第13回 ゼレンスキー演説の嘘 「生物兵器」編
国際この発言を読んで私の頭にすぐ浮かんだことは、かつて日本軍がアジア太平洋戦争のとき中国の満州・ハ ルビンで運営していた細菌兵器研究所(関東軍防疫給水部本部)のことでした。
この研究所は通称「731部隊」と呼ばれ、京大医学部や東大医学部卒業の研究者たちが運営していました。 「マ ルタ」と呼ばれる囚人を生きたまま解剖し殺したことで、 「悪名高い」存在となりました。
しかし戦争末期、ロシアとア メリカとの話し合いでロシア軍が満州に南下してきたとき、細菌兵器の研究や生体解剖の事実が露見することを恐れて、多くの「マルタ」を殺し、研究所を爆破して、証拠隠滅を図りました。
とはいえ爆破で全てが破壊されたわけではなく、残存した建物を生かして今は博物館になっています。正式名称は「侵華日軍・第七三一部隊・罪証陳列館」で、ここを私が訪れたときは旧館でしたが、2015年8月15日に新館が開館したそうです。
ですから、この731部隊は、戦後の長い間、日本人のほとんどには知られない存在でした。その存在が知られるようになったのは、森村誠一『悪魔の飽食』(1982)が世に出てからです。その後は常石敬一らによる研究が進み、やっと日の眼を見ることになりました。
それはともかく、ここで研究された細菌兵器(ペスト菌、コレラ菌、その他)に関する多くの資料は、この研究に従事した研究者を「戦争犯罪者」として裁判にかけないことを条件に、米軍に提供され、アメリカにおける細菌兵器研究に大きく貢献したと言われています(常
石敬一 『医学者たちの組織犯罪』 朝日文庫)。
最近のウィキペディアは、権力におもねることが多く、その叙述には信頼性の欠けるものが少なくないのですが、そのウィキペディアですら、 「証拠隠滅とマルタの処理」という項目で、次のような説明を付けていました。
1945年8月9日のソ連軍の満州への侵攻直後、731部隊の施設建物が大量の爆薬によって破壊された。常石敬一は、この破壊は証拠隠滅であったとする[52]。
秦郁彦は、終戦時には、生存していた40~50人のマルタが証拠隠滅のために殺害されたと推測している[10]。
元隊員の越定男によれば、これらのマルタは青酸ガスを噴出させて殺害するか、銃で脅しながらマルタ2人を互いに向かい合わせ、首にロープを巻き、その中央に棒を差し込んで、2人にねじらせることで殺害したという[43]。
731部隊が証拠隠滅を急いだのはマルタだけではなかった。1棟2階の「陳列室」をはじめ第一部各課研究班には、ホルマリン容器に入った生首、腕、胴体、脚部、各種内臓の標本が、伝染病の種類や病状ごとに計1,000個ほど保存されており、これらは夜陰に乗じて松花江に投げ捨てられたという。
さらに、増産を重ねてきた各種細菌のストック、夥しい数のネズミ、数億匹のノミ、解剖記録、病理記録、細菌培養記録などは掘った穴に集められ、重油で焼却されている。その後、施設建物が大量の爆薬によって破壊された。この時の爆破の煙はハルビン市内からも見えたと言われている[52]。
*[52] などの数字は参照文献番号
要するに、私がここで言いたかったのは、ヌーランド国務次官が「研究で使用していた生物資料をロシア軍に奪われないようにしている」と言ったということは、 「自分たちがいかに危険な研究をしているか」 「それが暴露されると大きな国際法違反に問われる恐れがある」ということを、問わず語りに吐露してしまったという事実です。
ところがゼレンスキー大統領はロシア軍による核兵器や化学兵器のことばかりを言挙げして、肝心の自分たちによる深刻な細菌兵器研究については、一言も口にしなかったのです。これほど偽善的な行為はないはずなのですが、日本の大手メディアはもちろんのこと、高名なルポルタージュ作家であるはずの鎌田慧氏ですら、このことを問題にしませんでした。
話がまたもや少し横にそれたので、 元に戻します。先に紹介したブルガリ人ジ ャーナリストのゲイタンジエワ氏の論考「アメリカは嘘をついていた。 『危険な病原菌』の研究に資金を提供」の副題は次のようになっていました。
*Newly Leaked Documents Reveal Pentagon Contractors Worked Under $80 Million Program Funded by Defense Department But Kept Hidden from Public(新たに流出した文書が暴露――国防総省が資金提供する8,000万ドルの研究計画、その下で秘密裏に請負業者が働いていた)
しかも、この論考では、ア メリカ国防総省が資金提供している生物兵器研究所がウクライナのどこにあるかの地図まで付けられていました。それが本章の冒頭に載せた研究所の分布図です。
それには次のようなマークが付けられていますが、驚くべきことに、それは11カ所にもわたっているのです。
Pentagon-funded biolabs in Ukraine(国防総省が資金提供したウクライナの生物兵器研究所)
危険な生物兵器研究所が11カ所もあるのですから、これだけでも十分に多すぎるくらいなのですが、 元アメリ
カ下院議員のトゥ ルシー・ギャバードは25~30もの生物兵器研究所があると言っているのです。
11カ所だけで8,000万ドル(80億円)ものお金が注ぎ込まれているのですから、いかにア メリカが細菌兵器の研究に熱心かがよく分かります。
ア メリカは危険な研究だからこそ国内に置いておけず、外国に置くことにしたのでしょう。
しかも、そんな危険な研究所が国境近くに30カ所近くも存在すれば、そこで研究された細菌兵器が、無人機(ドローン)を使って何時ロシア領土にばら撒かれるか分かりません。ロシアが神経質になるのも当然でしょう。日本もアジア太平洋戦争のとき、中国南部で同じ攻撃をしたのですから。
ちなみに、ブ ルガリ人ジ ャーナリストのゲイタンジエワ氏が入手した「8,000万ドル(80億円)」の国防総省資金の記録文書は下のとおりです。
アメリカがイラクに侵略したときの口実は、 「WMD(大量破壊兵器)をもっているから」でした。しかも、そのWMDというのは化学兵器だとされましたが、実はそれは嘘でした。
というのは国連「化学兵器」査察官のスコット・リッターが証言しているように、イラクは国連の指示に従って、所有している化学兵器をすべて処分していたからです。その処分の先頭に立っていたのが、スコット・リッターでした。
ところで、細菌兵器も立派な「大量破壊兵器」です。なぜなら、これらの病原菌が不意に、あるいは意図的に漏出したり、危険にさらされたりすれば、ロシアどころか、すぐにヨーロッパ中に蔓延するからです。
だとすれば、嘘の理由でイラクが攻撃されたのですから、 「本当の大量破壊兵器」(細菌兵器研究所)を持つウクライナが、ロシア軍によって捜索されて悪い理由がどこにあるのでしょうか。アメリカがイラクに侵略した理由は「大量破壊兵器」 、すなわち「化学兵器」を撤去
するということだったのですから。
ところがイラクのどこを探しても﹁化学兵器﹂は見つかりませんでした。しかしウクライナの場合は、国防総省が資金を提供している危険な細菌兵器研究所だけでも11カ所あり、ウクライナ全土に総計30カ所もあると言われているのです。
ところがゼレンスキー大統領は、国会におけるオンライン演説では、ロシア軍による「嘘の原子炉攻撃」や「嘘の化学兵器工場攻撃」は言っても、自国のもつ「大量破壊兵器」 「生物兵器研究所」については、 一言も口にしなかったのです。
繰り返しになりますが、日本の大手メディアも、左翼・リベラルも、この点についてはほとんど同じでした。本当に悲しむべき事態です。
これに関連して、話題になっている「ロシア軍によるウクライナ・ブチャの大量殺戮」の問題についても、本当は、触れたかったのですが、疲れてきたので、今回はここまでとさせてください。
(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第12章から転載)
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国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授