なぜこの島が選ばれたのか? 政治家・詐欺師が跋扈する馬毛島基地計画

青山みつお

・新たな馬毛島の地権者

一連の経済事件で“事故物件”扱いになっていた馬毛島を95年に購入したのが、立石建設社長の立石勲だった。立石は、平和相銀を吸収した住友銀行から馬毛島の購入を勧められたという。立石は、鹿児島県枕崎出身でマグロ漁師から身を起こして東京で建設会社を経営していた。青木との関係で、竹下の地元・出雲空港の滑走路延長工事を受注したこともあった。

しかし、馬毛島を購入はしたものの、土地の利用方法はなかなか決まらなかった。日本版スペースシャトル宇宙往還機HOPEの発着基地、貨物専用空港の整備などの構想が浮上しては消えていった。放射性廃棄物の処分場建設案も取り沙汰されたが、地域住民の反対運動が起こり、西之表市議会で2000年に放射性廃棄物の持ち込みを禁止する条例が可決されている。

06年、米軍空母艦載機が神奈川県の厚木飛行場から山口県の岩国飛行場への移駐が決まり、新たに米軍艦載機の離発着訓練場の候補地として馬毛島が注目される。

前年の05年10月に日米安全保障協議委員会で、ライス国務長官、ラムズフェルド国防長官、麻生外務大臣、額賀防衛庁長官の間で、在日米軍および関連する自衛隊の再編が承認。06年5月に具体案「再編実施のための日米のロードマップ」が作成されている。

同文書には、沖縄県の辺野古沖に普天間基地の代替施設を建設することなどが記載されており、厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐に際しては「恒常的な空母艦載機離発着訓練施設について検討を行なうための二国間の枠組みが設けられ、恒常的な施設を09年7月又はその後のできるだけ早い時期に選定することを目標とする」とある。

この訓練施設の候補地に名乗りを上げたのが、馬毛島を所有する立石だった。当初、立石は売却でなく、普天間基地と同じ年間六五億円での賃貸を国に提案したという。購入を希望していた防衛省(07年に省に移行)は「法外な値段」として難色を示す。防衛省との交渉が進まない立石はアメリカ政府とも交渉。アメリカ政府も岩国基地と沖縄の中間にある馬毛島の立地条件から、前向きな姿勢を見せることになる。

09年に民主党の鳩山由紀夫内閣が発足。就任時に普天間基地の移転先を「最低でも県外」と言っていた鳩山政権にとって、辺野古の基地の代替地として馬毛島は魅力的に映ったようだ。しかし、辺野古から馬毛島への変更はアメリカ側が認めず、この案は流れた。

一方でアメリカは、空母艦載機の離着陸訓練を馬毛島に移すことには積極的で、鳩山内閣を引き継いだ11年6月の菅直人内閣との間で交わされた「日米安全保障協議委員会文書」には、「日本政府は、新たな自衛隊の施設のため、馬毛島が検討対象となる旨地元に説明することとしている。南西地域における防衛態勢の充実の観点から、同施設は、大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに、通常の訓練等のために使用され、併せて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用されることになる」とある。

馬毛島を自衛隊施設の検討対象として地元に説明することが明記されているが、地元である西之表市は、相談なく合意文書に署名したことに反発。今日に至るまで基地反対派の市長が続くことになる。

Japan ground self defense force

 

一方、10年11月に脱税で摘発された地権者の立石も態度を硬化させた。政府や防衛省に脱税事件を仕組まれたと考えたからだ。実際に銀行の貸し剥がしにあった立石建設は、次々と怪しい融資話に手を出している。馬毛島を中国に売却する話もあったといわれる。

・「菅裁定160億円」の行方

18年には、立石建設のグループ企業であり、馬毛島の土地を所有する「タストン・エアポート社」に対して、債権者から破産が申し立てられた。立石は、債権者の背後に防衛省がいると信じ、いよいよ頑なになった。

新たな融資先を見つけて破産を免れたものの、タストン・エアポート社の社長だった次男が、18年11月に政府と合意して110億~140億円で馬毛島を売却すると毎日新聞が報道。立石は株主総会で、次男の代表取締役を解任して社長に復帰。次男との間で訴訟も起きている。馬毛島は、親子間の骨肉の争いの場となったわけだ。

結局、立石は19年11月に160億円で馬毛島を売却することに合意。防衛省の評価額約45億円に土地造成費(立石建設が行なった飛行場建設費)を含めた価格だと報道された。これが、いわゆる安倍内閣における菅義偉官房長官の裁定として、現在、国会で問題になっている。

名目上は土地造成費だが、資金繰りが悪化していた立石が融資を受けたノンバンクや街金、ブローカーが、馬毛島の土地につけていた抵当権を解消する費用も含まれている。立石建設に金を貸していた債権者には、闇社会や詐欺師、朝鮮総連系の街金もいた。彼らは貸したカネの何十倍もの金額を受け取り、ボロ儲けしたという。さらに土地買収費の160億円以外の密約もあるという関係者もいる。

米空母艦載機の離着陸訓練は、なぜ馬毛島でなければならなかったのか。政府も防衛省も、米軍側が希望しており、すでに日米政府間の合意があるとしか言わない。馬毛島問題を採り上げるメディアもここに疑問を持つ者はいない。岩国飛行場から馬毛島までは約400キロ、現在訓練が行なわれている太平洋上の硫黄島までは約1400キロあるので近いのは確かだが、岩国への移転前の厚木飛行場から硫黄島までは1200キロで、訓練場を新設せずとも利便性は変わらない。

米空母艦載機による夜間離着訓練が厚木基地で行なわれるようになったのは1982年2月からで、騒音対策として93年からは硫黄島で実施してきた。30年近く硫黄島で行なってきて、特に深刻な問題は起きていない。訓練地が近い方が燃料の節約になり、パイロットの疲労が少なくても、平均年2回、1回の訓練期間が10日ほどの空母艦載機の夜間離着陸訓練のために、岸田政権は3000億円以上の税金を使って馬毛島に基地を整備するのだ。

岸田首相は、アメリカの要求で2月5日に欧州への液化天然ガス融通を決定。15日に武器購入の用途でウクライナへ1億ドル規模の借款も発表。アメリカの要求を受け入れるだけで、交渉能力がないことが明らかだ。

しかも、馬毛島はまだ完全に買収されてはいない。昨年5月27日に立石勲は死去したが、会社の所有権を巡り遺族の間で訴訟になっている。このため、すでに支払われた60億円以外の金の行方については、政府や防衛省は明らかにしようとしないのだ。
公訴時効が5年の収賄罪の時効まで親族間で訴訟を続けさせ、それを口実に160億円の税金の行方について隠し通すのではないか。なぜなら、今までの経緯から見ても、政治家に金が流れた可能性が疑われるからだ。

安全保障や在日米軍との協力を名分にして、防衛費が浪費されており、国民の血税が政治家に流れている可能性があるといえよう。
(文中・敬称略)

(「紙の爆弾」2022年4月号より)

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青山みつお 青山みつお

海外メディア勤務を経て、フリーライターとして活躍中。

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