第21回 ロシア軍の行動は国際法違反?
国際前章の内容「ミンスク合意」をブログで書いたところ、研究所(翻訳グ ループ)の一員から次
のような嬉しいメールが届きました。
寺島先生
昨夜と今朝、二度読みました。フランス人女性ジャーナリストの証言には息を飲みました。
多くの人に見てもらいたいと思います。
また、ドンバスでは職業軍人ではなく炭鉱労働者がウクライナ軍と戦ってきたという事実にも驚きました。
さらに、これまで曖昧だった「ミンスク議定書」と「ミンスク2」の違いについてもこのブログで初めて分かりました。
これは個人的なことですが、自分が下訳した記事 (*) が先生のブログに引用されていてとても嬉しく、今後の翻訳作業への大きな励みになりました。
*Why Russia’s Intervention in Ukraine is Legal Under International Law「ロシアのウクライナ介入が国際法上、合法である理由」( 『翻訳NEWS』2022/04/27)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-895.html
なお、 ご存じかもしれませんが、 この英文記事は藤永茂さんのブログ「白ければよいのか?」
( 『私の闇の奥』4/25)にも引用されていましたので、研究所 『翻訳NEWS』に邦訳もあるこ
とをコメント欄に投稿しました。
研究所の一員からのメールとはいえ、自分のブログに対する感想を送ってもらえるのは嬉しいことです。
まして私のブログからどのような「驚きと発見」があったのかが書いてあるのですから、溜まっていた疲れも一気に吹き飛ぶような元気をいただきました。感謝感謝です。
また私の敬愛する物理化学者 ・ 藤永茂先生のブログ『私の闇の奥』のコメント欄に、 「邦訳もあることをコメント欄に投稿しました」とありましたから、嬉しさが倍加しました。
というのは現在96歳の藤永先生が、いまだに健筆をふるっておられるのに、77歳の私が「疲れた」と言ってへたばっているわけにはいかないと思わされたからです。
さて前章では、次の事実を紹介しました。
大手メディアでは、ロシア軍の「特別作戦」を「侵略」と述べ、国際法違反だとする論調が圧倒的なのですが、ロシアの行動は決して国際法違反ではないとする学者がアメリカに堂々と存在するという事実です。
そして、そのことを主張する論考、すなわちピッツバーグ大学法学部で国際法を教えるダニエル・コバリク教授の「冒頭部分」だけを引用・紹介し、次のようにブログを結びました。
「申し訳ありませんが今日はここで失礼させていただきます。いま時計を見たら16時10分です。朝からずっと書き続けてきたので疲れました、私の心と体の健康維持のため、今から散歩に出かけます。どうかお許しください」。
そこで早速、今日はコバリク教授の主張を紹介しようと思ったのですが、 「この記事は藤永茂さんのブログ「白ければよいのか?」(『私の闇の奥』4/25)にも引用されていました」というメールをいただいたので、それを読んでみたところ、藤永先生は次のように書かれていました。
コメント欄で指摘されている国連でのロシア非難決議に関連して、ロシアのウクライナ介入
を合法だとする次のような記事にも遭遇しました。関心があれば、ぜひ読んでください。
Why Russia’s Intervention in Ukraine is Legal Under International Law
https://libya360.wordpress.com/2022/04/23/why-russias-intervention-in-ukraine-is-legal-under-international-law/
要点は、ロシアの今回の動きは自己防衛行為だということです。事態の本質は、一昔前の”キューバ危機” の場合と全く同じです。米国がソ連のすぐそばのトルコに核爆弾を持ち込んだから、その対抗自衛措置として、ソ連はキューバに核爆弾を持ち込むことにしたのです。
この歴史的事実は、今や、明明白白、しかし、当時と現在との決定的な違いは、今の米国にはジョン・エフ・ケネディが居ないことです。いや、たとえ居たにしても、早々と抹殺されてしまったことでしょう。
御覧の通り、ロシア軍の行動については、藤永先生は「関心があれば、ぜひ読んでください」と、ダニエル・コバリク教授の英文論考へのURLを指示しているだけなのです。
確かに藤永先生のおっしゃるとおり、 「要点は、ロシアの今回の動きは自己防衛行為だ」ということです。 「事態の本質は、一昔前の『キューバ危機』の場合と全く同じ」なのです。
が、このように言われても、英語弱者にとっては非常に困ったことでしょう。しかし幸いにも、先に紹介したように、この論考には『翻訳NEWS』に和訳が載っているので、その詳細を知りたい方は、ぜひ参照していただけると有り難いと思います。
と、ここまで書いてきたら、コバリク教授の主張を今回の私の章でこれ以上くわしく説明する必要も、あまりないように思えてきました。
というのは、先述のように、これには和訳もあるわけですし、その要点は「キューバ危機」を例にしながら藤永先生が説明されているとおりだからです。
もし中国やロシアが、アメリカの隣国カナダやメキシコで不安定化工作をしたり、ウクライナと同じような「カラー革命」を仕組んでカナダやメキシコに親露政権を作ったら、アメリカはどんな反応をするか、を考えてみれば分かるはずです。
まして、中国やロシアがカナダやメキシコにミサイル基地を作ったり、ウクライナと同じように、アメリカ資金による生物兵器研究所をカナダやメキシコに30カ所も運営し始めたら、アメリカはどんな反応をするでしょうか。
キューバのように遠く離れたところにミサイル基地をつくっただけで、アメリカは激怒して、あわや核戦争になるかという大騒ぎになりました。中米のニカラグアやエルサルバドル、南米のチリで社会主義政権ができただけで、CIAはクーデターを起こし、 「死の部隊」を編成して
殺戮の限りを尽くしました。
ところが、ウクライナの場合、2014年にクーデター政権を作っただけでなく、このような違法
なクーデターを認めないとする抗議行動を、キエフ政権は徹底的に弾圧し、オデッサでは、抗議集会をしている民衆を労働組合会館に追い込んで放火し、焼き殺しました。
ロシア語話者は「ゴキブリと同じで殺しても平気」という態度だったのです。 殺された人は200人を下らないと言われていますが、その殺し方も眼を覆わんばかりの残虐さでした。この詳細
は次の(1)のように、今や次々と証言者が現れ始めています。
(1)‘An act of genocide’: A witness recalls the 2014 Odessa massacre「オデ ッサで起きたのは 『悲劇』 ではなく 『大虐殺』—目撃者の医師が語る2014年5月2日」( 『翻訳NEWS』2022/06/16)
http://tmmethod.blog.fc2com/blog-entry-945.html
この事件は、キエフ政権もナチスドイツと同じように、ロシア語話者をすべて「民族浄化」するのではないかという恐怖をウクライナ南部の住民にいだかせるものでした。
それを証拠立てるように、キエフ政権は2014年から8年もの間、ドンバス地方を爆撃し続けてきました。その死者は1万3,000~4,000人にも及びました。
この攻撃に耐えかねてドンバス地方の人たちはロシアに助けを求め続けてきましたが、先述のように、この求めにロシアは応えず、この8年間、 実効性のない「ミンスク合意」 「ミンスク合意2」の交渉が繰りかえされてきただけでした。
ですから今回のロシア軍「特別作戦」は、ドンバスの人たちにとっては「侵略」どころか、むしろ「遅すぎた作戦」だったのです。
このように、ロシア軍の「特別作戦」は、何度も言うように、ドンバスの人たちにとっては「侵略」どころか、むしろ「遅すぎた作戦」でした。しかし欧米の世論は、ロシアによるウクライナへの「侵略」を批難する論調一色で塗りつぶされました。
今までは欧米の間違った世論と果敢に闘うことをモットーにしてきたはずのオンライン誌Global Research でさえ、ウクライナ問題の論考を載せる際には必ず、その冒頭に「ロシアの立場は理解するが、ロシアの侵攻は支持しない」といった注釈を付けるようになりました。
それを受けて私の研究所の一員(小山さん=仮名)からも次のようなメールが私のところに届きました。
今日の事態については、グローバルリサーチ社の見解が妥当のように思えます。つまり、ロシアの立場は理解するが、ロシアの侵攻は支持しない。
素人考えですが、ロシアは2州の自治独立を承認したのちに、両自治州の自主投票によるロシア編入を待つべきだったように思います。
そうすれば、ウクライナによる2州への攻撃は止むでしょうし、もしその攻撃が続けば、ロシアは反撃の正当性が主張しやすくなると思います。ただし、その時でも、今日のように、アメリカのプロパガンダによる情報攻撃がおこなわれるでしょうが。
ウクライナ侵攻が、寺島先生が危惧されるように、ロシアにとって第2のアフガニスタンにならなければよいと願います。
小山さんは「ロシアは2州の自治独立を承認したのちに、両自治州の自主投票によるロシア編入を待つべきだった」としているのですが、ここに事実誤認があります。
というのは、ドンバス2カ国は、住民投票による独立宣言をしたあとに、ロシアへの編入を求める自主投票もおこない、どちらも圧倒的多数の賛成を得ていたからです。
ところが既に述べたように、同じ手続きをとったにもかかわらず、クリミアは独立を認められただけでなく、ロシア編入も即座に許可されました。
他方、ドンバス2カ国はロシア編入どころか、独立宣言すらも認められなかったのです。
だからこそキエフ政権は、「分離主義者・テロリスト集団を制裁する」という口実で、2014年以来、8年間にわたってドンバス2カ国を爆撃し続けることができたのでした。
このドンバス2カ国の惨状を知れば知るほど、私はイスラエルによるパレスチナへの攻撃と、その惨状を思い浮かべてしまいます。かつてチョムスキーはパレスチナを「青天井の監獄」と呼んだことがありました。パレスチナは戦闘機をもっていませんから、イスラエルによる空からの爆撃に毎日さらされ続けていたからです。
アメリカにおける内戦「南北戦争」も、 考えようによれば「北軍」による「南軍」=「分離主義者」への懲罰戦争だったわけですが、負けたとはいえ南部の住民が「北軍」から受けた扱いは、ドンバス2カ国の住民が8年間ものあいだ味わった惨状と比べれば、「まだ許せる」と言ってもよいものだったかも知れません。
それはともかく、もしロシアが2014年の時点でドンバス2カ国の要求を受け入れ、ロシアに編入していれば、クリミア自治共和国と同じように、その住民は安全な生活を送ることが出来ただろうと、私は思っています。
なぜなら当時のキエフ政権は、 今と違って欧米や日本の世論から巨大な支持を得ていたわけではありませんから、おそらくロシアと直接に戦闘を交える勇気はなかったはずだと思うからです。
当時のロシアが、なぜそうしなかったのか本当の理由は私には分かりません。が、今となっては、 「時すでに遅し」という感がしないでもありません。なぜならアメリカの情報戦略が功を奏して、ウクライナは欧米諸国から世論の支持だけでなく、財政的・軍事的支援さえ得ることができているからです。
日本もロシアに対する経済制裁を課すだけでなく、無人機(ドローン)までも提供しています。これは偵察だけでなく武器を搭載して攻撃することも可能ですから、そして事実、無人機によるロシア領内への攻撃も最近は多くなりました。だとすると、日本は「敵性国家」として武装攻撃されても仕方がないということになります。
たとえばロシアが今一番恐れているのは、無人機(ドローン)を使ってコレラ菌やコロナウイルスなどの細菌兵器をロシア領内にばら撒かれるという攻撃です。すでに紹介したことですが、ウクライナにはアメリカ資金による生物兵器研究所が30カ所も存在することが分かっています。
(2)Migratory Birds of Mass Destruction「生物兵器にされる渡り鳥」( 『翻訳NEWS』2022/05/02)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-900.html
(3)Despite U.S. Bluff and Bluster, Pentagon’s Bioweapon Threat to Russia and China Is Serious「ロシアと中国に深刻な脅威となっているのは、米国の大言壮語ではなくペンタゴンの生物兵器だ」( 『翻訳NEWS』2022/05/01)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-898.html
ヌーランド国務次官は上院の公聴会でウクライナに生物兵器研究所が存在することを認め、 「ロシア軍が到着する前に研究成果を破棄するよう命じた」と言っていますから、ロシアの心配は単なる杞憂でないことは確かでしょう。ロシアの心配は「細菌をばら撒いてそれをロシア軍のせいにする」という偽旗作戦でしたから。
日本はアジア太平洋戦争で、敗戦が確実になってソ連軍が南下してくることを知ったとき、満州にあった「731部隊」の細菌兵器研究所を慌てて爆破して、退散しました。日本軍が中国南部で細菌をばら撒いた証拠を残したくなかったからです。同じことをアメリカが考えたとしても、決しておかしくないでしょう。
いずれにしても、日本が送った無人機(ドローン)が細菌兵器として使われたということが発覚した場合、どのような報復があり得るのかを、岸田政権は考えてみたことがあるのでしょうか。岸田首相はそのようなことを想像する能力に欠けているのか、世界各地に出かけてロシア包囲網を強化する行脚を続けています。
日本は一種の「原発銀座」の国ですから、 「日本がアメリカやウクライナに加担して軍事行動をとるのであれば、それなりの制裁を加える権利がある」として、ロシアが逆に無人機でどこかの原発を攻撃したとしたら、日本はどう対処するつもりなのでしょうか。福島の原発事故を思い起こせば、岸田政権の言動がもたらす危険性は明々白々です。
しかし、アメリカのプードル犬として行動する岸田首相は、インドでも拒否されてすごすごと帰って来ざるを得ませんでした。実はアジアでもアフリカでも中南米でも、アメリカやNATO諸国のとっている行動を明白に支持する国は、調べてみると意外に少ないことに驚かされます。
アメリカやEU諸国がアジア、アフリカ、中近東、中南米の諸国を植民地化したりクーデターを起こしたり、傭兵や正規軍を使って侵略してきたことを思い起こせば、これは当然とも言える結果です。ですから、孤立しているのはロシアではなく、むしろNATO諸国だと言えるのです。
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授