【書評】植草一秀 著『千載一遇の金融大波乱』

高橋清隆

『千載一遇の金融大波乱―2023年金利・為替・株価を透視する―』(ビジネス社)は、天才エコノミスト、植草一秀氏が執筆する会員制レポート「金利・為替・株価特報」(TRIレポート)の年次版、最新号である。ウクライナ危機から米国のインフレ問題、コロナ騒動の本質、中国の権力闘争とビジョンまで、内外諸問題を幅広く考察している。

 

著者の植草氏は2000年代、無実の罪で捕らえられ、マスコミから一斉に非難・やゆされた。勤務する大学を追われ、会員制レポートの発行と数々の著書執筆の傍ら、政策連合「オールジャパン:平和と共生」を運営してきた。

同書が扱う主題は上掲の諸問題のほかにも、尖閣諸島をめぐる日中の緊張や米国の連邦準備制度理事会(FRB)議長と日銀総裁の政策手腕の比較、我が国の財政問題、統一教会と戦後政治など幅広い。なかでも圧巻なのは、専門家としてキャリアを積んできた金融・財政政策の検証だろう。

もともと有価証券投資を検討するうえでの情報本として書かれたもの。序章に「適格な投資戦略を構築するためには、世界の運動法則、そして世界経済の運動法則を的確に捉えることが必須」(p.25)とあるように、金融変動を読み解くには経済だけでなく、政治情勢や地政学上の変化などすべての変動に目を光らせる必要があると植草氏は考えているからだ。

以下ではとくに私の注目を引いた部分を挙げて紹介する。

・金融

日本円の弱体化は日々実感するところだが、実効為替レートで見ると、1ドル=360円だった1970年の水準をすでに下回っているという。米国やEUが金融引き締めを強化するなかで、日銀だけが超緩和策を続けているからである。植草氏は「この状況を放置すれば、日本は外国資本に乗っ取られることになる。『経済安全保障』を論じるなら、通貨高による日本防衛を論議するのが先決」(p.182)と喝破する。

金融危機への対応策について考えさせる。2022年にバーナンキにノーベル賞が付与されたことに関し、「リーマン・ショック」を取り上げている。FRBが大規模金融機関に資金供給したことによりシステム危機は回避されたが、モラルハザードが残ったと問題提起する。厳正な責任追及がなされた小規模金融機関・貯蓄貸付組合(S&L)とは対応が異なったためである。翻って、我が国の2003年りそな危機に目を向ける。小泉政権に批判的だった同行の経営陣を一掃し、金融問題処理の名の下に銀行は乗っ取られた。

「この意味で米国サブプライム金融危機処理と、日本のバブル崩壊にともなう金融危機処理においては、重大な問題が残されたままになった」(p.80)と指弾する。植草氏はまさに、このりそな処理で巨大なインサイダー取引が行われたことを指摘したために、国策逮捕されたと私は思っている。

・ウクライナ戦乱

ロシア=悪、ウクライナ=善の印象がメディアの宣伝にすぎないことを、読者諸賢はご存じだろう。22年3月2日の国連総会でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議に賛成したのは193カ国、賛成に回らなかった国は52カ国だった。ただし、人口で見ると、その構成比は賛成42%、賛成に回らなかったのは58%と逆転する。

ウクライナ戦乱は、その遠因となる04年と14年の政権転覆を分かりやすく解説している。04年の大統領選で親ロのヤヌコビッチ氏が大統領に選出されたが、選挙に不正があったとの抗議活動が展開した。これを推進したのが米国で、再選挙の結果、親米のユシチェンコ氏が当選。「オレンジ革命」と呼ばれた。ユシチェンコ氏は選挙直前にダイオキシン中毒に見舞われたが、米国による自作自演の工作が疑われる。

ヤヌコビッチ氏は10年の選挙で大統領に就いたが、13年11月にEUとの提携協定への署名を撤回表明すると、マイダン広場で巨大デモが実施された。米国が巨額の資金を提供したもので、暴力化する。14年2月にはデモ隊とウクライナ警察官29名が何者かに射殺され、暴徒化した群衆が国会議事堂を占拠。ヤヌコビッチ大統領は国外に逃亡した。エストニアの外相は、狙撃したのは反対運動の側であると証言しているという。

植草氏は米国の謀略性と好戦性について、1898年の米西戦争におけるメイン号沈没や、ベトナム戦争を誘発した1971年のトンキン湾事件、91年からの湾岸戦争でイラクへの軍事行動の口実を与えた、クウェート人少女の証言のうそなどを例示。そのうえで、「米国における最大産業である軍産複合体にとって、世界各所における緊張関係が生命線」(p.126)であると指摘する。

・国内政治

野党共闘を妨害しているのは連合だが、その実権を握る旧同盟系勢力が世界統一教会とつながっていることを私は知らなかった。両者を結ぶ語句が、これまた知らなかった富士政治大学校という研修機関。2代目理事長を務める旧民社党の松下正寿参院議員はその後、旧統一教会が中心になって設立した世界平和教授アカデミー会長や世界日報論説委員などを歴任していた。

・習近平

我々が見る西側メディアは中国の習近平国家主席の強権ぶりを非難するが、父の敵への報復と社会のゆがみを解消したいとの思いがあったとの視点に初めて触れた。植草氏は遠藤誉『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)を引用し、習氏は父が鄧小平の陰謀によって失脚させられ、16年間もの軟禁生活を送らされたことを心から恨んできたと指摘する。現在掲げている2つの基本政策「腐敗撲滅」「共同富裕」は、改革開放路線の下で腐敗と格差の進行を目の当たりにしたことからくるという。

・マーケット

最終章「千載一遇 金融市場の極意」は、「最強・常勝五ヵ条の極意」など投資戦略を伝授。巻末に注目すべき24銘柄を挙げている。投資に興味のある方は同書に当たってほしいが、1点だけ触れておく。世界を見渡せば不安材料だらけだが、23年は13年と17年に続く投資の好機が潜むという。

「人のゆく裏に道あり花の山」という相場格言を紹介し、「株価暴落、円暴落は株式や日本円を“最安値”で購入するチャンスを提供する」「戦乱、米国金融引き締め、疫病、中国バブル崩壊という波乱が3つも4つも重なっているこの大波乱こそ“千載一遇”のチャンスになり得る」(p.218)と展望する。

同書は投資戦略の検討を通じ、内外情勢を短時間に概観できる。投資をやらない人にも、今を知るためにお薦めの一冊である。

(「NetIB‐NEWSより転載」)

 

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高橋清隆 高橋清隆

反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/

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