一昨年から770トンを青森県産や宮崎県産と偽り、福岡県の卸売会社などに販売していた。

Burdock

 

日本国内において、産地偽装事件は以前から起きていた。熊本のアサリ偽装も20年以上前から行なわれていたという。その手口の多くは中国や北朝鮮から安い食材を仕入れ、より高く売れる国産と表示して販売していた。地方の中小商店だけではなく、伊藤忠など大手企業傘下でも偽装は横行、そのたびに行政指導が繰り返されていた。

昨年もアサリだけでなく、ウナギ・シイタケ・ワカメ・シジミの産地偽装が判明している。簡単に儲かるとばかり、同じような事例が続いているのだ。

過去に筆者が取材した事件では、表示を付け替えるだけの簡単な偽装で1カ月に2億円もの利益を得た業者がいた。牛肉のようなトレーサビリティ(生産から消費まで追跡)がない食品は、特に容易だ。取引詳細の記録を義務付けてデータを一元管理すれば、偽装は大きく減らせるだろう。

しかし、なぜか政府はそこに着手したがらない。サバやサーモンで知られる世界2位の水産物輸出国・ノルウェーでは、生産から売買の記録が価格や量など明確に義務付けられ、不自然な動きがあれば、行政がすぐに察知できる。そんな簡単な仕組みづくりすら日本で講じられないのは、各業界団体の後ろ盾に与党の有力議員がいて、手が出しにくいからだ。

しかし、後述するように、それも直接的な理由にすぎない。結果、たとえばコメにおいても、人気ブランドである新潟の魚沼産コシヒカリ市場における流通量は、公式な生産量の数倍も存在している。

新潟県の調査では「県産コシヒカリ」の3割以上がニセモノだった。別の品種を混ぜて売っても一見して見分けがつかないから、念入りな調査がなければ偽装は放置されたままだ。カニやホタテなども同様で、国内の生産量より明らかに多い「国内産」が出回っている。

地域ごとに有力業者が牛耳っているため、業界ぐるみの隠ぺいも続いている。産地を偽る商法は、単に詐欺事件というだけではない。2つの大きな“国難”をはらんでいる。

ひとつは健康被害の危険だ。日本人が安い外国産でなく高値の国産を買い求めるのは、味以上に食の安全を求めていることが大きい。それが本当は中国産だったとなれば、安全への信頼が崩壊する。

2013年には、大阪の業者が異なる品種のコメを混ぜて「新潟県産コシヒカリ」と偽って販売していた事件が起きている。

scooping rice with chopsticks on the black background

 

これが発覚したのは行政の調査ではなく、消費者の通報がきっかけだった。異品種のコメは、中国・広州市などから届いたもので、調べてみると、その一部は中国で当局により基準値を大幅に超えるカドミウムが検出され販売禁止となっていた。カドミウムは、毒性の強い重金属だ。中国で廃棄されるはずのコメが、香港を経由して日本へ運ばれていたのである。

これを最初に報じたのは日本ではなく香港のテレビメディアで、中国企業の従業員が「汚染されているコメだと知っていたので、自分は絶対に食べない」と証言していた。そんなコメが日本の検査をすり抜け、一部が学校給食にまで出されていた疑いもあったのだ。

それでも、問題の拡大を恐れた農林水産省は、調査に消極的だった。筆者の取材では、この汚染米が、菓子やギョーザの皮などの原料として使用されていたことを確認。「うるち米」の成分表示で消費者に届けられていた。

さらに、インドネシアでも中国の汚染米が密貿易によって流通していた。衝撃的だったのは、コメの成分がポリ塩化ビニールなどの化学物質だったことだ。インドネシアではビニール袋の原料となるプラスチック素材が安値で生産されており、これを中国の業者が大量に入手、イモと一緒に溶かして米状にしていたのである。

インドネシアで主流のコメ品種が、細長くてパラパラと炊きあがるインディカ米であることを悪用したもので、さすがに粘りある日本米で同様のことを行なうのは無理だが、別の素材を使えば日本米のフェイク・ライスもつくることは可能だろう。

あまりに膨大な産地偽装食品偽装をめぐり、ひとつ、この十数年で大きく変化したことがある。これまで、農作物や水産物の偽装の多くは「偽装ブローカー」なる、偽装を持ちかける第三者が介在するのがほとんどだった。

あるケースでは、中国在住の日本人が日本の販売者に、中国産をうまく混ぜて売る方法を細かく指導していた。それが近年は、ブローカーなしに、日本の出荷業者が自ら偽装を主導して、積極的にやるようになっているのだ。

2012年に起きた、農家が中国産のサトイモを畑に混ぜて、収穫したように偽装していたケース。なぜそれが見つかったかといえば、前述のゴボウ同様、サトイモは泥を落とした状態で中国から入ってきたものを土に埋めていたが、中国では機械で土を落とすため、サトイモにその傷が付いていたのである。

Satoimo

 

農水省の食品Gメンが摘発すると、同省は大々的に手柄を伝えるためにテレビのドキュメント番組に映像を提供し、いかに日本が食品偽装に厳しく対応しているかを印象付けていた。しかし、実際にそこまで追跡調査している例は全体の1%にも満たない。ごく一部の摘発例があっただけである。

・農水省の職員が語る。

「産地偽装をあまりに長年、横行させてきたので、販売側が年々巧妙化して、いまでは札を国内産と書き換えるだけではなくなっています。全体の一部に海外産を混ぜて、プロでもなければ見破れないようにする手口が常習化している。

食品Gメンはコメ1粒ずつ調べるような入念な調査をしていますが、逆に言えば、そこまでやらないと見つからないということ。有能なGメンが何十人もいるわけではないので、摘発されているのは全体の1割以下と思った方がいいでしょう。なにしろ偽装されている量が多すぎて取り締まりきれていない。調査には政治から圧力があることだってある。だから、いま店頭に置いてある野菜や水産物の産地がすべて記載どおりと思わない方がいい」。

大騒動となったアサリ問題も、中国や韓国から輸入したアサリを干潟に撒いてから回収して熊本産とする悪質な犯行だった。この手口は熊本のみならず各地で見つかっていて、中には経済制裁で入荷できない北朝鮮産を、国外で中国産と書き換えて日本に売るケースもあった。

問題はその量で、水産関係者からは「カニやウナギでも行なわれている手法。もし、これを止めれば価格が高騰する」と断言しているほどだ。

事実、アサリも今回の一件で、全国に流通する多くが北朝鮮もしくは中国産という事実が表沙汰になってしまった。慌てた熊本県議会が再発防止策として、取引記録の3年保存義務などを決めたが、劇的に取り締まれるような内容とはいえない。

「そもそも熊本県は近年、漁獲量が急減しているので、厳しく取り締まりすぎると日本国内のアサリ出荷量が減って価格が急上昇するため、厳しい措置をとりにくい事実もある」(熊本の漁業関係者)。

 

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片岡亮 片岡亮

米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。

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