【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第75号:南西諸島はすでに戦場なのか?―日米軍事演習キーン・ソード始まる(三上智恵)

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

今月10日から、過去最大規模の日米共同軍事演習「キーン・ソード23」が始まっていることを、いったいどのくらいの日本人が意識できているだろうか? 日米合わせて3万6千人が参加、艦艇約30隻、航空機約270機が投入され、宇宙・サイバー・電磁波作戦も実施する、かつてない臨戦態勢を思わせる大演習だ。

今回は、日米のみならず、カナダ、イギリス、オーストラリアも艦艇や戦闘機を送り込み、共同訓練に初参加している。これだけの国々が「海洋進出をもくろむ中国をけん制する」として沖縄県や鹿児島の島嶼部と近海で中国を威嚇しているのだ。それを受けて、12日には中国海警局の船が領海侵犯したとか、14日には中国の無人偵察機と哨戒機などが沖縄本島と宮古島の間を飛行し自衛隊がスクランブル発信をしたとか、騒々しくニュース速報となり国民を驚かせているようだが、これだけあからさまに中国を敵視した軍事包囲示威行動をこちらがやっているのだから、中国も「舐めるな」と対抗するのは織り込み済みのはずだ。

しかし国民はわかっているだろうか? どちらが先に脅しを始めたのか。今、大演習中と知らずに速報だけ聞けば見誤るだろう。それだけではない。これは南西諸島が「アメリカの中国封じ込め作戦」の舞台となる演習なのだ。今回、沖縄県内では民間の空港や公道を軍用車両が我が物顔で走り、ウクライナで注目を浴びた高機動ロケット砲システム、ハイマースの共同運用も沖縄本島で実施された。与那国島では、初めて米兵が乗り込んで日米共同訓練が行われる。そして島嶼戦争用に開発された、タイヤを履いた戦車「16式機動戦闘車(MCV)」が県内初、与那国島に上陸する予定だ。

まさに、沖縄県の島々はどこも戦場になるんですよ、と言わんばかりの状況に陥っている。今回の「演習」は「訓練」とは違う。演習というのは練習ではない。いざとなったらここで、こんな国々と、こんな軍事力を使いますよ、というフォーメーションを敵国に見せびらかす行為といった方がいい。それを抑止力と解釈し、国防に不可欠と頼もしく思う人もいるだろう。しかし、相手国はどう見るだろうか。少し考えればわかるだろう。これが戦争を防ぐ行為なのか、煽る行為なのか。私たち沖縄で暮らすものから見れば、日本とアメリカが中国・台湾に最も近い私たちの県土に次々にミサイルを置いていく行為が、強力に戦争を呼び込んでいるようにしか見えない。私たちがいることを忘れてミサイル戦争の準備に入ったとしか思えない。もはや辺野古などの「基地負担の増加」というフェーズは超えてしまい、「お願いだから、ここで戦争をするなんて言わないで」と泣いて懇願するような局面にまで進んできてしまった。そのことが、実感を伴って本土の皆さんの所に伝わっているだろうか?

今回の演習では、自衛隊車両が県民の財産である民間の港を使って70台も陸揚げされ、公道を走る。先週、それを止めようと体を張って座り込む人びとが、機動隊に排除されていった。その様子は全国にちゃんと報道されているだろうか? このままでは第二の沖縄戦が始まってしまうと、様々な場所で抵抗したり集会が開かれたりしているが、それは本土の人は知らなくていいことなのだろうか? そんなはずはない。今起きていることが、正しい情報と映像でちゃんと伝われば、「そんな、国土を使って戦争をすることに賛成した覚えはないぞ!」と怒り心頭の国民がたくさん立ち上がってくれるはずだ。そう信じて、私は現場の様子を編集して今回もここにあげる。映画にするでもなく、日当も経費もなく自腹で、それでもやるしかないと撮影し、見やすくまとめている。だから、せめて沖縄の危機感を13分に凝縮したこの映像くらいは,全編見てもらえないだろうか?

同じ沖縄に住み、ここが戦場になっては生きていけないはずの沖縄県警にもみくちゃにされながら、山城博治さんが叫ぶ。

「島を戦場にする。これはそういう演習なんだ。77年前の戦争、復帰して50年、遂にこういう事態がやってくるんですか? 警察がそれを率先して手伝うんですか? 沖縄の空域、沖縄の海域が戦場になろうとしているんです。沖縄県民が抵抗するのは当然でしょう? 県民には、抵抗する権利があります!」

中城湾港に駆け付けられなかった人たちは、翌日の夕方、沖縄県庁の前に集まって抗議の声を上げた。自衛隊に言われるまま、港湾や公道など民間地域の使用許可を「書類に不備がないから」とどんどん許可してしまう沖縄県庁にも、危機感を共有してほしいという切羽詰まった思いもある。危機感の共有といえば、与那国島は自衛隊問題が持ち上がってこの10年、宮古島はミサイル部隊が来ると報道されて7年、石垣では反対運動が本格化して5年の間、「島々がミサイル発射台にされたら生きていけない」という危機を叫んできたが、沖縄本島は米軍基地問題にばかり力を入れて離島のSOSを受け止め切れていなかった。

「問題を共有する」
「恐ろしい事態が進んでいることを正面から受け止める」
「誰が誰を苦しめているのか、構図を割り出す」

この3つのことは、そんなに難しいのだろうか? 自分たちに降りかかっている問題だというのに、同じ沖縄県民でもこれらのことを共有して問題解決にあたるということが、いかに遅かったか。私は自衛隊問題を報道すると決めた2015年からずっと、「共有できない」壁に泣いてきた。地獄の沖縄戦に苦しんできた沖縄の人同士でも共有が難しいのに、更に関係ないと思っている本土の人々に、どう伝えれば「自分たちの危機」だとわかってもらえるのか。そればかりを考えて当たって砕けてきた私自身の年月は、今日、この事態を止められなかったというどうにもならない敗北感にまみれ、もはや直立する力もないと泣き言を言いそうになる。でも、先週土曜日に私たち「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」主催の、島々の自衛隊基地建設の現場であらがう人たちを招いて開いたシンポジウムに来てくださった与那国、石垣、宮古島の方々から現状を聞くにつけ、とてもじゃないが弱音なんか吐いていられないと思いなおす。一方的に軍隊を押し付けられ、地域社会が壊れていったこの痛々しい年月に、いったい誰が責任を取れるというのか?

「沖縄県民はフロリダにでも逃げればいい」「沖縄の人は今、反対運動ではなく避難訓練をするべきでは?」などと書き込むネット民よ。軍隊と戦争を人の土地に押し付けたつもりなのだろうが、今進められている日米共同作戦が本土も戦場にしてしまうものだと何度言ったら自分のことだと気づくのか?

まだよく解らないという人は『また「沖縄が戦場になる」って、本当ですか?』というブックレットを私たちの会で作っているので、ぜひ入手してほしい。沖縄が戦場になっても自分は助かると考えている知人や家族には、1冊500円なのでぜひ購入してでも渡してほしい。今関心のない人も犠牲者になるのだから。そして後で気づいても遅いのだから、今危機を共有しなければ手遅れになってしまう。

先週、母の実家の足尾銅山(栃木県)に墓参りしたついでに、日光東照宮を48年ぶりに訪ねた。久しぶりに左甚五郎の「三猿」、いわゆる「見ざる・聞かざる・言わざる」を見た。もともとは、悪しきものは見ない、聞かない、悪いことは言わない、という教えなんだそうだが、私には今の日本人がこの国を転落させた病巣を見る思いがした。不正義や矛盾があっても目をつぶり、楽なものしか見ない。困っている人の声は聞かない。誰かが声を上げないといけないと知っていても、自分が損をするから言わない。しかしそれでは、太平洋戦争に突き進んでいく日本をどうにも止められなかった戦前の愚かな日本人と、何ら変わらないし、だからこそ同じ運命を辿ろうとしているだけなのではないか。

余談だが、この「三猿」は日本以外の国々でも少しずつ形を変えて教訓として使われているそうだ。異色なのは、今、私たち日本人を脅して、すかして、自己都合の戦争に協力させるばかりか土地を戦争に使わせてもらおうと企んでいるアメリカの情報機関にも、この見ざる・聞かざる・言わざるの3匹の猿が職員向けの看板に描かれていることだ。そこには、こうある。

「ここを出るときには、君たちがここで見たこと、聞いたこと、やったことは持ち出すな」

笑えない話である。左甚五郎もさぞ、現代の国情を嘆いているだろう。

(マガジン9より転載しました。https://maga9.jp/221116-1/

三上智恵(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会発起人)

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

ISF主催トーク茶話会:川内博史さんを囲んでのトーク茶話会のご案内

ISF主催公開シンポジウム:「9.11事件」の検証〜隠された不都合な真実を問う

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

 

 

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

「ノーモア沖縄戦の会」は「沖縄の島々がふたたび戦場になることに反対する」一点で結集する県民運動の会です。県民の命、未来の子どもたちの命を守る思いに保守や革新の立場の違いはありません。政治信条や政党支持の垣根を越えて県民の幅広い結集を呼び掛けます。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ