第5回 2024年の大統領選挙を控え、混乱と分断が加速するアメリカ
国際どこから見てもアメリカ国家は財政破綻しています。戦後アメリカが超大国として君臨できたのはブレトンウッズ体制のお陰で、ドルが国際機軸通貨として位置づけられたことによって、アメリカはドル紙幣を刷れば全てを賄うことができたからです。そんな「アメリカン・ドリーム」の時代はもはや消え去りました。アメリカ各地で「貧困層を救え」とのデモが繰り広げられています。
こうした状況下で、トランプ前大統領は政権の奪還に向かって動いていました。中間選挙で自らの支持する上下両院議員や州知事を増やし、2024年の大統領選に弾みをつけようという戦略です。10月22日にテキサスで行われた共和党候補者の応援演説でも強気一辺倒でした。
曰く「前回も前々回の大統領選挙でも勝ったのは自分だった。今のバイデン政権はフェイクでしかない。そのため、アメリカは経済も社会もボロボロだ。これを立て直すのは自分がホワイトハウスにカムバックするしかない」。
更にメディアの取材に答えて「共和党には大統領選に名乗りを上げそうな人物は多数いるようだが、自分が出馬宣言をしたら、皆、辞退するすると約束してくれている」とまで踏み込んだ発言をしています。残念ながら、トランプ氏の思ったようには事態は推移していません。
対するバイデン陣営ですが、選挙前は厳しい情勢に追い込まれていました。ホワイトハウスの前庭でTVの取材を受けた時の発言で話題騒然となりました。年齢についての質問に、何と「明日には死んでいるかも」と弱気な回答をしたからです。「自分は運命論者。明日の命は分からない」と補足説明していました。
悪気はないのでしょうが、自分の発言がどのような結果をもたらすのか、思いが至らないのでしょうか。明日にもこの世から消えるかもしれないと思っている大統領と、俺しかアメリカを再生できないと考えている前大統領の一騎打ちです。「勝負あった」と多くが思ったに違いありません。
もし、バイデン大統領が本当に明日、命を失うことになれば、副大統領のカマラ・ハリスが政権を引き継ぐことになります。昨年の安倍元総理の国葬に参列し、その足で韓国を訪問し、板門店を視察した際には韓国と北朝鮮を平気で言い間違えたハリス副大統領です。
攻めどころ満載となるわけで、トランプ前大統領とすれば、バイデン大統領でもハリス副大統領でも、どちらが相手でも楽勝と踏んでいたようです。しかし、事実は小説より奇なり。バイデン大統領の率いる民主党が下院では過半数を失いましたが、上院ではかろうじて持ちこたえる踏ん張りを見せました。いわば、民主も共和も自分たちに都合の良い説明ができるというわけです。
しかし、昨年の中間選挙ほどアメリカ国家の分断を浮き彫りにした選挙はありません。トランプ前大統領の唱える「奪われた大統領選挙」に同調し、「2年前の選挙ではトランプが勝っていた」と主張する「トランプ派」が200人も立候補したからです。
結果として、共和党のシンボルカラーである「赤い津波」は起きなかったわけですが、トランプ前大統領に言わせれば「自分の推薦した候補は大半が勝利した。自分がこの選挙結果に不満足で怒っているとの報道があったが、真っ赤な嘘だ。民主党が操るメディアはフェイクばかり垂れ流している。共和党は大勝利した」とのこと。
とはいえ、バイデン大統領も今回、民主党が思った以上に議席を減らさなかったことで自信を回復したようです。なぜなら、「家族とも相談し、年明けには2024年の大統領選挙への再出馬を決めることになる」と強気の姿勢を打ち出していたほどですから。
そんな中、最も大きな懸念材料はトランプ氏の暴走でしょう。相変わらず「ジコチュー・オーラ」をまき散らしています。先の中間選挙では上下両院を「赤い波」で飲みつくすと吠えまくっていた前大統領は、想定外の結果に「憤懣やるかたない」ようです。そのせいか、あたりかまわず「怒りのミサイル」を連発しています。
最初の標的になったのは「フロリダのトランプ」と異名を取るデサンティス州知事でした。昨年の中間選挙では圧倒的な得票をもって知事に再選されており、共和党の次世代のホープと期待が高まっています。
面白くないのは、今ではフロリダ州に住まいを構えるトランプ氏です。曰く「あいつは大した玉じゃない。最初に立候補した時、俺のところにお金の無心に来たものだ。地盤も金もない奴だったが、俺が助けてやったのでうまく行っただけのこと」。巷では「2024年の大統領選の最有力候補」とまで持ち上げられている44歳のデサンティス氏に対しての言葉です。トランプ氏は「俺の僕(しもべ)のような男に任すわけにはいかない。アメリカを立て直せるのは俺しかいない」と、見下しています。
次の標的になったのはバージニア州のグレン・ヤンキン知事、56歳です。今回は再選期ではないため、選挙には出馬していませんが、2024年の大統領選では有力候補として名前が出ています。
そのヤンキン州知事について、トランプ氏は「あいつの名前は中国風だな。あいつが2021年の知事選に出た時、俺がMAGAを動員して選挙を勝たせてやったんだ。俺がいなければ、今のあいつはどこかの馬の骨と変わらない」と、好き勝手な発言を繰り出すばかり。とにかく「中国人のような名前」ということを理由に、かつて推薦し、応援した州知事の人格を否定するのです。
同じ共和党としての仲間意識は微塵も感じられません。一事が万事。トランプ氏はナルシストの極みです。自分より注目を集めるような存在に我慢がならないのでしょう。そんなジコチュー氏が2024年の大統領選への正式な出馬表明を行ったのですが、先の中間選挙で「赤い津波」を引き起こせなかったことで、責任転嫁のように同じ共和党の仲間をボロクソに貶すトランプ氏に、アメリカを団結させ、再生に導くことなどできるのでしょうか?
ペンス元副大統領でさえ、「2024年には、別のより良い選択肢がある」とトランプ氏を打ち消す発言を繰り出しているほどです。こうなると、追い詰められたトランプ氏は非常手段に訴える可能性があり得ます。2年前は連邦議会の占拠で終わりましたが、「トランプ国」の独立宣言をぶっぱなし、アメリカを二分する動きを煽りそうです。自由な民主主義国家アメリカの終わりの始まりかも知れません。
いずれにせよ、アメリカの再生は困難の極みとしか言いようがありません。何しろ国民の半分近い1億2,400万人が明日の食い扶持に苦労しているのですから。その一方で、スーパーリッチと呼ばれる大富豪たちは、わが世の春を謳歌しています。そもそも、世界一の大富豪の座を占めているイーロン・マスク氏が国に納めている税金は収入の3%です。
こうした不公正とも思える格差を放置したままでは、政治不信は深まるばかりでしょう。実際、このところアメリカ各地で「貧しい人々を救え」キャンペーンが広がり、早晩、大規模な反政府デモを引き起こす恐れが出てきました。その終着点は「南北戦争」ならぬ「貧富戦争」という最悪のシナリオもあり得ると思われます。
間近に迫りつつある2024年の大統領選挙ですが、こうしたアメリカの「不都合な真実」を直視し、社会を根底から変革するような候補者が登場するのでしょうか。現状では期待できそうにありません。
結局、アメリカの近未来は混乱と分断が加速し、分裂国家へ突き進むことになりそうです。既にカリフォルニア州やテキサス州は合衆国から独立する動きも見られています。「アメリカ合衆国」は風前の灯火という最大の危機に直面しているのです。日本もそうしたアメリカの現実から目を背けるわけにはいきません。
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国際未来科学研究所代表、元参議院議員