【特集】砂川闘争の過去と現在

砂川最高裁判決の黒い霧に挑む国賠訴訟(中)

吉田敏浩

・日米両政府と米軍の望みどおりの最高裁判決

砂川裁判の最高裁での判決は1959年12月16日に言い渡された。「伊達判決」を破棄し、東京地裁に差し戻す逆転判決だった。裁判官15人の全員一致で「駐留米軍は違憲ではない」との判断が下された。新聞各紙の夕刊一面には、「駐留米軍、違憲でない」「最高裁、全員一致で判決」「安保条約審査は不適当」などの見出しが躍った。田中耕太郎長官の見通しどおりの判決だった。判決の主旨は以下のとおりだ。

憲法9条は主権国家の固有の自衛権までは否定していない。自衛の措置として他国と安全保障条約を結ぶことも許される。憲法9条が禁じた戦力とは、日本国に指揮管理権がある戦力を意味する。その指揮管理権は日本に駐留する外国軍隊には及ばない。したがって駐留米軍は憲法9条が禁じた戦力には該当しない。

日米安保条約は高度の政治性を有し、違憲か合憲かは条約の締結権を持つ内閣と承認権を持つ国会の判断に従うべきだ。一見極めて明白に違憲無効と認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外である。そして、米軍の駐留は憲法の前文や9条などに適合こそすれ、一見極めて明白に違憲無効とは認められない。米軍の駐留を違憲とした東京地裁の判決は、司法審査権の範囲を逸脱し誤っている。したがって、それを前提に刑特法を違憲無効としたのも誤りであり、破棄する。

それは、検察側すなわち日本政府の主張にそった内容だった。「駐留米軍は憲法9条が禁じた戦力」には該当しないので違憲ではなく、「米軍の駐留は憲法の前文や9条などに適合こそすれ、一見極めて明白に違憲無効と認められない」ので、結果的に合憲とされた。日米両政府と米軍の望みどおりの判決だった。

マッカーサー大使は翌12月17日、アメリカの国務長官への「極秘」電報で、「最高裁大法廷判決が全員一致で判決を下したことは、多くが田中最高裁長官の手腕と政治的資質による」(同前)と、田中長官を絶賛した。

大使はこの報告を書きながら、「伊達判決」をくつがえすべく藤山愛一郎外相や田中長官と密談を重ね、外務省当局者や自民党幹事長とも連絡を取り合った、政治的工作の成果を味わったことだろう。それは日米合作の、一種の共謀の成果ともいえる。大使は後に、最高裁判決は「日本における米軍駐留の合憲性を確定した」(60年10月4日、大使館発国務省宛て「極秘」書簡)と目的達成を報告した(同前)。

こうして安保改定の障害ともなっていた「伊達判決」はくつがえされ、60年1月19日、ワシントンで新安保条約が調印された。マッカーサー大使は61年3月、駐ベルギー大使へと転じ、田中長官は60年10月まで最高裁長官を務めた後、国際司法裁判所判事に就任した。田中長官は60年8月にワシントンの国務省を訪ねており、当時のパーソンズ国務次官補に、国際司法裁判所判事への立候補を表明して、「田中の立候補にあらゆる考慮を払う」(同前)と約束されていた。アメリカ政府が田中長官をいかに高く評価していたかがわかる。

東京地裁での、伊達秋雄裁判長らとは別の裁判官らによる差し戻し審は、61年3月27日、検察側の言い分を認め、「駐留米軍は違憲ではない」との最高裁判決を支持し、7人の被告に罰金2000円の有罪判決を下した。その後、62年2月15日、東京高裁は被告らの控訴を棄却。63年12月25日には、最高裁が被告らの上告を棄却、有罪が確定した。

・秘密電報の発見から再審請求へ

砂川最高裁判決後、ほぼ49年間、その背後に隠されたマッカーサー大使らの政治的工作、大使らと田中長官の密談を通じた裁判情報漏洩の事実は、当事者以外知る由もなかった。しかし2008年4月、前出の新原氏がアメリカ国立公文書館で一連の秘密電報を発見したことから、この歴史の闇に新たな光が当てられた。

砂川事件元被告の土屋源太郎氏は、秘密電報発見の報道に接したときの気持ちをこう語る。

検察がいきなり最高裁に跳躍上告をしたことは、予想外でしたが、何かおかしい、何か裏があると、直観的に思っていました。だから、マッカーサー大使の動きを知ったとき、やはりアメリカからの裏工作があったのかと合点がいくと同時に、これほどまでに露骨な干渉をしていたのかと驚きました。憲法が保障する三権分立が侵害されていたわけで、怒りがわきあがり、このままにしてはおけない、真相を徹底的に明らかにしなければならないと決意したのです。

 

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吉田敏浩 吉田敏浩

1957年生まれ。ジャーナリスト。著書に『「日米合同委員会」の研究』『追跡!謎の日米合同委員会』『横田空域』『密約・日米地位協定と米兵犯罪』『日米戦争同盟』『日米安保と砂川判決の黒い霧』など。

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