西側メディアに踊らされる日本、バイデンが煽ったウクライナ危機
国際・コソボは認めドンバスは認めない国連憲章
2022年2月21日、ロシアのプーチン大統領が、14年にウクライナからの独立を宣言していた「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」について、承認する大統領令に署名した。
ドネツク・ルガンスクの両地域は14年に独立をめぐる住民投票を実施、賛成多数をもって独立宣言に至ったが、ウクライナ政府は「投票はロシア政府に触発され、組織され、資金提供を受けて行なわれたものであり無効」としてはねつけた。そこで、民族自決原則によって両地域はロシア政府に独立承認を要請しており、現在の情勢のなかで、プーチン大統領が受け入れた形だ。
プーチン大統領は、承認の翌22日に開かれた記者会見では、ウクライナ東部の紛争の解決に向けたミンスク停戦合意について「今は存在しない」と断じた。この発言をもって「合意失効」と報じられたが、大統領は「ミンスク合意は昨日の承認のずっと前から損なわれていた」とも語っている。
実際、ドネツク・ルガンスクを含むドンバス地域では、NATOの後ろ盾のもと、ウクライナ政府軍が親ロ派勢力に攻撃を仕掛けていた。当初から、ミンスク合意による停戦が、今回の情勢を鎮静化させる方法だったことは、誰もが認識していたことだ。しかし、西側勢力はウクライナに武器を供与し続けた。
ロシアは目的を、あくまで「ロシア系住民の保護」であり、「地域の安定」としている。ウクライナと両地域の当事者が話し合うべき、また、NATOの東方拡大は緊張を高めるだけだと主張してきた。
2月24日にはロシア軍が軍事行動を開始、数時間後に国防省は「ウクライナの空軍基地のインフラと対空防衛システムを無力化し、ウクライナ軍の制空権を制圧した」と宣言した。米国のバイデン大統領は「責任はロシアだけにある」と言い放った。
33年前、東西冷戦が終わった段階で、ブッシュ(父)政権下のベイカー国務長官が米ロ間で緊張緩和を図った。クリントン大統領もモスクワを訪問するなど米ロの対立関係は沈静化を見せていた。
しかし情勢が変わったのがブッシュ(子)政権で、70兆円ほどあった軍事予算が半減、米国軍需産業の再編統合が求められるようになった。そんなときに起きたのが01年の9.11 テロである。軍事関連予算が復活し、軍産複合体が息を吹き返した。同時に米国民の意識も劣化し、移民問題などで国民間の対立も起きるようになっている。
現在、世界に737の米軍基地がある。オバマ大統領は「世界の警察官をやめる」と言い、トランプ大統領はアメリカ・ファーストを推し進めたが、そうしたことにかかわらず、米国の軍事力はグローバル的に展開している。軍事にはもちろん、情報工作も含む。
そうして危機を演出していれば、軍事予算が増える。それが目的でしかないから、米国の政策には当然、矛盾が生じる。台湾の独立は支持しても、ドネツク・ルガンスクの独立は認めない。これはダブルスタンダードだが、日本のメディアはそれを無批判にコピーして報じている。結果、日本に日米安保を批判的に検証する土壌は失われた。
その意味で、現在のウクライナ危機も、日本が迎えた岐路といえる。いわば世界的大政翼賛会的状況にどう対処していくのか。米国のご都合主義、ダブルスタンダードを批判できるのか。
しかし、岸田文雄首相は西側との連携を盲目的に優先し、ウクライナに1億ドル規模の円借款による支援を決定。ロシアの独立承認翌日には、制裁措置を表明した。紛争回避を考えるならば、情勢が悪化すればするほど、対話の窓口を確保すべきである。しかし、高市早苗自民党政調会長は、林芳正外相がロシア側と日露経済をめぐり協議したことについて、「G7の結束を乱そうとするロシアの術中に見事に自分からはまっていった」と頓珍漢な批判をぶつけた。米国の軍事挑発の仕掛けこそが外交だと認識しているようだ。
・米国の危機演出には周到な準備がある
現在の状況に至るまでには、西側から数々のフェイクが放たれていた。米国の諜報機関からの情報などとして、「1月はじめ」とか「2月16日に侵攻が始まる」といった報道が、欧米メディアにより日替わりで出され、日本の報道もそれを「アメリカのメディアによると…」として拡散させた。
2月11日には米国のサリバン大統領補佐官が北京五輪開催中の侵攻開始の可能性が大だと述べ、ウクライナ在留の米国人に即時退去を求めた。その後の2月18日にはバイデン大統領が、「プーチン大統領が侵攻を決断したと確信した」と断言。まるで予想屋のように、嬉々として衝突を煽った。
これを、ロシアのラブロフ外相は「欧米のヒステリー」「情報テロリズム」だと批判した。当のウクライナのゼレンスキー大統領すら、サリバン補佐官の発言に際し、報道によってパニックに陥ってはならないと警鐘を鳴らしたうえで、「確固たる証拠を見る必要がある」と述べている。あまり危機を煽られると迷惑だ、と言いたげだ。
しかし、日本のメディアは、視聴率が獲れるからなのか、ひたすらロシアの脅威を強調してきた。ときにはロシア側の軍事演習の様子と言いながら、いつ撮られたものかわからない映像を流すこともあった。
かつて湾岸戦争へと情勢をエスカレートさせた、油まみれの鳥の写真を思い出す。イラクがクウェートの油田を燃やし、アラビア海を汚しているとして掲げたその写真は、アラスカ沖のタンカーの事故のものだった。
米国の広告会社「ヒル・アンド・ノウルトン・ストラテジーズ」が米国政府からの報酬14億円で仕掛けたプロパガンダ「ナイラ証言」も有名だ。クウェート人少女が「イラクの兵士たちが保育器にいた赤ちゃんを床に投げ捨てて、命を奪っている」と訴えたが、実際は、少女はクウェートの駐米大使の娘で、捏造キャンペーンだったことがバレてしまった。
民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。