【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第21回 ロシア軍の行動は国際法違反?

寺島隆吉

次に掲げる「政治地図」を御覧ください。

政治地図 :ロシアの『非友好国』―― 灰色に塗られた国々

 

御覧のとおり、ロシアの「非友好国」は、宏大なユーラシア大陸、アフリカ大陸、中南米大陸の両脇に位置する、 小さな一角に過ぎないことが分かります。 逆に、ロシアと「友好な関係」 、またはロ シアと「中立な関係」を保とうとする国のほうが圧倒的多数派なのです。

私は先に次のように書きました。「当時のロシアが、なぜそうしなかったのか本当の理由は私には分かりませんが、今となっては、 『時すでに遅し』という感がしないでもありません。なぜならアメリカの情報戦略が功を奏して、ウクライナは欧米諸国からの世論の支持だけでなく、 財政的・ 軍事的支援さえ得ることができているからです」。

私が前頁で「今となっては、 『時すでに遅し』という感がしないでもありません」と書いたのは、アメリカの情報戦略が功を奏して、欧米諸国からの世論の支持だけでなく、 「財政的・軍事的支援さえ得ることができているから」ですが、それだけでなく義援金や義勇軍に応じる人も出始めていたからです。

しかし、よく考えてみると事態はそれほど悲観的になる必要もないか、と思い始めました。その根拠の一端は、前頁に紹介した政治地図にあります。これを観ると孤立しているのは、むしろ欧米諸国、NATO諸国とも言えるからです。

日本のメディアを視聴していると、日本は世界の多数派にいるかのような錯覚に陥ってしまいますが、事実は逆なのです。

もうひとつの明るいニュースは、アメリカの情報戦略に踊らされてウクライナ軍に義勇兵として参加したひとたちが、ウクライナの現実に衝撃を受け、ウクライナから脱出する動きが確実に増えているからです。

彼らの証言は、今後「義勇兵」として応募しようと思っている人たちの意欲を確実に削ぐことになるでしょう。次の(4)は、その典型例です。

(4)An American volunteer for Ukraine tells The Grayzone how his foreign legion tried to use him as cannon fodder.「ウクライナのための戦闘に志願したアメリカ人退役軍人が『自殺的任務』について語る」( 『翻訳NEWS』04/23)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-888.html

このアメリカ人志願兵ヘンリー・ホフト(Henry Hoeft)は、オンライン誌The Grayzoneで、ウクライナに到着したとき外国人傭兵部隊「ジョージア軍団」に所属させられた自分の体験を次のように語っています。

「しかし、ウクライナに到着してみると、直面させられたのは気が滅入るような現実だった。寄せ集めの民兵組織が(ロシアという)強力な軍事マシーンとの代理戦争に突っ込まされる。そして約1週間後、自分が死ぬために署名したのだと確信した」

「あいつらは俺たちをキエフに送り込もうとしているが、武器もなきゃ、装備も装甲板もありゃしないんだ。幸運にも武器を手に入れたって、10発入りの弾倉しかありゃしないんだよ」 と、「みんな、ここに来るのはやめてくれ。これはホフトは現場からのソーシャルメディアを使った映像で不満を漏らした。罠だ。ここに来たらあいつらは死んでもあんたらを手放なさないよ」

ホフトは、 「ウクライナから出ようとする欧米人のパスポートが破られ、外国人はライフルも持たずに前線に送られている」 「ジョージア軍団は拒否する者を射殺すると脅している」 など、次々と爆弾的な主張を展開した。

ホフトのソーシャルメディアがキエフの宣伝広報活動を阻害していることが明らかになると、
ウクライナの国家安全保障・防衛評議会は公式ツイッターで彼を非難し、 このアメリカ人はロ
シアのプーチン大統領の手先だと烙印を押し、彼の写真の横に「Made in Russia」という見出
しをつけた。

アメリカ人志願兵ヘンリー・ホフト(Henry Hoeft)と他の志願兵たちは、少数の英国人志願兵たちの援助を受けてポーランドに舞い戻りました。そして英国メディアの詳細なインタビューに応じたのです。

それをホフトが密かに録音して、オンライン誌The Grayzone に提供しました。1時間に及ぶインタビューの中で、元志願兵たちは、ウクライナと連携した軍隊が行った残忍な行為(彼らはそれを実際に目撃している)を詳細に説明しました。

ウクライナ軍、とりわけネオナチの武装集団「アゾフ大隊」の残虐さは有名ですが、志願兵たちが目撃した残忍な行為を次のように語っています。

検問所を通過しようとした2人の不運な市民についてホフトが振り返っている。ウクライナ兵に車から引きずり降ろされ、建物の中に連れて行かれ、喉を切り裂かれたというエピソードをホフトは紹介した。

彼らはウクライナ兵に車から引きずり降ろされ、 「黒袋」に入れられ、建物の中に連れ込まれて喉をかき切られたのだという。 「彼らが本当にスパイなのか、検問所を通り抜けただけなのか、さえ分からない」とホフトは録音の中で言っている。

ある英国人志願兵は、自分の部隊の敷地に迷い込んだ老人の話をした。 「彼らはこの男を捕まえ、何だってやってのけた。老人は投げ飛ばされて、ずっと、体のあちこちを調べ回されたのさ。その後、あいつらが老人をどう処置するかはわかっている」

このようにウクライナ軍が残忍なだけではなく、キエフ政権は自国で残忍ぶりを発揮した人間を平気で外国人傭兵として採用しています。たとえば、次のような面々です。

①ヨアヒム・ファーホルム(Joachim Furholm)。ノルウェーのネオナチで銀行強盗犯。
②イーサン・テ ィリング(Ethan Tilling)。オーストラリアのネオナチ「右翼抵抗組織」の元メンバー。
③アメリカの退役軍人クレイグ・ラング(Craig Lang)。彼はフロリダで男女カップルを陰惨
に殺したことで告発されている。

ホフトとその仲間は、ちゃんとした武器と弾薬が与えられない限り任地には行かないことにしました。そして外国人志願兵にまともな武器が届かない理由を知って、ホフトはウクライナから脱出する決意をします。それを次のように語っています。

The Grayzone が以前報じたように、西側からウクライナへの武器輸送は、 「史上最大かつ最速の武器輸送の一つ」に相当するものだ。しかし、ウクライナでの自分の役割を「砲弾の餌食」と表現した外国人志願兵は、ホフトだけではなかった。

「俺の考えでは西側の装備のほとんどは、ウクライナ軍に直接渡っている」と、ホフトはThe Grayzone に語った。 「あいつらは自国兵の犠牲を最小限に抑えたいんだ。だから、志願兵として来る外国人がたくさんいたら、まずその志願兵を前線に送るんだ」

しかし任地に行こうとしない自分たちをジョージア軍団が処刑し、その殺人を戦闘行為と偽る計画があると聞くと、 ホフトたちは急いで装備を整え、 救急車の後ろに隠れ、 まっすぐリヴィウに向かった。

やがて、彼らはポーランドとの国境を越えて米国に戻った。

アメリカに戻ったヘンリー・ホフトは、オンライン誌The Grayzoneに対するインタビューを次のように締めくくっています。

「俺はただ、みんながそのことを考慮し、ちゃんと知ってほしい。いいか、みんなはウクライナの兵士ではない。外国人戦闘員なんだ」と、ホフトは強調した。 「あいつらは外国人兵士であるみんなを真っ先に使うね」

つまり、 「ウクライナ軍は自分たちの犠牲を最小限に抑えたいんだ。だから、志願兵として来る外国人がたくさんいたら、まずその志願兵を前線に送るんだ」

しかし、ここでホフトが言及していないもうひとつの事実があります。それは次のことです。

ウクライナ軍の兵士がロシア軍との戦闘で捕虜になった場合、国際法に基づいて「捕虜」として扱われ、命は保証される。

しかし外国人傭兵は「志願兵」だから、自分の意志で勝手にロシア軍の軍事行動を妨害しているのだから、 「捕虜」としては扱われず、場合によっては銃殺ということもありうる。

だから外国人傭兵は、まさに文字どおりの「砲弾の餌食」 (cannon fodder) で、キエフ政権の駒の『世論では、 「志願兵」は「ウクライナを救う英雄」だが、キエフ政権にとっては単なる「将棋にとっては実に使い勝手の良い、つまり「使い捨ての道具」だったというわけである。欧米の歩』 」にすぎない。

以下の(5)はまだ翻訳が出ていないのですが、カナダの週刊誌では「世界の最高のスナイパー」として大いに持てはやされたカナダ人志願兵ワリ(Wali)も、次の記事でヘンリー・ホフト(Henry Hoeft)とほとんど同じことを語っています。

(5)Canadian sniper ‘disappointed’ with reality in Ukraine(カナダ人狙撃手は 「落胆した」、 ウクライナでの現実に)

https://www.rt.com/search?q=Canadian+sniper(RT:May 7, 2022)

この記事の副題は「『ワリ』と呼ばれるカナダ人の元兵士が、ウクライナ軍の混乱 ・ 略奪 ・無能を訴えた」となっていましたが、これを読むだけで、ウクライナ軍の実態が目に浮かんでくるのではないでしょうか。

A Canadian ex-soldier known as ‘Wali’ has alleged chaos, looting and incompetence in the Ukrainian military(カナダの元兵士、 通称 『ワリ』 は、ウクライナ軍の混乱・略奪・無能を証言)

日本の大手メデ ィアを読んでいる限りロシア軍の未来は非常に暗いのですが、このような事実を考えると、 実状はむしろ逆ではないかと思われるのです。

そのことは、ウクライナ南部マリウポリ市の製鉄所で「人間の盾」として幽閉されていた人たちが、ロシア軍の設定した「人道的回廊」を通じて解放され、ネオナチ軍「アゾフ大隊」の残酷な実態を語り始めたことでも分かります。

(6)Top Western media outlet deletes video critical of Ukraine(欧米のトップメデ ィアがウクライナを批判する動画を削除)
https://www.rt.com/russia/555093-spiegel-video-azovstal-mariupol/(RT ; May 6, 2022)

この記事 (6)も、まだ翻訳が出ていないのですが、次の副題を読むだけで、およその
内容が分かるはずです。

Germany’s Der Spiegel removes clip in which Azovstal evacuee criticized Ukraine(ドイツの一流誌 『シュピーゲル』 が、 アゾフスタル製鉄所から解放された避難民がウクライナ政権を批判するインタビュー記事を削除)

「人間の盾」にされていたナタリア(Natalia Usmanova)さんが語った真実

 

ご覧の通り、 今まで2カ月近くも製鉄所の地下で、アゾフ大隊に窮乏生活を強いられてきた老人・子ども・女性が、 「民間人を釈放せよ」という世論に押されて、遂に解放されて「人間の盾」とされてきた実態を語り始めたのです。

その生々しいインタビューをシュピーゲル誌が自分のサイトから削除せざるを得なくなったのは、今までロシアやプーチンを悪魔化してきた自分の報道姿勢に、よほど都合の悪い事実が含まれていたのでしょう。

今までは「時の政府に対して論陣を張る、進歩的なメディア」「発行部数がヨーロッパで最も多い ニュース週刊誌」とされてきたシュピーゲル誌ですが、アメリカのニューヨークタイムズ紙や日本の朝日新聞と同じく、 政府の御用新聞・御用週刊誌と化しつつある現状をよく示しています。

私も今までは、日本の大手メディアによるロシアとプーチンの「悪魔化」を連日のように読まされたり聞かされたりしてきて、暗い気持ちに落ち込む毎日だったのですが、よくよく調べると意外に未来は明るいのではないかと思い始めました。

ですから私は、ロシア軍の「特別作戦」が国際法違反ではないということも、ピッツバーグ大学法学部で国際法を教えるダニエル・コバリク教授とは違った視点で述べたいと思っていたのです。

本章は、そのことを改めて説明して、今日のブログを終えたいと考えていました。

が、気がついてみると既に十分に長くなりすぎています。

で、今日はここで断念し、次回こそ完結できればと願っています。

そもそもこの連載の出発点になったSさんのオンライン署名についても、次回で決着をつける予定です。私の連載を心待ちにしているかたも見えるようですが、どうかそれまでお待ちいただけると有り難いと思います。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体2—ゼレンスキーの闇を撃つ—』の第6章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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