第2回 「軍人オリンピックのナゾ」その(二)
社会・経済香港の英字紙『SCMPサウスチャイナモーニングポスト』(2019年11月18日付)によると、中国における新型コロナウイルス肺炎の1号患者は、19年11月17日に発見された70代の脳梗塞患者である。これまでは12月1日に発病し、8日に報告された患者が1号とされてきたが、それよりも2週間早い。それだけではない。この脳梗塞老人は寝たきりであり、華南海鮮市場には出入りしていない。時期が異なること、海鮮市場と無縁な点に注目したい。
さらに20年3月24日、世界の1号患者とされる人物の名前が中国の「捜狐」というサイトに掲載された。これによると、1号患者の名は、武漢の軍人オリンピックに出場したアメリカ人選手、マアチャ・ベナッシ(Maatja Benassi)である。彼女はフォート・ベルボア基地諜報軍オフィサー、武装警備員であり、要するに生物化学部隊基地の警備を担当する諜報軍兵士の一員だ。2019年7月、米国は突然このフォート・ベルボア基地を閉鎖した。マアチャ・ベナッシは武漢軍人オリンピックの女子ロードサイクルの参加選手であり、米国が専用機で武漢から送還した5名の米軍兵士の一人である。
マアチャ・ベナッシの夫、マアット・ベナッシも軍のサイクリストとして働いている。夫には双子の兄弟、マイケル・ノートルダムとベニー・ベナッシがいて、ベニーはオランダの初の新型コロナウイルス感染者第1号患者であり、発病前にイタリアで最も感染が深刻だったバロディ地区を旅している。米国問題専門家の金燦栄 (中国人民大学教授)も、自身のYouTubeで、4名のバージニア州在住者(米国人3名とカナダ人1名)が「零号患者」であることが発見されたと伝えた。ベナッシを1号患者と特定する背景には、以下の米国側の事情がある。
米国で19年7月メリーランド州のフォート・デトリック生物化学部隊基地が閉鎖された。『ニューヨーク・タイムズ』(19年8月5日付)はその理由を「実験室の排水浄化が不完全なため」と書いた。だが、人々はこの解説を疑った。というのは、①基地が閉鎖されてまもなく、肺炎に似た「電子タバコ病」が広がったことからである。これは、ほんとうに電子タバコが原因なのか。②同じ頃、米国ではH1N1インフルエンザが流行し始めた。③そして同年10月には、米国政府機関等多くの組織で、“Event 201”と名付けられた「グローバルな対感染症」演習が行われている(このイベントには中国CDCの感染症専門家で高福アカデミーの会員が中国を代表して参加している)。
武漢世界軍人オリンピックは、米国における上記のような諸事件のあとで開かれたのだ。そして武漢で19年12月初め、いわゆる「新型コロナウイルス」による「新型肺炎」患者が現れ、20年2月中旬をヤマ場として中国では鎮静化に向かうが、ウイルスは国境を越えてまずヨーロッパ諸国を襲い、ついで米国に迫った。
生物化学戦研究をしているメリーランド州フォート・デトリック(旧名キャンプ・デトリック)は、アメリカ軍における、文献ならびに実験をもちいた「細菌戦研究の最大拠点」となっている。731部隊の石井四郎隊長を始め、多くの幹部が、アメリカに研究データを引き渡すことを引き換えに免責となったのち、ここフォート・デトリックに資料が所蔵された。01年、9・11テロ事件後に「炭疽菌」を使ったテロが行われたが、その炭疽菌は、フォート・デトリックから流出したものであることが確認されている。
19年7月、この基地は突如閉鎖され、半年後に再開された。20年4月24日の人民網日本語版は以下のように伝えた。
国務院共同感染対策メカニズムの記者会見において、記者から、「海外メディアの最近の報道によると、米軍はメリーランド州のフォート・デトリック(Fort Detrick)基地にある生物化学兵器研究所を再稼働させ、情報を知った多くの住民が現地を離れ始めている。数多くの証拠から、2019年8月に緊急閉鎖された原因について不審な点が多い同研究所は、新型コロナウイルスの発生源で、米国で秋と冬のインフルエンザの大流行を引き起こし、その後ウイルスが武漢市で開かれた世界軍人オリンピックに参加した米国の軍人を通じて中国で変異し、再び大流行した可能性が疑われると米国で指摘する声が上がっている。この問題についてはどう考えているか」という質問があった。
以上の事態を受け、「米国はWHOに真相を説明せよ。なぜ5名の特殊な兵士だけを武漢軍人オリンピック後に専用機で帰国させたのか!」というブログが発表された。以下はその要旨である。
「新型コロナウイルスが米国起源か否かは、実は簡単に検証できる。米国が特別機で武漢から送還した5名の軍人のウイルス型が、武漢で罹患した患者に特有なC型に属するか否かをWHOが調べれば、すぐ分かる!いま世界中で人々が疑問を感じている焦点は、以下の2点である。すなわち第1に、19年10月末,米国はなぜ大きな代価を払って専用機を用意し、武漢の世界軍人オリンピックに参加した5名の罹患運動選手を武漢から送還したのか? 第2に、米国チームの成績はきわめて不可解だ。射撃競技において金メダルはゼロ(中国隊は133個)の金メダル)で、順位は世界第35位であった。米国が派遣した369人の軍人選手は、射撃経験のない特殊な生物化学部隊ではなかったのか?最大の疑問は米国が5名の罹患選手を武漢から送還するに際して、なぜ専用機を用いたかである」。
当時、世界軍人オリンピックは終わっていたのであるから、普通の疾病ならば2日待たせて、他の360名の軍人選手と一緒に帰国させばよいではないか。もう一ついえば、武漢国際空港で通常の民間航空機に搭乗させればよいではないか。これらの軍人が武漢軍人オリンピック後にウイルスを散布するに際して、不注意のために自らが罹患した生物化学部隊ならば、発熱し重症になる前に米国に送還しなければならない。さもなければ中国側がウイルスの持ち込みに気づく結果となり、米国の陰謀は露顕してしまい、ここですべてが崩れる。
中国側が直ちに武漢封鎖を決定し、米国は重大な政治的結果に直面する。それゆえ米国は速やかに専用機を派遣して彼らを送還した。一つは中国側が気づく前に、もう一つは360名の他の選手に感染させないために、専用機で送還した。罹患した5名の兵士のウイルスが武漢で罹患した患者と同じ「C家族のウイルス毒」かどうかを検査すべきである。遺憾ながらこの5名はすでに、この世から蒸発してしまった。
新型コロナウイルスの系統樹は、ABCDEの5家族からなる。AB家族は第一世代であり、第二世代C家族は第一世代の子である。第三世代DE家族は第二世代C家族の子である。中国大陸の八万の感染者のウイルス株はすべてC家族であるのに対して、米国の感染者はABCDE型、すべて揃っている。繰り返すが、武漢のC型は、AB型の子である。第一世代のAB型がなければ、どうして第二世代の子が生まれるであろうか。
1938年生まれ。東大経済学部卒業。在学中、駒場寮総代会議長を務め、ブントには中国革命の評価をめぐる対立から参加しなかったものの、西部邁らは親友。安保闘争で亡くなった樺美智子とその盟友林紘義とは終生不即不離の関係を保つ。東洋経済新報記者、アジア経済研究所研究員、横浜市大教授などを歴任。著書に『文化大革命』、『毛沢東と周恩来』(以上、講談社現代新書)、『鄧小平』(講談社学術文庫)など。著作選『チャイナウオッチ(全5巻)』を年内に刊行予定。