【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

コロナ対策を口実とした改憲策動を許すな! 新型コロナ「緊急事態」と改憲「緊急事態」は別物である

足立昌勝

・より活発になった改憲策動

岸田文雄首相は1月1日、2022年の年頭所感を発表した。その中でまず採り上げたのは、コロナ対策の推進である。現在直面している「感染力が極めて高いといわれるオミクロン株という新たな変異株の脅威」に対し、危機管理の要諦を踏まえて対応するとし、新型コロナとの闘いに打ち克ったならば、その先に目指すべきは、日本経済再生の要である「新しい資本主義」の実現だという。

このコロナ対策とは別に、岸田首相は憲法改正についても、こう言及した。

「自由民主党結党以来の党是である、憲法改正も、本年の大きなテーマです。国会での論戦を深めるとともに、国民的な議論を喚起していく」。

具体策こそ触れられていないが、「結党以来の党是である憲法改正」という言葉からは、自民党が従来推進してきた改憲論議、特に「改憲4項目」に基づく憲法改正を指していることは明白である。

また、日本維新の会の馬場伸幸共同代表は、1月12日の記者会見で、党独自の憲法改正案を新たにまとめ、自衛隊の存在を明記する9条改正と緊急事態条項創設を盛り込む考えを示した。

馬場氏は、取りまとめの時期については「(国会の)衆参憲法審査会の状況を見極める」と述べるにとどめたが、第九条について、「自衛隊が必要なことは全国民の共通認識に近いものになっている」と説明。緊急事態条項については新型コロナの感染拡大を踏まえ、党内意見を集約する方針とした。馬場代表は質疑の中でもコロナ対策に触れ、私権の制限と公共の福祉との関係、自粛要請に伴う補償問題等を議論しなければならないと述べている。

ここに大きな落とし穴がある。馬場代表の発言を聞いた人々は、右往左往している政府のコロナ対策に対し、一つの提言をしたと受け止めるのではないだろうか。

The title of the newspaper is Declaration of Emergency.

 

そうではない。コロナ対策とは新型コロナ特措法の議論であり、憲法問題ではない。

新型コロナ特措法は、性善説に立ち、市民の善意の下で成立している。それは、出発点が自粛要請であることからも明らかである。ところが、すでにその前提を超えて、行政による命令が出され、飲食店はそれに従わざるを得なくなっているのが現状である。

そんななかで「議論が必要」とされた私権制限とは何なのか。

コロナ対策を考えるにあたっては、地域に住む市民と、生活必需品を扱う商店や飲食店という2つの側面から考えなければならない。これまで、クラスターの可能性が想定される飲食店を対象とした営業制限が中心に据えられてきたが、市民生活に対しても、それなりの対策が必要となるかもしれない。

しかし、そうだとしても、新型コロナ特措法の枠内で考えるべき問題であり、憲法改正が必要だという議論にはならない。
これについて、筆者は「救援連絡センター」機関紙「救援」の「年頭の辞」(633号)で、次のように述べた。少し長いが、ここに再掲する。

すでに始められている憲法審査会では、緊急事態法制の導入が議論されている。その契機となっているのが、コロナ対策である。一昨年以来、コロナ対策の切り札として利用されてきた緊急事態宣言では生ぬるく、より一層行動制限をすべきであるとの主張を念頭に、ロックダウンを導入すべきであり、それには、憲法に緊急事態規定を設けなければならないとの主張である。

これは、「緊急事態」という言葉としての同一性を利用した暴論である。憲法改正で予定されている緊急事態は、事態が発生した時の対応として、三権分立に基づく権力(立法・行政・司法)を停止し、独裁的権限を付与しようというものである。これに対し、コロナ対策としての緊急事態宣言は、民衆の行動制限を行うものであり、権力そのものについては通常のままである。

これらを混同し、コロナ対策を口実とし、緊急事態法制を突破口として憲法改正を推進しようとするのは、論理なき数の暴力である。総選挙では、憲法改正が論点となっていなかった。与党や維新は、結果として、3分の2を獲得しただけである。その3分の2に胡坐をかき、あたかも憲法改正を国民から委ねられたと錯覚し、憲法改正を推進せんとすることは、国民に対する裏切りであり、選挙結果を無視したものである。

・「ゆ党」から「よ党」に近づく国民民主党

泉健太代表の就任に伴い、「政策提案型政党」を目指すという立憲民主党は、このままいけば、「よ党」と「ゆ党」との間に埋没してしまう危険性がある。それを解消するためには“対案”ではなく、与党の政策には徹底した分析と批判を加えつつ、自らの立場での政策を提言すべきである。

立民においてそのような姿勢が見られたのが、昨年12月16日に開催された衆議院憲法審査会だった。

同審査会では自由討議が行なわれ、与党と国民民主党はコロナ禍を踏まえ、緊急事態条項に関する議論を主張、維新は統治機構改革を訴えた。一方、立民は「改憲ありきであってはならない」として、国民投票のCM規制の議論を優先するよう要求。それぞれの党の立場は選挙前とは異なり、与党や維新・国民民主が、立民に集中砲火を浴びせた形となったと報じられている。

立民の奥野総一郎衆院議員は「憲法の足らざるところを調査し、白紙から一歩一歩議論すべきだ。4項目ありきの議論に反対だ」と表明。「国民投票の公平公正を確保するため、CM規制の議論優先をお願いしたい」と述べた。

1月9日付の産経新聞はこう報じた。

「立憲民主党の泉健太代表は9日のNHK番組で、憲法改正を目指す自民党に懸念を示した。『今の憲法の決定的な問題点は何か。今の憲法を変えなければ国民生活に支障のあるものは何かと逆に問いたい』と述べた。泉氏は『現行憲法でもわれわれは十分に繁栄してきたし、自由や民主主義を享受してきた。現行憲法に決定的な課題があるならば、それをまず示すのが憲法改正(を訴える)側の役割だ』とも語った。

昨年12月の衆院憲法審査会では、立民などを除く多くの政党から新型コロナウイルスの感染拡大で浮き彫りとなった課題に対処するための改憲論議が必要だとの意見が相次いだ。 国民民主党の玉木雄一郎代表は憲法審で『感染爆発の真っただ中で(衆院議員の)任期満了を迎えていた場合、現行憲法下では総選挙を実施せざるを得ない』と指摘。その上で『緊急時に任期の特例を定める議論は速やかに行う必要がある。感染が抑えられている今だからこそ国家統治の基本的な在り方を静かな環境で議論していきたい』と述べた」。

玉木代表に限らず、昨年から続くこの種の主張は、緊急事態条項を創設する理由としてコロナ対策を利用しているにすぎない。泉代表が言う通り、なぜ改憲が必要なのかの説明を、提案する「よ党」と「ゆ党」がすべきであり、彼らにはその義務がある。

審査会に先立って、11月9日には衆院選で野党第二党になった維新が、野党第一党の立民と距離を置く国民民主党と幹部会談を開き、国会で独自法案の提出や憲法改正論議などで協力することを確認している。

同日付の東京新聞はこう報じた。

「改憲論議について馬場氏は会談で『憲法審を開くのが第一歩だ。立民と共産は開催を妨害してきた』と指摘。来年の参院選に合わせて改憲の国民投票を行うことに意欲を示した。榛葉(賀津也・国民民主党参院議員)氏も憲法審の定例開催に賛意を示し、歩調を合わせた。これまで国会で他の野党と連携せず独自に活動してきた維新は、衆院選で議席を公示前の11から41に増やして躍進。一方の国民民主も、衆院選で主要野党による政策協定に加わらずに議席を増やし、国会対策での野党連携の枠組みから離脱することになった」。

このような国民民主党の「ゆ党」から「よ党」への接近は、国会の与野党構成に大きな影響を与えた。結果、立民を中心とした野党協力が相対的にその比重を高めることになっている。

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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