【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

世紀の戦争犯罪――「ウクライナ軍によるカホフカ湖ダムの爆破」 を考察する

寺島隆吉

ウクライナ(2023/06/18)
タッカー・カールソンの新番組「Tucker on Twitter」
キエフ政権による有名な「暗殺リスト」(Mirotvorets)
米軍による北朝鮮のダム爆破、北ベトナムの堤防爆破
エバー・バートレット(カナダ人記者、「暗殺リスト」に掲載)
ジュネーヴ諸条約第1追加議定書「水資源への爆破禁止」(1977)
オリバー・ストーン『ウクライナ・オン・ファイア』『乗っ取られたウクライナ』

キエフ市内で掲げられていた「人間の臓器は売り物ではない」と訴えるポスター
このポスターでは「臓器売買の被害者」のための救済電話番号が書き込まれている
キエフ、臓器売買に抗議するポスター

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去る6月6日(火)にウクライナ軍が南部ヘルソン州にあるダムが破壊され、ロシアとウクライナの双方がお互いに相手側が攻撃したと非難しています。
しかし欧米のメディアも日本のメディアも、「これはロシアによるもの」という論調で一致しています。公共放送であるはずのNHKですら一方的に「ロシアによるもの」という報道を続けています。
ロシアが自分の支配下にあるダムを決壊させて住民に被害を与えることはまったく意味がありませんから、余りにも馬鹿馬鹿しくて、私は初め、これをブログに取りあげてわざわざ反論するまでもないと思って乗り気ではありませんでした。


ところが調べてみるとNHKでさえ、9日にヘルソン州の地元幹部にオンライン取材した」とし、次のような返事を得たとしているのですから驚きました。
「私たちの反転攻勢の計画を妨害するために、ロシア側がダムを破壊したのだと思います。ロシアが支配する川の対岸に、私たちが渡れなくなるように」

*ウクライナのダム決壊 反転攻勢に影響は?地元州幹部が語る

しかし、この地元幹部「ヘルソン州報道官オレクサンドル・トロコンニコフ氏」とは何者なのでしょうか。
というのは、破壊されたダムがあるヘルソン州は、最近の住民投票で圧倒的多数の賛成を得て、最近ロシアに編入したばかりなのですから(拙著『ウクライナ問題の正体3』202頁)、その州幹部が「私たちの反転攻勢の計画」と言うはずがないからです。
ウクライナ側が「反転攻勢」というなら話は分かりますが、ロシア側が「反転攻勢」ということばを使うはずがありません。こんな程度の常識すらNHKの記者にはないのでしょうか。
しかも、この取材をした国際部記者(野原直路)は「取材後記」に次のように書いていました。

取材に応じたトロコンニコフ氏は、ダムの決壊による被害は、ロシアが占領する川の南東側の方が深刻だと、繰り返し訴えていました。
死者や行方不明者の情報も少しずつ出てきていますが、こうした地域の被害状況はつかみ切れていないのが現実です。
川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない。
そんないらだちをにじませるトロコンニコフ氏の姿に、この戦争の残酷さを改めて思い知らされました。


この「取材後記」の行間を、『ウクライナ問題の正体3』第9章「ドンバス4カ国のロシア編入」と重ね合わせて読むと、次のことが見えてきました。
1)ドニエルプル川北西部の旧ヘルソン州は、ロシア軍の撤退後、ウクライナ軍の支配下に入り、元の州政府が残っている。上記記事の「地元州幹部」というのは、この州政府のこと。
2)しかし国際監視団の下で実施された住民投票の結果、圧倒的多数の住民(87.05%)はロシア編入を選び、ロシア軍の撤退後、ウクライナ軍による報復・虐殺を恐れて住民の多くがドニエルプル川の南東部の新しいロシア領に移住している。
3)ところが、トロコンニコフ氏ですら「ダムの決壊による被害は、ロシアが占領する川の南東側の方が深刻だ」と繰り返し訴えていた。つまりロシアに編入を決めたヘルソン人民共和国の方が、はるかに被害が深刻である。

これを見れば分かるように、ロシア領のヘルソン州に住む住民のほうが、このダム破壊によって受ける被害は大きいのです。わざわざ自国の住民に被害を与えるためにダムを決壊させる為政者が、この世のどこに存在するというのでしょうか。
FOXニュースの看板スターだったのに、そこを解雇されたタッカー・カールソンでさえ、解雇された後の初仕事として、新しい番組‘Tucker on Twitter’で、このダム破壊を取りあげています。
次の記事はそのことを報じたものです。
*Tucker Carlson steamrolls Ukraine propaganda in new show
「タッカー・カールソンが、自身の新番組でウクライナの宣伝扇動を一刀両断」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1650.html(『翻訳NEWS』2023-06-12)

フォクス・ニュースの元司会者であるタッカー・カールソンが、ツイッター上での自身の新番組の初回放送を発信し、西側のニュース諸会社は、ウクライナでの武力衝突について一方的な報道をすることを使命にしていると非難し、異論を唱える見方をあからさまに敵視している、と述べた。

「ツイッター上のタッカー」という名前の10分間の新番組の初回放送が、ツイッター上で火曜日(6月6日)の夜に放映された。この番組の冒頭は、今週ロシアのヘルソン州でウクライナが行ったと言われている主要ダム爆破事件についてのカールソンの一人語りだった。その中でカールソンはこの行為を、「テロ行為である」とした。

「ダムの爆破はウクライナにとって悪いことかもしれませんが、ロシアの方が大きな被害をうけています。まさにこの理由こそが、ウクライナ政府がダム破壊に踏み切った理由なのです」とカールソンは語った。
さらにカールソンは、昨年12月のワシントン・ポスト紙の取材(12月29日)で、ウクライナの将軍(アンドリー・コバルチュク少将)が、カホフカ ダム攻撃の計画を認める発言をしていた事実にも触れた。

ここでカールソンは、「ウクライナ軍の将軍が、昨年12月にワシントン・ポスト紙に寄せたコメントで、カホフカ・ダム施設への攻撃を計画していたことを認めている」ことまで指摘しています。
ところが、上記のNHK記者は、この程度の事実調査すらしないで記事を書いているのです。「国際部記者」という肩書きが泣くでしょう。


上記の記事によれば、タッカー・カールソンは上述の10分間番組で、更に続けて次のようにも述べています。

カールソンは、自分自身はウクライナ政府がこの爆破事件の裏にいることは間違いないと思っているが、いくつかの米国報道機関は、ロシア政府がこの攻撃を画策したことを示唆する記事を既に出していることに触れ、これらの報道機関は、ゼレンスキーのことを「テロ行為を行うには真っ当すぎる人物である」という見方しかできていない、とした。

「世界の全ての人々の中で、運動着を身につけた、ずる賢く、虚ろな目をしたウクライナ国民であるあの友人だけは、ダムの破壊などしない、とでもいうのでしょうか。あのお方は生きた聖人なのでしょうか。罪を犯すことなどないのでしょうか」とカールソンは話を続け、この件に対する大手報道機関の一般的な報じ方に疑問を投げかけた。

報道界のご意見番のカールソンは、ロシアからドイツに天然ガスを運ぶために作られたノルド・ストリーム・パイプラインに対して昨年行われた攻撃についても触れた。カールソンは、その攻撃はウクライナが行ったことは「明白」であるとしながら、米国報道機関は、この件を取材することに対してほとんど関心を示さず、そのため米国民は、「世界で最も情報を与えられていない国民」になってしまった、と評した。
「報道機関がこの件に全く関心を示していないだけではなく、関心を持っている人々を攻撃することさえしているのです。報道の世界では、疑問や好奇心を持つことが最悪の罪だ、とされているのです」とカールソンは話を続け、報道機関は嘘をついており、「この件に関するほとんどのことは無視されるだけになっています」と語った。

上でカールソンは、「報道の世界では、疑問や好奇心を持つことが最悪の罪だ、とされているのです」と話を続け、報道機関は嘘をついており、「この件に関するほとんどのことは無視されるだけになっています」と言っています。
国際部記者(野原直路)の報道ぶりを見れば分かるとおり、日本の大手メディアも大同小異で、天下のNHKもまったく政府の御用機関に成り下がっているように見えます。

既に昨年8月にカホフカダムの破壊は実験済みだった!!
ダム爆破、WP紙20221229

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このように今回のダム爆破はウクライナ軍によるものであることは間違いありません。
ところが驚いたことに、ウクライナ軍はコバルチュク少将の計画に従って、昨年8月の段階で、その破壊テストすらおこなっていたのです。
それを櫻井ジャーナル(2023-06-09)は、ワシントン・ポスト紙の紙面を写真版で紹介しつつ、次のように報じていました。

その構想に基づき、ウクライナ軍はHIMARSでノヴァ・カホウカ・ダムを攻撃、3カ所に穴を開けたとコバルチュク語った。これは昨年8月のことだ。テストは成功したが、最後の手段として取っておくとしていた。
昨年11月、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣はセルゲイ・スロビキン司令官からの報告に基づき、ヘルソンからの撤退を部隊に命じた。同時に住民も避難させている。ウクライナ側の計画を知ってのことだろう。

上記の下線は寺島によるものですが、御覧のとおり、ヘルソン地区におけるウクライナ軍を指揮しているコバルチュク少将は、「テストは成功したが、最後の手段として取っておく」と述べていたのです。
この「最後の手段」こそ今回の爆破だったわけです。ウクライナ軍の「反転大攻勢」が失敗したからこそ、このような「最後の手段」に訴えざるを得なかったのでしょう。
というのは、NHK国際部記者の取材では、旧ヘルソン州幹部の次のように語ったとされていますが、事実はまったく逆でした。
「私たちの反転攻勢の計画を妨害するために、ロシア側がダムを破壊したのだと思います。ロシアが支配する川の対岸に、私たちが渡れなくなるように。」

なぜなら、ロシア軍は、ウクライナ軍の拠点だったマリウポリ市アゾフタル製鉄所を陥落させ、その次の拠点だったソレダル市の岩塩採掘場「巨大な地下要塞」も征服し、最後の拠点だった「アルチョモフスク(別名バフムート)」も、ゼレンスキー大統領が広島を訪れる日の前日に陥落させました。
つまりロシア軍は「勝ち戦」をまっしぐらだったのです。そもそも「反転大攻勢」の「反転」という言葉が、ウクライナ軍が「負け戦」を闘ってきたことを示しています。自分が勝っているときに、わざわざ「反転」ということばを使う必要はありません。負けているからこそ、それを「反転」させなければならないのです。
こんな言葉の意味すら天下のNHK記者は知らなかったのでしょうか。


そもそも、正規戦で勝てると思っている軍隊が、テロ戦術を使って自分の評判を下げる必要はまったくありません。
「負けている」からこそ、要人やジャーナリストを爆殺し、ダムを決壊させるなどといった「テロ行為」に訴えざるをえなくなるわけです。私が過去のブログで次のように書いたとおりです。

* 無人機ドローンによるクレムリン攻撃から、私たちは何を読みとればよいのか ――正規戦では勝てないからこそウクライナは「国家的テロ活動」、その1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-614.html (『百々峰だより』05/10)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-615.html (『百々峰だより』05/17)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-616.html (『百々峰だより』05/20)

ダムの爆破については毎日新聞(2023/6/17)すら次のように書いています。

戦争の中でダムが果たす役割は大きい。水門を開閉したり破壊したりすることでわざと洪水や水不足を引き起こし、軍事的に有利な状況を作り出すことができるからだ。

実際、多くの国や武装勢力がダムに対する攻撃を繰り返してきた。第二次世界大戦では1943年、英空軍がナチス・ドイツの工業地帯にある複数のダムを狙った空爆を実施。一部のダムが決壊し、約1300人が死亡したとされる。
朝鮮戦争(50~53年)でも、米軍が北朝鮮の複数のダムで水力発電所を標的に空爆を行った。

ダムに対する攻撃は人道危機につながるため、77年に採択されたジュネーブ条約の追加議定書では、原子力発電所と同様にダムも「住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない」と定められた。
だが、その後も武力紛争でダムが危険にさらされるケースは後を絶たない。

上では、「1943年、英空軍がナチス・ドイツの工業地帯にある複数のダムを狙った空爆を実施。一部のダムが決壊し、約1300人が死亡した」と書かれていますが、当時のヒトラー軍は無敵を誇り、その勢いで一気にソ連に攻め込みました。
イギリス軍は正規戦ではドイツ軍に勝てないと思ったからこそのダム空爆だったのでしょう。
朝鮮戦争におけるアメリカ軍にとっても同じでした。1950年6月に勃発した朝鮮戦争では、停戦交渉が模索されているさなかの1952年6月23日にアメリカ空軍とアメリカ海軍航空隊の合同作戦として、 北朝鮮最大の発電用ダムである水豊ダムへの爆撃に踏み切りました。
勝ち戦であれば停戦交渉が模索されているさなかにダムを爆撃する必要はありません。相手に「降伏」を要求すればよいだけだからです。日本の「無条件降伏」を考えただけでも、それは分かるはずです。


アメリカはこのような非人道的手段に訴えてでも、停戦交渉で有利な条件を勝ちとろうとしたわけです。
ベトナム戦争でもアメリカ軍は北ベトナムの堤防を爆撃しましたから、ベトナム戦争後の1977年にジュネーヴ諸条約第1追加議定書が採択されました。
この第1追加議定書の54条、56条の条文規定の 中で、戦時における「水」への攻撃が禁止されることになりました。
このような経過を考えると、今回のダム破壊も、ウクライナ軍が裏でCIAの指導を受けていることを考えると、アメリカの許可なしでおこなわれたとは考えられません。
また、だからこそウクライナ軍のコバルチュク少将がワシントンポスト紙で堂々と、「カホフカダムの正式な爆破は最後の手段として取っておく」と公言することが許されたのでしょう。
ところがNHKの記者は、旧ヘルソン州市の幹部が「私たちの反転攻勢の計画を妨害するために、ロシア側がダムを破壊したのだと思います。ロシアが支配する川の対岸に、私たちが渡れなくなるように」という発言に、何の疑問をいだかずに、それをそのまま記事にしているのです。
あとで詳しく説明しますが、6月4日(日)に「反転大攻勢」が始まったとされていますが、そのどれひつとして成功していません。すべて撃退されて、ウクライナ軍は兵士も武器も、多大なる損失を被っています。だからこそ6月9日に「最後の手段」に踏み切ったのでしょう。
櫻井ジャーナル(2023-06-07)で、この間の事情を次のように伝えています。

ウクライナ軍が6月4日に始めた「反転攻勢」は5日の段階で失敗に終わった。その直後の6日、ノヴァ・カホウカ・ダムが爆破されて洪水が引き起こされたようだ。ノードストリーム(NS1)とノードストリーム2(NS2)が爆破された時と同じようにウォロディミル・ゼレンスキーはロシアが実行したと宣伝しているが、被害を受けるのはロシア側だ。
ウクライナ側が事前にドニエプル川上流のダムを満水にしていたことからロシアの被害は大きくなったという。

昨年11月、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣はヘルソンからの撤退を部隊に命じた。
セルゲイ・スロビキン司令官からの報告に基づくのだが、その理由はアメリカ/NATOの命令で動いているウクライナ軍がカホフカ・ダムに対する砲撃を続け、破壊を目論んでいる可能性があると判断されていたからだ。
ウクライナ軍がダムの破壊を目論んでいるとする情報は西側のメディアも伝えていた。

ダムが破壊されると下流のヘルソンも洪水に襲われて少なからぬ犠牲者が出ることが予想され、ドニエプル川西岸にいたロシア軍への補給が厳しくなる。
そこで11万5000人以上の住民を避難させた上で部隊も撤退させたわけだ。この撤退をみてウクライナ軍は{本格的な)ダムの破壊を(昨年は)中止したのかもしれない。

ダムの破壊でロシア側の地域に対する水の供給に問題が生じるほか、水力発電による電力の供給量が落ちる。ロシア軍がドニエプル川西岸に作った地雷原がダメージを受け、クリミアの防衛力が落ちる可能性があるとも指摘されている。


上では櫻井氏は、ロシア側の被害として、「ノードストリーム1(NS1)とノードストリーム2(NS2)が爆破された時と同じように」と述べているだけなのですが、それと同じくらいの巨大な被害を与えるものとして「クリミア大橋」の爆破があります。
ところが、これすらもゼレンスキー大統領は「ロシアによる自爆攻撃だ」と言って、欧米のメディアもそれを鵜呑みにした報道ばかりでした。
海底パイプライン「ノードストリーム(NS)1&2」と言い、「クリミア大橋」と言い、何年もの歳月と巨額の投資をして、やっと完成したばかりの貴重なインフラを、自ら破壊して、どこにロシアに得るものがあるのでしょうか。
他方、「ノードストリーム(NS)1~2」の破壊で、ドイツを初めとする欧州各国はロシアからの安い石油や天然ガスが手に入らなくなり、アメリカは他方、高い石油や天然ガスを欧州諸国に買わせることができるわけですから、こんなに美味しい話はありません。
にもかかわらず、欧米のメディアも日本のメディアも、そのことに口をつぐんだままです。先述したとおり、タッカー・カールソンが次のように糾弾している事態が、まさに今
も堂々と進行しているのです。
繰り返しになりますが、NHKがその典型例です。つまりNHKは嘘つきなのです。

「報道機関がこの件に全く関心を示していないだけではなく、関心を持っている人々を攻撃することさえしているのです。報道の世界では、疑問や好奇心を持つことが最悪の罪だ、とされているのです」とカールソンは話を続け、報道機関は嘘をついており、「この件に関するほとんどのことは無視されるだけになっています」と語った。

NHKの野原記者は「取材後記」で次のように書き、自分の人道的姿勢を強く打ち出しています。
「ダムの決壊による被害は、ロシアが占領する川の南東側の方が深刻だ」
「川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない」
「そんないらだちをにじませるトロコンニコフ氏の姿に、この戦争の残酷さを改めて思い知らされました」
ところが野原記者は、「キエフの2014年のクーデター」以来、ドンバス住民がこの8~9年間に耐え忍んできた「戦争の残酷さ」については一言の言及もありません。
しかし、『ウクライナ問題の正体』で詳述したように、この間(かん)ドンバス住民は連日の砲撃にさらされ、国連報告だけでも1万3~4000人が殺されているのです。
その凄惨さは、拙著『ウクライナ問題の正体』でも詳述しましたし、オリバー・ストーン監督のドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイア』や『乗っ取られたウクライナ』でも生々しく描写されていて、観るひとの胸を打ちます。
野原記者は、このドキュメンタリー映画を観たことがないのでしょうか。現地を取材したことがないのであれば、せめてこの映画を観てから記事を書くべきでしょう。

エバ・バートレット
カナダ人記者エバー・バートレット


NHKの野原記者と違って、いまウクライナ南東部では多くの外国人ジャーナリストが砲弾の下を搔い潜りながら独自取材を続けています。その中には女性記者も少なくありません。カナダ人記者エバー・バートレットもその1人です。
彼女はキエフ政権による有名な「暗殺リスト」(Mirotvorets,)に載せられ、いつ殺されるかも分からない状況に置かれながらも、現地からの報道を続けています。たとえば、彼女の最新報道には次のものがあります。

* Artyomovsk locals reveal how Ukrainian forces targeted civilians and took children during the ‘battle for Bakhmut’
「アルチョモフスク住民が明らかにした、『バフムート戦』の間にウクライナ軍が一般市民を狙い、子どもたちを連行した手口」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1649.html(『翻訳NEWS』2023/06/12(21:32)

この記事はかなり長いので、その全てを紹介できないのが残念ですが、その出だしは次のようになっていました。

2022年2月にロシアがウクライナでの軍事作戦を開始して以来、西側報道機関やキエフ当局は世界に向けて、「戦争犯罪」の告発を発してきました。その中には、子どもたちの誘拐や一般市民への攻撃も含まれていました。

しかし、最近アルチョモフスク(バフムートという名でも知られている)から避難してきた市民たちの証言から示唆されたことは、マリウポリなどの市民たちの証言と同様に、ウクライナはロシアに対して幹部段階で戦争犯罪を犯しているという事実でした。

4月下旬、ウクライナによるアルチョモフスクへの砲撃で生き長らえることのできた人々が、私と私の仕事仲間のクリステル・ネアントさんに話をしてくれたのですが、その内容は、これらの人々が4月11日に受けた恐怖について、でした。
その日、ウクライナ軍が、これらの人々の住宅住居の1階を爆破し、地下に避難していた市民たちを生き埋めにしました。地下にいた17人のうち7人の市民がほぼ即死で亡くなりましたか、その中には7歳の子どももいました。

負傷した腰の手当てを受けていた病院から来たセルゲイという名の男性の話では、「ウクライナ軍、いや、(第二次世界大戦時にナチスに協力していたステファン・)バンデラ軍と言った方がいいのだが、が意図的に病院の建物を爆破したそうです。「4月10日に、ウクライナ軍は全ての病室に手榴弾を投げてきたのさ。手榴弾が転がる音が聞こえたよ。」

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このようにウクライナ軍は民家や病院を破壊する戦闘を続けていたのです。これは明らかに「戦争犯罪」です。しかし、このような事実を欧米メディアはいっさい報道しようとはしません。
それはともかく、バートレット記者の報告は続きます。そのすべてを引用できないのが残念ですが、あとひとつだけウクライナ軍が「子どもを誘拐している」という事実を、バートレット記者が突き止めた箇所だけを引用することにします。

ウクライナ軍から意図的に標的にされていた以外に、もうひとつ別の恐怖があったことを主張するアルチョモフスク市の住民たちもいました。それは、ウクライナによる子どもたちの強制連行です。– 私たちと話をした4名の人たちによると、ウクライナの憲兵隊は地元の子どもたちを連れ去ろうとしていた、とのことでした。

住民たちはこれらの憲兵隊のことを「白い天使たち」と呼んでいます。この部隊は特別な憲兵隊で、ウクライナ側は「避難補助隊」と呼んでいます。
4月上旬、 ウクライナ政府の「領土再復帰」省(「住民投票でロシアへの編入を決めたドネツクを取りもどそうとする」省)の発表によれば、 126名の子どもたちを、ドネツク地方の不特定の21地域から「強制避難」させたとのことでした。

つまり「強制避難」という名の「誘拐」です。プーチン大統領が批難されている行為を自らがおこない、それを口実としてICC国際刑事裁判所にプーチン大統領への逮捕状を出させる作戦です。
この記事は、それをさらに次のように説明しています。

エフゲニーさんとリューボフさんは、人々が人道支援を受けるアルチョモフスクの一地域の話をしてくれました。

2人の話によると、両親が助けを求めている間に、14歳の少年が外にいたそうです。「何人かがあらわれて、その少年を連れ去ったんだ。近くにいたひとたちが大声を出したんだ。するとその人たちはこう言った。〝この子を見てくれる人がいなくって、きちんと世話をしてもらえていないから〝と。そんな感じだよ。その少年がその後どうなったかは、は分からない。」

セルゲイさんの話では、セルゲイさんと奥さんはずっと自分たちの子どもを隠していたそうです。
「奴らは子どもたちを連れ去ってたからね。来るのは夜の6時で、たまに夜10時のこともあった。ひとつの地下室につき1人ずつ決まった子どもに狙いをつけていたので、連中は何回もやって来たよ」。
セルゲイさんが見たその男たちは、黒い靴を履いて、迷彩服を着ていたそうです。

「避難補助隊」は憲兵隊でもボランティアでもない、とさえ考える人もいます。「連中は自分たちのことをボランティアだと言ってたけど、そうじゃなかった。SBU(ウクライナ保安庁)か情報を収集する機関の工作員だったんだ。市民の一覧表を持っていたから、誰がどこに住んでいて、何人いるかも分かってたよ」とウラジーミルさんは話してくれました。

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以上はウクライナ軍がドンバスの子どもたちを「誘拐」し、それをロシア軍のせいにする作戦ですが、いまウクライナ軍のなかに広がっている「戦死した兵士から臓器を取り出し、それを密かに売りさばく」行為も、徐々に明らかにされつつあります。
以下の記事はそれを報告したものです。この著者(デボラ・アームストロングDeborah L. Armstrong)も女性であることに注目してください。

*“When You See It, You Won’t Forgive”: Part III of an Investigative Report on Human Trafficking in Ukraine
「それを見れば、だれも許さないだろう:ウクライナにおける人身/臓器の売買についての調査報告(第3部)」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1366.html(『翻訳NEWS』2023-03-29)

これも長い記事なので一部しか引用できませんが、時間のあるかたはぜひ全文を読んでい頂きたいと思います。

ウクライナにおける人身売買に関する私の調査報告書第1部、第2部をお読みいただいた方は、必ずしも同意していないウクライナ兵や民間人からの臓器摘出を目撃した、あるいは参加したと主張する人々の証言をすでにお読みになっているはずだ。

戦場での臓器狩りが、少なくとも1990年代後半から行われていたことは、2009年の欧州評議会(PACE)のディック・マーティ副議長による「コソボにおける人々に対する非人道的な扱いと違法な臓器売買」報告書で、すでにお読みいただいた通りだ。
そして、戦場での臓器狩りは少なくとも1990年代後半から行われていたことは、ロシア内務大臣顧問のウラジミール・オフチンスキー博士によれば、コソボで臓器移植プログラムの先頭に立った同じ人たちが、現在ウクライナで臓器移植作業を指揮していると言われていることも、お読みいただいた通りだ。

ウクライナでこのような事業がより円滑に行われるためには、何が必要なのだろうか。第1部の証言者によると、ドナーの体から臓器を取り出して搬送するまでの時間は最短で7分、外科医は、実質的にはベルトコンベアのように遺体を処理しなければならないので、スピードが重視されるとのことだ。

おそらく、ウクライナの法律を改正すれば、この手順をより効率化し、本人がすでに亡くなっている場合の同意の必要性など、お役所仕事の一部を切り捨てることができるだろう。
ロシアがウクライナ国境を越え、2022年2月24日に特別軍事作戦(SMO)を開始するわずか2カ月前の2021年12月16日、まさにそのようなことが起こっていた。

こうしてウクライナでは、法律が改悪され、簡単に臓器売買がおこなうことが可能になりました。しかも戦場ではたくさんの兵士の遺体から臓器が取り去られ、その遺体は家族に返されなくなりました。

キエフ、兵士の遺体を返せ!と叫ぶ家族
>キエフ市内で、「兵士の遺体を返せ!」と抗議する家族

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そこで2023年1月14日、ウクライナの首都キエフで行われた大規模な抗議活動の動画がSNSで拡散され始めました。
先述の記事によれば、抗議者の大半は女性ですが、中には男性の姿も確認できます。女性たちは、ウクライナ軍第24師団の未亡人や妻たちであることが確認されています。その集会の動画は下記URLで見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=73lI9NZZvrA(約1分)

この家族の抗議を傍証する事実として先述の記事は、次のような説明を付けています。

つまり、この法律は、条文を読めばわかるように、故人の同意なしに、簡単に臓器を摘出することができる。戦闘が激しく混乱し、近親者の所在が不明な戦場において、それがどのように機能するかは、想像に難くない。特に、ある情報筋によれば、戦場では遺体は150ドルから200ドルで売られ、たった1つの遺体から採取された臓器の総額は1000万ドルに達することもあるそうだ。

さらに、ロシアのメディアやロシアのブログなどで、ウクライナ東部の人々が臓器をすべて摘出されて大量に埋葬されたとの報道が多数なされている。このような話は西側では嘲笑され、「ロシアの偽情報」として退けられるが、びっくりするほど多くの報道がある。

セルゲイ・ペレホドというブロガーは、国籍は不明だが(おそらくロシア人かウクライナ人)、2014年だけで起こった悲惨な発見のリストをまとめている。以下は、彼が指摘した残虐行為の一部である:

1)9月24日、ドネツク人民共和国(DPR)の民兵は、ロウアー・クリンカとコムナールの集落で墓を発見し、そのうちの2つの墓には撃たれた男女の遺体が、3つ目には内臓のない40人の遺体があったことにショックを受けた。実際、アメリカ資本の『モスクワ・タイムズ』でさえ、このことを報道したほどである。
2)5月5日、ウクライナでは「兵士の臓器が大量に摘出されている 」という噂が飛び交った。公式発表では、死者5名、負傷者12名と発表されたが、救急車の出入りが激しく、犠牲者はその2~3倍は、いたのではないかと思われるほどだった。
実際、少なくとも48人が労働組合ビルに追い込まれ、生きたまま焼かれたり、撃たれたり、殴り殺されたりしたオデッサ大虐殺は、そのわずか3日前の5月2日に起きており、この連載の第1部に登場する目撃者の一人は、この大虐殺後に多くの臓器を採取した、と言っている。
3)5月20日、カラチュンの丘付近で夜間偵察活動中の民兵が、「腹が引き裂かれた」ウクライナ国家警備隊兵士180人の遺体を発見した。
少し離れたトロイツク墓地付近では、さらに300体の遺体が発見され、埋葬されず、臓器が取り除かれていた。地元の人々は、赤十字の車や専門的な機器を持った外国人医師を見たと報告している。
ウクライナのメディアはその日、カラチュンの丘で激しい戦闘があったことを報じたが、ロシアのメディア以外ではほとんど確認できない。

上記の2)では、2014年のクーデター直後に、オデッサ市の労働組合会館でおこなわれた「クーデター抗議集会」への参加者を焼き殺したり、 この大虐殺後に多くの臓器が採取されたという事実についてもふれています。
これはオリバー・ストーン監督のドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイア』『乗っ取られたウクライナ』ですらふれられていない衝撃的事実です。NHKの野原記者が、このような事実を知らなかったとしても、当然かも知れません。

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先述の記事では、さらに次のような事実も指摘していました。

臓器が摘出された遺体が発見されたという報道の多くはロシア側から発信されているように見えるが、ウクライナでの臓器狩りについては、2000年代から世界中で多くの記事が発表されている。
ロシアのSMO(特別軍事作戦)が始まるまでは、このような記事は簡単に見つけることができた。そして突然、西側の主流メディアは、このような記事を「ロシアの偽情報 」と呼ぶようになった。

このように欧米ではウクライナにおける臓器売買は公然の秘密だったのです。ところがドンバス住民を救うためにロシア軍がSMO(特別軍事作戦Z)を始めてからは、このような報道はまったく姿を消しました。
それでも、そのような報道はまだ少しながら続いていました。それを先述の記事で、デボラ記者は次のように説明しています。

また、ジュネーブ安全保障セクター・ガバナンスセンター(DCAF)が2015年に発表したもう一つ調査では、ウクライナは臓器狩りを含む人身売買の「発地、通過そして到達国」であると結論付けている。報告書の全文はこちらのリンクから読める。
ロシアのSMOが始まった後、西側のニュースはウクライナでの違法な臓器狩りの報道はほぼしなくなった。しかし、2022年3月、BBCは、数千人のウクライナの子どもたちが行方不明になっており、人身売買業者の手に落ちた恐れがあると報じた。
2022年2月、ドイツの国防大臣クリスティーネ・ランブレヒトは、ウクライナが移動式火葬場を完備した野戦病院を受け取ることになると述べた。ウクライナに武器を送ることに反対していたランブレヒトは、「ウクライナ戦争への、ベルリンの対応をめぐる監視の目が厳しくなる中で」今年1月に辞任した。
野戦病院と火葬場のニュースは、ウクライナ軍に深刻な動揺をもたらしたと報道されたが、やがて西側の主要メディアは、火葬場はロシアが運営し、ロシア軍の犠牲者数を隠すために使われたと主張する記事で、もちきりになった。

つまり、以前からウクライナは、臓器狩りを含む人身売買の「出発点、通過点、そして到達点」として有名だったわけです。
これはウクライナが一種の「テロ国家」だということを改めて示すものです。
ところが、このような事実は、ロシアのSMOが始まった直後から、西側のニュースから姿を消しました。そして新たに現れたのが「ロシアとプーチン大統領の悪魔化」でした。

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このようなテロ国家に、岸田政権は、憲法違反という批判を避けるため、「砲弾をアメリカに売る」ことによって、軍事援助を続けようとしています。
が、臓器売買に日本も参加することによって、間接的にキエフ援助をする民間人もいます。その恐るべき実態を先述の記事は次のように伝えていました。

2022年10月、アジアニュースネットワークは、外国人ドナーとの移植を仲介する東京のNPO法人を通じて、経済的に苦しいウクライナ人が腎臓を売買される臓器提供者として確認されたという記事を掲載した。
この記事は、ウクライナ語のウェブサイトで、腎臓を売りたい人にお金を提供する書き込みが出現していることが触れられている。このような投稿は、2020年のCovid19以降、4倍の頻度で出現するようになったと記事は述べている。
投稿には、売買したい臓器の年齢、血液型、種類、そして価格が記載されている。「完璧に健康な20歳!」などと、臓器の「質」も記載されている。また、電話番号や住所などの連絡先も記載されている。
この記事によると、これらの投稿は、ロシアのSMO(特別軍事作戦Z)が始まった後も、途切れることなく表示され続けたという。
神経科医を名乗る人物のある投稿には、「経済的苦境に陥っているのなら、あなたの腎臓を買います」と書かれていた。彼は、アメリカやインドだけでなく、「日本にも拠点がある」とも付け加えていた。
「家が買える!」と謳った投稿もあった。記事によると、あるウクライナ人女性は、58歳の日本人女性に提供された腎臓の対価として15,000ドルを受け取ったという。ひとりのトルコ国籍の人物は臓器の売買に関与したとして、ウクライナ当局に逮捕された。

この記事では、トルコ国籍の人物の臓器売買をキエフ政権が取り締まったかのように書かれていますが、そもそも臓器売買を大幅に「自由化」したのは、ゼレンスキー大統領の国会決議だったのです。
しかも、このような事実を、NHKを初めとする大手メディアは報道しないのですから、ほとんどの日本人は知る由もありません。天下の「前衛」を自称しているはずの新聞「赤旗」ですら、このことを指摘していないのですから。

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さて話が大きく横に逸れたので、NHKの野原記者の記事「ダム爆破」に話題を戻します。先述のように、NHKの野原記者によれば、ウクライナのヘルソン州幹部トロコンニコフ氏はオンライン取材で次のように語ったとされています。

「私たちの反転攻勢の計画を妨害するために、ロシア側がダムを破壊したのだと思います。ロシアが支配する川の対岸に、私たちが渡れなくなるように。」
トロコンニコフ氏はダムの決壊による被害はロシアが占領する川の南東側の方が深刻だと繰り返し訴えていました。死者や行方不明者の情報も少しずつ出てきていますが、こうした地域の被害状況はつかみ切れていないのが現実です。
川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない。そんないらだちをにじませるトロコンニコフ氏の姿に、この戦争の残酷さを改めて思い知らされました。

先ず第一に、「ダムの決壊による被害はロシアが占領する川の南東側の方が深刻だ」とトロコンニコフ氏自身が認めているのですから、そのような自分に不利なダム破壊をなぜロシア側がおこなうのか、その論理矛盾にトロコンニコフ氏も野原記者もまったく気づいていません。
それはダムの破壊で、下流に住む住民の生活環境が破壊されるだけでなく、このダムの貯水がクリミア共和国住民の水源になっていますし、ザポリージャ原発の冷却水にもなっていますから、そのダム破壊はロシア側に多大な損失を与えます。このようなことも、野原記者もトロコンニコフ氏もまったく言及していません。
それどころか、トロコンニコフ氏は、「私たちの反転攻勢の計画を妨害するために、ロシア側がダムを破壊したのだ」と言っているのです。
トロコンニコフ氏はよほど頭が悪いのか、あるいは分かっていてもそれを口にすることは許されないので、野原記者に先述のような弁解をしたのでしょうか。

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が、先述のとおり、ウクライナ軍の攻勢を見事に跳ね返し、戦いに勝利しているのですから、ロシア軍は自国の住民に巨大な不利益を及ぼすダム破壊に手を出す必要はまったくありません。
ウクライナ軍の敗北ぶりは次の記事で明確に示されています。ウクライナ軍の損失はロシア軍の10倍なのです。
*Moscow estimates Ukraine’s counteroffensive losses
「モスクワ、ウクライナ反攻の損失を見積もる」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1674.html(『翻訳NEWS』2023-06-18)

この記事では、ウクライナ軍の敗北ぶりを次のように伝えています。

ウクライナは、今月初めに待望の反攻を開始して以来、何千人もの軍人を失っていると、ロシア国防省は水曜日(6月14日)に主張した。
同省は声明で、キエフ軍は約7500人の死傷者を出したと発表した。この数字は、前線にいる兵員のみを含み、ロシアの高精度ミサイルやウクライナ領土の奥深くへの空爆によって攻撃された兵員は含まれていない。
この犠牲者数は、ロシア国防省がドンバスの前線5地区でウクライナ軍の大規模な攻撃を撃退したと発表した6月4日からの期間に相当する。それ以来、キエフ軍は何度もロシア軍の陣地を襲撃しようとしたが、モスクワによると、ひとつの陣地も得ることができなかったという。
同省は、この24時間の間に、ロシア軍は前線南側のマカロフカ集落付近で2回のウクライナ軍の攻撃を撃退したと付け加えた。この攻撃には、ウクライナの自動車化歩兵2個中隊、戦車4台、装甲車11台が含まれていたという。同省は、戦車はそれぞれ破壊され、7台の車両も破壊されたと付け加えた。(中略)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は火曜日(6月6日)、クレムリンで特派員に対して、ウクライナ軍は「大きな犠牲者を出している」と述べ、その犠牲者はロシア軍よりも10倍も多いと主張した。
また、ロシアの指導者は、ウクライナが西側諸国から送られた軍備のうち、最大30%を失ったと述べた。

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御覧のとおり、ウクライナ軍の「反転攻勢の計画を妨害するために」ロシア側はダムを破壊する必要は全くなかったのです。
そしてウクライナ軍が戦果をあげていないことはゼレンスキー大統領も認めていることでした。次の記事はそのことをよく示しています。
*Kiev ‘facing tough resistance’ from Russian troops – Zelensky(キエフは、ロシア軍から「厳しい抵抗を受けている」と、ゼレンスキー)16 Jun, 2023

ウラジーミル・ゼレンスキー大統領は、木曜日に放映されたインタビューで、キエフが長い間待ち望んでいた反攻を行う中で、ロシア軍は防衛線を突破しようとするウクライナの試みに激しく反攻していることを認めた。
NBCニュースの取材に応じた同大統領は、ウクライナ軍が「非常に厳しい抵抗に直面している」と述べ、「ロシアがウクライナのこの作戦に負けることは、…実際に敗北することを意味するから、負けるわけにはいかないからだ」と言った。

ゼレンスキーはこのインタビューで「非常に厳しい抵抗に直面している」と述べるのみで、敗北したことを認めていません。
それは、長らく待望されていた「反転大攻勢」に失敗すれば、これ以上の援助を西側から期待することは極めて困難になるからです。
欧米諸国の支配者はウクライナ軍の「反転大攻勢」がいつ始まるのか、固唾をのんで見守っていました。彼らは大量の武器・お金を注ぎ込んでウクライナ軍を支援してきたのですから、一刻も早くその成果を見せてもらわなければ困るのです。
なぜなら欧米の民衆は長引く戦争で自分たちの生活が脅かされていることに我慢が出来なくなりつつあるからです。ロシアへの経済制裁で「ブーメラン効果」が自分たちの経済が脅かされつつあることを実感し始めてています。
このような状況が継続すれば、民衆からの大きな反乱が起き、いつ政権が転覆する事態になるか分かりません。
ですから「反転大攻勢」が失敗したのは、ロシアによるダム破壊のためウクライナ軍がドニエプル川を渡ることが困難になり、ドンバス地区をロシアから取りもどすことが極めて難しくなったからだと思わせることが必要だったのでしょう。
だからこそ「最後の手段」に訴えたのだというのが私の推測です。繰り返しになりますが、「反転攻勢の失敗を覆い隠すために」こそ、ウクライナ側はダムを破壊する必要があったのです。

ヘルソン州
ヘルソン州の概略図「緑色の部分がウクライナ領、橙色の部分がロシア領(出典:ウィキペディア)

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また野原記者は先述の記事で、「川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない。そんないらだちをにじませるトロコンニコフ氏の姿に、この戦争の残酷さを改めて思い知らされました」と書いています。
しかし、ロシア領に住むヘルソン州住民は、「ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない」どころか、ロシア軍が進行してきたことで、逆に今までウクライナ軍による民家や病院などへの爆撃から解放されたことは、先述のエバー・バートレット記者の報告からも明らかでしょう。
それどころかロシア軍は、撤退する際、ドニエプル川の右岸に住んでいたヘルソン州住民の希望者全員を左岸の移住させています。それは「住民投票でロシア編入を希望した州民」が虐殺される恐れがあったからです。
この心配は単なる杞憂ではなく、「ブチャ虐殺事件」で証明されています。西側のメディアでは相変わらず「あれはロシア軍の仕業だ」ということで論調が統一されていますが、今では「あれはロシア軍に好意を示した住民にたいする報復だった」ということが明らかにされています。
次のスコット・リッター(Scott Ritter)論文が、そのことをみごとにに解明しています。ちなみにリッター氏は元国際連合大量破壊兵器廃棄特別委員会主任査察官として、ブッシュ政権の「イラクの大量破壊兵器」という嘘を暴露したことで有名な人物です。
*Bucha, Revisited
「ブチャ虐殺事件を再考する」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1116.html(『翻訳NEWS』2022/11/06)

ですから、野原記者は「川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで、十分な支援が届けられない。そんないらだちをにじませるトロコンニコフ氏の姿に、この戦争の残酷さを改めて思い知らされました」と言っているのは、まさに「鰐(わに)の涙」と言うべきでしょう。
なぜなら「川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民」をウクライナ軍の爆撃から救うためにこそ、ロシア軍の「特別作戦Z」が始められたからです。それは拙著『ウクライナ問題の正体』で詳述したので、ここでは繰りかえしません。
野原記者が、「川のすぐ向こう側にいる同じヘルソン州の住民なのに」「ロシア軍が占領していることで十分な支援が届けられない」と書いているのは、まさに「白を黒と言いくるめる」描写としか言いようがありません。

ヘルソン避難所へのミサイル攻撃
英国ミサイルで攻撃される「ダム爆破の避難所」
https://www.rt.com/russia/577814-kherson-flood-shelter-strike/

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ずいぶん長くなったので、このあたりで締めにしたいので、あと1つだけ言い残したことを述べて今回のブログを閉じたいと思います。それは次の記事です。

*Ukraine hits flood shelter with UK-supplied missiles – Kherson official(ウクライナが、英国提供のミサイルで洪水避難所を攻撃、とヘルソン市当局者)
https://www.rt.com/russia/577814-kherson-flood-shelter-strike/
10 Jun, 2023

この記事で「ヘルソン市当局者」というのは、ロシア領に編入されたヘルソン市のことを指します。
それはともかく、ダム破壊の洪水を逃れて避難所に避難している住民にミサイル攻撃を加えるというのは、まさに「戦争犯罪」です。
「同じヘルソン州の住民なのに、ロシア軍が占領していることで十分な支援が届けられない」とウクライナ領ヘルソン州幹部の言動が、「鰐(わに)の涙」だったことを、改めて証明するものでしょう。
この記事は、その詳細を次のように伝えています。

ウクライナ軍は、カホフカ・ダムの決壊に伴い、避難している人々のための複数の一時避難所を攻撃したと、ヘルソン州のウラジミール・サルド知事代理は、土曜日の朝、荒廃した施設の写真を公開しながら述べた。
ドニエプル川左岸の避難所への攻撃は、現地時間の午前5時ごろに行われ、英国が供給したストーム・シャドウ・ミサイルを使用したとされている、とサルド知事代行は発表した。当面の情報によると、少なくとも1人の死傷者(女性)が出たという。

NHK国際部記者は、このような事実を確認しないで、ロシア領のヘルソン州幹部の言のみを国際ニュースとして伝えているのですから、その退廃ぶりは眼をおおいたくなるレベルです。
ロシアのRTニュースは、毎日、米国の元財務次官ポール・グレイグ・ロバーツ氏もしばしば引用するくらいの記事を報道しているのですから、その報道姿勢を見習ってほしいものです。


<追記>
次の記事はトルコがカフコフカダム爆破を調査するための国際委員会を設置する提案をしたことに対して、それを強く拒否したことを報じたものです。

*Ukraine rejects Türkiye’s Kakhovka dam proposal(トルコによるカホフカ・ダムに関する提言をウクライナが拒否)
Jun 8, 2023

これを拒否したことは自分に非があることを間接的に認めたものと言えるでしょう。先にザポリージャ原発のミサイル攻撃についてロシアがIAEA(国際原子力機関)による調査を要請したとき、それをキエフ政権が強く拒否したのと「瓜二つ」と言えます。

本記事は、百々峰だより からの転載になります。

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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