独立言論フォーラム「G7広島サミットで“核兵器のない世界”は見通せたのか?」

浜田和幸

G7広島サミットで岸田首相は「核兵器のない世界」を国際社会に向けて発信すると意欲を見せていましたが、前途多難を印象付けて終わりました。岸田首相の外交にかける熱い思いは伝わってきますが、外交手腕となると別問題です。

ウクライナのゼレンスキー大統領を広島に招いたり、韓国のユン大統領とのシャトル外交など、話題作りには熱心ですが、ウクライナ戦争の終結や日韓の歴史認識や領土問題の解決には見通しすら立っていません。

その最大の理由は「アメリカ一辺倒」の発想にあります。アメリカの思惑に左右され、日本独自の価値観外交や平和的安全保障政策を打ち出せていないため、ウクライナからも韓国からも「金づる」と見なされているばかりです。日本は財政赤字が膨らむ一方で、このままでは国家破綻もあり得ます。岸田首相にはそうした危機感が感じられません。

岸田首相はアフリカ諸国に多額の資金援助を約束しましたが、中国の資金援助と比べれば10分の1にも達しません。日本は中国の援助を「借金の罠」と見なし、「透明性」や「人材育成の重視」などで差別化を図ろうとしていますが、アフリカの期待に十分には応えていないのです。

実は、岸田首相は国連での安保理常任理事国入りを目指し、数の多いアフリカ諸国からの支持を取り付けようとしていますが、アフリカの未来を左右するのは未開発の資源の活用に他なりません。中国もロシアもそこに着目して、アフリカとの連携を深めようとしています。

岸田首相はG7広島サミットに南アフリカ共和国を切り捨て、アフリカ連合の代表を招くことにしました。この結果、BRICSのメンバーである南アフリカは広島サミットから除外されることになり、他の構成国であるブラジル、ロシア、インド、中国も「日本はBRICS軽視か」と受け止めています。「グローバルサウス」を取り込もうとするなら、日本はお金ではなく、知恵と技術でアフリカを味方につける方策を見出すべきでした。

世界はG7からG20へ、そしてグローバルサウスの時代へと急速に変化を遂げています。いわばG7は「過去の栄光」にしがみつく衰退諸国の集まりに過ぎません。この現実を直視し、アメリカとロシアの代理戦争である「ウクライナ戦争」や、アメリカの軍需産業にとっての新たなビジネスチャンスとなる「台湾有事」を回避する方針を打ち出す必要があります。

更に、G7サミットから敵視されているロシア、中国、北朝鮮などとの対話と融和に向けてのメッセージを発することができたのでしょうか。残念ながら、答えはNOでした。なぜなら、ロシアを一方的に非難し、経済制裁を強化すると宣言したり、中国にロシアを説得すべきと責任転嫁にまい進するだけでしたから。

こうしたアメリカ一辺倒の言いなり外交ではロシアとの全面戦争やアジアでの新たな戦火の勃発が懸念されるばかりです。広島で開催されたサミットであれば、原爆投下という「過ちを繰り返さない」との決意と世界平和に向けての具体的な道筋を明らかにすることが最大の課題だったはずです。確かに、アメリカ、イギリス、フランスといった核保有国の最高指導者が顔を揃え、原爆ドームに献花した上で、原爆資料館を見学したわけで、それなりの意味はあったでしょう。

しかし、アメリカのオバマ大統領の時もそうでしたが、アメリカが広島や長崎に原爆を投下し、多くの民間人の命を奪ったことへの謝罪も反省もないままに、「世界から核兵器がなくなることを期待する」といった他人任せの声明で終わっています。そもそも、トルーマン大統領が軍部の反対を押し切って広島と長崎に原爆を投下した理由も明らかにされていません。

当時、日本の敗戦は時間の問題で、「非人道的な原爆の投下は必要ない」というのが米国の政権内部の合意事項でした。ところが、トルーマン大統領はソ連が日本上陸作戦を準備しており、その動きをけん制するために米国の最新鋭の原爆の威力を見せつけることを優先したと言われています。要は、ソ連を抑止するために必要だったという勝手な論理です。

しかも、そうした勝手な理論は今日でも大手を振っています。即ち、ウクライナ戦争にかこつけて、「ロシアが核使用をちらつかせている」と、プーチン大統領への責任転嫁でお茶を濁そうとする意向が強く感じられるからです。今回の広島宣言は結局のところ、ロシアからも中国からも猛反発を招いただけでした。

実は、ロシアのウクライナ侵攻の以前からNATOとロシアの核対立は激化していました。
その先鞭をつけたのは、2019年8月のトランプ大統領による中距離核戦力条約からの撤退に他なりません。当時、ポンペオ国務長官は「ロシアが条約を順守していないから」と言ったのでしたが、具体的な証拠は提示しませんでした。

ウクライナの情勢が悪化する中、2023年2月、プーチン大統領は新START条約からの撤退を表明。理由はバイデン大統領が「ロシアが順守していない」と一方的に批判したためです。米ロの不信感が強まるほど、核戦争のリスクは高まります。

実際、2023年4月、ロシアは隣国ベラルーシに核配備を表明しました。その理由はイギリスがウクライナにブラッドレー戦車に搭載可能な劣化ウラン弾の供与を決定したためです。プーチン大統領は以前から「劣化ウラン弾は核兵器と同じ」と反発を示していました。

加えて「NATOはロシアのせん滅を意図している。ロシア存亡に関わる重大な危機だ」と危機感を露にしています。
具体的に、「NATOの東方拡大、ロシア国内のテロ組織化、経済制裁、ノルドストリーム爆破、ウクライナによるロシア国内の核搭載機への攻撃支援」など、30もの理由を列挙し、ロシアは「自国の存続のため核使用に踏み切らざるを得ない」とまで踏み込んだ発言をしています。

もともとプーチン大統領は「核戦争に勝者はいない」との意見の持ち主。万が一に備えて、核戦争を生き抜く準備を加速しているに過ぎません。S-500とS-550による防空システムで、大陸間弾道弾を撃墜できるわけです。何しろ、S-5001機でICBM10発を迎撃破壊できるとのこと。

また、S-300やS-400はS-500より短い射程のICBMを撃破できるとされ、全てモスクワ防御のため配備済み。NATOが保持する640基のICBM(旧式が大半)を撃破するには64基のS-500があればよいわけです。プーチン大統領はアメリカの迎撃システムを潜り抜ける極超音速ミサイルも開発したと自信を見せています。こうした自信が核戦争のボタンを押させる可能性は否定できません。

更なる問題はゼレンスキー大統領による核兵器要求です。広島ではロシアの核の脅威を訴えていましたが、ロシアに対抗するには「ウクライナにも核兵器が必要だ」と主張しているからです。日本ではおくびにも出しませんでしたが、ウクライナ国内では「欧米からの武器弾薬では不十分なので核兵器が必要だが、皆さんはどう思うか」と、大統領府は3月27日、HPを通じてウクライナ人から核兵器要求の署名募集を開始しました。ウクライナ流のロシアへのけん制策かも知れませんが、もし、ウクライナが核兵器を持てば、使用に走るリスクは高まるはず。正に、第3次世界大戦の勃発もあり得る話です。

思い起こせば、1994年、ウクライナはブダペスト合意に署名しました。旧ソ連製の核兵器をロシアへ移譲する代わり、アメリカ、ロシア、英国がウクライナの安全を保証するという取り決めです。しかし、2022年、ゼレンスキーは合意見直しを表明しました。ロシアの脅威に対して、ウクライナの安全が保証されていないというわけです。

広島でG7の首脳やグローバルサウスのリーダーらが議論しても、「核兵器のない世界」は絵に描いた餅で終わっています。実のところ、2023年3月31日、国連軍縮担当の中滿泉は危機感を露にしています。曰く「核兵器の使用の恐れは冷戦時代より現実味を帯びてきた。ウクライナ戦争はその可能性を高めている」。

更に、米国の原子力研究者による終末時計は「残り90秒」と表示され、1947年以来最悪の人類最後の日が懸念されるばかりです。ニュースになっていませんが、米ロ間の核戦力削減交渉は頓挫しています。このままでは2026年2月に米ロ間の歯止めはなくなることが確実視。相互の査察は中止され、不信感が高じて、核の応酬が現実化する恐れが強まる一方です。

2023年2月、ノルウェー政府はロシアが核搭載の艦船をバルト海に配備したと公表。これまで過去30年以上に渡り、なかったことです。とはいえ、これは2022年10月、NATOによる核攻撃の演習を受けての反応に他なりません。NATOのストルテンベルグ代表は核抑止力を強調していますが、ロシアの脅威を煽っていることは否定できません。いずれにせよ、平和を願う気持ちは大切ですが、それだけでは水面下で加速する核戦争への動きを食い止めることは容易ではありません。ロシアや北朝鮮の指導者と直接向き合う胆力と交渉力が必要です。

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ISF主催公開シンポジウム:「9.11事件」の検証〜隠された不都合な真実を問う

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浜田和幸 浜田和幸

国際未来科学研究所代表、元参議院議員

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