『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事翻訳(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する
国際『コンソーシアム・ニュース』より:元米海兵隊将校・国連大量破壊兵器査察官スコット・リター氏の記事3本連続翻訳
(2)ウクライナ後の軍備管理を再考する
Scott Ritter: Reimagining Arms Control After Ukraine – From Consortium News (Japanese Translation with permission)
スコット・リター氏2本目の記事です。(紹介文と1本目の記事はこちらを)
SCOTT RITTER: Reimagining Arms Control After Ukraine
スコット・リター:ウクライナ後の軍備管理を再考する
https://consortiumnews.com/2023/02/28/scott-ritter-reimagining-arms-control-after-ukraine/
2023年2月28日
軍備管理を利用してロシアに対して一方的に優位に立った米国とNATOにとって、モスクワを交渉のテーブルに戻すためのコストは高くつくだろう。
スコット・リッター
コンソーシアム・ニュース特別寄稿
翻訳:乗松聡子
米露の軍備管理は、極度の苦境に立たされている。
2002年の米国による対弾道ミサイル(ABM)条約の脱退は、核抑止論の基本に論理的均衡を与えていた相互確証破壊(MAD)の機能的・理論的前提を覆すものである。
同様に、トランプ政権が2019年に中距離核戦力(INF)条約を早々と打ち切ったことは、そもそも軍備管理を成り立たせていた順守検証の問題を司る「信頼するが検証する(Trust but Verify)」という根本原理の両方の要素への攻撃であった。
米露両国の戦略核兵器に制限を加える軍備管理協定として、最後に残されたのが新戦略兵器削減条約(START)であった。
2010年に署名され、2021年に5年間延長されたこの条約は、2026年に失効する。核弾頭の配備数は1,550発まで、核弾頭の運搬手段(ミサイル、爆撃機、潜水艦)は700までと制限を設けている。
数値の上限と同様に重要なのが、条約で義務付けられた遵守状況の検証体制である。この体制には、双方が年間18回までの現地査察を実施する権利が含まれている。このうち10回までは、核兵器輸送システムがある作戦基地で実施することができる。査察官は、ミサイルを無作為に選んで検査することで、核弾頭の存在を目視で確認することができる。
オン・ホールド(保留)
新STARTの遵守事項検証は、2020年初頭、Covid19のパンデミックによる公衆衛生上の懸念から、両国が査察と年2回の二国間協議委員会(BCC)の開催を中止したため、一時停止している。
パンデミックが落ち着き始めた2022年初頭、条約遵守の検証や協議を再開しようとする努力は、ロシアのウクライナ侵攻による政治的影響によって阻まれた。ロシア航空機の上空飛行を禁止する欧州連合の制裁により、ロシアは米国の戦略核施設に対する立ち入り検査を実施できなくなった。
互恵性の問題から、ロシアは米国の査察団がロシアの戦略的施設にアクセスすることを拒否するようになった。また、BCCプロセスは、ウクライナにおけるロシアの「戦略的敗北」を達成するという公言された米国の政策目標に対するロシアの懸念により、保留された。
ロシアの姿勢は、2月21日のロシア連邦議会での演説の最後に、ウラジーミル・プーチン大統領が次のように発表したことで公式の方針となった: 「ロシアは、戦略兵器管理協定への参加を中止する。繰り返しになるが、我々はこの協定から離脱するわけではない。我々は協定から離脱するのではなく、協定を保留するのだ。」
その理由は、米国の行動に関するこれまでのロシアの声明と同じであった。プーチンは「西側は、私たちの戦略的航空基盤を攻撃しようとするキエフ政権の試みに直接関与していることを私たちは知っている」と言った。「NATOのスペシャリストが、これらの施設を攻撃するために無人航空機を飛ばすことに協力した。その上彼らは我々の施設を査察したいと言っているのか?今日の状況においてこれは単なるナンセンスである。」
プーチンは、米国とNATOのロシアに対する公式の姿勢について、再び懸念を表明した:
「強調したいのは、(米国とNATOは)戦略的にロシアを倒すことが目的だと直接的に表明していることです。そしてその後、彼らは我々の施設、軍事施設を見学するだけだと考えているのだろうか。最近、新しい戦略的防衛施設を地域に置くための法律が成立した(中略)。彼らはそれらも見学するつもりなのだろうか?」
その答えは、”NO “であるように見える。
元米海兵隊の情報将校で、旧ソビエト連邦で軍備管理条約の実施、ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦、イラクでの大量破壊兵器の武装解除の監督に従事した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。
東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。