『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事翻訳(1)軍備管理かウクライナか?
国際軍備管理は死滅するかもしれない
米国務省は2023年初頭、ロシアの新START遵守に関する公式報告書を議会に提出し、その中でロシアが米国査察官のロシア国内の施設へのアクセスを拒否することで新START条約に違反していると非難した。
国務省報道官は、ロシアが「自国領土での査察活動を促進するという新START条約上の義務を遵守していない」と述べ、「査察活動の促進を拒否するロシアは、米国が条約上の重要な権利を行使することを妨げ、米ロの核軍縮の実行可能性を脅かす」と指摘した。
しかし、2022年2月にプーチンが開始した特別軍事作戦に対する米国の全体的な対応の一環として、ロシアを標的にした行動ー時には文字通りーが与える影響に対する米国側の無神経さは、それを物語っている。
プーチンは2月21日の演説で、ウクライナがソ連時代の無人機を使用して、核搭載爆撃機を含むロシアの戦略航空資産を収容するロシアのエンゲルス近郊の基地への攻撃を可能にするために米国とNATOが果たした役割について強調した。また、サルマートとアバンガルドのシステムが運用開始され、そのため新STARTの条件の下で検査が可能になるような命令に署名したばかりであることを指摘した。
「米国とNATOは、ロシアに戦略的敗北を与えることが目的であると直接的に言っている」とプーチンは述べた。「最新の防衛施設も含めて、何事もなかったかのように査察するつもりなのだろうか。彼らは、私たちが簡単に彼らをそのまま受け入れると本当に思っているのだろうか?」
ローズ・ゴッテモラーは、「彼(プーチン)が新START条約にかんしゃくを起こすからと言って、米国がウクライナに関する政策を変更するつもりはない」と述べた。「そんなことはありえない。」
しかし、プーチンの姿勢は、単なる「かんしゃく」ではなく、もっと原理的なものである。プーチンの怒りは、米国がABM条約を脱退した原罪から生まれたものであり、新START交渉でメドベージェフがミサイル防衛について約束した際に、ゴッテモラーを含む米国高官が見せた欺瞞に直接結びついている。
この欺瞞によって、ロシアは、ヨーロッパに前方展開していたミサイル防衛システムを含む米国のミサイル防衛システムを打ち破るために、新しいカテゴリーの戦略核兵器であるサルマートとアバンガルドを配備することになった。
そして今、ウクライナ戦争は、ロシアの戦略的敗北を達成するという米国の戦略と結びついており、米国は新STARTを利用して、まさにこれらのシステムへのアクセスを得ようとしている。プーチンが適切に言ったように、このような取り決めは 「本当に非常識だ。」
新STARTについて両当事者が妥協することができない、あるいはしたくないということは、この条約が無期限に宙に浮いたままになることを意味し、2026年2月に条約が失効することを考えると、米ロ間の軍備管理が死んでしまう可能性があることを意味する。
新たな軍拡競争へのリスク
米国とロシアは以前、新STARTに代わる後続条約を約束したが、ロシアとウクライナの間で続く紛争は、新STARTの期限までにそのような条約文書を署名・批准できるようにしようとする者にとって、ほぼ乗り越えられない障害となる。
2年後、米国とロシアは、それぞれの核兵器に対する不安と不確実性を解消する検証可能なメカニズムを持たないまま、無知に基づく怒りに煽られて無制限の軍拡競争に乗り出す可能性が、確率はともかく現実のものとなっている。
プーチンは、ロシア連邦議会での演説の最後に、「真実は我々の背後にある」と述べた。
もし、軍備管理を再開する方法が見つからなければ、核の惨事を防ぐための人類の最後のチャンスとなるかもしれない。
新STARTを守るために米国がウクライナ政策を変更することはないというゴッテモエラーの主張は、バイデン政権がウクライナを武装化しようとする自滅的な現実を浮き彫りにしているのである。
ウクライナでの戦争が早く終われば、米ロ両国は軍備管理を両国の関係の一部として維持するための作業に早く取り掛かることができるだろう。
しかし、米国はウクライナ紛争を拡大することで、世界を核兵器によるホロコーストに巻き込む自爆行為に及んでいる。
ベトナム戦争中、著名な特派員ピーター・アーネットは、無名の米軍将校の言葉を引用して、「村を救うためには、村を破壊しなければならなかった」と述べている。ウクライナと軍備管理の間に作られた関連性に関しても、同じ病的な論理が今適用される-一方を救うためには、他方を破壊しなければならない。
ウクライナを救うためには、軍備管理を犠牲にしなければいけない。
軍備管理を守るためには、ウクライナを犠牲にしなければならない。
一方は国家を、もう一方は地球を犠牲にする。
これは、米国の政策立案者が作り出した「ホブソンの選択」(注:選択肢があるようで実はない選択)である。しかしそうである必要はない。
地球を救う。それしか選択肢はない。
スコット・リッターは、元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。
記載された見解はあくまでも著者のものであり、コンソーシアム・ニュースの見解を反映したものとは限りません。
※この記事はカナダ・バンクーバー在住のジャーナリスト・乗松聡子さんが運営するPeacePhilosophy Centreの記事(『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳(1)軍備管理かウクライナか? Scott Ritter: Arms Control or Ukraine? From Consortium News (Japanese Translation with permission)からの転載です。
※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/
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東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。
元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。