まだ止める方法はある 暴走する維新政治 大阪カジノ・万博の無謀

西谷文和

・7兆円を超える「カジノムラ」

事業計画に戻る。カジノの粗利益に約4900億円を見込むということは、賭場にはいくらのカネが舞うのか?

「事業者のテラ銭は一般的に七%といわれています。つまりオリックスとMGMが4900億円稼ぐためには約7兆円のカネがルーレットやバカラ台、スロットマシーンを介してやり取りされるのです」。

こう話す桜田教授によれば、日本中央競馬会(JRA)の年間売上高が2兆3000億円だという。夢洲カジノはその3倍ものカネが舞うことになる。

問題はさらにある。「事業者から国や大阪に入る金はカジノ管理委員会が徴収する」とされている。驚くべきことに、カジノ事業者には所得税も固定資産税もかからない。売上の30%を税ではなく「納付金」として国と大阪に献上する。これでは税務署を通さないのでカジノの闇が見えなくなる。

カジノ管理委員会は、政府が任命した5名の委員と95名の職員で構成される。しかし、福島原発事故の際には、政府が任命した御用学者がテレビに出てきて「まだメルトダウンしていません」「直ちに健康には害がありません」と言った。現実はメルトダウンして、放射能が大量にばらまかれていた。御用学者たちがウソをついていたことを、私たちは忘れていない。

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パチンコ台は1台30~40万円程度とされる。夢洲カジノに納入されるスロットマシーンはさらにエンターテインメント性を加えて高額化するだろう。6400台分がパチンコメーカーに転がり込み、おそらくカジノもパチンコと同様「新装開店」するから、機械は数カ月ごとに更新される。

ギャンブル中毒者が増えれば、「太い客」をつかむサラ金業界が喜ぶ。夢洲は海に浮かぶ無人島なので、そこへのアクセスとして地下鉄延伸工事が必要になり、さらにIRビルや夢洲新駅などでゼネコンが潤う。そしてオリックスやMGM、ゼネコンに貸し付けるメガバンクが巨額の利潤を得る。

警察官僚はカジノ事業者に天下る。そしてその筋の人々はマネーロンダリングに精を出す。たとえば麻薬で1億円を儲けた反社がカジノでその金をチップに替えてそれをまた換金すれば、汚れたカネを追跡できない。

カジノ業者のCMがテレビにあふれれば、マスコミはカジノの闇を暴かない。そう、原子力ムラならぬ「カジノムラ」が出来上がるのだ。

大阪で橋下・松井・吉村がテレビに出ない日はない。大阪府は100万人あたりのコロナ死者数が326.8人(21年9月現在)と全国最悪。大阪市に至っては400人越えで、インドより悪かった。

その背景に、08年の橋下大阪府知事就任以降、コロナのような場合に社会の医療体制を根底で支える公務員の病院職員について、全国六%減に対し、大阪はダントツで50%に半減させていた事実。人口280万の巨大都市である大阪市に保健所が一つしかない事実。こうした事実をマスコミはほとんど報道せず、「なにわのプリンス吉村」「密かに総理大臣を狙ってる?」などと持ち上げている。

今年の正月にも毎日放送が橋下・吉村・松井の3人を登場させ、延々と維新の宣伝をさせていた。維新の応援団として先頭を走っていたのが読売テレビで、毎日放送は維新批判も展開していたのだが、ここに至って「毎日よ、お前もか」状態だ。

さらに、ネットの普及で広告費が激減している在阪テレビ局は番組制作費を大幅に削られている。ゲストを呼べば出演料がかかるが、吉村&松井は公人なのでギャラゼロ。かくして在阪のテレビに彼らが出演してベラベラとウソやハッタリを述べる。

「イソジンや雨ガッパなど色々あったけど、まぁ頑張ってはるねんなあ」。

有権者の中に虚構のイメージが出来上がり、維新が選挙に勝利する。維新が勝利すれば、さらにテレビへの露出が増えていく。この悪循環を断ち切らないと、市民はコロナで殺され、財政は万博とカジノで破産するだろう。

・夢洲の「脆弱地盤」問題

さてその夢洲だが、かつて松井は「IRには一切税金を使いません」と言っていた。ところが夢洲の周辺整備に1200億円、土壌改良に790億円の税金を投入する羽目になった。

夢洲は産業廃棄物、一般ゴミの焼却灰、建設・工事残土などで埋められた人工島だ。1987年から埋め立てが始まったが、06年まで埋め立て土砂を規制する法律が整備されていなかった。87年からの19年間、どんなゴミでも埋め立て放題だったのである。

大阪湾は淀川や安治川、尻無川に大和川と、河川からの土砂でどんどん浅くなっていく。なので、海底を浚渫(海や川などの底を掘り取ること)しないと大型船が停泊できない。

大阪湾にはゴミの焼却灰に含まれるダイオキシンや工場からの六価クロム・PCB、建設残土にはアスベストが入っている。そんな土砂で埋められた夢洲なので、土壌改良工事が必要になった。私は19年と20年に特別に許可をとって夢洲のカジノ&万博予定地を視察したが、ドロドロの液体が池に流れ込んでいた。

大阪・関西万博のイメージ図を見ると、「ウォーターランド」という、川や池をたくさん組み合わせたような地区がある。

なぜ池があるのか? 地中に染み込んだ有害物質は、大雨が降れば地面に浮き上がってくる。放っておけば有害物質を含んだ雨が海に染み出してしまう。だから島内に池を作って、そこで汚染水を浄化してから大阪湾に流している。万博はその池を囲んで開催される。万博のテーマ「命輝く未来社会のデザイン」は最早ブラックジョークである。

そもそも夢洲の土地は高いビルを作ることを考えて埋め立てられてはいない。ズブズブの地面に杭を打ち高層ビルを建てても、やがてピサの斜塔みたいに傾くのではないか。地震が来たら液状化するのは間違いない。

夢洲は台風にも弱い。18年9月、台風21号が大阪を直撃した。夢洲に積み上げられていたコンテナが風で飛ばされ、大阪湾に投げ出された。お隣の咲洲ではフェリー乗り場に停車していた車にコンテナが飛んできてペシャンコになった。近隣の関西国際空港は高波で沈み、旅行客3000名が関空島に閉じ込められた。そう、海に浮かぶ人工島は災害に対して脆弱なのだ。

そんなところで2025年に万博を開催する。万博は5月から11月、つまり大半が夏の台風シーズンに開催される。

繰り返すが夢洲は地盤がズブズブで、パビリオンはすぐに取り壊せるように仮設建設だ。デザイン重視で作られるから風や大雨には弱くて脆い。台風は年々大型化し、日本列島を襲う地震も活発期に入っている。

夢洲へのアクセスは橋とトンネルのみ。もし期間中に大型台風に襲われたら? 18年に起きた大阪北部地震のような中規模の地震が起きたら?橋とトンネルは通行止めになり、数万人もの入場者はヘリコプターか救難ボートでしか脱出できなくなるだろう。取り残された人々は水分不足による熱中症、狭い避難所でのエコノミー症候群などに悩まされ、下手をすれば国際的な訴訟に発展するかもしれない。
前出の桜田教授が力を込めて言う。

「夢洲カジノを止める有効な方策があります。 ターゲットは銀行です。MGMとオリックスに融資するのが三井住友銀行と三菱東京UFJ銀行。約4000億円の資金調達がないとカジノ業者は開業できません。 銀行にはSDGs(持続可能な開発目標)を守るための『責任銀行原則』があって、これは武器やポルノ、ギャンブルには投資しない、という原則です。夢洲カジノへの融資は、この原則にモロに違反するので『銀行はカジノに金を貸すな!』という世論を高めれば、まだまだカジノを止めることができるのです」。

つまり、今後の世論がカギを握っている。

カジノはいったん開業すれば35年続く。業者が延長申請をすればさらに30年。つまり1回誘致すれば65年間はカジノが続く。その間にカジノ反対の知事が当選して、「夢洲から撤退せよ」と迫ったとしよう。その場合、多額の違約金が発生してしまう。「松井と吉村が認めてくれたのに、今になって撤退とは何ごとか!」ということだ。止めるのは今しかない。
(文中・敬称略)

(月刊「紙の爆弾」2022年3月号より)

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西谷文和 西谷文和

大阪府吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリスト。NGOイラクの子どもを救う会代表。新刊『自公の罪 維新の毒』(日本機関紙出版センター)。

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