AIを利用した「ニッポン洗脳」 電通と「チャットGPT」

片岡亮

「チャットGPT」の〝悪用〞
 チャットGPTが世界を席巻している。

インターネット登場以来の革新的技術とまでいわれるAI(人工知能)によるチャット(会話)でも、それ自体はスマホ以前、パソコンさえまだ普及の途上だった1980年代にもその“原型”は存在していた。

AI技術がスタートしたのは1960年代。当時アニメ放送がスタートした「鉄腕アトム」では、機械をいかに人間に近づけさせるかが夢として描かれた。その後、AI開発は1970年代に一時停滞したものの、機器の進歩によって1980年代に活発化する。

そうしてできたAIチャットは、たとえばコンピュータに「こんにちは」と入力すると、「こんにちは、とは何ですか?」と返ってくる。「こんにちは、とは挨拶だよ」と入力すると、「挨拶とは何ですか?」と返ってくる。この繰り返しをすることによってコンピュータに学習させ、最終的に「こんにちは」の問いかけの意味を理解しつつ「こんにちは。今日は良いお天気ですね」と返答させるのが最初のゴールだった。

ロボットが人間の言葉を理解し、的確な回答を導き出せるのは、私たちがSF映画でも見てきた理想形だ。ただ、質問に対する回答を用意させ、会話に似せた自動応答はできても、実用できるレベルにまで完成させるための膨大なデータ入力には、気の遠くなるような作業が必要だった。しかし、1990年代にビッグデータの処理能力が高速化すると、2000年にはその学習方法自体も大幅に効率化。自動で客対応させる「チャットボット」など次々と技術が実用化されていった。

精度が低い部分は「人工無能」なんて呼ばれ方もしたものの、日進月歩で、あっという間にAIスピーカーも一般家庭に普及。タイピングではなく音声認識で、天気を聞いたり音楽をかけさせたり、ユーザーの求めに応じて動くまでに進歩した。

現在、その技術がまた大きく進歩し、米企業がついに自然な文章を生成するAIチャットを開発したのである。あらゆる質問文に対してスムーズな回答を用意するAI。音声に置き換えれば、SF映画の「AIロボット」実現も目前。

ただし、あくまで人工知能の情報源が、主にネット上にあることがネックだ。最新バージョンでは一定の間違った情報を排除することができるとされるが、それでも質問の回答は正確とはいえず、現時点で「会話は自然だが回答の完成度は低い」段階だ。

ためしに筆者は、ある雑誌の方向性をテーマにネット上で激しく議論していた2名の男性A氏とK氏、その実名を並べて「2人の関係性は」と問うてみた。これにチャットGPTが披露した回答は次の通り。

「Aは創刊者であり、編集長を務めていました。一方、KはAの後任として編集長に就任しました。論争の発端は、Kが雑誌のコンセプトを変更したことでした。Aは、雑誌がより商業的になり、広告主の利益を優先するようになったと主張しました。一方、Kは情報をより幅広く提供し、読者のニーズに合わせたと主張していました。この論争は、メディアにおける編集方針の問題をめぐって、ジャーナリストの間で広く議論されました。今日でも、この論争がしばしば取り上げられます」

文章生成自体はスムーズでも、2人とも雑誌の新旧編集長などではない。議論の経緯も徹頭徹尾、虚偽である。正しい情報がまるで含まれておらず、AIはどこからこんなウソを導き出したのかと思うほどだ。日本維新の会の鈴木宗男参院議員も、「鈴木宗男と日本共産党の関係」と入力したところデタラメな回答が返ってきたことで、「お粗末かつ危険極まりないと感じた」「学生は機械で簡単にレポートが作られ、学力の低下につながるのではないか」「テクノロジーに振り回される社会になることを危惧する」と警鐘を鳴らしていた。

それでも、このベテラン議員は問題の本質が理解できていないように思える。チャットGPTの危険性とは、デタラメな回答による混乱とか、文章の自動作成で人が思考しなくなる、とかいう目先の話ではないからだ。

最大の懸念は、権力者や大企業がこれを悪用して社会を都合よく動かすことにある。「テクノロジーに振り回される」のではなく、「人がテクノロジーを悪用する」のである。

「世論工作」の巧妙化
 チャットGPTを使うと自然な文章で回答が得られるので、そこばかりに目が行きがちだが、この人工知能技術は前述のように、むしろ大量のデータを収集・解析することの方が主である。

そのため、まず危惧されるのが、このテクノロジーを用いた個人情報の不正利用やプライバシー侵害のリスクだ。たとえば特定の個人のソーシャルメディアを収集・解析すれば、個人情報や趣味・嗜好、考え方までを収集・リスト化することができてしまう。

近年、犯罪などのニュースがあるたび、ネット上で「人物特定」が起きる。容疑者が実名で報じられなくても、SNSなどの情報から人物が特定され、住所や家族構成・勤務先、過去の言動などが洗い出され、まとめて拡散される。回転寿司店で迷惑行為を行なった高校生も実名や学校名が“特定”されたが、それをチャットGPTにやらせれば、人が手作業で掘り出すよりも容易だ。いま多くの人がツイッター、フェイスブックなどSNSに個人情報を上げている。これを収集すれば、マイナンバーなどなくともはるかに応用性の利くデータが揃えられてしまう。

画像解析も容易になったことで、自宅周辺の写真から住所を特定することだって簡単だ。だから、これを悪用すれば犯罪にも使えてしまう。個人のスケジュールを推察し、留守である時間帯を探すこともでき、その中から高齢者を見つけ出せば、最近多発の連続強盗も増加するだろう。

ネット上の言動から誤った投資情報に騙されやすい人には、その人の取引企業を見つけ、偽の請求書や証明書を送りつけることも可能だ。これまで無差別だったスパムメールやマルウェアなど悪意のウイルス拡散も、より対象を絞った攻撃となるだろう。

そして、重要なのは悪用するのが犯罪者とは限らないことだ。大企業は顧客になりうる人々の囲い込みに走り、さらに政治や社会運動では、同じ方向性に傾きやすい特定地域の対象者を絞って働きかけをすることもできる。

偽情報や誤情報を与え、拡散させる人を選ぶことだって可能だ。ある政治的な思想や価値観に基づいた人々だけに対して、その人々が左右されやすい意見を流しているのは、すでに自民党が裏工作でやらかしていることでもある。

ただでさえネット社会では、この仮想空間を介して「騙される人」を膨大に生み出している。ステルス・マーケティングといわれる口コミを装う広告や、人気のないものを人気だと誤解させて売る商法、胡散臭い金儲け情報も無数で、違法なアダルト・コンテンツをエサにした詐欺、特定の人物を悪人に仕立て上げて攻撃させたり、果てに国家間の憎悪や人種差別にも用いられている。

最も悪質と懸念されるのは、権力者による利用だ。なにしろ、すでにAIを用いたネット世論工作は存在する。ツイッターやニュースサイトのコメント欄には、自動生成と思われる政治的な煽り投稿がたくさん見つかる。これがさらに巧妙化したらどうなるか。

もちろん、AI自体が悪というわけではない。自動運転機能など人工知能を搭載した自動車や、AIを活用しての業務の効率化、人に声を認識して会話するAIアシスタント、ユーザーの嗜好に合わせた商品を提示するシステム、医療診断や金融分析、顧客サービスなどの分野でも、すでに成功例は無数だ。

しかし、それを理由にAIの利用が無制限に広がると、人々は利便性だけでなく、他人を支配するために使うようになる可能性がある。だからこそ、チャットGPTで「テクノロジーに振り回される」ことなど、本質とズレたものといえるのだ。

政治・AI・電通
 とりわけ特定の集団による“支配”が懸念される分野が、政治とメディア、プラットフォームだ。

それでも、メディアの場合はたとえフェイクニュースを拡散する媒体や企業があっても、メディアの多様性さえ確保されていれば、それを訂正する報道によって対抗することは可能だ。同時に、受け手である私たちにとっては“一色報道”への警戒も求められる。

グーグルやアップル、フェイスブック等に代表されるプラットフォームは、いまやマスコミよりも大きな影響力を持っており、すでに市場の独占という問題を抱えている。グーグルは検索エンジン等を通じて世界中の情報を収集・整理しており、それを自社の利益に誘導することが危険視されてきた。

アマゾンのような大手ネット通販事業でも、商品の検索・購入から配送までの一連の流れがAI技術で自動化され、合理化による市場独占が問題となっている。それでも、法律により“縛り”を作ることは可能だ。

しかし、その法律を作る政治は、前述の2つと大きく性格が異なる。彼らがAIを悪用すれば、公平性が崩壊し、民主主義の危機にもつながる。

日本において厄介なのは、メディアやプラットフォームをうまく操る大手広告代理店が幅を利かせ、彼らが政治と癒着してモンスター化していることだ。特に最大手の電通は、テレビCMのシェアをはじめ、日本の広告業界で独占的な地位を築き、メディア支配と特定の企業への利益誘導が指摘されてきた。それが放置されてきた果てに、東京オリンピックの巨額汚職が発覚、日本の公金を食い物にしてきた代表格であることが明らかとなっている。

その根底にあるのが政治との癒着で、電通が特定の政治家のイメージアップに加担し、莫大な公共事業を請け負う流れがある。なにしろ広告収益を人質にマスコミは及び腰で、彼らには天敵が存在しない。そうして政治とマスコミを操ることで公正な競争を妨げ、一部権力者による支配を助けてきたのだ。

個人の意思決定が奪われる
 その電通が、いまAI事業に大きく乗り出しているという。まさに彼らにとって、人工知能が人々を支配する新兵器となるからだ。

4年前に電通のグループ企業に入社、現在、そのAI事業の一端に携わっているB氏は、「想像していたものとは違った」と驚きを隠さない。

「僕は学生時代から広告やマーケティング方面の勉強をしてきたので、まさにAI事業への参加は夢が叶った形でした。情報を集めて分析して、人々に合った商品やサービスを、より精密に提供することで、スムーズに商品を販売し、企業の利益を増やす。社会がより便利になるためのAI活用を理想として勉強してきました。

しかし、実際に働いてみるとまったく違いました。人々の動向を分析するのではなく、人々を誘導して商品を買わせるように仕組むという逆の考え方なんです。消費者にできるだけ自己決定能力を失わせていくためにはどうするか、その考え方ですべてが進んでいます。だから、情報を分析しても、その人の好みに合わせた商品の提案ではなく、こっちが売りたいものに誘導できそうな人を選別する。いま取り組んでいるデータ収集は、正直プライバシー侵害じゃないかというところに踏み込んでしまっています」

そのB氏が関わったプロジェクトは、少子化問題の解決に資するとして、国の莫大な補助金の取得を目論んだAI活用の結婚相手紹介サービスだ。人々の恋愛対象への好みをAIで収集して分析、マッチングさせるシステム作りで、両者が結婚に至った場合に生まれるウェディング関連のビジネスに、その個人情報を運用するというのである。

「ここでも好みのタイプ分析にとどまりません。結婚を成功させた方が儲かるので、利用者に自分のタイプだと錯覚させるよう誘導するのです。まさに人の意思決定を奪うものだと思います。

自然に恋愛していくのではなく、恋愛させるように仕向け、そして結婚式や、新居・家具などを売りつけていく。これを国の補助金でやろうなんていう壮大な計画です。もし半分ぐらいしかうまくいかなくても集めた個人情報はいくらでも応用できてしまうので、これは怖いです」(B氏)

ネット上で「彼女がいない」と書いただけで商売の対象者にされ、それまでに漏らした情報からパートナーが選び出されマッチングされる。これを「進みすぎた時代のお見合いサービス」程度に見ると危ないのは、「そこに国が補助金を出すのは、対象者を権力の支持者にするためでもある」からだ。

「これは旧統一教会の『合同結婚式』、教祖や幹部が勝手に選んだ人と結婚させるのと同じ仕組みです。むしろ統一教会が絡んでるって嘯く人がいるくらい。だって、教会がそこに入り込めば、信者との結婚をたくさん生み出せるわけですから」(同前)

電通自身がこのシステムを運用するかは断定できないが、少なくともB氏は自分の仕事から「いずれ電通がAIマッチングを、素晴らしいシステムだとして流行させようとするときが来る」と予告している。

「すでに『AIMIRAI』というネーミングで電通のAIプロジェクトがバンバン動いていますよ」(同前)

電通はAIプロジェクトと称し、データ収集・分析を一元管理し、マーケティングに活用して企業に提供すると打ち出している。業界内ではすでに、個人情報の悪用への懸念も囁かれているのだ。

ライバル企業の博報堂に20年以上勤めるC氏は、「われわれの仕事は、巨大になるほど、市場支配力を持って不公平な社会になる」と口にする。

「特に危ないのは政府機関からの宣伝業務の受託です。AI事業を通じて得たビッグデータを政府機関に渡すような不正があると、談合や贈収賄のリスクが増えるばかりか選挙にも悪影響が出るはずです」

電通はマイナンバー制度の業務も受注しており、すでに総務省や経産省が受注企業から再委託させる“迂回下請け”で数百億円を手にしていたことも判明した。

「マイナンバーカード取得の是非が話題ですが、その間にも、着々と電通のビッグデータ獲得は進んでいるんです。こちらの方が“本質”で、電通が企業として成長を目指すほど、競合他社を排除して市場を独占していきます。結果、大手の大型プロジェクトばかりが勝っていくでしょう。ある地方自治体の業務で電通に競り負けたのですが、最終的に予算は博報堂より高くなっていて、行政予算を圧迫していました。だいたい地方自治体が広告代理店に依存すること自体、地域振興の自立性を低下させることですよ」

当の広告業界でさえ危惧する緊急事態だ。AIという技術革新がもたらすのが利便性ではなく、人々の支配・管理であるならば、本来それを法制度で止めなければならない。

しかし、政治もすでに彼らの掌中にある。権力者と広告事業によるメディア支配で民意がまったく反映されなくなる世界が目前に見えている。これは日本どころか、人類の危機である。

(月刊「紙の爆弾」2023年6月号より)

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片岡亮 片岡亮

米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。

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