【連載】コロナ騒ぎ謎解き物語(寺島隆吉)

第27回 私たちに希望がないわけではないーコロナ論争を脚気論争の歴史から考えるー

寺島隆吉

ここまで「私たちはガリレオの時代に戻ってしまうのだろうか」と題して、コロナとワクチンをめぐる『赤旗』『長周新聞』『中日新聞』『朝日新聞』の記事を批判してきたのですが、読み返してみると、大事なことを書き落としていることに気づきました。

上の各紙はいずれも、ワクチンに関する偽情報がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて氾濫しているとして、その批判というかたちで記事を掲載しています。

そこで本書の「終章」を兼ねて、それらについて書き残しておきたいと思います。

これら4紙に共通しているのは、次の諸点です。

(1)ワクチンに関する疑問や批判を一括して「偽情報」 「陰謀論」として扱っている。

(2)ワクチンについてどんな疑問や批判がなされているのか具体的内容を何も紹介していない。

(3)したがってワクチンについて著名で批判的人物への言及もない。たとえばリュック・アントワーヌ・モンタニエ博士(2008年ノーベル生理学・医学賞)。

(4)だから、「PCR検査」や「mRNAワクチン」が正式に認められたものではなくEUA(緊急使用許可)として認められているにすぎない、という点についても言及されていない。

(5)他方で、新型コロナウイルスにたいして、世界各地で驚異的効果を発揮しワクチンに代わるものとして注目を浴びはじめているイベルメクチンへの言及もいっさいない。

リュック・モンタニエ博士。ワクチンがコロナウイルスの変異株を産み出している。

 

ところで赤旗と長周新聞は、CCDH(デジタルヘイト対抗センター)」の調査を根拠に、「フェイスブックとツィッターで拡散されているワクチンに対する科学的根拠のないデマや陰謀論の2/3が、わずか12人によって産み出されていた」と述べていました。

しかし赤旗と長周新聞では、このロンドンとワシントンに本拠を置くCCDHという団体がいかなる組織かということがまったく検証されていません。

かつてアメリカは、2011年3月にシリアで、イスラム原理主義集団を利用して体制転覆を目指す戦闘を始めました。ロンドンを拠点としている「SOHR(シリア人権監視所)」は一貫して反政府軍の立場から情報を発信、それをアメリカは大いに活用してきました。

また、シリア政府軍が化学兵器を使って自国の民衆を殺しているという情報もSOHRによるものでした。

ところが、「SOHRにイギリスが約19万5,000ポンド相当の支援をしていることを同外務省が認めた」とイギリスのデイリーメール紙が伝えています。

http://www.dailymail.co.uk/debate/article-5722499/PETER-HITCHENS-join-idiotic-war-like-feeble-minions.html

だとすれば、このCCDHなる組織も、どこが資金源になっているのか、について新しい疑問が湧いてきます。ところが赤旗や長周新聞は、この点について全く言及していません。

アメリカがイラク侵略戦争にのりだしたときも、アメリカは「確かな情報筋」からだとして、イラクが大量破壊兵器をもっているという口実で、1つの国家を破壊し、眼のあてようもない惨事をつくりだしました。

今では、この「確かな情報筋」というのは全くの嘘だったということが分かっています。だとすれば、赤旗と長周新聞も、CCDHという情報源について調べるべきだったのではないでしょうか。

ところが、その一方、 「反ワクチン」と言われている団体の情報については、長周新聞は、CCDHを根拠に次のような詳しい情報を載せているのです。

ソーシャルメディアにおける反ワクチンコンテンツの中心となっているのは、単なる個人ではなく、利益を追求する高度に組織化されたプロの宣伝家によって統率された集団だ。

それぞれ60人ものスタッフを抱える数百万ドル(数億円)規模の組織を、おもにアメリカで運営している。

彼らは活動家向けのトレーニングマニュアルを作成し、メッセージをさまざまな聴衆向けに調整し、他の業界と年次会議まで開催している。

12人の1人に名が上がっているロバート・F・ケネディ・ジュニアは元米司法長官の息子であり、ケネディ元大統領のおいにあたる。

弁護士で環境活動家であるケネディはワクチンから「子どもの健康を守る」ことを掲げた団体を立ち上げて活動してきた。

この文脈からすると、RFKジュニアが立ち上げた団体CHD「子どもの健康防衛」も、「60人ものスタッフを抱える数百万ドル(数億円)規模の組織」だと言いたいようです。

長周新聞の、この情報も、CCDHによるのみで、その根拠は明らかではありません。

一歩ゆずって、たとえこれが事実だとしても、RFKジュニアのCHDが、それゆえに不正な活動だということにはならないでしょう。

というのは有名な環境活動家ラルフ・ネーダーが1971年に立ち上げた消費者権利の擁護団体「パ
ブリックシチズン(Public Citizen)」は今では5つの部門を有し、特に運輸、医療、原子力の分野で企業の説明責任と強力な政府規制を支持しています。

ウィキペディアによると、その収益は1,788万5,184ドル(20億734万3,626円)です。

これと比べれば、「60人ものスタッフを抱える数百万ドル(数億円)規模の組織」というのは、はるかに小さな組織です。

しかし、誰もこの団体「パブリックシチズン」を不当な利益をあげていると攻撃していませんし、不正な活動をしていると非難されたのを聞いたことがありません。だとすれば、巨大製薬会社の被害から「子どもの健康を守る」ために組織されたCHDについても同じことが言えるはずです。

消費者運動家ラルフ・ネーダー、「パブリック・シチズン(Public Citizen)」の創立者

 

ところが赤旗は、「ケネディ元大統領のおいロバート・F・ケネディ・ジュニア氏も反ワクチンの活動家で、294万ドル(約3億2,000万円)も稼ぎました」という時事通信の記事を、そのまま転載しているのです。「〜も稼ぎました」という書き方は、いかにも不当利益と言わんばかりです。

他方、長周新聞はRFKジュニアの収入については、次のように書いています。

ケネディはセレブや環境保護、代替医療信奉者などのコミュニティーの中心に位置して講演会やパーティを開催。マスコミにもひんぱんに登場して発信している。彼が主宰する反ワクチン団体には1,400万ドル(15億円強)出資する活動家がおり、ケネディは団体から年間25万5,000ドル(2,800万円)ほどを得ていることを公表している。

しかし、このコロナ騒ぎを利用して億万長者がいかに荒稼ぎをして、しかも稼いだお金に対してほとんど納税していないことは、前著『コロナ騒ぎ謎解き物語――コロナウイルスで死ぬよりもコロナ政策で殺される』の終章で述べたとおりです。その筆頭にはこの1年間で1億3,750万ドルを稼いだイーロン・マスクがいます。

他方、RFKジュニアの収入は、赤旗の「294万ドル」、長周新聞の「25万5,000ドル」の、どちらが正しいのか分かりませんが、いずれにしても、コロナ騒ぎで荒稼ぎをした大富豪の収入と比べれば、雀の涙というべきでしょう。

ところが赤旗は、「RFKジュニアがコロナ騒ぎのなかで、SNSを利用して不当な利益を得た」という論調の記事を載せつつも、その一方で「さらに巨大IT企業にも広告収入収入11億ドル(約1,200億円)の経済価値をもたらした」という事実も紹介しています。

だとしたら、コロナ騒ぎのなかで本当に利益を得たのは「反ワクチン」の活動家や団体なのでしょうか。それとも11億ドル(約1,200億円)も稼いだ巨大IT企業なのでしょうか。赤旗によれば、「反ワクチン」の中心的な12人の収入は合計しても3,600万ドル(約40億円)にすぎないのです。

ところが長周新聞の最後は次のように結ばれていました。

医療現場では、製薬業界であれ反ワクチン業界であれ、新型コロナウイルスの感染拡大へ人々の不安にかこつけて、特定産業の市場拡大のチャンスと見て科学的根拠などお構いなく我田引水の暴力的な宣伝を組織する者たちへの批判が、一気に高まっている。

このような結び方では、反ワクチンの活動をするひとたちを、「金儲けのための営利活動=反ワクチン業界を形成している」として糾弾していると思わざるを得ません。

つまり長周新聞は、反ワクチン運動をするひとたちを糾弾することはあっても、コロナ騒ぎを利用して荒稼ぎをしている巨大IT企業にはほとんど批判の言葉を向けていないのです。

他方、赤旗記事の最後は次のように結ばれていました。

CCDHは、SNSが発信や動員、資金調達の戦略拠点になっていると指摘します。CCDHのイムラン・アーメド最高経営責任者(CEO)は「SNS企業が危険なデマの拡散に加担し利益を得ている。その代償は社会が払わされることになる」と警告し、誤情報の発信を断つよう求めました。

要するに、この赤旗記事は、「SNS企業が危険なデマの拡散に加担し利益を得ている」とIT企業を批判する振りをしながら、実のところ、 「誤情報の発信を断つよう求めて」いるのです。

言い換えれば「反ワクチンの個人や団体がSNSを利用して活動することを禁止するよう」SNSや政府・権力者に求めているのです。つまり「言論・表現自由を制限すること」 「反ワクチン運動をするひとたちへの弾圧を強めること」を要求しているのです。

かつて天皇制絶対主義の下で、何度も発禁処分などといった弾圧を受けながらも、それに屈せずに闘い続け、 「北斗七星のような存在」として尊敬をもって仰ぎ見られていた赤旗の、何という無残な姿でしょうか。

それに引き換え、まだ中日新聞の記事(2021-08-25)は次のような結びで終わっていました。

有力者の一人として名指しされたケネディ元大統領のおいロバート・ケネディ・ジュニア氏(67)は本紙の取材に、ワクチン接種義務化反対の訴訟活動などを続けているとする一方、 「収入の8割を犠牲にして運動している」と反論した。

日本の「前衛」を自認しているはずの赤旗と、それを「堕落した左翼」して攻撃してきたはずの長周新聞が、左翼でも何でも無いはずの中日新聞よりも、言論の自由を守る姿勢からはるかに後退していることが、残念でなりません。

真理・真実は権力・金力によって決められてはなりません。ワクチン、とりわけ遺伝子組み換えワクチンの是非も、言論の自由、科学的検証によってのみ判断されなければなりません。

要するに、私たちはガリレオの時代に逆行してはならないのです。そんな常識が通用しない今の日本に暗澹たる思いを禁じ得ません。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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