【連載】八木啓代のひとりごと

宗教法人解散命令のミステリ:なぜメディアはこの件に触れないのか?

八木啓代

 放送法の「政治的公平」の解釈を巡って、第2次安倍政権と総務省のやりとりを記したとされる文書。総務省がすべて行政文書だと認めたことで、皆、うすうす感じてはいたこととはいえ、安倍政権下でTV局に露骨な圧力が掛けられていたことが明らかになった。

ほぼ時期を同じくして、BBCと週刊文春が、ジャニーズ事務所でのセクハラ行為を報じたことで、TVが本当に「圧力」にきわめて弱いということが、さらけ出されている。最近、統一教会がらみの報道が減ってきたのも、そういうTV局のヘタれっぷりとは無縁でないのかもしれない。むろん、昨年から統一教会が、TVで統一教会を批判した出演者やテレビ局を名誉毀損で訴えるということもあるのだろうが、それもこれも、統一教会への解散命令請求の可能性が出てきていることで、同教会としては、なんとか少しでも話題になることを避け、解散請求をなんとか阻止するか、それが無理でも、資産を海外移転させるまで時間稼ぎをしたいというのが本音だろう。

それにしても、解散請求命令を出すことに、文科省はおそろしく慎重だ。宗教法人法で、裁判所が解散命令を出せる要件として「法令に違反して著しく公共の福祉を害する」行為があった場合などが必要要件であるとして、その証拠集めとして、質問権を昨年11月に行使。資料を集め、慎重に審議するとしている。

まるで、できるだけ時間を稼いでいるかのようだ。

しかし、文科省とメディアが、宗教法人の解散命令について、あえて触れていない重大なポイントがある。

いままで、解散命令を受けたのは、オウム真理教と、明覚寺、法の華とされているが、それは事実ではない
2006年、京都の大日山法華経寺も解散命令を受けているのだ。

しかも、この大日山法華経寺のケースは、3つの点で、重要なポイントを含んでいる。
そして、おそらくそこに、文科省やメディアがこの件に触れたがらない理由があると言ってもいい。

1つめは、宗教団体として、反社会的なことはしていなかったにもかかわらず、解散請求命令が出たこと。
2つめは、解散請求命令を出したのが、文科省(当時は文部省)ではなかったこと
3つめは、解散請求命令が出たことで、資産の全てが差し押さえられたことだ。

以上を念頭に、この、あまり知られていない事件をおさらいしてみよう。

京都の大日山法華経寺は、何有荘(かいうそう)という庭園内にあった。(実は、これが悲劇の始まりだった)

何有荘とは、南禅寺別荘群の名園の一つで、6000坪(約20,000m²)の広大な敷地は山腹まで及ぶ。
本来、南禅寺の境内に属し、この庭園自体が南禅寺の一部だったが、明治になって、南禅寺が廃され、その塔頭の跡地に築造された。

明治期に入って何回か所有者が変わり、1905(明治38)年に、実業家・文化人として活躍していた稲畑勝太郎の所有となり、洋館や茶室などを建て、庭園を造営して、和楽庵【わらくあん】と名付けられる。近代日本庭園の先駆者とされる作庭家7代目小川治兵衛の最高傑作のひとつといわれ、洋館の設計は武田五一(1916年)であり、明治から昭和初期に活躍して名を残した人々の手によってこの邸宅が作られたといえる。
稲畑氏の死後、1953年(昭和28年)、宝酒造の社長・会長を務めた大宮庫吉氏がこの地を譲り受け、邸宅の名が「何有荘」と改められる。「何か有るようで何も無い、何も無いようで何か有る」という禅の言葉からだ。

ここを、1984年、土木建設会社「日本工業」経営者、大山進氏が取得。当時の日本工業の売り上げは、公共工事だけで年間800億から1000億に及ぶレベルの京都屈指の大会社だった。
この時点(正確には翌1985年)、バブル期とはいえ、何有荘評価価格は172億円にのぼった。

1991年、大山氏が主催する形で、宗教法人大日山法華経寺が設立され。大山進氏が宗教法人に寄付する形で、何有荘は、大日山法華経寺所有となる。

(ちなみに、地下鉄サリン事件は、1995年3月20日、翌1月、オウム真理教は、解散命令により、宗教法人格を失う)

そして、2000年。
この頃、バブル崩壊の余波で日本工業が経営不振に陥り、何有荘も抵当に入ってしまった。大山氏は競売を阻止するべく、抵当権者D社と和解を試みるが、当時、銀行が貸し渋りをしていた時期で難航する。(10億円の和解金が準備できなかった)

2002年、自民党清和会元会長・三塚博の元秘書で、不動産会社社長の満井忠男が、何有荘を38億での買取を申し出、1億円の内金を支払う。しかし、満井も買い取り価格を用意できず、残金を用意できないまま終わる。
結局、大山氏が抵当権解除のための資金調達がなかなかできなかったうえ、債権者のD社自体も経営不振になってきたため、D社は整理回収機構RCCに債権を売却した。

このタイミングで、なぜか満井忠男が、大山氏を詐欺で刑事告訴。大山氏が逮捕されるのである。

容疑は、2002年に満井が何有荘の買取を申し出たときに、大山氏は、他にも購入希望者がいることを(具体名を出して)匂わせ、立ち退き費用として一億円を受け取ったというもの。しかし、他にも購入希望者がいますよみたいなことを匂わせるのは、不動産売買では普通のことだし、相手の満井も不動産のプロ。さらに、実際に大山氏は、もっと高値を付けてくれるところがあれば、そちらに決めることも当然考えていたから、嘘をついたわけでもない。しかも、満井氏が残金を払えば、債権者のD社と和解して、抵当権抹消できることも決まっていた。なので、詐欺の意思がなかったことは明らかだし、さらに言えば、手付金を払っても、残金が用意できなければ手付金が返ってこないことは不動産取引ならありうる(金額が大きいので交渉次第になる可能性はあるとはいえ)のだが、満井側はなぜか、それを詐欺と主張したのである。

ちなみに、この満井忠男はすでに仮装売買で逮捕歴があった人物で、さらに、彼の弁護士で元公安調査庁長官・元高検検事長の緒方重威ともども、後の2007年に朝鮮総連本部ビル売却問題で逮捕・有罪判決を受けている。(売却先を探していた朝鮮総連本部に「金を用意できる」と持ちかけて、所有権を移転登記し、総連の土地と建物を詐取。さらに、別の不動産トラブル解決のためとする虚偽話で総連から5億近くを受け取り、再逮捕という案件。こっちのほうがよほどブラックな人物である)

いずれにしても、この件では、詐欺どころか、大山氏に悪意がなかったのは明白で、当然、本人は全面否認した。ところが、ここで、トンデモ弁護人が、保釈のために嘘の自白をすることを勧める。大山氏は、それでも自白を拒否していたが、ここで、検察は、彼の娘婿を微罪で逮捕。(工事履歴書に誤りがあったことを理由の建設業法違反)

そして、接見禁止となり、弁護士以外と面会できない状況下で、このトンデモ弁護士が「このまま否認を続けると、娘さん夫婦は一家離散になる。認めれば保釈になるし、娘婿への事件も取りやめる。有罪になっても、執行猶予がつくので、ぜったい実刑にはならない」と大山氏を脅したことで、第二回公判で、大山氏は拒否を翻し、全面自供に至った。この弁護士は、問答集まで作ってつじつまを合わせ、証拠調べもなかった。
しかも、罪を認めたことで保釈が認められたが、「裁判が終わるまで弁護人を変えない」という変な誓約書を裁判所に提出させられる。

こうして、証拠調べもないまま、大山氏の「自供」だけで、一審有罪。実刑懲役3年6月となった。
まさかの実刑判決に、さすがに弁護士にハメられたと気づいた大山氏、控訴を決める。しかし、高裁はけんもほろろで、一審での自白を根拠に証拠すら調べず、控訴棄却となった。

まあ、これだけでも、今なら大いに問題になる「検察の暴走」案件である。
(起訴した相手が自白しないとなると、家族を微罪逮捕して脅すとかって、まるで福島県知事の佐藤栄佐久氏の事件を彷彿とさせますよね)

で、このとき、大山氏逮捕を理由に、債権を買い取ったRCCが競売を申し立て、さらに、大日山法華経寺に対して、宗教法人解散命令の申立をおこなったのである。
このとき、RCCは、大山氏が刑事事件で有罪判決を受けたこと、宗教法人が税金逃れのための実態のない法人と主張。しかし、同寺は法要なども行っており、実態がないなどとは、京都市ですら認めなかったし、なにより、何有荘のある南禅寺区域は古都保存法に基づく歴史的風土特別保存地区に指定されているので、宗教法人名義になる前から無税だった。にもかかわらず、京都地裁はRCCの主張を丸呑みして、まだ、控訴審の判決も出ていないにもかかわらず、宗教法人の法人格を否認した。
そして、RCCは、歴史的名園・何有荘を差し押さえ、ちゃっちゃと売っぱらったというわけだ。

歴史的名園・何有荘は、こうして翌年、大阪の不動産会社に叩き売られ、その後、クリスティーズの仲介でオラクル社CEOのアメリカ人実業家ラリー・エリソンが購入。現在、非公開となっている。

で、話戻すと、オウム真理教のケースでは、東京地裁は、宗教団体構成員の大部分または中枢部分が、 宗教法人の組織的行為としてその犯行に関与するなど、重大な犯罪の実行行為と宗教法人の組織や活動との間に、社会通念上、切り離すことのできない密接な関係があると認められる場合に、 宗教法人の解散命令ができると判断を示している。(宗教法人法81条1項1号、2号)

この基準から見ても、何有荘事件は、オウム真理教の事件とはレベルが違いすぎ、しかも、明らかに大山氏の「詐欺」を宗教法人の活動と結びつけるのには無理があり、しかも、宗教法人自体とは債務関係のないRCCが申し立てるというのも異常だった。

ちなみに、宗教法人法81条では、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができることになっている。
だから、大日山法華経寺に関しては、宗教法人としての認可を行った所轄庁として、京都府知事が解散命令申立をしたというならわかる(統一教会の場合は、文科省がこれにあたる)が、教団の利害関係者ですらないRCCが申立、これが受理されたというのも異常だった。

(この何有荘事件では、検察自身が解散命令の申立はしていないが、代表をこんなでっち上げのような事件で起訴し、家族を微罪逮捕までして虚偽自白に追い込み、有罪にすることで、全面協力している)

しかし、この程度でも解散命令が出ているケースがあったことを、統一教会問題でメディアがまったく報じない、どころか、事件そのものが、まるでなかったことにされているのは、不自然きわまりない。

 

また、誰も触れていないが、検察も、解散命令の申立ができる。

文科省が動きが悪いなら、検察がやってもよいのである。なぜなら、すでに統一教会の手法は、特定商取引法違反、薬事法違反などで全国で数多く摘発されてきてるし、2009年には東京地裁で、「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」とまで認定されている。この一点で、検察は動けるはずである。宗教法人解散命令が出ることで、裁判所が清算人を指定し、宗教法人の資産は売却されることになる。だから、何有荘はあっさりRCCのものとなり、売却されてしまったのだ。

つまり、解散命令が出ると、統一教会の資産はすべて差し押さえられ、裁判所によって精算される。これが、統一教会のもっとも恐れていることであることは確かで、解散命令をできるだけ引き延ばさせ、その間に資産を移動させているとしても何ら不思議ではないとは言っておこう。なお、この何有荘事件について、もっと詳しくお知りになりたい方は、「無法回収 ー『不良債権ビジネス』の底知れぬ深き闇」(椎名麻紗枝・今西憲之著、講談社)を一読されることをお勧めする。

※尚、この記事は、同書ならびに、椎名麻紗枝弁護士へのインタビューに基づいて執筆した。

八木啓代のひとりごと(2023-03-10)からの転載

公式サイト http://nobuyoyagi.com

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八木啓代 八木啓代

大阪出身。大阪府立北野高校を経て、京都外国語大学から政府交換留学生としてメキシコに留学。その後、音楽家として、メキシコシティとキューバ・ハバナを拠点に活動を開始。中南米各地で公演し、多くの作曲家らから曲を献じられるまでになり、メキシコ・ペンタグラマ社から4枚のCDを発表。現地でのTV、ラジオ、音楽祭等に多数出演。高い評価を受ける。また、日本で作家・エッセイストとしても「禁じられた歌(晶文社/日本図書館協会選定図書)」、「ラテン女のタフで優雅な生き方(大和出版)」、「危険な歌(幻冬舎文庫)」、「キューバ音楽(青土社)」「ラテンに学ぶ幸せな生き方(講談社+α新書)」等多数。一方、2010年以後、「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」代表として、大阪地検特捜部証拠改ざん事件、陸山会事件における東京地検特捜部の虚偽報告書事件、森友事件における公用文書毀棄など、検察・司法問題を追及。明治大学情報コミュニケーション学部、中央大学文学部、神奈川大学国際関係学部等を始め、数多くの講演・講義を行っている。

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