【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

権力者たちのバトルロイヤル:第45回「米帝属国軍」自衛隊

西本頑司

・戦時統帥権の放棄

岸田文雄政権が日本国民を「戦争」へと駆り立てている。周知の通り、昨年12月16日、防衛予算を5年間で43兆円、GDP(国内総生産)換算で従来の倍となる2%とするといった国家安全保障戦略(NSS)を閣議決定した。

岸田首相は「戦後民主主義の大転換」と自画自賛するが、では、どうしてその「大転換」を国会の審議はおろか、国民の審判を仰がず“勝手”に決定したのか。

そもそも岸田政権は、対米追従の安倍晋三・菅義偉政権にウンザリした国民の支持を得ようとアメリカと距離を置き、中国やロシアとの等距離外交を謳った「ハト派」を標榜してきた。それが安倍政権どころか、戦後最大級の超タカ派政策へと転じたのだ。

この変節は、タカ派の本性を現したわけではあるまい。岸田政権発足の8カ月前に誕生したジョー・バイデン政権以降のアメリカ政府の度重なる圧力に屈して、日本を「売り渡した」のが実態であろう。

Businessman and national flag

 

この連載(月刊「紙の爆弾」)でも何度も言及してきたよう、バイデン政権は中国とロシアを排除した「新たな西側」を構築し、アメリカの一極化、1人勝ちを狙っている。その第1弾としてエネルギー資源で影響力を増したロシアを挑発、ウクライナに侵攻させることで国際社会からロシアと同国産のエネルギーを排除した。

そして「次は中国」と台湾有事に向け挑発を続けてきた。それが22年2月に発表した国家戦略「インド太平洋戦略」である。中国をクアッド(日米豪印戦略会議)で封じ込め、貿易制限で圧力をかけ、最終的にはロシアを暴発させたのと同じく「台湾NATO加盟」をほのめかしてきた。台湾有事となれば、当然、現在のロシアのように中国も、中国製品とともにアメリカ主導の国際社会=西側から完全に排除できる。

Political confrontation between USA and China / web banner background illustration

 

この国家戦略を展開するためにバイデン政権は、昨年5月の日米首脳会談で岸田政権に圧力をかけてきた。しかし優柔不断な岸田首相はロシア産の火力発電用石炭購入を継続するといった中途半端な対応を続ける。そして7月8日、安倍晋三暗殺事件が発生する。

さらに岸田政権への懲罰のごとく、9月以降、突如、150円台という「超円安」に。これに震え上がって岸田首相はあえなく陥落。「安保3文書」の発表後、円が120円台に戻ったのは、偶然にしては出来すぎている。

こうして岸田政権は、日本をこれまで以上のアメリカの奴隷国家とする署名にサインをしたのだ。

この安保3文書では、防衛予算の倍増による「増税」、憲法違反として放棄してきた敵地攻撃能力の保有、なにより中国に対して「敵国認定」した内容に議論が集まっている。

A news headline that says “Defense Expenses” in Japanese

 

しかし、この3文書における最大の懸念事項は「米軍と自衛隊の相互運用性の強化と、台湾有事の際、米軍と自衛隊の一体運用を可能にする組織の創設」にある。断言しよう。「戦時統帥権の放棄」を謳っているのだ。

統帥権とは、簡単にいえば自国の兵士に「国のために死んでこい」「国のために敵国兵士を殺してこい」と命じる権利である。「国民の生命と財産を守る」という国家の根幹こそが統帥権なのだ。ゆえに自衛隊の最高司令官=統帥権は国民の信任を得た内閣総理大臣が保有している。それを岸田文雄は放棄し、宗主国へと委譲しようとしている

。戦前でいえば、まさに「統帥権の干犯」である。この統帥権干犯問題によって旧軍部が暴走し、絶望的な戦争へと突き進んだ歴史を、今度はバイデン政権に入れ替えて繰り返そうとしているのだ。

 

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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