憲法9条の堅持こそ 日本を戦争に引き込まない道 ―安保3文書の危険性―

羽場久美子

戦争への道
今日本はひたひたと「戦争への道」に進んでいるように見える。岸田政権は、今止めなければ引き返せない危ないレッドラインを、一つ一つ超えていっている。

沖縄の基地へのミサイル配備、敵基地攻撃能力、防衛費43兆円、安保3文書改訂。

今年1月には、アメリカとの2プラス2会合で、アメリカの矛、日本の盾、という旧来の専守防衛の立場から、矛と矛(防衛ではなく攻撃)に変更し、アメリカから賞賛された。さらに中国との関係悪化がすすみ、岸田首相は、中国包囲網を形成する国々への歴訪を繰り替え、遠くウクライナのゼレンスキーまでを電撃訪問した。

これらすべては、近隣国との戦争準備となる。そしてそれは日本国民を守るためではなく、米中対立の先鋭化の中、日本国民を犠牲にして、アメリカを守るために自己犠牲を強いている。当のアメリカは、自国は戦いの最前線に行かず、日本特に沖縄、および台湾を、中国と戦争をさせるために使おうとしている。結果的に東アジアの双方を弱体化させることが目的である。

莫大な税金が、アメリカのワクチン購入、武器やミサイル購入に使われ、日本国民を危うくする状況を作り出しているのだ。日本には何の利もない。これはロシア・ウクライナ戦争と同様、代理戦争の構図である。

ウクライナ国民の命と国土を犠牲にして、ロシアを弱体化し、プーチン体制を崩壊させようとしていると同様、沖縄と台湾の命と領土を犠牲にして、中国の成長を止め、東アジア全体の経済発展を留めることで、米欧優位の21世紀を再構築しようとしている。

その背景に、コロナ・パンデミックが、中国ではなく、アメリカと欧州に決定的打撃を与えたことへの焦りもある。

トランプ政権の失策と、続くバイデン政権も防ぎきれず、コロナはアメリカだけで115万人、北米で160万人、欧州で200万人の死者を出した。世界死者数の半分を占める。パンデミックは結果的に、アメリカと欧州の経済停滞と、アジアの経済成長を促進する役割を果たした。その危機感がさらに、米欧先進国の軍事化を促進させている。

日本の危険な現状と、われわれの取るべき道
そうした中、1241兆円の負債を抱える日本が、復興資金や社会保障費、教育研究費など「国民の大切な財産」を削って、防衛費を1.5倍から2倍化しようとしている。また憲法9条を無視して、アメリカとの2+2で、専守防衛から攻撃能力を持つ軍事力へ、中国を仮想敵とした近隣国との戦いの準備を始めている。こうした「違憲状態」に誰も異を唱えない。

政府の忖度、アメリカの忖度が定着している。しかし今の日本の危機的状況を放置すれば、沖縄・台湾が、そして日本本土が戦場になる可能性が高い。

戦争はふとしたことで始まり、今回の自衛隊機の「事故」のように、ナショナリズムと疑心暗鬼により、デマから火が付くことも往々にしてありうる。そして始まったら終わらず周辺に拡大していく。

だからこそ平時から、戦争でなく平和を、安保3文書でなく憲法9条を守り、近隣国と連携して戦争への戦略を阻止すべきである。

今回の統一地方選挙では、防衛費の極端な増大で、私たちの社会保障費、災害復興費、教育費、子ども・若者育成費が極めて危うくなっていることに国民一人一人が危機感を持ち、国民の生活を守るのが政府と地方自治体であることを改めて考え選択すべきだろう。

世界を発展させるのは、あなたたち、私たち国民一人一人の平和と繁栄を求める熱意だからである。

1.今なぜ安保3文書なのか? 誰が戦争を望んでいるのか?
2023年1月11日にワシントンで開かれた「日米外務防衛閣僚会合」、日米2+2では、旧来アメリカが矛(攻撃)、日本が盾(専守防衛)の立場から、矛と矛になること、日本の反撃能力保持や5年間で防衛費倍増を米国と緊密に連携して行うことなどを、日本国民にも議会にも事前に相談することなしに、取り決めた。これ自体、明確な憲法違反とみなされるが、最高裁も日本国民も、誰もこれに異議を唱える機会も与えられず決定された。

アメリカは、ウクライナ系アメリカ人のブリンケン国務長官とオースティン国防長官、日本は林外務大臣と浜田防衛大臣である。

また岸田首相は、2+2に続きバイデン大統領と会い、防衛費倍増、安保3文書、敵基地攻撃能力を確認し、アメリカの「賞賛」を受けた。

安保3文書とは?
安保3文書とは、日米2+2及び首脳会談に先立ち、アメリカへの「手土産」として、2022年12月16日に、政府が閣議決定した3つの安全保障をめぐる文書だ。

外交や防衛などの指針である「国家安全保障戦略」、防衛の目標や達成する方法を示した「国家防略」(現・防衛計画の大綱)、自衛隊の体制や5年間の経費の総額などをまとめた「防衛力整備計画」(現・中期防衛力整備計画)の3つからなる。

なぜ平和憲法を持つ日本、平和と繁栄の東アジアで、安保3文書なのか?

特に意識しているのが中国の成長だ。

2049年までにアメリカを凌ぐ大国になると いう目標を掲げている中国に対し、名指しで警戒と防衛を示している。

アメリカは6年以内に中国が台湾を攻撃すると言っているが、この6年という数字はイギリスの経済シンクタンクが2028年は中国経済がアメリカを凌ぐと述べた数字と符合する。つまりアメリカは、中国がアメリカを抜く前に中国を叩きたいということであろう。

日本の近隣国は、中国、韓国、北朝鮮、ロシアの4国であり、その点では日本は強力な軍事核大国に囲まれているといえる。

しかし、にもかかわらずなぜ、東アジアで安定的な平和と経済発展が78年間も維持できたのかと考えると、平和憲法と憲法9条があったからに他ならない。冷戦期も東西の狭間にあって、日本がなぜ奇跡の高度経済成長を遂げることができたかという背景には、軍備増強をせずその財源を主に社会保障と経済に集中し国民の勤勉さによる技術革新や知的立国の努力があったからである。

政府は近隣国の軍事的成長を強調するが、何もせずともあと10年でアメリカを凌げる中国が、台湾をめぐり戦争をするのが得策と考える根拠がない。日本国民が、日本の貿易の4分の1を占める中国と戦争を望んでいるとも思えない。特に経済界は中国との対立に懐疑的である。少子高齢化、1241兆円の負債、中国・韓国・台湾にさえ後れを取っている経済、低賃金、移民や難民に対する人権無視、女性の位置は先進国最低であるばかりか世界最低。それらすべてが喫緊の課題である。

日本がこのままアメリカの言いなりになっている間に、2010年に中国に抜かれ、2030年にはインドに抜かれ、ゴールドマンサックスの試算によれば、50年後、2075年には、世界第12位まで転落する。

変わってインドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルなどがトップ10に入る。(表:2075年を見よ)

防衛費を倍増し、社会保障や教育費、復興費を削減することで、アメリカのかつてのプラザ合意による半導体の制約のように、日本は普通の極東の小国に転落していく可能性すらある。必要なのは防衛強化ではなくイノベーション改革であり、若者の教育と研究の充実による未来の創設である。

2.ロシア・ウクライナ戦争と、アメリカの影
これまで防衛はアメリカに任せ、自国は社会保障や教育を重視する戦略を取り、ノーベル平和賞を受賞したEUや、世界第2位の経済大国となった日本が、大きく防衛費拡大と戦争準備に舵を切ったのは、ロシア・ウクライナ戦争の影響が大きい。

1年前、2022年に、ロシアがウクライナに侵攻した後、ロシアの侵攻を100%悪とし、世界中が(現実には米欧日先進国G7が)ウクライナを応援し、アメリカとNATOが武器をウクライナに投入してきた。その結果、中国が台湾有事を起こすというプロパガンダは、不思議なほどやすやすと日本に広がった。

もちろん、侵略はロシアが悪い。しかしロシアとウクライナの関係には複雑かつ密接な歴史があり単純化は危険である。

21世紀最大の暴挙、とアメリカは非難したが、1999年、NATOは欧州のセルビアを空爆し、200万人の難民を出した。21世紀に入ってからもアフガン戦争、イラク戦争でアフガンでは20万人、イラクでは、大量破壊兵器を持っているとして突然国連の査察を超えて空爆し政権を倒し、サダムフセインを殺害したのはアメリカだった。今また「ウクライナを守る」と称して、20万人のロシア人を殺し、8000人のウクライナ人が亡くなり、ウクライナの国土は荒廃している。戦闘は止め、東アジアへの飛び火も許さず、平和と繁栄を構築すべき時である。

3.アメリカの戦争関与と、同盟国負担増
ロシア・ウクライナ戦争で中国脅威論をあおり、欧日は防衛費を倍増、アメリカの軍事産業は空前の儲けと言われる。

アメリカは、ワクチンの世界販売をほぼひとり占めし、ロシア脅威、中国脅威をあおって、欧州日本各国で防衛費を増大させた。トランプは、アメリカの軍事負担を減らし欧日は軍事費を負担せよと説いたが、バイデン政権は、より巧みにロシア、中国の脅威をあおることで、防衛が必要と思わせ、欧州日本の防衛費を倍増に導いた。

(世界の軍事力ランキング、2022年、挿入:別紙)

アメリカの軍事費は、世界の4割(39%)を占めるが、2022年ロシアのウクライナ侵攻後、軍事産業6銘柄は一斉に株価を上昇させた(ボーイング以外)。G7各国の防衛費増大は、アメリカの軍事産業6社に空前の儲けを与えた。6社とは、①ロッキードマーチン、②ノースロップグラマン、③ボーイング、④レイセオン・テクノロジーズ、⑤L3ハリステクノロジーズ、⑥ゼネラルダイナミクスである。

4.最後に重要な事―世界3分の2の国々は、軍事化に懐疑的―
いま、ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、世界中が戦争準備、防衛力拡大に向かっているかのように見える。

しかしこの間2023年初頭に、1月アメリカ・ニューヨークの国連本部、2月タイ・バンコク、インド・デリー、3月カナダのモントリオールを歴訪して、先進国米欧日G7以外の国々は、私たちが見える光景と異なる光景を持っていることが明らかとなった。

すなわちG20 およびグローバルサウスと呼ばれる世界の3分の2を占める国々は、今や経済、IT/AI、教育を成長させ、現在の戦争準備が、アメリカの覇権を守り、アメリカと欧州の優位性を維持するため、ウクライナを犠牲とした戦争であることを見抜き、アメリカが要請する防衛力増大や戦争準備、ロシア非難に懐疑的であることである。

そして日本が、平和憲法第9条を持ちながら、今、防衛力増大と「敵基地攻撃能力」を持つ戦闘準備態勢、それも成長する中国にミサイルの矛先を向けて戦いを挑もうとしていることの方に、危惧を抱いている。

アジア、アフリカ、中央アジア、中東の多くの国々は、平和と経済発展を望み、G7が戦争をあおることに警戒している。また「民主主義vs専制主義」にも、21世紀の初頭に「民主化」の苦難を浴びたアジア・アフリカ諸国は懐疑的である。故に、中国やインドにモデルを求めつつある。これがグローバルサウスである。彼らは安定的経済成長を望み、今や後6-10年でアメリカを抜く中国や、あと30年でアメリカを抜くと言われるインドに自分たちのモデルを見、そのあとを追おうとしている。スローガンは、平和と安定と発展である。

私たちは、アメリカのロシアや中国に対する戦争準備、軍事力倍増に加担するのではなく、憲法9条を掲げ、アジアとも結び平和、安定、繁栄の世界を構築することに努力すべきであり、G7とG20, グローバルサウス双方に橋を架ける役割を果たしていく必要がある。

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羽場久美子 羽場久美子

博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。

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