【特集】終わらない占領との決別

監修者まえがき

木村朗ISF編集長

日本は今年(2022年)、日中国交回復と沖縄の日本復帰から50周年という節目の年を迎えました。アジア太平洋戦争での日本の敗戦と米軍による占領開始から77年目となります。日本は1951年9月8日にサンフランシスコ講和条約に調印して形式的な「独立」を達成しました。

しかし、今日まで依然として完全な主権は回復されておらず、「半独立国家」という状態に置かれ続けていると言わざるを得ません。なぜなら、このサンフランシスコ講和条約調印と日本の国際社会への復帰と引き換えに、米国の強い外圧によって不平等な日米安全保障条約が結ばれ(両条約の正式発効は、1952年4月28日)、その結果、「占領軍」から「駐留軍」と名前を変えた「米軍」が今もなお特権的な地位を持ったまま日本の領土に存在し続けているからです。

こうしたある意味で異常な「終わらない占領」という状況を目に見えるかたちで示しているのが、72年5月の日本復帰後もいまもなお日本全体のわずか0.6%の面積ながら米軍専用施設面積の約70%が集中している沖縄の現状です。

この「構造的沖縄差別」(故新崎盛暉氏の言葉)とも言うべきあまりにも理不尽かつ不条理な状況は、覇権国家・米国と日本(本土)による「二重の植民地支配」の継続の反映に他なりません。その背景には、日本は米国の「属国」であり、沖縄は日本の「国内植民地」であるという不都合な真実が隠されています。

現在は覇権国家・米国の衰退と新興国家・中国の台頭という世界秩序の転換期にあることは間違いありません。そうした状況下において、米中対決がますますエスカレートして米中戦争の勃発につながるという悪夢が現実化する可能性を否定することはできません。

安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事で日米同盟の有事でもある」であるとの唐突な発言(2021年12月1日のオンラインでの講演)は、到底首肯できないものとはいえ、中国敵視を前提とする日米軍事一体化が近年急速に進む中で、米中あるいは日中2か国間で何らかの形で軍事衝突が発生して戦争勃発につながる可能性を示唆しています。

もしそのような事態になれば、日本、とりわけ沖縄を中心とする南西諸島(与那国、石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島、馬毛島・種子島など)が再び戦場とされ多くの犠牲を強いられることになります。

こうした戦争前夜ともいうべき危機的状況を打開し、中国敵視で固まる日本本土のメディア状況と世論を変えるために私たちはいま何ができるでしょうか。

本書の発刊と、それとほぼ時を同じくして4月1日に私が編集長となって創設される予定の「ISF(Independent Speech Forum):独立言論フォーラム」(HP開設時のURL:https://isfweb.org)はその回答の一端です。また、1月3日から先行するかたちで始まっているFMぎのわんラジオ局の新番組「沖縄平和トーキングラジオ~南から風を~」(パーソナリティ:木村朗、宮城恵美子、与那覇恵子)もそれと連動した挑戦・試みです。まさに私たちはいま戦争か平和かの決定的岐路に立たされているのであり、これからがまさに正念場だと思います。

本書は、敗戦から今日にいたるまでの日米関係の在り方に根本的な疑義を投げかけてきた、12人の論者によって執筆されています。思想・信条や立場はさまざまであるものの、「外国軍の駐留(占領)が75年以上も続くと国家いうのは、はたして独立主権国家と言えるのであろうか」「いまこそ戦後のいびつな日米関係史の背後に隠されてきた真実を明らかにして、米国への〝自発的従属〟、米軍による〝終わらない占領〟と決別をするときである」という歴史(・現状)認識を共有する論者です。

本書が一人でも多くの方々に読まれて、日本が対米自立を実現して真の独立主権国家となるためには何が必要なのか、日本が戦争の当事国となって沖縄などが再び戦場にならないためにはどうすればよいのか、などを考える一助となれば、執筆者一同にとって望外の幸せです。

2022年1月19日
日米相互協力及び安全保障条約(新安保条約)が発効された日に
編者 木村 朗

 

木村朗ISF編集長 木村朗ISF編集長

独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。

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