まだ止める方法はある 暴走する維新政治 大阪カジノ・万博の無謀

西谷文和

・カジノができたらどうなる?

「2025大阪・関西万博」は、大阪湾に浮かぶ人工島の夢洲で開催(5月3日~11月3日)される。そして、その4年後、29年にカジノが開業する予定だ。元大阪市長の橋下徹や現市長の松井一郎、府知事の吉村洋文をはじめとした大阪維新の会は、反対する人々の声を封じ込めながら、カジノを強引に進めてきた。いわく、大阪の財政を立て直す、雇用が生まれる、カジノで街の活性化……。

Osaka, Japan – May 3, 2018 : Nankai 50000 series train with Osaka-Kansai Japan EXPO 2025 promotion at Kansai International Airport Station in Osaka, Japan.

 

本当にそうなるのか? カジノ問題に詳しい阪南大学流通学部の桜田照雄教授に話を聞いた。

「夢洲のカジノはアメリカのMGMリゾーツと日本のオリックスが事業主体になります。最近になってオリックスがカジノ事業計画を出したのですが、それによると夢洲カジノにはスロットマシーンなどのゲーム機が6400台も設置されるのです」。

そもそもこの維新によるカジノ計画はインバウンド、つまり外国人旅行客を狙ったものとされた。しかし、計画はコロナ禍で一変して、今や日本人がカモにされることになるという。

コロナ前までの大阪ミナミやキタの繁華街には中国や韓国、欧米などの観光客であふれかえっていた。この海外からの富裕層を呼び込むのがカジノで、大量の外貨を落としてもらおうという計画だったのだが、コロナでインバウンドはほぼゼロ。カジノはすでにオンラインが主流で、客は賭場まで足を運ばない。この業界の経営形態は一変してしまったのだ。

象徴的な事例が米ラスベガス・サンズ。「ラスベガスのカジノ王」という異名をとり、トランプ前大統領の大口献金者であったシェルドン・アデルソン(21年死去)は、当初、大阪維新の会と手を組み、「大阪は素晴らしい」と持ち上げていたのだが、横浜市が立候補すると大阪を袖にして横浜へ。コロナがやってくると、その横浜からも撤退したのだ。

大阪カジノは当初七つの企業が入札に参加していたが、同様の理由で三社になり、最終的にはMGMリゾーツ&オリックス連合の一社入札になった。MGMは行きがかり上大阪に残っているが、主体は日本のオリックス、つまり「日本企業が日本人客をカモにする計画」に変更されているのだ。

「現在のパチンコ人口は日本で1000万人といわれています。マカオのカジノでさえスロットマシーンは1000台弱。夢洲にその6倍以上のスロットマシーンを置くのは、間違いなくパチンコ中毒者をカジノに呼び込もうとしているのです」(桜田教授)。

その指摘通り、オリックスの担当者は昨年11月の決算説明会で次のように述べている。

「もともとインバウンド等を勘案したうえで数年前からやってきたが、今は、客は全員日本人、日本人だけでどれだけ回るか、その前提でプランニングを作っている」。

そう、狙われているのは京阪神のパチンコ愛好家なのだ。

今でもパチンコによる悲劇は後を絶たない。子どもを車に置いたまま母親がパチンコに没頭して、熱中症で死亡させてしまう事件、パチンコ代欲しさの強盗や、負けた腹いせにホールに放火する事件もあった。

そこまでいかなくても、親族や友人から金を借りまくったあげく自己破産した人、会社の金に手をつけてクビになった人、息子や娘の授業料を突っ込んだ人、そのおかげで学校を退学せざるを得なかった子どもたち……。ギャンブルにまつわる様々な悲劇が生み出されてきたが、その筆頭はやはりパチンコだ。

・「サルでもわかる」暴論

桜田教授は言う。

「それでも1分間に玉が100発しか飛ばないように設定され、営業時間も決められているパチンコはまだましです。その点カジノは底なしです。掛け金の上限がなく24時間営業で、さらに負けている客にカジノ業者が金を貸してくれるのです。それも2カ月間は無利子で」。
どういうことか?

カジノ法(IR整備法)では事業者は信用調査機関に提出された個人の信用情報に基づいて金を貸すことができる。たとえばAさんが3000万円相当のマンションを持っていたとする。業者は客がどこで働いていて、いくらの資産を持っているのか、信用調査機関のデータを持っている。だからカジノにハマったAさんには業者が3000万円まで貸し付けてくれるのだ。

カジノの入場門には顔認証システムがあり、スロットマシーンやルーレットで遊ぶ客がいくら負けているか、業者はリアルタイムで把握できる。「お客さん、あと100万円お貸ししましょうか?」。熱くなっている客はどんどんドツボにはまっていくだろう。

その金には2カ月後からは、税金滞納と同じ14.6%の延滞料金が加算されていく。この債権はおそらく半グレなどに転売される。あわれカジノにハメられた人々は、自宅マンションを奪われたうえに失業、生活保護受給者に転落していく……。

オリックスが出した事業計画では、夢洲に年間1000万人のカジノ客がやってきて、入場料の320億円と合わせて粗利益は4933億円とされている。この利益に国が15%、大阪府市に15%の「納付金」(後述)が入るので、大阪府・市に約740億円のリターンが入る計算となる。松井は「カジノの負担金は大阪市だけでも毎年550億円、借地料だけでも25億円、これらが市民へのリターンです」とサル知恵を披露している。

でもこれは少し考えれば「サルでもわかる」暴論だ。確かにそれくらいの収益があるかもしれない。しかし真面目に働いて市民税を納めてくれていた人が、ギャンブル中毒になって失業し、生活保護を受けるようになれば、税金は入らないうえに行政の支出は増える。カジノにハマった社長が町工場を閉じてしまえば大阪のものづくり力は低下する。ギャンブル依存症対策にも税金を使うし、犯罪が増えるのは確実なので、警察官を増員しなければならない。

韓国には韓国人が行けるカジノが1カ所あって、ギャンブル依存症の家族会が試算したところ、カジノから上がる収益は約4000億円でも、失業者と生活保護受給者の増加で約2兆円の税収減、ものづくり力の低下でやはり2兆円のマイナスとされている。

つまり、松井の主張は朝三暮四以下である。サルを飼っている人が餌のドングリを減らそうとして「朝に3、夕方に4でどうか」と提案。サルが激怒したので「では朝に4、夕方に3にしよう」と再提案したら、サルたちは大喜びした。松井の提案は「朝に4入るが、夕方に8奪われる」というもの。サル以下の政治家であるわけだ。

 

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西谷文和 西谷文和

大阪府吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリスト。NGOイラクの子どもを救う会代表。新刊『自公の罪 維新の毒』(日本機関紙出版センター)。

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