森友事件の真実 虚飾にまみれた『安倍晋三回顧録』

青木泰

「森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない。財務省は当初から森友側との土地取引が深刻な問題だと分かっていたはずなのです」

これは今年2月の発売直後から増刷を重ねる『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の一文だ。

本文には森友事件に関する虚偽発言も溢れ、それらを挙げながら、改めて事件の真相に迫りたい。

「憲政史上最長政権」というものの、何を成したのか、訴えるべきものがない安倍晋三元首相。拉致事件・北方領土・デフレ脱却など、人々が期待した公約は実現できずにコロナ禍で遁走。もっぱら励んだのは、安保法制・集団的自衛権行使容認、共謀罪法・秘密保護法・国家安全保障局創設など、国家の専制支配に供する法や制度をつくること。そして本来、政権を監視する大手メディアを権力の広報機関に貶めることだった。

批判的な主張をする者は、テレビ朝日系「報道ステーション」古賀茂明・古舘伊知郎、TBS系「NEWS23」岸井成格、NHK「クローズアップ現代」国谷裕子各氏や、同局の相澤冬樹記者のように姿を消した。

いま大問題になっている、放送法をめぐる礒崎陽輔首相補佐官による総務省への介入と、高市早苗総務相による解釈変更(改悪)は、報道の自由への大弾圧だ。その礒崎氏は、『回顧録』第4章の扉の写真に安倍首相や菅義偉官房長官らとともに収まっている。

安倍氏が選挙に勝ち続けたのは、公示日の直後に各紙が「与党優勢」の見出しを大きく打ち、無党派層の関心をそいで投票率を抑えたことが大きい。

読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏と同論説副委員長の尾山宏氏が聞き手を務め、内閣特別顧問の北村滋氏が監修した『回顧録』。その終章は、「憲政史上最長の長期政権が実現できた理由」。褒めるポイントが、メディアの助けを借りた「最長政権」しかないのだ。

一方、安倍政権といえば、何といっても「モリカケ桜」に象徴された「政治の私物化」であり、真相を隠すために公文書の改ざんが行なわれた。その過程で、改ざんを強要させられた財務省の赤木俊夫さんが自死に追い込まれ、妻・雅子さんが起こした訴訟で国は「認諾」によって、改ざんを業務として赤木さんに押し付けたことを認めた。

『回顧録』は、2020年10月からの1年間、18回にわたるインタビューによって構成したという。そこで安倍氏は森友事件そのものが財務省による陰謀であるかに責任転嫁し、自分の発言が招いた赤木問題に触れていない。

安倍氏の国会答弁「私や妻が関与していれば、首相も国会議員もやめる」に対して、籠池泰典・森友学園理事長が「昭恵夫人から『首相から』と100万円の寄付を受け取った」と発言し、森友事件がさらに注目を集めた事実について、『回顧録』で安倍氏は、籠池発言は虚偽だと言い放っている。

まさに言いたい放題。“お友だち”の中でだけ通じる『回顧録』の虚飾に、識者から声が上がっている。

『安倍回顧録』に真実はあるのか
 元文部科学次官の前川喜平氏は、東京新聞の「本音のコラム」(2月12日付)で、「安倍回顧録に真実はあるか」と題し、「僕は読んでいないし、読みたいとも思わない」「この人物は死してなお虚偽と隠蔽と自己正当化しか語らないのか」と書いた。

そのうえで、安倍氏が森友事件を「財務省の策略」と語ったことについて、「国有地を8億円も値引きして森友学園に売却していた事実は、豊中市議木村真氏が行った情報公開がきっかけとなって明るみに出た。近畿財務局が当初その金額を黒塗りにして開示した。財務省は昭恵夫人の関与を隠すために決裁文書の改ざんまでした。ここに陰謀論の成立する余地はない」と、明快に批判している。

また「財務省は当初から森友側との土地取引が深刻な問題だと分かっていたはずなのです」との発言をとらえ、「むしろこの改ざんは、当時の菅官房長官が安倍首相の了解のもとで指示したのではないかと、僕は密かに疑っている」。安倍氏が1つだけ真実を語っているとすれば、「国有地売却が『深刻な問題』だった」こと、と畳みかける。

この問題は、ジャーナリストの相澤氏も週刊ポスト(3月3日号)で指摘している。「財務省近畿財務局が、森友学園に9億円の国有地を8億円も値引きして売った。昭恵さんは学園の小学校の名誉校長だった」「そこで『首相の妻に忖度したんじゃないか』と国会で炎上。“忖度”という聞き慣れない言葉が一躍、流行語になった」と経緯を確認。「安倍氏は政権当時、値引きは地中で見つかったゴミの撤去費用だから“問題ない”という財務省の主張を追認していた。ところが(『回顧録』で)『深刻な問題』だと自ら認めている」と批判した。

前川・相澤の両氏ともこのように『回顧録』の真実性を問題視している。

「死者の発言」でも名誉棄損の疑い
 元検事の郷原信郎弁護士は、「籠池氏名誉棄損発言を含む『安倍晋三回顧録』増刷で、『安倍官邸チーム』vs籠池氏の対立再燃か!」(ヤフーニュース2月22日付)の中で、『回顧録』で安倍氏が籠池氏の100万円授受の話を虚偽と主張している点に注目し、「死者の発言」の公表による名誉棄損に該当する疑いが強いと指摘している。

郷原氏に、その詳細を聞いた。

――まず、この論考の意図を説明していただけますでしょうか。

郷原 籠池氏が収監されることとなった刑事裁判については、私はネット上に「籠池氏『告発』をめぐる“2つの重大な謎”」「検察はなぜ“常識外れの籠池逮捕”に至ったのか」などを発表してきました。補助金詐取の容疑で詐欺罪を立件するなど、明らかにおかしいことが行なわれています。権力をおもねっての逮捕劇であり、さらに今回、『回顧録』を読んで、「死者の発言」についてまとめました。

――『回顧録』で安倍氏は、籠池氏の100万円授受が「虚偽だったのは明確」と語り、その根拠として「息子さん(佳茂氏)が、私や昭恵との100万円の授受を否定している」ことを挙げています。しかし郷原さんは、佳茂氏が著書『籠池家を囲むこんな人たち』(青林堂)で、籠池氏が100万円授受発言をしたのはジャーナリスト・菅野完氏の指示だったと明かしたものの、そこには「100万円の授受の事実がなかった」とか創作だったとは書かれていない。つまり、安倍氏の発言には根拠がない、と。

郷原 見逃せないのは、息子が発言を否定しているとなれば、普通の人は、それは間違いない事実だと考えてしまうことです。しかし佳茂さんが否定している事実がないとすれば、明らかに出鱈目な内容が述べられていることになります。

――また郷原さんは、橋本氏や中央公論新社が、佳茂氏の発言以外に授受が虚偽だという根拠を有していれば別としたうえで、昭恵氏がフェイスブックで否定した発言も官僚の作成と考えられ、さらに籠池氏への自民党調査チームによる偽証告発も不発に終わったことから、「この時点で籠池氏の証言が虚偽であると疑う根拠はほとんどなかった」と指摘されています。

郷原 編集に関わった人は安倍さんの発言に対し「佳茂氏が言った事実はない」と注記を加える必要がありますね。

――さらに、『回顧録』の奥付から著作権は安倍氏・読売新聞社・北村氏に、出版権は中央公論新社に帰属するようであり、籠池氏から名誉棄損の訴えがあれば、読売や北村氏に責任が生じると述べられています。

郷原 犯罪の成立は免れないということです。

――『回顧録』が注記追加・修正されることなく増刷されれば、勾留中の籠池夫妻も名誉棄損の訴えが可能と。

郷原 すでに菅野氏が、佳茂氏の発言に関連して佳茂氏を訴え、勝訴した裁判の結果を新中央公論社に伝えているということです。にもかかわらず、そのまま増刷すれば、虚偽との意識があることになり、一層明白な名誉棄損となる恐れがあります。

――ありがとうございました。

値引きの理由と改ざんの狙い
森友事件で大きな問題となったのは、①なぜ鑑定価格の10分の1となる値引きが行なわれたのか②決裁文書の何が改ざんされたか、である。『回顧録』ではどう書かれているか見てみたい。

まず値引きの理由について、安倍氏は、「私が賛同していることを理由に、財務省が土地代を値下げするはずもない」と述べている。しかし、当然ながら財務省が決裁文書に“首相夫人が賛同しているため値下げした”と書くことはありえない。安倍氏の言は常識論にすぎず、それで疑問に答えたかに繕っている。父・晋太郎氏は「言い訳の名人」と評したというが、まさに“安倍論法”だ。

そのうえで安倍氏は、「売却価格を値下げした理由は、予定地にゴミが見つかったことなど様々な理由があった」と語っている。埋設ゴミを理由に値引きしたというのなら従来の見解と同じといえるが、今回は『回顧録』とあってもう少し踏み込み、「2015年に汚染土やコンクリートが見つかり撤去したのに2016年に新たなゴミが見つかった」と述べている。

学園の建設予定地の工事は、産廃マニフェストによると、2015年に土壌改良工事によって953.1トンのゴミを撤去し、1億3176万円を、森友学園が国から受ける約束になっていた。さらに2016年に新たなゴミ(新ゴミ)が見つかったとして、約8億円が値引きされた経緯がある。

国側は国会でも2015年に取り出した3メートルまでの地層より深い層に、新ゴミが約2万トンあると説明し、運び出すのに「約4千台」のトラックが動いたという嘘の報告をしていた。その算定は、ゴミの混入率が50%で、土砂を含めて倍の4万トン。10トントラックで4千台というものだった。

しかし筆者が豊中市から得た産廃マニフェストでは、新ゴミは「194.2トン」。政府の説明の100分の1しかなかった(しかもそれらは「新築系混合廃棄物」とされ、埋設ゴミはゼロ)。これは2017年7月に公表し、国交省も同年末に認めている。新ゴミを8億円の値引きの理由とすることは不可能だった(注1)。

2017年3月の決裁文書の改ざんで、昭恵夫人や政治家の名前が削除されていたことは広く報道されている。一方、改ざん前の決裁文書に8億円を値引いた理由として、この2万トンの新ゴミについても記載されており、改ざんによって削除されていたことは、あまり知られていない。むしろ、改ざんの主な狙いはこの「2万トン」を消し去ることにあったといえる。

ところが安倍氏は、新ゴミ=2万トンを『回顧録』で持ち出して、値下げの理由として語っていた。そして、改ざんは財務省の佐川宣寿理財局長が行なったことにして、「『政治家の関与は一切ない』と国会で答弁したこととの整合性を取るために、財務省が決裁文書を書き換えてしまったのは事実」と述べた。財務省の改ざんが発覚した2018年3月に、麻生太郎財務大臣が「財務省の一部がやった」と釈明したのと同様の説明をしている。そうして、責任が財務省(全体)、政治家(麻生・安倍)に及ぶのを防ごうとしたのである(注2)。

安倍官邸は、佐川元理財局長にすべての責任をなすり付けてきた。『回顧録』ではその点を改めて強調している。橋本氏は、「聞き手として胆に銘じたのは、『ご意見拝聴』的なインタビューを避けることであった」などと「文藝春秋」で語っているが、これほど「ご意見拝聴的」なものはない。

森友事件の真実
 安倍氏は値引きの理由に「2016年に新たなゴミが見つかった」ことを挙げながら、その新ゴミがなかったことを途中で思い出したのだろうか、次のような発言も行なっている。

「近畿財務局と大阪航空局が打ち合わせをして、(「2016年に新たなゴミが見つかった」ことは)学園側には黙っていた」

「これを知った籠池理事長が怒り、損害賠償を求める構えを見せたので、財務局が慌てて1気に値下げした」

何気なく読み飛ばしてしまいそうだが、2016年にゴミが見つかったことを財務省に報告したのは籠池氏である。それを学園側に隠すも隠さないもない。逆に、新ゴミが「実は存在しない」ことを、森友学園に財務・国交省が隠していたとすれば話の筋が通ってくる。

筆者が取材によって得た事実に即せば、森友事件とは、まず幼稚園に続く小学校の建設を計画した籠池理事長と、彼に共感した昭恵氏がおり、安倍氏もそれに協力した。ただし森友側は手持ちの資金が少なく、校舎の完成を待って寄付金を集め、資金をつくることを考え、月々の賃借料も安く抑えたいと思っていた。しかし財務省は、最終的には売却を原則として、埋設ゴミの存在による値引きという手段で対処することにした。そして、ないゴミをあると偽って、8億円もの値引きの計画を立てたのである。

もちろんこれは、安倍氏が指示したか、もしくは忖度により実行されたものであり、少なくとも安倍氏は知っていたはずである。ところが、籠池氏はゴミの存在を偽装した値引きを潔しとせず、そのような不法を認めるはずはなかった。そこで、両省は「新ゴミがないこと」を籠池氏に黙っていたと思われる。

驚くべきは、売却側の国(近畿財務局・大阪航空局)と購入側の森友学園(籠池理事長・酒井康生弁護士・キアラ建築研究機構・藤原工業)の関係者のうち、ゴミがあると信じていたのは籠池氏だけだったことである。森友側の弁護士や事業者も、ゴミがないと知っていた。

だが、ないゴミを偽装して国有地を売却するなど許されることではない。そこで売買契約決裁書の作成時にオブラートに包み、“昭恵案件”として強引に決裁した。偽装の事実が公になりそうになると改ざんに及んだというのが、経過から見える事実である。

これまで安倍夫妻と懇意にし、またゴミがあるから値引きは当然と考えていた籠池氏は、世間の批判を受けて知らなかったと手のひらを返した安倍氏の発言に驚き、100万円の寄付を受けたことを明かした。それにより森友問題は、大事件に発展する。

そこに加計事件が続き、2017年夏の都議選で自民党は大惨敗。秋の衆院選を前に、7月末に検察が籠池夫妻を逮捕・未決勾留した。そして現在、籠池夫妻は、それぞれ5年と2年半の実刑判決を受け、収監されてしまった。

安倍氏は凶弾に倒れたものの、国有財産の不法な売却、公文書改ざん、国会での虚偽答弁など「国家の私物化」という大きな負の遺産が残った。赤木雅子さんの裁判や籠池冤罪事件への支援、そして眼前の『回顧録』の嘘を暴き、正していく取り組みを進めることは、私たちの課題といえる。

注1 問題の土地は、もともと河川による堆積層の上に田畑が作られ、さらに都市化の流れでコンクリートやアスファルト等で盛り土され、住宅地として使用されていた跡地。ゴミが出るのはこの盛土層からであり、3メートル以深(より深い)からはゴミは出ないことが、国交省の過去の調査でも明らかだった。

注2 「国有財産の鑑定評価委託業務について(平成28年4月14日)」は改ざんですべて削除。この中に大阪航空局空港部補償課作成の「地下埋設物撤去概算額について」があり、合計1万9460トン、概算額8億1974万1947円が明示されていた。

(月刊「紙の爆弾」2023年5月号より)

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青木泰 青木泰

環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。

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