【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第11回 ウクライナ軍は病院や学校や劇場を占拠、 民間人を「人間の盾」にして抗戦

寺島隆吉

前々章では、ウクライナのゼレンスキー大統領が2022年3月23日、日本の国会でオンライン形式の演説をおこなったというニュースを研究所の一員が知らせてくれたので、それがいかに嘘に満ちているかを書きました。

そこで前章では、 「その続き」を書くつもりでした。しかしブログ執筆のため北里大学の八木澤先生からいただいていたメールへの返事が遅れていたので、その返礼メールを書いているうちに、 「続き」を書くゆとりがなくなりました。

そこで今日こそは、 「その続き」を書くつもりです。といっても、ゼレンスキーの嘘はあまりにも多岐にわたっているので、何から書くかで迷ってしまいます。

ゼレンスキー大統領は、日本が世界で唯一の被爆国であることを利用してチェルノブイリ原発から話を始め、それから化学工場を攻撃している話に移り、最後に民間人への攻撃について語りました。

原発や化学工場を攻撃すれば世界の世論から猛反発を受けることは初めから分かっていることですし、そんなことは軍事的にも無意味です。ロシア軍の攻撃は軍事施設や軍事基地のみに限られていました。

だからこそ、ウクライナ軍は病院や学校や劇場を占拠して、民間人を「人間の盾」にしながら抗戦してきました。他方ロシア軍はプーチン大統領から「民間人や公共施設を攻撃するな」と言われていたので、だからこそ苦戦せざるを得なかったのでした。

アメリカがイラクやアフガニスタンなどを侵略したときは、結婚式や葬儀の葬列すらもテロリストが紛れ込んでいるからという口実で爆撃しましたから、同じようなやり方で攻撃すれば、ロシア軍はあっという間にドンバスからウクライナ軍を駆逐できたでしょう。

アメリカの元財務次官だったポール・クレイグ・ロバーツ博士は「プーチンの善意は戦争を長引かせるだけで結果的には核戦争になる危険性もある。プーチンは馬鹿か、お人好しか」と揶揄していることも、前々章で紹介しました。

博士の次のブログも、そのような内容のひとつです。

Russia Has a First Rate Military But Is Incompetent On Every Other Front (ロシアは世界第1級の軍事力を持っているが、他のすべての面で無能だ 3/25/2022)

ただし、ロバーツ博士の論に乗ってしまって民間人や公共施設を攻撃してしまえば、世論の猛攻撃を受けることは必至ですから、このような助言を受け入れなかったことは、結果としてよかったのかも知れません。

しかし、そのためにウクライナ軍(とりわけのアゾフ大隊)の拠点だったマリウポリ市を解放し、市民を安全な地域に逃がす通路をつくりあげるのに、つい先日までかかってしまったのでした(希望者はロシア移住も可)。

このようなことを考えると、ゼレンスキー大統領が次のようにオンライン演説をしたことが、いかに嘘であるかが簡単に分かるはずです。

ウクライナ軍はすでに28日間にわたって、祖国を勇敢に防衛しています。ロシアという世界最大規模の国が28日間にわたり全面的な侵攻を続けていますが、能力や影響力はそれほどではなく、モラルの面では最低です。ウクライナの平和な場所に1,000発以上のミサイルを打ち込み、数え切れないほど多くの爆弾を落としています。

ロシア軍は私たちの数十もの町を破壊し、完全に焼け落ちてしまったところもあります。ロシア軍に占領された多くの町や村では、 人々は亡くなった家族や友人、 それに隣人を尊厳を持って埋葬することもできません。壊れた家の庭先や道路脇など、どこでも可能なところに葬るしかありません。

ここでゼレンスキー大統領は「ロシア軍は数十もの町を破壊し、 完全に焼け落ちてしまったところもあります」と言っていますが、これはまさに、8年間にもわたって、ウクライナ軍によって破壊されたドンバス地区の住民にこそ当てはまる言葉です。

その映像は、前章で紹介した次のドキュメンタリーを見ていただければ、自分の眼で確かめることができます。

* Donbass: The Grey Zone, Life in the Frontline Village(ドンバス:グレーゾーン、最前線の村での生活)https://rtd.rt.com/films/donbass-the-grey-zone/

*Donbass:Yesterday, Today, and Tomorrow, The history of the Donbass conflict(ドンバス:昨日、今日、明日。ドンバス紛争の歴史)
https://rtd.rt.com/films/donbass-yesterday-today-and-tomorrow

しかし今回は、ドンバ ス地区全体の惨状について紹介することはやめ、ウクライナ軍(とりわけ「ネオナチ」のアゾフ大隊)の拠点だったマリウポリ市にしぼって、ゼレンスキー大統領の演説がいかに嘘だったかを、事実で語ってもらおうと思います。

というのは、研究員のひとり新田さん(仮名)から「研究所の皆さんへ」と題して、マリウポリ産科病院への「爆撃」なるものについて、後掲のようなメールが届いているからです。

彼は、私の主宰する研究所が運営しているサイト『翻訳NEWS』の管理画面を見ていたら、 「アラジンさんからの貴重な投稿コメントがあり、そのままにしておくのは惜しい」というので、そのコメントを紹介してくれたのでした。

このように、 『翻訳NEWS』の外部から、色々な情報や注文(たとえば「次はこれを訳してほしい」 )が寄せられるようになったことは、本当に嬉しいことです。このサイトの認知度が少しずつ広まってきていることの証左であると思われるからです。

それはともかく、新田さんからのメールは次のようなものでした。

 

研究所の皆さんへ、2022/03/21

今日も朝日新聞で、 「マリウポリ命の危機—-35万人孤立市街戦激化」と大きな見出しで書かれ、欧米メディアの反ロシア・プロパガンダが流されています。

英国防省は「ロシア軍が人命やインフラの破壊もいとわない無差別な攻撃をともなう『消耗戦』に移行しているとした」という記事です。

しかし昨日、 「寺島メソッド翻訳NEWS」 の管理画面を見ていたら、 「アラジンさん」 からの貴重な投稿コメントがあり、 そのままにしておくのは惜しいので、 引用させていただきます。先回、『翻訳NEWS』にアップされた次の記事へのコメントです。

Moscow responds to Ukraine maternity clinic bombing accusation「ロシア政府はウクライナの産科クリニック爆撃の非難に反論」( 『翻訳NEWS』2022/03/19)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-category-100.html

そのコメントはYouTubeの映像が含まれていて、マリウポリの産科クリニックの屋上や中庭に武装兵士が配置されている映像が載っていました。ウクライナ軍は、住宅の建物の屋根と中庭に位置しています。

この動画を見ると、確かに妊婦を追い出し、そこをネオナチの拠点としていることが分かります。また、そこの画像には、 「産院から逃げ出す、傷ついた妊婦の写真と説明がある」とコメントしてくださっています。

そしてその妊婦は、元モデルであり、ネオナチによって強制的に傷ついた化粧を施されカメラの前に立たされたと証言しています。

これは、シリアでアサド政府軍の化学兵器攻撃で死んでいった画像が、 ホワイトヘルメットらによって捏造されたのと同じ手法が使われています。現在のウクライナ報道が、いかに捏造された報道の繰り返しであるのか、これでも分かります。

以下、 「アラジンさん」の投稿を転載します。画像や映像を転載できるといいのですが、できなかったので、URLをクリックして見てください。なおロシア語からの翻訳は、私が機械翻訳をしました。

———–〈以下、 引用〉—————————–
「ロシア軍がウクライナ南部の産科病院を爆撃した」 というデマ ・ ニュースの真相については、産科病院爆撃の真相の追加説明をする。
次のブログ [Moon of Alabama] に詳しい。
https://www.moonofalabama.org/2022/03/disarming-ukraine-day-15-a-curious-hospital-bombing-and-no-fly-zone-pressure.html#more
「住宅地の屋上や中庭に駐留するウクライナ軍。マリウポリ」(2022/03/09)

このブログのコメント欄には次の動画が付いている。
https://www.youtube.com/watch?v=Lvfoj7AahaM

これを見れば、 これがすでに病院ではない事は明白。ここに子供や妊婦がいるわけがない。この動画のコメント欄に、さらに次の投稿があり、産院から逃げ出す傷ついた妊婦の写真とロシア語での説明がある。
https://t.me/ssigny/10159

(引用、 終わり)

以上が新田さんからの『翻訳NEWS』に寄せられた投稿コメントの紹介です。このコメントの最後に「産院から逃げ出す傷ついた妊婦の写真とロシア語での説明」とあります。

その「ロシア語での説明」を新田さんが翻訳したものが次のものです。機械翻訳を使ったとはいえ、機械による翻訳は日本語として意味の通じないものも少なくないのですから、外語大学ロシア語科を卒業した新田さんの能力が見事に発揮されています。彼の面目躍如たるものがあります。

我々SIGNALは、 マリウポリ産科病院の廃墟で写真家が撮影した若い女性を見つけた。彼女はマリウポリのモデルであり、人気のある美容ブロガーであることが判明した。彼女の名前はマリアンナ・ポドグルスカヤ。

彼女は本当に妊娠しているが、アゾフのネオナチによって長い間占領されていた産科病院では、 「うまく立ち回る」ことができなかった。彼女は手に物を持たされ、 化粧をされ、 カメラの下に運ばれた。

この「特ダネ」なるものは、現在、欧米の通信社と密接に協力しAP通信社で働いている有名な写真家エフゲニー・マロレトカに委ねられた。

ウクライナの危機に捧げられた彼の写真は、 OSCEのウェブサイトでも見ることができる。同じモデルが3つのエピソードで演じさせられた。

3月8日、産科病院の職員1人とのインタビューが公開された。その職員は、アゾフがそこからすべてのスタッフと患者を追い出し、建物を占領したと報告した。

それ以前の3月5日、 アゾフの過激派が同じ産科病院から発砲していたことが記録されている。我々は、 過激派アゾフ大隊が民間イン フラのすぐ近くに陣地を構えるのを繰り返し見てきた。
https://t.me/ssigny/10159(1.8Mviews 編集済み、3月10日16時40分)

このマリウポリの産科病院﹁爆撃﹂については、新しい情報が出てきています。ロシア軍とDPR(ドネツク人民共和国)軍の前進のおかげで脱出できた多くの市民が、この病院について新しい証言をしてくれたからです。

それは、オンライン誌GlobalResearch で次のように報告されています。幸いにも『翻訳NEWS』で和訳が載せられましたから、それを次に紹介します。

Video: Mariupol: “Nicolay Knows”. Civilians Denounce the Crimes of the Neo-Nazi Azov Regiment「動画。マリウポリの現状を語るニコライさん。市民たちがネオナチのアゾフ連隊が犯した罪を告発」( 『翻訳NEWS』2022/03/28)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-848.html

この動画は、もともと「Donbass Insider」(内側から見たドンバス)という独立メデ ィアで働きながら、マリウポリ市で人道支援の活動をしてきた女性記者が、市民の1人ニコライさんにインタビューし報告したものです。

2022年3月20日、マリウポリ北東部郊外のサルタナ付近で人道支援活動をおこなっていたところ、最近、 マリウポリから逃れた多くの市民と遭遇しました。ロシア軍とDPR(ドネツク人民共和国) 軍の前進のおかげで脱出できたのです。

その逃れることのできた市民の一人、 ニコライさんは、 ネオナチのアゾフ大隊が住民に対して行なった犯罪について、 カメラに向かって話すことに同意してくれました。この証言は、街から避難してきた他の民間人たちによっても確認されています。

サルタナ近郊の5番目の村に最後の食料品と赤ちゃんのおむつを届けると、滞在していた家から1人の男が出てきて、私たちに話しかけ始めました。彼は、3週間の恐怖の末に、最近マリウポリから逃げてきたのです。

私は彼に、マリウポリの産科病院と劇場で実際に何が起こったか、ひょっとして知っているかと尋ねました。最近、欧米のメディアが大きく取り上げていたからです。

彼はそこで何が起きたかを知っていました。産科病院がアゾフ大隊の戦闘員たちによって軍事拠点と射撃場に変貌したのを自分の目で見たそうです (ちなみに彼は「アゾフ連隊」を今でも「アゾフ大隊」 と呼んでいる) 。彼はキッパリと、病院は別の場所に避難させられたため、もう機能していなかったと言っていました。

また、マリウポリの劇場はロシア軍の爆撃で破壊されたのではなく、アゾフ大隊の戦闘員が爆破したのだと説明しました。

御覧のとおり、産科病院「爆撃」の真相は、アラジンさんからの情報だけでなく、マリウポリ市から脱出できた市民からの証言(複数)でも、確認されているのです。

これは産科病院だけでなくマリウポリの劇場についても同じでした。マリウポリの劇場はロシア軍の爆撃で破壊されたのではなく、アゾフ大隊の戦闘員が爆破したのでした。

つまり「自作自演」だったのです。

アメリカによるシリア攻撃も「アサド政権が自国民に化学兵器を使った」という理由で始められたのですが、これも今では「ホワイトヘル
メット」なる自称 「医療部隊」による自作自演だったことが多くの証言で明らかになっています。その戦術を真似たのでしょう。

以上みてきたとおり、ゼレンスキー大統領のオンライン演説は嘘だらけなのです。 自分はドンバス住民への「加害者」なのに、まるで「被害者」であるかのように振る舞っています。

しかも、その加害者ぶりは尋常のものではありません。もっとも、ウクライナ軍、とりわけネオナチ勢力の残虐ぶりは際立っています。これは2014年2月の血塗られたクーデターの時に、すでに証明されています。

またそれはオデッサの虐殺事件の時にも立証されました。このときは違法なクーデターは認めないと立ち上がった市民が労働組合会館の中で生きたまま焼き殺されました。前々章で、映像つきで紹介したとおりです。

しかし、マリウポリ市における暴虐行為は、今までほとんど紹介されてきませんでした。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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