【〝安倍背後霊〞退治なるか 山口ダブル補選を追う】旧統一教会称賛スピーチを披露した入沢豊・所沢市議

横田一

「アベ政治の検証」という政治課題

ジャーナリストとしても統一教会問題を追ってきた有田芳生・前参院議員が3月15日、安倍晋三元首相の死去に伴う衆院山口4区補選(4月23日投開票)への出馬会見を山口県下関市で開いた。立憲民主党の公認候補で、京都市出身の有田氏は昨年まで参院議員を2期務めた。

補選には安倍後援会が推す自民党公認の吉田真次・前下関市議らも出馬を表明している。

会見冒頭で有田氏は出馬の理由として、「安倍元首相がいなくなった議席を争う選挙で野党候補の不在は絶対に避けなければいけない。野党は戦わないといけない」と語った。

加えて、2月に出版された『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)を機に「戦後最長の安倍政権の検証をしないといけないと思った」ことも挙げた。

続いて、統一教会・アベノミクス・拉致問題が3大争点になるとも説明。

「地下鉄サリン事件が起きて以降、統一教会はノーマークになってしまった。この空白の30年間で統一教会は政治家にさらに接近、地方議会にも進出していった。山口県にも統一教会票をもらって当選した議員がいる。“統一教会汚染”を徹底的になくすきっかけにしたい」

アベノミクスについては、「10年経てば、国民の年間所得は150万円上がる」という2013年の安倍元首相発言を紹介したうえで、「10年経っても年間所得が上がるどころか、平均賃金は下がった」と反論した。さらに3番目の北朝鮮の拉致問題も、成果が皆無に等しいと指摘。これについても検証の必要性を訴えた。

質疑応答に入ったところで私は、小西洋之参院議員(立民)の追及で急浮上した放送法解釈変更問題を受けて、3大争点の統一教会問題の中に安倍政権時代のメデイア統制が含まれるのかについて聞くと、有田氏はこう答えた。

「1995年に地下鉄サリン事件が起き、オウム事件が裁判に移行した段階で、全国の公安警察のトップに統一教会問題についてレクチャーをした。その時に最高幹部は私に『有田さん、オウム真理教の問題はほぼ決着がついた。次は統一教会なのだ。準備が始まっている』と言った。しかし、ほとんど何も動きがなかった。10年経って警視庁の幹部に『何もなかったですね』と聞いたところ、『政治の力』と言われた。そのことを去年の7月18日、テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』で話した。それからテレ朝には呼ばれなくなった。ほかの番組でも『“政治の力”は言わないで』と言われた。『自分でそう言っているのか』と聞くと、『テレビ局の上の方から言われた』と答えた。その局以外にも、特定の政治家と統一教会の深い関係について報道すると、その政治家が政治部の記者を使って番組に圧力をかけてきた。今でもこんなことが起きている。具体的なリアルなことも機会があれば、伝えていきたいと思っている」

出馬会見で有田氏が「安倍政権(政治)の検証」を掲げたのを受けて、放送法解釈変更などメディアの問題について質問をしたのはほかでもない。「モーニングショー」の事例は氷山の一角にすぎず、第2次安倍政権下におけるメディアへの締付けによって報道機関全体が萎縮、政権批判を控えるようになったと見ていたからだ。

安倍派・高市大臣を切れない岸田首相

小西議員が入手した総務省内部文書で火がついた放送法解釈変更問題で、追及を受けているのが安倍派の高市早苗・経済安保担当大臣だ。

日本会議主催の集会で高市氏は、安倍元首相が反対を押し切って成立させた特定秘密保護法と、自らが進める“産業版特定秘密保護法”(セキュリティ・クリアランス=SC制度創設)を重ね合わせ、その必要性を訴えた。慎重な岸田文雄首相を説得しているとも言い、集会参加者に世論喚起を呼びかけてもいたのだ。

特定秘密保護法も、安保法制や共謀罪と同様、「戦争ができる国作り」を目指していた安倍政権が産み落とした“戦争法”のひとつだが、その路線を引き継ぐ高市大臣が安倍元首相のやり残した課題を、岩盤タカ派支持層の後押しを受けながら進めようとしていたともいえる。

すると、弱小派閥出身の岸田首相は、最大派閥・安倍派のイエスマンであり続けることが宿命の“安倍背後霊内閣”であるためか、高市大臣の要請を受け入れてSC制度の議論が始まった。

今回の放送法解釈変更問題でも、同じ党内力学が見てとれる。小西議員らに追及されても岸田首相は、安倍元首相の負の遺産である解釈変更を撤回せず、国会で「捏造ではないなら大臣も議員も辞める」と啖呵を切った高市大臣更迭を即断しようとしない。

「安倍派や日本会議など岩盤支持層の支持を失いかねないことは極力避ける」というのが岸田首相の行動原理なのだ。

私が“安倍背後霊内閣”という異名をつけたのはこのためで、「アベ政治の検証」は、今日的な政治課題であり続けているのである。

しかも3月7日の立民ヒアリングの終了後、“火付け役”の小西議員に「高市さんは、もう辞任必至ですか」と聞くと、「当然、そうでしょう。自分が大臣の時の総務官僚が作った資料を捏造呼ばわりしたのだから」と即答した。と同時に、問題の本質は辞任か否かではないとも強調した。

この日のヒアリングの冒頭説明で小西議員は「これは放送法の破壊」「たった1つの番組だけで時の総務大臣の判断で違法を認定して電波を止めることができるという話」と指摘。「補充的解釈」という礒崎陽輔・元首相補佐官の主張を否定したうえで、こんな警告を発していた。

「この瞬間も、日本の放送に国家権力がいつでも介入できるという恐ろしい解釈が今でも生きている」

そして、こう続けた。

「この解釈変更の主役の1人が高市大臣です。『安倍総理がやろう、ゴーサインが出るのだったら私はやります』と言ったのが高市大臣です」

小西議員が暴露した内部文書は、2015年の高市総務大臣(当時)の国会答弁に至る経過を記載したものであり、安倍元首相の意向に忠実な“実働部隊”として、メディアを萎縮させるのに効果的な放送法解釈変更に動いたことを読み取ることができるのだ。

この頃、毎日新聞の岸井成格氏をはじめ、NHKの国谷裕子氏、テレ朝系「報道ステーション」の古舘伊知郎氏ら、安倍政権に批判的なキャスターが次々と交代。「報ステ」のコメンテーターだった元経産官僚の古賀茂明氏も「I am not ABE」というフリップを掲げて降板となった。批判的なメディアを抑え込もうとした安倍政権の狙いは的中、大本営発表紛いの政府広報的な“報道”で溢れ返り、現在にまで至っているのは間違いないのだ。

放送法問題で他人事のテレビ朝日

3月17日から全国公開されている映画「妖怪の孫」の先行上映会が2月23日に開かれ、終了後、内山雄人監督と企画プロデューサーを務めた古賀氏、東京新聞の望月衣塑子記者が対談。A級戦犯容疑者となりながら首相の座にまで上り詰めた“昭和の妖怪”こと岸信介元首相と、その孫の安倍元首相に斬り込むドキュメンタリー映画の制作秘話や、銃撃事件後も続く“アベ政治”などについて3人が語り合った。

古賀氏は「(安倍政権下で)メデイアが変わってしまった」と、こう振り返った。

「2015年に(「報ステ」の生放送中に)『I am not ABE』を掲げて『安倍さんはトンでもない』と言った。それは正しかった。あの時に一番言いたかったのは、マスコミが変わってしまったこと。今もそのまま(萎縮が)続いてしまっていると思うので、そこに気がついてほしい。日本のマスコミ統制は、たいしたことはない。殺されるわけではない。海外ならみんな殺されたり、牢屋に入れられたりする」

古賀氏は、統一教会問題の報道についても、政治と教団の関係という核心部分に迫らないことを、次のように問題視していた。

「統一教会報道が基本的に被害者の問題になった。『被害者救済の法律を作れ』とか『(救済新法の)そこが甘い』とかに集中してしまって、『自民党とどういう関係だったのか』『どういうふうに政策が歪められたのか』という一番大事なところには行かない。(統一教会とのズブズブの関係が明らかになった)萩生田光一氏はいま政調会長。驚くべきことだが、そういうところは新聞やテレビは触れない」

この上映会から約1週間後の3月2日、小西議員が記者会見で70ページ以上の総務省内部文書を公開して「テレビ局が連日報道するに値する内容」とも強調。翌日の参院予算委で放送法解釈変更について追及を始めた。これを機に萎縮をしてきたメデイアが反転攻勢に出て、安倍政権下で交代した出演者を再登板させる動きが始まるのではないかと思ってテレビ朝日の関係者に聞いてみたが、「古賀さんを復帰させようという動きは今のところはない」という回答だった。

同時に、政権に弱腰な姿勢が変わる兆しはないと、こう断言した。

「総務省内部文書の中でTBSの『サンデーモーニング』と並んでテレ朝の『報道ステーション』も名指しされているのだから、『政権に批判的なメデイアの萎縮を狙った放送法解釈変更』と斬り込む番組を作る絶好のチャンスが来たといえるのに、テレ朝は腰が引けたまま。実際、3月5日の『サンモニ』はこの問題を採り上げ、関口宏キャスターは『我々は我々のこの番組の姿勢をやはり淡々と貫いていかないといけない』とコメントしましたが、同日夜放送のテレ朝『サタデーステーション』はスルーした」

あらためて古賀氏にも聞くと、こんな答えが返ってきた。

「報道番組担当のテレ朝社員と話している時に『本当は古賀さんに出てほしいのですが』と言うので、『出してよ』と頼んだら、『それは絶対に無理です』と断られました」

テレビ番組が自民党と教団の関係などを報じることを控えている今、山口4区補選は統一教会問題の核心部分について論争する絶好の機会なのだ。

各地の選挙で問われる「統一教会と政治」

3月20日には、旧民主党政権で法務大臣を務めた弁護士の平岡秀夫・元衆院議員が山口県岩国市で記者会見を開き、山口2区補選に無所属で出馬する意向を表明した。政党の推薦や支援は求めない一方、市民団体や政治家個人の応援は受けるとも語り、立民の戸倉多香子県議らも同席した。

すでに、安倍元首相の甥で岸信夫前防衛大臣の長男の岸信千世氏が、2月に出馬表明。3月5日には岸田首相が下関市で山口4区の吉田候補の激励をした後、岩国市で信千世氏の応援もしていたが、これに反旗を翻す形で平岡氏は出馬を表明した。「自民党(予定)候補が当選することで、岸田政権が信任されたという間違った認識を持たれては困る」と強調、現政権の国民不在の政策決定プロセスとその中身を批判していった。

特に問題視したのが、軍事偏重の安保政策と、運転期間延長や新設容認の原発推進政策。山口2区は米軍岩国基地を抱え、中国電力の上関原発予定地もあることに平岡氏は触れつつ、次のように訴えた。

「戦争をしないための外交的努力が必要だ。抑止力強化のために岩国基地強化をしていけば、有事の際には同基地と周辺が火の海になる可能性もある。しかし現政権は被害予測をして(結果を住民に)示していない。説明不足だ」

「民主党政権時代に脱原発ロードマップを作り、原発新増設はしない政策を作った。それが上関原発にも当てはまる」

新増設容認などの原発回帰や防衛費倍増などの軍拡路線に邁進する岸田政権と平岡氏の違いが鮮明になる。山口2区補選でも、事実上の野党共闘が成立し、アベ政治を引き継ぐ岸田政権のエネルギー政策と安保政策が一大争点になるのは確実となったのだ。

こうして山口ダブル補選が共に与野党激突の構図となり、全国的な注目を集めることになった。そして有田氏の出馬で統一教会問題が再燃、選択的夫婦別姓などに反対する教団支援議員を落選させようとする「統一地方選版ヤシノミ作戦」が広まる可能性も出てきた。

埼玉県所沢市では、市民団体「所沢市民が手をつなぐ会」が現職市議にアンケート調査を行ない、その結果を3月22日の記者会見で発表した。統一教会との関係に関する設問に未回答だったのは3名。その1人である入沢豊市議(自民党)の過去のツイッター動画(現在は削除)がネット上で話題になった。統一教会問題の発信を続けている壺のメシ屋氏が、入江氏が統一教会を称賛しているスピーチ動画を保存して公開しているからだ。

タイトルは「『神統一世界安着のための神日本第1地区希望前進礼拝』孝情スピーチ」(21年2月7日)で、この動画の中で入沢氏は次のように語っている。

「昨年2月にはワールドサミットに参加をさせていただきました。まるで世界が1つになったような感激に浸りながら、いったい世界平和統一家庭連合とはどういうところなのだろうと。華やかな部分だけではなく、その教えや中身についても知りたいと純粋に思いました。そこで、はじめに真のお母様、ハン・ハクチャ(韓鶴子)総裁の『平和の母』を拝読しました。また昨年の秋以降、統一原理を学ばせていただいております。9月と1月には初級2日セミナーに参加をしました。実は昨日から中級2日セミナーを受講しています。11月にはバウ・リニューアルという祝福式に同席をさせていただきました。祝福結婚をする夫婦が増えれば、世界中のいさかいや不幸の大半がなくなります。そのような奇跡を起こす力があると私は信じます。私も将来、祝福を受けられるように頑張って学んでいきます。皆さん、統一原理、そして祝福結婚を1人でも多くの方に知っていただくため、活動しようではありませんか。ありがとうございました」

この動画について入沢氏に聞くと、「統一教会に頼まれて台本通り読んだだけ。リップサービスでやったが、文鮮明も韓国も嫌いだ」と答えた。ただし、オープンな場で釈明することは否定した。

全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は3月18日の集会で、統一地方選に向けて、すべての政治家に統一教会との関係を断つよう求める声明を採択。各政党や議会に第三者委員会を設置して、教団と議員との接点などについて有権者に情報提供することも要望した。

岸田政権(首相)は自民党地方議員と統一教会との関係調査に消極的で、各地の県連任せであることが国会でも追及されているが、先月号で紹介した「ヤシノミ作戦」がスタートするなど、こうした情報不足状態を解消しようとする動きが広まりつつあるのだ。有権者の賢明な判断が求められる。

だが、5補選の結果は周知の通り、自民党の4勝1敗に終わった。それでも統一地方選では、自民党の重鎮が各地で落選するなど、民意はある程度、発揮されたといえよう。問題は、この夏にもあると囁かれ始めた総選挙である。今度こそ、有権者は統一教会べったり議員と決別する絶好のチャンスでもあるのだ。

(月刊「紙の爆弾」2023年5月号より)

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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