「食の安全」だけが問題ではない!食品偽装横行がもたらす日本の食料危機
政治・食料自給率にもたらす影響
そこで考えなければならないのが、もうひとつの重大問題。それは、日本の食料自給率への認識が覆されることだ。その先にあるのが世界レベルで喫緊の課題となっている食料危機である。
昨年春から食料品の値上げが相次いでいる。理由は世界的なインフレ、円安、原材料や輸送コスト高騰、天候不順など複合的なものとされる。さらに穀物を使ったバイオ燃料など、食品によっては新たな需要が生まれたうえ、ウクライナ戦争で穀物価格は歴史的な高値を付けた。
そのとおり、最も価格が大きく変動したのが食料油や小麦粉だ。農水省によると、近年の日本の飼料を含む穀物全体の自給率は29%ほど。輸入に頼る日本は今後、海外勢に買い負けると食料危機に陥る。それだけではない。危機に対応するための農水省の、自給率に関する試算も、産地偽装でまったく数字が実態と違っている可能性が高いのだ。
また、食料危機は、人類についてだけ考えればいい問題ではない。動物全体の生態系が破壊されれば、さらなる人類の危機に繋がるからだ。そうした観点から、たとえばスウェーデンではハチなどの生物保護のため路地の雑草を刈らずに残す取り組みが始まった。
一部エリアでは道路の雪を溶かすのに塩や砂糖を撒くのも禁止、そこに混ざっている化学物質で生態系を損なわせないためだ。これにより500種の植物が増加し、ハチの受粉が急増したという。
ハチの飼育はオーストラリアなどでも推奨する動きが何年も前からある。
「食料危機に起因する生態系の破壊で森林が荒野になった例も、アフリカなどで実例がたくさんあります。日本で自給率が低くてもそこまでの事態になっていないのは、流通の近代化で補ってきたから」と説明するのは、スウェーデンの生物学研究者トーマス・ランド氏。
「しかし、世界的な食料危機でまず起きるのは、国単位で食料の輸出が制限されること。自給率の低い国ほど早く危機に陥り、日本のような輸入依存はかなり危険です。日本では中国やロシア、北朝鮮の武力による脅威が取りざたされているようですが、そんなことをしなくても、彼らが貿易を止めれば日本は危機を迎えるでしょう」(ランド氏)。
輸入をストップされれば、その分の品が入手できないのは当然として、中国産を国内産と偽装でごまかしてきた業界が真っ先に壊滅する。これこそ、食品偽装がもたらす最大のリスクといえるだろう。
食料危機に対する備えは、軍備・防衛以上に不可欠なものだ。各国の取り組みは、おおよそ「農地の生産性向上」「資源の有効活用」などが主体。さらに共通して進められているのが「食品ロス(廃棄)の削減」でもある。
日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品が年間520万トンといわれ、これは世界で飢餓に苦しむ人々への食料支援量の1.2倍に相当。日本人は食品ロスに対して「もったいない」と感じる文化は持っていても、廃棄が与える具体的なマイナスについての理解は高くない。
「食品ロスは、食料を作るために生み出した土地や水、資源、労力などを無駄にする。廃棄に伴うガスなどの処理も必要なことから経済損失は日本の場合、年80兆円以上。これは国家予算にも追いつく額です」(前出のランド氏)。
この問題は2008年、当時の福田康夫首相が北海道洞爺湖サミットで取り組む姿勢を見せたこともあったが、晩餐会で豪華な食事をしながら食料危機を話し合う偽善が海外で「人気取り」と酷評されるに終わった。
その5年後、国連の食糧農業機関が「食用昆虫」なる解決策を提言、イナゴをはじめとする昆虫に豊富なたんぱく質が含まれているとし、メディアでの絶賛が始まった。
「たしかに昆虫食はひとつの提案となりうる可能性はあるものの、しょせん“珍味”の域を出るものではありません。本気で普及させるなら、人々の意識改革だけでなく、工場方式で大量の昆虫を生産・生育して出荷するための飼料など生産の具体的な試算も必要です。長期的に食品化するには、生態学の上で大量生産を開始した場合に起こりうることも想定しなくてはなりません。
現実的には昆虫をそのままの形で食べるのではなく、すり潰して粉末にしてから加工品で売る形になるでしょうが、昆虫を新たに大量に生産するためには、土地・設備・捕獲体制に何千種類もの食用化研究、早く育つ種かつ生態系を壊さない方法、大量の排泄物の問題など、課題は山積みです。そういう持続性まで考えて提言している人がいないのは、まだベンチャー企業のネタの域を出ていないから」(同前)。
昨年5月には、小泉進次郎元環境相が昆虫食普及としてカイコのサナギなどの試食会に参加する政治パフォーマンスを行なっている。しかし、必要なのは、そもそも昆虫を食べる事態に陥らない方策ではないか。
・産地偽装の裏にある事態
ランド氏が続ける。
「そもそも食料危機は、目先の策で解決できるものではありません。日本の体制が脆弱なのは、価格さえ安ければ、食料でもエネルギーでも輸入に頼ればいいという都市国家型を進めすぎたことが一因です。欧米諸国では以前から人口を地方に分散しています。国家のあり方を長期的にデザインできないといけない」。
そのとおり、日本では幕末で3,000万人ほどだった人口を、わずか150年ほどで3倍以上に増やすなかで、大規模都市と地方の人口格差が拡大。いまや未利用農地は栃木県よりも広い面積で、農業従事者170万人の平均年齢も67歳まで上がった。
「欧州のある地域では卵が1個おおよそ80円、カナダでは牛乳がひとパック400円もするエリアがありますが、人々から不満が出ておらず、安い輸入品を置いてもあまり売れないんです。それは地元経済を安定させる仕組みを人々が知っているから。そして、遺伝子組み換えや成長ホルモン入りの食品など、海外産で安全性に問題があった過去から、高くても安全な商品を買う意識が高まったからです」(ランド氏)。
日本では野菜の単価が数十円上がると大ニュースになるが、その裏にある事態を周知してこなかった。それが、「危険そうな外国産は避けたいが高い金は払いたくない」という人々の心理に繋がり、結果として蔓延しているのが産地偽装ともいえる。
いまや海外でも、日本の産地偽装のニュースが英語や中国語で広く伝えられている。かつて「日本人は誠実で勤勉」というイメージがあったのは確かでも、近年は「メイド・イン・ジャパン」のブランドごと信頼が急落。家電でも韓国のLGやサムスン、中国のハイアールなどに負け、日本のメーカーは挽回策として価格帯を落とした。
ところが、品質まで落ちてしまい「もう日本製品は高品質ではなくなった」とのさらなるイメージダウンを引き起こしている。高品質で安全が売りだった日本の凋落が、国内の食品偽装という詐欺的商法にも表れているのだ。そして、その根本の原因は売り手だけの問題でもないということがわかる。店頭のラベルを見ながら安価な商品を求めるのではなく、本当に安全性が信頼できる食品を自ら確保する努力も、求められている。
(月刊「紙の爆弾」2023年3月号より)
〇ISF主催トーク茶話会:元山仁士郎さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
〇ISF主催公開シンポジウム:新型コロナ対策の転換と ワクチン問題の本質を問う
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。