【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第85号:⑪エアーシー・バトルから海洋プレッシャー戦略へ

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●エアーシー・バトルの限界
自衛隊の南西シフトは、すでに見てきたように、琉球列島――第1列島線上への地対艦・地対空ミサイル部隊の配備として実戦態勢に入りつつあるが、この自衛隊の戦略は、アメリカの2010年エアーシー・バトル構想、そして、2012年のオフショア・コントロール戦略に基づき、策定されてきた(③の項目で概要を説明してきた)。
これは、自衛隊版のA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略と言われ、「拒否的抑止戦略」(DBD)とも言われてきた。
しかし、このエアーシー・バトル構想――オフショア・コントロールの限界克服の修正戦略が、2019年アメリカ政府の有力なシンクタンクCSBA(戦略予算評価センター)から「海洋プレッシャー戦略」として提案された。このCSBA提言の新戦略の検討を始める前に、そもそもエアーシー・バトル、オフショア・コントロールとはどういう戦略であったのか、またその限界、問題点とは何であったのかを少し整理しておきたい。

米軍の対テロ戦争の主戦場であった、イラクからの撤退の見通しがたった2009~10年ころから、アメリカの対中戦略は、再始動していく。2009年、国防総省の毎年度の報告『中国の軍事力』が発表され、ここで初めて中国の「接近阻止・領域拒否」戦略(アクセス阻止(Anti-access A2)及び領域拒否(Area-denial AD)、いわゆるA2/AD能力が問題にされる。これが、中国による「第1列島線・第2列島線の防衛論」である。

●中国本土攻撃を想定するエアーシー・バトル
このエアーシー・バトルの構想の核心的内容は、「米国の行動の自由」(アジア太平洋地域の覇権)に挑戦する中国の「アクセス阻止・エリア拒否戦略」に対抗して、陸・空・海・宇宙・サイバー空間の全ての作戦領域において、統合作戦を遂行するということである。これは、中国のA2/AD能力、つまり、中国の海空戦力・対艦・対地ミサイルによる第1列島線・第2列島線への接近拒否に対抗する、 アメリカ側の「対抗的中国封じ込め戦略」(2012年「米国国防指針」)でもある。
しかし、これは単なる第1列島線への封じ込めには留まらない。エアーシー・バトル構想は、また「ネットワーク化され、統合された部隊による縦深攻撃で、敵部隊を混乱、破壊、打倒すること」(2013年「エアーシー・バトル室」から)でもあり、この「縦深攻撃」とは、中国本土への攻撃のことであり、中国の戦略軍司令部の破壊まで想定しているのである。
ところで、アメリカの民間のシンクタンクで、米国防総省に影響力を持つというアーロン・フリードバーグは、「統合エアーシー・バトル構想」の想定する作戦について、具体的に次のように分析する。
エアーシー・バトル構想では、まず初期の作戦として中国軍の初動の攻撃に耐え、対処能力・抗堪性を強化することがポイント。すなわち、警戒監視の強化、航空機の分散配置、基地防空の強化などによるミサイル攻撃の被害を局限化する(この初期の被害を抑えるために、第7艦隊空母打撃群のグアム以遠への後退も想定)。

そして、第1段階の作戦として、ミサイル攻撃の効果を低減するための中国の情報・通信などの戦闘ネットワークに対する攻撃作戦、長距離攻撃システム(OTHレーダーや通信中継プラットホームなど)に対する制圧作戦、中国の宇宙システムへのサイバー攻撃などを実施し、さらに「日本の防空・ミサイル防衛網を強化、東シナ海から琉球列島線まで航空優勢を確保」「人民解放軍の東・南シナ海へのアクセスを拒否するため主として米国・同盟国の航空戦力により対水上戦闘を実行」「対潜水艦バリア作戦(ASW)を継続」するとしている。
さらに、第2段階の作戦では、「人民解放軍の対潜水艦戦脅威が損耗するまで輸送船団護衛任務などを継続」「後方地域に展開された人民解放軍を無力化」「中国の海上輸送を中断するため遠方封鎖を実行」するという。
一見して明らかなように、エアーシー・バトルによる作戦構想は、中国本土の戦闘ネットワーク・長距離ミサイル基地・航空基地などのプラットフォームへの攻撃破壊作戦、つまり、通常兵器による中国本土の指揮中枢・主要基地の攻撃を行う「大規模戦争」を想定している。そしてまた、「中国の海上輸送の遠方封鎖」という、海洋戦争まで想定するのであるから、エアーシー・バトル構想は、米中を中心にした「通常兵器による全面戦争」であり、不可避的にこれは核戦争に発展する。

このような、アメリカのエアーシー・バトルの発表後、自衛隊制服組もこの新しい戦略の研究に必死になって取り組み、エアーシー・バトルに合わせた日本の役割――日米共同作戦態勢づくりに着手した。これについて、自衛隊内の研究資料では「米軍のエアーシー・バトルを分析し、自衛隊が動的防衛力をもって、共同作戦を実施することを明らかにすることは、将来のエアーシー・バトル作戦における日米共同作戦構想を策定し、それを踏まえた日本の防衛態勢を構築、エアーシー・バトルに対応する我が国の防衛力整備を行う」とし、エアーシー・バトルに合わせた日本の防衛力整備が、うち出されているのである。

こうして2010年以後、本格的に始動した南西シフト態勢――琉球列島への自衛隊ミサイル部隊配備計画は、この米軍のエアーシー・バトルに合わせた対中戦略の本格的発動態勢づくりであり、そのための防衛力整備計画であった。
しかし、見てのとおり、エアーシー・バトル構想は、中国本土奥深くの司令部などの縦深攻撃を想定しており、あらかじめ中国との通常型全面戦争を予定するというものであった。こうした、中国との通常型の全面戦争が、核戦争に発展しないという保証はどこにもない。米中は核大国であり、通常型の戦争で敗北に陥りそうな両国のいずれかが、最後の手段として核戦争に踏み切らないという保証はないのである。
この破局的な危機に発展する可能性の大きいエアーシー・バトルに対して、米国の内部からその修正の提案が出された。その1つはトマス・X・ハメスの提案した「オフショア・コントロール」(ハメスは元海兵隊大佐で米国防大学上級研究員)という戦略構想であり、ラウル・ハインリッヒ(オーストラリア国立大学)が示した「海洋拒否戦略」などである。

●オフショア・コントロールと「海洋拒否戦略」
オフショア・コントロールとは、陸地を離れた沖から海岸に向かってコントロールすること、つまり、中国沿岸を東シナ海の沖合からコントロールするという意味合いだ。
この構想は、エアーシー・バトルという構想が、中国本土の奥深くまで戦争を拡大し、核戦争にまでエスカレートしかねないという危惧から、この想定される対中戦争を限定・制限しよう、という要求から出てきたものだ。
ハメスは、オフショア・コントロール戦略について、その目標は「(エアーシー・バトルと違い)中国との戦いで決定的勝利を願うのではなく、中国本土のインフラに限定的なダメージしか与えない経済的消耗戦を仕掛けつつ、膠着状態をつくって紛争を終了させようとするもの」であり、「紛争は長期戦になるが、核戦争にエスカレートする可能性を最小限に抑える方法を選ぶ」としている(『戦略研究』戦略研究学会・2013年)。
この立場からオフショア・コントロール戦略は、「第1列島線の内側を中国に使わせないように『拒否』し、第1列島線の海と空域を『防御』し、その列島線の外側の空域と海域を『圧倒』する」という戦略構想である。
このハメスの提唱するオフショア・コントロール戦略は、確かに米中の紛争をエスカレートさせない戦略として、具体的である。おそらく、自衛隊の当初の南西シフト態勢は、このオフショア・コントロールを背景として策定されたと思われる。それが「拒否的抑止戦略」と言われている。
さて、このオフショア・コントロール戦略に対して、これをより具体化し、より強化発展させたのが、ハインリッヒなどが提唱する「海洋拒否戦略」だ。この「海洋拒否戦略」についてのまとまった内容としては、アーロン・フリードバーグ(プリンストン大教授)の『アメリカの対中軍事戦略』(芙蓉書房出版)が詳細に記している。

それによれば、「海洋拒否戦略」は、米軍と同盟国軍による海洋遠隔地のコントロール=遠距離海上封鎖作戦で始まり(マラッカ海峡など)、遠隔地のいくつかのチョーク・ポイントを通過する中国の原油タンカーを統制・封鎖するという。そして次には、中国近海全域で中国海軍艦艇・商船を撃沈し攻勢に出るとされる。
「小型・高速かつ対艦巡航ミサイルで武装した水上艦は、第1列島線に沿って設置された沿岸陣地から発射されたミサイルとともに、中国沿岸部への主要アプローチをいくつか封鎖」する。第1列島線内では、この作戦の大半は、限定的航空戦・潜水艦・機雷・水中無人艇で行われる。
また、この「海洋拒否戦略」の目標は、第1列島線内に海洋の無人地帯を作り出すことにおかれ、「琉球列島の小さな島々、フィリピン群島の一部、さらには韓国沿岸に配備された対艦ミサイルと水中監視システムを組み合わせることにより、攻勢的な対潜水艦戦は、中国海軍の水上艦艇ならびに潜水艦が第1列島線を突破し、西太平洋の広大な海域に打って出ることを、きわめて困難にする」という。

「海洋拒否戦略」による海上封鎖体制は、戦略の根幹をなしており、より具体的に作戦化されている。それは、まず第1段階として、米国と同盟国の共同の航空力・海軍力を使用して、中国の石油・天然ガス・貿易などの海上輸送を遮断し、中国商船の同国の港への出入を阻止・封鎖する。このためには、「中国の沿岸部直近から始まる海上封鎖」と「第1列島線に沿っての海上封鎖」――近距離海上封鎖が、戦略上のポイントとされる。そして、この海上封鎖は、遠距離海上封鎖――マラッカ海峡――ロンボク海峡(インドネシア群島)――スンダ海峡での中国船の停船・拿捕などの海上封鎖まで広げられている。
これらの海上封鎖によって、中国の世界貿易のほとんどを占める輸出入も封鎖され、中国の海上交通・海上貿易が完全に遮断されるという。これは例えば、中国は国内総生産の50%を輸出入に依存し、石油輸入量の78%、海外貿易の85%が海上経由としているが、これらの全てを遮断するという。

さて、これらのエアーシー・バトル、オフショア・コントロール、海洋拒否戦略の、ともに共通する基本的問題が「中国軍の初動のミサイル飽和攻撃に耐える、対処能力・抗堪性」であり、「警戒監視の強化、航空機の分散配置、基地防空の強化などによるミサイル攻撃の被害の局限化」である。特に、中国軍の初期ミサイルの飽和攻撃の被害を抑えるためには、米軍は「第7艦隊空母打撃群のグアム以遠への後退」も想定しなければならなくなっている。
つまり、沖縄―本土などに前方配置された米軍は、初期戦闘における中国による圧倒的なミサイル飽和攻撃を逃れるために、空母機動部隊がグアム以遠に撤退するだけでなく、在沖米軍航空基地をはじめとする戦闘機などもまた、日本全国ないし本土以遠に「分散配置」し、撤退するということだ。
他の項で述べてきたがこの事態は、米軍が戦争の初期から、西太平洋の「制海権・制空権」を手放し、放棄するという歴史的事態の出現である。第2次世界大戦以来初めての事態だ。同時に、この戦争の初期段階では、南西シフト態勢をとる自衛隊だけが、単独で戦争の全面に立たされ、琉球列島――第1列島線上での孤立した戦いを強いられるという戦闘様相を呈する。
こうした状況の中、CSBAのクレピネビッチが、2017年提言の「群島防衛」(Archipelagic Defense)および、このクレピネビッチ提言を補強し発展させた、CSBAの2019年の「海洋プレッシャー戦略」が、現在、最新のアメリカの戦略として検討され、実施されつつある。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

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