無人機ドローンによるクレムリン攻撃から、私たちは何を読みとればよいのか
国際寺島隆吉のブログ「百々峰だより」(2023/05/06) http://tacktaka.blog.fc2.com/
ウクライナ(2023/05/06)
マーク・ミリー統合参謀本部議長(Mark Milley)
前ドイツ首相アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)
元国連武器査察官スコット・リッター(Scott Ritter)
元イスラエル首相ナフタリー・ベネット(Naftali Bennett)
経済学者マイケル・ハドソン(Michael Hudson)
元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
ブチャBucha虐殺事件、ヘルソン撤退「ピュロスの勝利」
「キエフ政権の無人機によるクレムリン攻撃」を記念する切手
https://twitter.com/KyivPost/status/1653769407099707395
* ウクライナ政府の郵政省が、このような郵便切手を攻撃直後に、自分のサイトに載せていることは、自分たちの行為だということを暗黙のうち認めているということです。
**これはクリミア大橋を爆破したときでも同じだった。この記念切手を拡大した立て看を背景にして記念写真を撮るウクライナ人2人。彼らの倫理観を象徴している。
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ブログ「薬草・薬木・花だより:アロエ健康法―病気に負けない体づくり」の最終回(その5)を書こうと思っていた矢先に、「無人機2機によるクレムリン攻撃」のニュースが飛び込んで来ました。
しかも、それに対する大手メディアの反応が一斉に「プーチン大統領による自作自演か?」という解説を流し始めました。その最たるものが、東大講師・小泉悠氏への次のインタビューではないかと思います。
*ロシア大統領府に無人機攻撃か 誰が実行? 自作自演? 小泉悠さん「かなり大きな展開が起きそうな局面を我々は見ている」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb8be45338cb50ba707469c9fd6546c91346ec52
Yahoo!ニュース5/4(木) 2:05
この「日テレNEWS」では、有働由美子キャスターが「ロシアの軍事や安全保障政策に詳しい東京大学・先端科学技術研究センターの専任講師、小泉悠さんに聞きました」というかたちでインタビューが進行していました。
「ロシアの軍事や安全保障政策の専門家」という触れこみで記事がつくられ、しかもそれが東大講師だというのですから世論に対する影響力も小さくないので、これは放置できないと考え、やむなく重い腰をあげることにしました。
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小泉講師は「ロシア側が主張する『プーチン大統領の命を狙った』のかどうかについては、私は懐疑的です」「もしもウクライナが実行したのであれば、ロシアに大恥をかかせられるような政治的効果があると思います」と述べつつ、同時に次のようにも述べています。
「ここまで話した理由により、ウクライナが実行した可能性もあります。他方で、クレムリン側の声明の最後に『我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保している』と脅しめいた文句があります。そのため、ロシア側がウクライナにさらなるプレッシャーをかける、あるいは戦場で今より烈度の高いことをするための正当性を確保する目的で、こういうことを実行したという可能性があります。私は現状、どちらとも判断がつかないというのが正直なところです」
ここで小泉講師は、「クレムリン側の声明の最後に『我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保している』と脅しめいた文句がある」ことを、ロシア側がやったと疑われる根拠としているわけです。
しかし、「我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保している」という声明を、「脅しめいた文句」だと受け止めた小泉講師の認識ぶりに、私は驚きました。というのは、上記のような声明は大統領官邸を攻撃された側が出す声明としては当然のものだと思うからです。
たとえばアメリカのホワイトハウスがロシアによる無人機攻撃を受けたり、日本の首相官邸が無人機攻撃を受けたとすれば、バイデン大統領や岸田首相はどのように反応するでしょうか。
たぶんバイデン大統領なら、「我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保する」などと悠長なことを言わずに、即座にロシアに対するミサイル攻撃を命じるのではないでしょうか。
何しろ、「911事件」の実行とは何の関係もなかったアフガニスタンに猛爆撃を開始したり、「WMD(Weapon of Mass Destruction大量破壊兵器)をもっている」という嘘をついてまでイラクに対する猛攻撃を開始したのがアメリカなのですから。
ですから、「我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保する」というロシアの声明は攻撃を受けた側の当然の声明であり、それを「ウクライナに対する脅迫」と受け止める小泉講師の認識ぶりには、正直言って唖然としました。
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また小泉講師は、「今回の無人機によるクレムリン攻撃が自作自演である可能性」として、もうひとつ「ロシア軍が5月9日の『戦勝記念日』を前にして確たる戦果をあげていない」ことを根拠にしています。
それを彼は次のように述べています。
「5月9日に旧ソ連がナチスドイツに勝利したことを祝う『戦勝記念日』があり、これがロシアとしては最大の国家的イベントなんです。プーチン大統領としては、この日にあまり格好悪いことはしたくないですし、できれば国民に対し“成果”をはっきりと示したいと思います。ただ現状、そういうことを言える材料は何もないということなので、これから先、1週間くらいで今回の攻撃を理由にして、何か大規模な軍事行動に出るのかもしれません」
ここで小泉講師は、「できれば国民に対し“成果”をはっきりと示したいと思います。ただ現状、そういうことを言える材料は何もないことなので」と述べています。
しかし、これを読んで私は再び唖然としてしまいました。というのはウクライナ軍が敗北しロシア軍が前進を続けていることは歴然としているからです。それは米軍のトップ自身が認めていることです。
それを示すのが次の記事です。たとえば次の記事ではマーク・ミリー統合参謀本部議長が、既に4月の時点で、キエフの主要軍事目標の達成は 「非常に困難」と指摘しているのです。
*Top US general skeptical of Ukraine’s prospects
「米国の軍人高官はウクライナの将来に懐疑的」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1397.html(『翻訳NEWS』2023-04-04)
それどころか、ロシア軍がウクライナに乗りだす以前から、ウクライナ軍は、2014年のクーデター政権を認めないとして、ドンバス2カ国が住民投票をおこなって「自治共和国」を宣言し自衛闘争を始めて時点から、負け戦(いくさ)続きだったのです。
そして負け戦の戦線を立て直す道具として使われたのが「ミンスク合意」と「ミンスク合意2」でした。つまり「ミンスク合意」の休戦期間を利用して武器の補充、基地の建て直しを図り、陣容が回復すると、再び戦闘を再開するということを繰りかえしてきました。
このことを思わず暴露してしまったのがメルケル元ドイツ首相でした。次の記事はそのことをよく示しています。
*Fyodor Lukyanov: How can we explain Angela Merkel’s bombshell revelations about the Ukraine peace deal?
「前ドイツ首相メルケル、ミンスク和平協定での欺瞞を認める。その意図は何か。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1175.html(『翻訳NEWS』2022-12-22)
この記事によれば、メルケル元ドイツ首相はドイツ紙のインタビュー(2022/12/07)で次のように語っているのです。
ドイツのアンゲラ・メルケル前首相が、新聞「ディー・ツァイト」のインタビューで語った発言が、識者の間で波紋を呼んでいる。
彼女は「2014年のミンスク協定は、ウクライナに時間を与えようとしたものだった」と認め、「そして、その時間を使って、今日ご覧いただけるように(キエフ軍は)より強くなった。2014/2015年のウクライナは、今日のウクライナではなかった」と述べた。
こうしてメルケル首相は、ウクライナ政府関係者、とりわけピョートル・ポロシェンコ元大統領の、キエフは和平協定を履行するつもりはなく、ただ交渉するふりをしていただけだという言葉を裏付けることになった。
つまり元ウクライナ大統領ポロシェンコが以前に「キエフは和平協定を履行するつもりはなく、ただ(時間稼ぎのため)交渉するふりをしていただけだ」と言っていたことを改めて裏付けることになったのでした。
(ミンスク合意について詳しくは、拙著『ウクライナ問題の正体1』第8章「ウクライナを売った男、ゼレンスキー」および『正体2』第5章「『ミンスク合意』とは何だったのか」を参照ください)
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御覧のとおり、ロシア軍がウクライナに進攻する以前からキエフ軍は敗北を重ねていたのです。
が、8年間にもわたるキエフ軍による攻撃で、国連調べだけでも1万3000~4000人の死者数を出しているドンバス2カ国の惨状を見かねて、2022年の2月にロシア軍がウクライナに乗りだしたときも、ロシア軍の優勢さは歴然としていました。
ロシア軍はウクライナ全土で電撃作戦を展開し、全土に30~40も存在しているとされる研究所で生物兵器の研究がおこなわれている証拠物件を押収しました。そして、ほぼこの作戦が終了した時点で、首都キエフ近くまで迫っていたロシア軍は撤退しました。
もし、このままキエフに進攻していたら首都は陥落し、ゼレンスキー大統領は逮捕・収監されていた可能性もあります。にもかかわらず、なぜ撤退したかは不明ですが、「ロシア軍の進攻目的はウクライナの中立化、非軍事化、非ナチ化だと」とプーチン大統領は声明で言っていましたから、その約束を守ったのかも知れません。
しかし、この撤退はロシア国内からも批判や疑問が出ていました。それどころか、元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツは「せっかく戦争を短期で終わらせる絶好の機会だったのに、それをみすみす逃してしまった。プーチンは間抜けでお人好しだ」と嘆いていました。
それはともかく、この撤退時に起きたのが、いわゆる「ブチャ虐殺事件」でした。しかし、この「虐殺事件」はロシア軍によるものではなく、キエフ軍による自作自演であったことは既に明らかにされています。つまりキエフ軍が親露派と見なした住民の虐殺事件だったのです。元国連武器査察官スコット・リッター(Scott Ritter)による次の記事を参照ください。
*Bucha, Revisited「ブチャ再考」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1116.html(『翻訳NEWS』2022-11-06)
ちなみに、スコット・リッターは元海兵隊員で、アメリカがWMD(Weapon of Mass Destruction大量破壊兵器)の所有を理由にイラク侵略に乗りだそうとしたとき、「自分は国連大量破壊兵器特別委員会主任査察官として調査し、その全てを破壊したのでイラクにはWMDは残っていない」として、侵略行為に反対した人物として有名です。
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授