【特集】砂川闘争の過去と現在

砂川事件裁判国家賠償訴訟の概要と意義(2022年4月3日現在) 

武内更一

・砂川事件裁判(「日米安保約3条に基く行政協定に伴う刑事特別法」2条違反)の経過

1957年 7月 8日 砂川事件
1957年10月 2日 起訴
1959年 3月30日 一審東京地裁(伊達秋雄裁判長)無罪判決【伊達判決】
1959年12日16日 上告審最高裁大法廷判決(田中耕太郎裁判長)原審破棄・差戻
1961年 3月27日 差戻し第1審東京地裁判決「有罪・罰金2,000円」
1962年 2月15日 差戻し第2審東京高裁「被告人らの控訴棄却」
1963年12月25日 差戻し上告審最高裁「上告棄却」
1964年 1月 5日 有罪判決確定

・米国国立公文書館での機密文書(田中裁判長とマッカーサー米大使が密談)の発見

2008年から13年にかけて、米国国立公文書館に機密指定のうえ保管されていた文書の中から、1959年当時の最高裁判所長官で砂川事件上告審の裁判長を務めた田中耕太郎氏と駐日米国大使マッカーサー二世がプライベートに面談し、田中氏からマッカーサー大使に同事件の審理の見通しや進め方が伝えられていたことを示す公文書が、相次いで発見されました。

刑事事件の裁判の審理中に裁判長が事件の被害者に裁判外で会って裁判の見通しや進め方を伝えるということは、それ自体、裁判の公平性に重大な疑念を生じさせる行為であって、裁判官としての職務上の義務にも違反し、絶対にあってはならないことです。

・砂川事件上告審は「公平な裁判所」(憲法第37条第1項)ではなかった

憲法第37条第1項は、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定しています。裁判所が「公平」でなければならないことは、憲法の定めが無くても当たりまえですが、ここでいう「公平な裁判所」とは、最高裁判所の判例も、「偏った裁判をするおそれのない裁判所」を意味すると述べています。また、裁判所の公平性を制度的に保障する仕組みとして、刑事訴訟法第21条1項は、裁判官が「不公平な裁判をするおそれがあるとき」は、検察官又は被告人は、これを忌避することができると規定しています。

もし、上記事実が砂川事件上告審の裁判中に明らかになっていたら、田中氏は直ちに忌避を申し立てられ、当該裁判から排除されたでしょうし、さらに、裁判官弾劾裁判にかけられて裁判官の身分を失っていた可能性も高かったでしょう。いずれにしても、田中裁判長は、確実に砂川事件裁判から排除されたことでしょう。

砂川事件上告審は、関与してはいけない裁判官が、それも裁判長として関与して行われた裁判であって、憲法違反の手続きによる裁判であったと言えます。

・再審請求とそれに対する棄却決定

そこで、このことを知った元被告人の土屋源太郎氏、椎野徳蔵氏、武藤軍一郎氏及び故坂田茂氏の子である坂田和子氏の4名は、2014年6月17日、東京地裁に砂川事件上告審は憲法第37条1項に違反する無効な裁判手続による裁判であったとして、裁判手続自体を打ち切る「免訴」の判決をすべきであったという再審請求を行いましたが、一審東京地裁は再審請求を棄却し、二審の東京高裁も刑事訴訟法上、このような理由による免訴を求める規定が存在しないとして控訴を棄却し、18年7月18日、最高裁は土屋氏らの特別抗告を棄却しました。

・本件国家賠償等請求訴訟の提起

これにより、刑事訴訟法上の続きでは、本件最高裁判決の誤りを正す手段は失われたため、土屋氏、椎野氏、坂田氏は、田中耕太郎裁判長(当時)により、憲法第37条1項が刑事被告人に保障している「公平な裁判所」の裁判を受ける権利を侵害されたとして、19年3月19日、国を被告として「国家賠償等請求訴訟」を提起しました。
原  告  土屋源太郎、椎野徳蔵、坂田和子(故坂田茂の子)
事件番号  平成31年(ワ)第6848号
担 当 部  東京地方裁判所民事第5部合議B係
担当裁判官 裁判長大嶋洋志,陪席裁判官齊藤学,同上村江里子
原告の請求
1.各10万円の慰藉料請求(公平な裁判所の裁判を受ける権利の侵害による慰藉料)
2.各2,000円の不当利得返還請求(砂川事件裁判の結果徴収された罰金)
3.読売新聞全国版に謝罪広告の掲載請求(違憲の裁判で毀損された名誉の回復)

・本件訴訟の争点

本件裁判の争点としては、以下の点で論争が闘わされています。
①本件公文書がマッカーサー大使作成による文書か否か
②その内容が「公平な裁判所」でないことを示すか否か
③消滅時効(損害を知ったときから3年)が成立しているか否か
④除斥期間(田中氏の不法行為から20年経過による請求権消滅)が適用されるか

・訴訟の審理経過

裁判は、下記のように、2019年6月12日に第1回口頭弁論が行われ、2022年3月7日の口頭弁論で第7回となり、さらに審理が続いています。

第1回口頭弁論 2019年6月12日(水)午後2時~3時(東京地裁103号法廷)
訴状の口頭陳述
武内更一弁護士:本件訴訟至る経緯、請求内容、法的根拠
細川 潔弁護士:田中裁判長の所業と公平な裁判所の裁判の意義
山田智明弁護士:除斥期間と消滅時効が適用されない理由
原告意見陳述
坂田原告:砂川事件裁判の結果、坂田茂及び原告が被った被害及び怒り
土屋原告:砂川裁判当時の政治情勢、伊達判決の意義、汚染されていた最高裁
裁判の公平への国民の信頼の裏切り・怒り

第2回口頭弁論 2019年10月2日(水)午後2時~3時

第3回口頭弁論 2020年2月12日(水)午後2時~3時
原告「調査嘱託申立書」(裁判所から米国公文書館に対する「調査嘱託」申立て)
調査事項
1.添付の文書の原本は、現在、貴館に保管されているか。なお、仮に、現在は保管されていないとの回答の場合は、過去において原本が保管されていた事実があるか否か回答されたい。
2.添付の文書の原本が貴館に移管された日を回答されたい。
3.添付の文書の原本の移管元のアメリカ合衆国の政府機関はアメリカ合衆国国務省か否かを回答されたい。移管元が別の政府機関である場合は、当該政府機関の名称及び国務省に由来するものであるか否かを回答されたい。
4.添付の文書について貴館における一般への情報開示が制限されていた期間がある場合は当該期間を回答されたい。
* 米国立公文書館に対する「調査嘱託」の流れ
東京地裁→最高裁→外務省→米大使館→米国務省→州地裁→米公文書館
第4回口頭弁論 2021年3月29日(月)午前11時~12時
調査嘱託採用決定(1/9付)

第5回口頭弁論 2021年6月30日(水)午後2時~3時
原告準備書面(8) 伊達判決後から大法廷判決までの米日政府とマ大使とのやり取り及び田中最高裁長官・大法廷裁判長の言動、マ大使の賛辞

第6回口頭弁論 2021年11月1日(月)午後2時~3時
原告準備書面(11) 外務省アメリカ局安全保障課長作成の「日米相互協力及び安全保障条約交渉経緯」(甲23)に基づき、大法廷判決の政治的背景を主張。

第7回口頭弁論 2022年3月7日(月)午後2時~3時
原告準備書面(12) 本件公文書の写しを米国立公文書館から入手した新原昭治氏、末浪靖司氏、布川玲子氏の各陳述書に基づき、その入手経過及び本件公文書の真正性を主張、立証。
土屋源太郎の原告本人意見陳述(砂川事件及び伊達判決から大法廷判決までの経過)
*今後の進行予定
第8回口頭弁論 2022年6月27日(月)午後2時~ 東京地裁103号法廷

・本件訴訟の意義

砂川事件上告審判決(最高裁大法廷判決)の違憲性を明らかにして事実上無効化し、
① 土屋氏ら砂川事件元被告の権利・名誉を回復すること。
② 一審「伊達判決」(駐日米軍は憲法9条違反。全員無罪)を復権させること。
③ 最高裁大法廷判決の「統治行為論」を無効化すること。
④ 違憲法令審査権を再構築すること。
⑤ 司法の独立を回復すること。

武内更一 武内更一

東京外環道大深度地下使用認可無効確認等訴訟の原告住民ら代理人、砂川裁判国家賠償訴訟原告ら代理人等を務める。

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