【特集】ウクライナ危機の本質と背景

来るべき「中国との戦争」とCNASの役割(下)―バイデン政権と最も近い関係にあるシンクタンクの内幕―

成澤宗男

写真説明:2015年12月に、CNASが開催したフォーラム。左は当時の統合参謀本部議のジョセフ・ダンフォード。右がCNASの創立者でワシントンにおける国家安全保障の有力オピニオリーダーでもあるミッシェル・フロノイ。

 

前項で触れたCNASの昨年5月のTTXについては、それを下地にして同年翌月に発表された提言書『危険な海峡』(注1)によると、国防総省に対し「即時に取るべき措置」として「長距離精密誘導兵器と海中戦闘能力(注=攻撃型潜水艦を指す)への継続的投資」と「インド太平洋地域に追加して利用できる基地の開発」を要求している。

同じように昨年のTTXを下地にしてこの2月に刊行された提言書『瀬戸際を避ける』(注2)に至っては、「軍事的エスカレーションを慎重にマネージするための核兵器と通常兵器の統合」を求め、両兵器使用の「創造的な概念の開発が必要である」としている。
これこそは中国との戦争で核兵器と通常兵器の敷居を一挙に低め、核の応酬を最初から排除しない戦争計画を立案しろと迫っているのに等しい。

何よりもこれらの提言書には、米国が1972年2月27日の「上海コミュニケ」や1979年1月1日の「米中国交樹立共同コミュニケ」、さらには1982年8月17日の「中華人民共和国とアメリカ合衆国の共同コミュニケ」で示された「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分である」という原則への繰り返された同意という、これまでの外交上の経緯が完全に欠落している。

この三つのコミュニケの趣旨に従うなら、台湾との紛争は中国の国内問題であり、米軍が介入すれば内政干渉となり、また介入できる根拠も存在しない。

のみならず、「米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはないこと、台湾に対する武器売却は質的にも量的にも米中外交関係樹立以降の数年に供与されたもののレベルを越えないこと、及び台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりであることを表明する」(中華人民共和国とアメリカ合衆国の共同コミュニケ)という文言についても、あたかも存在しないかのような認識だ。

CNASの提言は「一つの中国」という米国の建前を完全に形骸化し、蔡英文一派を利用して台湾を対中国戦争に向けた挑発の口実に使おうとする主流派の狙いを代弁している。
無論、他国との条約や協定を都合が悪くなれば一方的に破棄するのが常習の米国にあって、CNASが例外ではあり得ない。
しかしながら政権への影響力から、その欺瞞性に寛容であるべきではない。


軍事企業の献金がCNASを支える

同時に問題にされるべきは、一見すると軍事合理性や厳密な情勢分析に基づき「専門家」によって構成されているかのようなCNASの「提言」が、果たしてどこまで確かな客観性を有しているのかという点だ。そうした疑念は、CNASの財政事情に目を転じると避けがたく湧いてくる。

リベラル派のシンクタンク「国際政策センター」(CIP)が20年10月に刊行した報告書『米国政府とトップから50の国防総省契約企業がシンクタンクに献金している』(注3)によれば、14年から19年にかけてそうそうたるシンクタンクが国防総省を始めとする政府機関や軍事企業、各種団体等から集めた資金額は、以下の順番になる。

①RAND研究所                 12億910万ドル
②CNAS8                94万6000ドル
③大西洋評議会            869万7000ドル
④新米国研究機構           728万3828万ドル
⑤ジャーマン・マーシャル財団           659万9999ドル
⑥CSIS                504万ドル
⑦外交問題評議会           259万ドル
⑧ブルッキングス研究所           248万5000ドル
⑨ヘリテージ財団            137万5000ドル
⑩スティムソン・センター              134万3753ドル

トップのRAND研究所は、後に空軍として独立する米国陸軍の航空部門が創立した経緯から国家との関係が極めて密接で、資金の大半が国防総省を筆頭に政府機関から寄せられる。

同じシンクタンクといっても別格だが、それ以外のシンクタンクでCNASが献金額の多さを誇るのは、やはりその政権への影響力の賜物かもしれない。
しかも、国防関連企業の依存の高さが目立つ。
「CNASへの献金者のトップは、ノースロップ・グラマン(236万ドル)で、次がボーイング(96万ドル)、国防総省(60万ドル)の順だ。

大半の献金は政府と国防総省契約企業から寄せられているが、2019年に限るとうち半分の収入が、ロッキード・マーチン、ボーイング、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズというトップ5社によるものだ。
CNASは、国防総省契約軍事企業からの献金額の多さ―他のあらゆるシンクタンクよりそこからの献金が多い―と、数十社という献金を受けた企業の幅の広さの両方で有名である」(注4)

CNASの最大の資金提供者である軍事企業として知られるノースロップ・グラマンが開発したステルス戦略爆撃機のB-21。中国との戦争を念頭に開発したとされ、2025年までに実戦配備の予定。

 

CNASの最大の資金提供者である軍事企業として知られるノースロップ・グラマンが開発したステルス戦略爆撃機のB-21。中国との戦争を念頭に開発したとされ、2025年までに実戦配備の予定。

 

ノースロップ・グラマンが最大の献金者

さらに、軍産複合体の民間分析機関として名高い「回転ドア・プロジェクト」(REVOLING DOOR PROJECT)が2021年2月にCNASに特化して発表した報告書『軍産シンクタンク複合体 CNASの利益相反』(注5)では、以下のように記述されている。

「CNASは、多岐にわたる倫理上の問題を引き起こしているワシントンのシンクタンクの中で特別の存在ではなく、我々の報告書に記載されているような様々な行動は、すべてより厳しく監視されるべきだ。

しかしながらCNASの活動に見られる利益相反の規模と範囲は、米国が(トランプ前政権のような)利益相反に満ちた政権からの歴史的に困難な移行を完結させ、バイデン新政権が世界最強の国家の外交方針と国家安全保障のアジェンダを運営する(CNASに関係した)新たなスタッフを引き連れている現在、政治的腐敗の深刻な懸念を際立たせている」

加えて注目すべきは、CNASが「2014年から2019年にかけて、国防総省と契約した軍事企業からの資金を最も多く受け取っている唯一のシンクタンク」(注6)であるのみに留まらず、そこで占めるノースロップ・グラマンの圧倒的な献金額だ。

前出の「国際政策センター」の報告書には、14年から15年にかけて、各シンクタンクへの献金総額で、上位5社の国防総省契約企業が掲載されている。
それによるとノースロップ・グラマン(455万1252ドル)、レイセオン・テクノロジーズ(283万ドル)、ボーイング(274万6075ドル)、ロッキード・マーチン(267万ドル)、エアバス(214万ドル)の順で、ノースロップ・グラマンが飛び抜けて高額になっている。

そして同社の「236万ドルというノースロップ・グラマンの全献金額の半分以上が、CNASという一つの団体にだけ注ぎ込まれている」(注7)のだ。
同時にノースロップ・グラマンとの関係で、CNASの利益相反の例証と指摘されているケースも存在する。

米空軍は2022年12月2日、ノースロップ・グラマンの最新鋭ステルス爆撃機のB-21レイダーを、カリフォルニア州パームデール空軍基地で発表した。
B-21は対中国戦を念頭にして開発され、「海上での戦闘を継続し、中国の世界市場へのアクセスを阻止し、中国軍の軍艦への攻撃能力を妨害した後に出撃を開始し、中国の海岸に接近」して「中国の軍事・産業インフラを強打して服従させることを目的とした爆撃機」(注8)とされる。

1 2
成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ