創価学会の勢力衰退で自公野合の崩壊が始まった

大山友樹
12人が落選しても“大勝利”を謳った聖教新聞(4月25日付)

12人が落選しても“大勝利”を謳った聖教新聞(4月25日付)

練馬ショック
G7広島サミット最終日の5月21日夕刻。ウクライナのゼレンスキー大統領来日中継で、人気アニメ「ちびまる子ちゃん」が中止となり、お茶の間からは落胆の声も多かったようだが、それ以上に全国の創価学会員はこれからの数時間にどぎまぎしていたのではないか。

というのも当日は東京都足立区議選の投開票日。周知の通り、4月の統一地方選で公明党は12人が落選。特に11人を立てた東京の練馬区議選では、現職4人が落選する“練馬ショック”という激震に見舞われていたからだ。

「維新やれいわなどの新興勢力が台頭し当選ラインが上がる中で、公明党は創価学会組織の高齢化などによる活動力の衰えから得票数を大幅に減らしたことが敗北の要因と見られるが、東京では練馬以外の選挙区でも得票を軒並み1割以上減らしている。足立では練馬の二の舞を防ぐために、都内各地や関東近県から多くの学会員がF票(フレンド票・非会員票)獲得のために動員されていたが、非常に厳しい状況だった」(東京の創価学会地域幹部)

足立区議選ではそうした全国支援もあって、なんとか“全員当選”こそ果たしたものの、それでも3656票もの得票減であり、今までのように単純に喜べないことは選挙戦前の公明党幹部の動きをみても明らかだ。

「5・15事件」から91年後の5月15日、軍拡と防衛費の増大に邁進する岸田自公政権の一角を占める公明党が、各地の代表らを党本部に集めた全国県代表協議会を開催した。席上、山口那津男代表は、4月の統一地方選挙で全員当選を目指していたにもかかわらず12人の落選者を出したことについて、「責任を痛感している」(時事ドットコム5月15日配信)と表明するとともに、「いま一度、党勢拡大の先頭に立ち、いかなる状況下でも勝ち抜いていける強靭な党の構築へ全身全霊、闘い抜く決意だ」(同)と、党勢回復に向けての強い意欲を示した。

反転攻勢の端緒と、公明党そして組織母体の創価学会が位置づけていたのが、今回の足立区議選だった。しかし定数45に64人が立つ激戦となっており、候補者13人の全員当選を目指す公明党・創価学会にとっても、決して楽観できない状況だった。こういう情勢を反映してのことだろう。山口代表は告示前から街頭演説に立つなど、てこ入れに努めてきたが、告示日の5月14日にはなんと「区内11カ所を応援に回」(日刊スポーツ5月15日付)っている。

そうした危機感は機関紙・公明新聞にも色濃く投影されており、告示直後の16日付では、「当落線上の攻防激化」「公明13候補全員当選へ執念の猛攻を」の見出しをつけ、維新は統一地方選躍進の追い風に乗っている、自民は町会や企業を引き締めて必勝態勢、立民や国民は堅調などとする一方で、公明党は「『絶対に大丈夫』と切り崩され、支持が伸び悩む。このままでは複数の公明候補が圏外にはじかれかねない危機的状況。前々回の区議選は1.196票差で公明候補が次点に。全員当選へ、人脈総当たりの猛攻が不可欠だ」と、複数落選の危機を強調。「執念の猛攻」を呼びかけていた。

創価学会も告示を半月後に控えた4月27日には、足立区で選挙戦の現場責任者となる支部長・支部女性部長会を開催するなど幹部・活動家を選挙闘争に煽り立てている。そこには原田稔会長も出席し、「草創期から学会をけん引してきたのが王者・足立の誇りである」「足立の底力を満天下に示そう」(聖教新聞4月28日付)などと檄を飛ばした。同時に創価学会は、東京・首都圏のみならず全国の組織に、足立区に友人・知人がいる幹部・活動家は、直接ないし電話で公明党への支持拡大を行なうよう指示していた。

「候補者数」の大幅減少
足立区議選は統一地方選と異なり独立した単一選挙だけに、全国支援が容易だった。しかも公明党・創価学会は、現職4人が落選した練馬区議選の轍を踏まないよう慎重に、手堅い票割りを行なうだろうから全員当選の可能性は高いとみられた。だがそれだけに1つでも取りこぼしがあれば公明党そして創価学会にとっては大問題だったのだ。

というのも「練馬ショック」に続いて、定数45議席中13、議席占有率28.8%と、大阪府門真市・同守口市・東京都武蔵村山市に次ぐ全国4番目に公明党の議席占有率が高い“金城湯池”ともいえる足立区での公明党の敗北は、「国会、地方議員約3000人を擁する公明党は、ネットワークの力で1人1人に寄り添う政策を実現しています」(「統一地方選2023特設サイト」)と、「チーム3000」を標榜する公明党・創価学会にとって、その土台を揺るがす「想定外の地殻変動」(日刊スポーツ5月14日付)「前代未聞」(時事ドットコム5月15日配信)の敗北に歯止めがかからないことを意味するからだ。

創価学会は、公明党の国政選挙における比例区票を自らの勢力を計る「バロメーター」と位置づけているが、同時に「チーム3000」のスローガンを政治的影響力の大きさを表す指標として誇示してきた。このうち公明党の比例区票は、2005年総選挙の898万票をピークに下がり続け、昨2022年7月の参院選では618万票と、17年の間に280万票も減らした。創価学会・公明党の勢力後退は明白なのだが、同様に公明党地方議員数も2003年をピークに減少を続けている。

4月の統一地方選挙で公明党は1555人の候補を立て、12人が落選した。全員当選が当たり前で落選者が出てもせいぜいが一桁前半だった公明党だけに、12人の落選が大きくクローズアップされているものの、実は、そもそも候補者数が1555人でしかないことが、公明党そして創価学会の地盤沈下の大きさを物語っている。

前述のように国政選挙での公明党比例区票は2005年がピーク。地方議員数も、2003年4月の統一地方選挙で2121人の候補者全員が当選したように2003年前後がピークであり、同年末の地方議員数は「チーム3000」を大きく上回る3397人に上っていた。

だが、これ以後、公明党の地方議員数は減少を続け、昨2022年末は2872人と、2003年に比べ525人も減っている。この数字は今回の統一地方選で躍進し地方議員600人という目標を達成した維新の議員数に匹敵するといえば、減少数の大きさがわかろうというもの。

もっとも2003年から2022年までの109年の間には、“平成の大合併”があり、地方公共団体の数そのものが減っている。創価学会は都市型宗教であること、また大合併が始まる1999年の一般市の数は671だったのが、終了した2010年には783と増えていることなどから、合併による議席減の影響は公明党にとって比較的少ないと考えられる。しかし平成の大合併という不確定要素を加味し、大合併がひと段落した後の2011年末(同年4月に統一地方選)の2949議席と昨年末の議席数を比較しても、77議席の減少であることがわかる。

「チーム3000」と一括りにするとその実態はわかりにくいが、子細に議席数の推移を検証すると、公明党は国政選挙の比例区票同様に地方議員数も大幅に減らしており、創価学会の勢力衰退が著しいことが明らかなのだ。

維新はもはや公明党に忖度しない
特に都市型宗教として東京・大阪などで勢力を拡大してきた創価学会にとって、相次いで落選者が出ている事実は、創価学会の将来展望に暗い影を落とすとともに、自公連立政権の行方を含む日本の政界の構図に大きな変化をもたらす可能性があるという意味で注目される。

東京特別区議選で公明党は、練馬で現職4名を落とすなど、152人を擁立して8人が落選。練馬以外では、公明党創立者でもある池田大作創価学会名誉会長の出身地の大田区、原田稔会長の息子でポスト池田、さらには今年11月で会長任期が切れる原田会長の有力な後継者とも目されている原田星一郎教学部長が、長年にわたって総区長を務めた港区、そして目黒区・杉並区の4区でそれぞれ1人が落選した。

また創価学会本部があることから、「本陣」として負けるわけにはいかない新宿区では、「全員当選」「完勝」というカラクリを維持するために、現職9人から候補者を1人減らした8人を立てて議席を維持したが、得票数は前回比2012票のマイナスで、減少率は11.2%に及んでいる。同じく創価大学や牧口記念会館など学会の主要施設がある八王子市でも10人全員が当選したものの、得票数は4677票減、減少率は10.4%だった。

今回の統一地方選での公明党の得票減は全国で約50万票と報じられているが、東京の市区町議選に限っても64万5524票から58万1278票へと、6万4246票も減らしており、減少率はほぼ1割(9.95%)だ。同様に創価学会が「常勝関西」と豪語する大阪でも、前回の統一地方選に続いて今回も大阪市議選の都島選挙区で1人が落選。東京ほどではないものの大阪府議選・大阪市議選でも得票を減らしているのである。

創価学会にとって特別な意味を持つ重要な選挙区や“金城湯池”でも落選や得票減が相次いでいる事実は、組織の衰退が深刻であることを示唆するとともに、創価学会の政治的影響力の低下に拍車をかけている。

特に統一地方選では、大阪維新の会(維新)が関西を中心に圧勝したのをはじめ、東京や関東圏でも議席・得票を伸ばしたことが、政界の力関係にダイレクトに影響を及ぼし始めており、公明党・創価学会にとっては予断を許さない厳しい政治状況が生まれている。

というのもこれまで公明党は衆院選で、大阪(4)・兵庫(2)の6小選挙区で議席を維持してきた。本来、公明党・創価学会には単独で小選挙区に勝利するだけの力はない。にもかかわらず、彼らがそこで当選できるのは、連立を組む自民党が候補者を立てず、大阪・兵庫で圧倒的なパワーを持つ維新が、大阪都構想実現のための住民投票や、過半数を獲っていない大阪市議会で公明党の協力を得るために裏取引し、出馬を見送ったからにほかならない。

だが大阪都構想は公明党の協力で住民投票にまではこぎつけたものの2度にわたって否決。そして今回の統一地方選で維新は大阪市議会の単独過半数を獲得した。維新はもはや公明党に忖度・配慮する必要性がなくなったのだ。

馬場伸幸代表は、さっそく次期衆院選では野党第一党を目指すとして全小選挙区に候補を立てる意向を表明。吉村洋文大阪府知事(日本維新の会共同代表)も、「公明党の現職衆院議員がいる大阪府と兵庫県の6小選挙区への候補者擁立を巡り『大阪では(府内)4選挙区に擁立すべきという意見が大勢だ』と言及」(産経ニュース5月15日付)と、候補者擁立に前向きな姿勢を見せている。

もし大阪・兵庫の小選挙区から維新が出れば、公明党に勝てる見込みはない。そうなれば池田名誉会長のカリスマの源泉である「常勝関西」が崩壊するとともに、現在、自民党が擁立を遠慮して公明党に議席を譲っている北海道・東京・広島の各小選挙区でも、維新の候補者に自民支持者や保守層が投票する可能性が高く、公明党が勝つ見込みはほとんどないだろう。

自公野合の亀裂が顕在化
こうした政治状況の変化を受けて公明党は、衆院の定数是正の「10増・10減」で選挙区が増える5都県で候補者擁立を模索。新たに設けられる埼玉14区には石井啓一幹事長を、東京29区には岡本三成元財務副大臣を、そして愛知16区に伊藤渉政調会長代理の擁立を発表。さらに5月9日には石井幹事長が国会内で自民党の茂木幹事長と対談した際、「東京28区に擁立する」(読売新聞5月13日付)と、東京で2人目の候補を通告した。

ちなみに東京29区は荒川区と足立区の一部であり、新東京28区は練馬区を選挙区とする。それゆえ「練馬ショック」は大きく、足立区議選も絶対に負けられないものだったのだ。

石井幹事長がここまで強気に出られるのは、小選挙区で当選した多くの自民党議員が公明党の推薦=創価学会票をもらっていることから、「こちらからすれば『うちから何百万票もらっているんだ』という思いもある。外すなら、そっちのほうが自民にとってはデメリットが大きいと思うけどね」(テレ015ビ朝日・5月17日)とか、「公明の推薦がなければ、落選する自民議員は多い。自民は対抗馬を立てられない」(読売新聞5月13日付)との、最後は折れると見る公明党と、その奥にいる創価学会側の打算に基づく楽観論があるのだろう。

これに対して自民党内からは、「ここまで言われたら連立に無理がある」「東京を全員推薦しないというのは、公明党の政権離脱だ」「公明党に代わる新しい連立相手を探した方がいいだろう」(前出のテレ朝)など反発の声が上がった。

そうしたなかで、23日には再び茂木・石井会談が行なわれ、茂木幹事長が「28区の公明党擁立は認めがたい」と通告。翌日、今度は公明党が東京28区の候補者擁立を断念すると同時に、東京での自民党候補を推薦しないことを決定し、25日に自民党に通告した。石井幹事長は「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」(公明新聞5月216日付)と述べ、同日付の聖教新聞も「都議会での協力も解消」と報じた。

事態はまだまだ流動的だが、自民党も強硬な背景には、昨年7月の参院岡山選挙区で、公明党の推薦を断った小野田紀美・現議員が、創価学会支援候補を破って当選した事実が大きい。「小野田はかねて『公明と1緒では憲法改正できない』と周囲に漏らすほど距離を置いていただけに、渡りに船とばかりに“離縁状”を突きつけた」(産経新聞22年7月5日付)とあるように、右派・保守的政治信条の自民党議員には、公明党との連立解消への抵抗感は少ない。そうした議員は、むしろ政治信条・政策が近く統一地方選で躍進した維新との連立を歓迎するだろう。

維新もまた次期衆院選で「野党第一党」を目指すとするが、本音では自民党との連立・連合を模索している。もともと維新を創設したメンバーは大阪自民党の分派であり、両者は「競合」より「共合」の方が似つかわしいからだ。

G7広島サミットには、オンライン参加も取り沙汰されていたバイデン米大統領に加え、ゼレンスキー大統領も出席したことで、岸田首相は国会会期末の解散、安倍晋三元首相の1周忌にあたる7月の総選挙を断行するとの解散風が、いま永田町に吹き荒れている。

昨年7月、安倍元首相の銃撃事件を契機に、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党との癒着が明るみに出た。そして、政治と宗教の歪んだ関係の象徴ともいえる自民党と創価学会・公明党の“野合関係”は、統一地方選での創価・公明の勢力衰退に加え選挙区調整をめぐる亀裂が広がり、いまや連立解消にまで発展する可能性を孕んでいる。

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大山友樹 大山友樹

ジャーナリスト。世界の宗教に精通し、政治とカルト問題にも踏み込む。

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