【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第17回 アゾフスタル製鉄所の攻防戦 「全員、玉砕せよ」とゼレンスキーが命令

寺島隆吉

それよりも、ここで指摘しておきたいのは、元財務次官ロバーツ博士が、上記の論考を次のように締めくくっていることです(太字は寺島)。

 

こうして、プーチンによる撤退命令によって、キエフ側の挑発行為を迅速かつ決定的な行動
で終わらせるチャンスは失われてしまった。

次の挑発は、フィンランドのNATO加盟か、中央アジアでのカラー革命の再挑戦か、それともプーチン、ラブロフ、ショイグが欠席裁判で有罪になる戦争犯罪法廷か。

そんな中、クレムリンはNATO所属の敵国の経済を維持するために、ガスの輸出を続けているのだ。

 

以前からロバーツ博士は、EUやアメリカがロシアに経済制裁を仕掛けているのだから、そのお返しに「EUに対するガスの輸出をやめろ」 「そのほうがロシア軍による軍事行動よりも効果的かも知れない」と強く言い続けています。

だからこそ、 「クレムリンは学ぶことがないのか、相変わらずロシアはガスの輸出を続けている」というロバーツ博士の嘆きの声になっているのです。

それが、 「キエフの次の挑発は、フィンランドのNATO加盟か」 「それともプーチンが欠席裁判で有罪になる戦争犯罪法廷か」というロバーツ博士の警告で、この論考が終わっている所以です。

なぜなら、 「プーチンによる撤退命令によって、キエフ側の挑発行為を迅速かつ決定的な行動で終わらせるチャンスは失われてしまった」 、プーチンが「迅速かつ決定的な行動」を取らない限りキエフ側の挑発行為は終わらない、というのがロバーツ博士の主張だったからです。

アメリカの元財務次官から、このような助言・批判が出されていることそのものが、私にとっては極めて興味深いことです。

が、この助言・批判はプーチンの耳に届いたのでしょうか。というのは、ロシア軍は次のような宣言、すなわち「降伏の呼びかけ」を、製鉄所に立てこもるウクライナ軍に突きつけたからです。

捕虜になった英国人傭兵が語った、マリウポリ市の現実 http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-883.html

 

Russia offers besieged Ukrainian troops chance to surrender(ロシアは包囲されたウクライナ軍に降伏の機会を提供)
https://www.rt.com/russia/554005-russia-mariupol-surrender-terms/  16 Apr, 2022

さて、この記事の冒頭は次のように始まっていました(和訳および太字は寺島)。

 

ロシア国防省は、海岸沿いの都市マリウポリの製鉄所を包囲している残りのウクライナ軍に対し武器を置くよう呼びかけ、彼らが提案を受け入れて日曜日(17日)の朝にすべての敵対行為を停止するなら命の安全は保証すると提案した。

すなわち、ロシア国防省は土曜日(16日)の深夜に次のように発表した。

アゾフスタル製鉄所の壊滅的な状況を考慮し、純粋に人道的な原則に導かれ、ロシア軍は民族主義的過激派アゾフ大隊と外国の傭兵にたいし、モスクワ時間で2022年4月17日の午前6時から敵対行為を停止し武器を置くことを提案する」 「武器を置く者はすべて命は保証される」。

モスクワは土曜日にウクライナの犠牲者数の推定を明らかにした。マリウポリ市だけで4,000人以上の戦闘員が命を失った。これには悪名高いアゾフ大隊やアイダー連隊に属している「外国人傭兵」 や 「ナチス信奉者」も含まれていると主張している。

このロシア国防省発表で、 「アゾフスタル製鉄所の壊滅的な状況を考慮し」とあるのは、
同記事による次のような記述を指しています。

ロシア軍は停戦提案の中で、 土曜日(16日)だけで数百の無線を傍受した内容を引用して、残
存部隊が 「事実上、 食料も水もない絶望的な状況」にあると述べている。

立てこもっている戦闘員たちは、 「キエフの当局から武器を置いて降伏する許可を執拗に要求している」が、ウクライナ当局は「降伏したものは即時処刑すると脅し、断固として降伏を禁じている」と、モスクワは主張している。

 

上記の記事では、残存部隊が「事実上、 食料も水もない絶望的な状況」にあると述べていますが、このような状況にあることは、すでに投降して捕虜になったイギリス人「傭兵」エイデン・アスリン(Aiden Aslin)の陳述からも明らかです。

British captive who fought in Mariupol describes ‘reality’(マリウポリで傭兵として戦ったイギリス人捕虜は「実態」 を語った)

https://www.rt.com/russia/553933-british-captive-mariupol-ukraine-reality/ 15 Apr, 2022,14:26

 

マリウポリ市における数週間の激しい戦闘の間に、この英国人傭兵アスリンが見たものは、ウクライナ軍に対する彼の見方にも影響を与えました。 「初めて現実を見たようだった」と彼は語っています。

 

マリウポリの状況は壊滅的だ。この事態はウクライナ軍が撤退していれば避けられたはずだが、彼らは留まって徹底抗戦することを選んだ。

ゼレンスキーは(この決断に)大きな責任がある。彼は軍に撤収を命令することができたからだ。しかしウクライナ軍は留まった。

私はこんなことは望んでいなかった。私はこの街から出て行きたかった。なぜなら、ここで
戦うことは無用な犠牲を増やすだけだからだ。

 

また彼はさらに、 「ウクライナ軍の”民間人に対する配慮のなさ” を目の当たりにした」と付け加えています。市内におけるウクライナ軍の蛮行を次のように述べています。

 

包囲された都市で市民が生き延びるための食糧が必要になったときに、 彼ら(ウクライナ軍)
はスーパーマーケットから食糧を略奪するんだ。

彼らは市民が水を手に入れるのを止めさせたし、略奪されたスーパーマーケットから水を手
に入れるのも禁じた。水は自分たちが飲んでしまうんだ。

 

私が日本の大手メディアでロシア軍の蛮行として紹介されたのは、実はウクライナ軍の行為だったことが、この記事で初めて分かりました。

大手メディアは、 「ロシア軍は兵士に食料や水すら与えていないんでしょうかね」と、ニ ュースの解説者は述べていました。しかし、 包囲される側が水や食料に事欠くことはあっても、包囲する側のロシア軍がそんな事態になるはずはないのです。

日本の報道陣は、こんな常識的判断すらできないようです。アジア太平洋戦争のときも、米軍に包囲されて南洋諸島で死んだ日本軍の多くは、 銃撃戦による戦死よりも餓死や病死が多かったのです。

上記の英国人傭兵アイデン・アスリン氏は、2018年にウクライナ軍に入隊したとき、自分は「良い側」にいると信じていたそうです。しかし、マリウポリの状況が彼にとって「目から鱗」だったと説明していました。

同じことは、 「正義と民主主義のために戦う」と意気込んでウクライナ行きを志願したが、脱走してきたアメリカの退役軍人ヘンリー・ホフト(Henry Hoeft)についても言えます。次の記事は、ホフト氏が生々しい体験をThe Grayzone 誌に語ったものです。

*US veteran who volunteered to fight for Ukraine describes ‘suicide mission’(アメリカの退役軍人がウクライナで戦った「自殺的使命」を語った)
https://thegrayzone.com/2022/03/30/us-veteran-fight-ukraine-suicide-mission/ March 30, 2022

この記事で、ホフト氏は、 「食料も水もない絶望的な状況」どころか、 「傭兵にはまともな武器も与えられなかった」と述べていました。

そしてウクライナ人の正規兵はほとんど前線に送られることはなく、 「前線に送られたのはほとんど傭兵ばかりだった」という驚くべき実態も語っていました。

またロシア兵は市民に被害が及ばないように戦闘活動をしていたが、ウクライナ兵には、ほとんどそのような配慮はまったく見られなかったとも語っているのです。

つまり市民を「人間の盾」として使い、ロシア軍の攻撃に際しては、市民の後ろに身を隠し、撃たれたのは市民ばかりということもあったと推測されます。かつてアジア太平洋戦争のとき、フィリピンのマニラ市内に立てこもった日本軍も、同じ戦術を使いました。

つまり、この戦争の被害者は、ロシア兵だけでなく、 「人間の盾」にさせられたウクライナ人自身でもあったのです。これはウクライナをアメリカの覇権を維持するための道具として使うという戦術の、必然的な結果とも言えます。

アメリカがウクライナをロシア政府打倒の道具として使ってきたことは明らかな事実ですが、それを遂にNATOも認めるようになりました。そのことを暴露したのが、次の記事です。

この記事によれば、 「ウクライナ人が死に続ける」ことを望んでいることを、NATOも認めたというのです。彼らが望んでいるのは平和ではないのです。それは「ロシアに血を流させ」「ロシアを崩壊させる」ためだというのです。

NATO Admits It Wants ‘Ukrainians to Keep Dying’ to Bleed Russia, Not Peace(NATOは認めている。 「ウクライナ人が死に続ける」ことを。それはロシアに血を流させるためで、平和なんか望んでいない )。
https://www.globalresearch.ca/nato-admits-wants-ukrainians-keep-dying-bleed-russia-not-peace/5777411 By Ben Norton, April 13, 2022

この論考の副題は次のようになっていました。

NATO sees Ukrainians as mere cannon fodder in its imperial proxy war on Russia.

つまり「NATOはウクライナ人を単なる砲弾の餌食と見ている。ロシアとの帝国的代理戦争で使うための砲弾の餌食だ」というのです。

かつてソ連が存在していたとき、アメリカはソ連軍をアフガニスタンにおびき出して、イスラム原理主義勢力と戦わせるという戦術を使いました。

ときのアフガニスタン政府は、 「女性も無料で大学に行かせる」という、開明的かつ社会主義的政策をとったので、アメリカはイスラム原理主義者の勢力を使ってクーデターを企てましたが、それに恐怖したアフガン政府はソ連に援助を求めました。

援助を求められたソ連政府は、最初は躊躇したのですが、最終的には断り切れず、結局10年近くもの間、アフガンの泥沼に引きずり込まれることになりました。これがソ連崩壊の一因になったと言われています。

この詳しい経過については、次のブログで書きましたので、詳細はそれを御覧ください。

*ジョン・ピルジャー「タリバンを育てたアメリカ」1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html(『百々峰だより』2016/09/30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html(『百々峰だより』2016/09/30)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-273.html(『百々峰だより』2016/10/03)

それはともかく、私がここで言いたかったのは、アメリカとNATOは、ソ連に使ったのと同じ戦術を、新生ロシアにも使おうとしているのではないかということです。そのためにウクライナ国民がどれだけ死のうが、彼らには知ったことではないのです。

次の記事にある通り、ゼレンスキーは「ウクライナは10年、ロシアと戦うことができる」と豪語していますが、確かに世界中から傭兵と資金を集めれば、そしてEUとアメリカの支援があれば、それは可能かも知れません。

Ukraine can fight Russia ‘for 10 years’ – Zelensky(ウクライナは 「10年」戦うことができる-ゼレンスキー)
https://www.rt.com/russia/554027-zelensky-russia-fight-ten-years/ 17 Apr, 2022

しかし、それで犠牲になるウクライナ国民はたまったものではありません。

既にウクライナでは、 反対勢力は政治活動を一切禁止され、現政権に異を唱える新聞も放送局も一掃されていますから、国民は真実を知ることができませんし、知ったとしても、それを表現する手段をもちません。

まるで、かつてのヒトラー・ナチスが支配したドイツの全体主義国家と同じです。

しかし、このことを伝える欧米メディアは皆無に近いのです。この状況は日本も同じです。ワクチン批判で左翼・リベラルがほとんど死滅したと同じ状況が、ウクライナ危機でも現れているわけです。

そこで、ゼレンスキーはユダヤ人だから、 「ネオナチが政治や軍事を握るということはあり得ない」 「それはロシアによる宣伝だ」という声が必ず出てきます。

しかしユダヤ人大統領のもとでナチスばりの全体主義国家が出現しているという事態は、本当に信じがたいことですが、これが現実です。かつて、 「ユダヤ人を抹殺したアウシュビッツ収容所で、自分の同胞の抹殺に協力したユダヤ人がいた」ことを知れば、 「それもあり」なんでしょう。

この「ゼレンスキーとは誰か」については、日を改めて詳述するつもりです。

また「化学兵器 ・ 生物兵器」を使った偽旗作戦についても、 書きたいことは多々あります。
ですが、いま時計をみたら18時03分です。

早朝から朝食 ・昼食抜きで書き始めたので、もうここで打ち切らないと私の命・健康も危なくなります。連れ合いの怒りも階上から落ちてきます。では、また明日。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体2—ゼレンスキーの闇を撃つ—』の第2章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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