【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第30回 ウクライナ軍壊滅の日は近い? 「欧州最大の原発ザポリージャをロシア軍が攻撃」という報道の怪!!②

寺島隆吉

そこで、もう一人、アメリカの元海兵隊情報将校スコット・リッター(Scott Ritter)の発言を次に紹介します。

氏は、「フセイン大統領がWMD(Weapon of Mass Destruction:大量破壊兵器)をもっている」という口実でアメリカがイラク攻撃に乗りだしたとき、 国連兵器査察官として、その嘘を暴露して有名になった人物です。

その彼が、次の記事に見る通り、「バ イデン大統領が次々と新兵器をキエフ政権に提供しているが、最新の強力兵器とされるHIMARS(高機動ロケ ット砲システム)であっても、ゼレ ンスキーに勝利をもたらす切り札にはならない」と言っているのです。

「ウクライナ軍は勝てない」 と語る、国連兵器査察官でもあったスコット ・リッター

 

*The myth of the HIMARS ‘game changer’: American-supplied rocket system is effective, but it won’t bring victory to Ukraine(HIMARSの「ゲームチェンジャー」神話。米国が提供するロケットシステムは効果的だが、 ウクライナに勝利をもたらすことはない)Jul 31, 2022
https://www.rt.com/russia/559185-himars-deadly-weapon-ukraine/ 

つまり、このロケットシステムは確かに極めて強力な兵器だが、ウクライナとその支持者が主張するような切り札にはならない。なぜなら、ロシア軍はシリアその他で十分な戦闘経験を積んでいて、彼らのもっている兵器も極めて高性能だから、HIMARSによる攻撃を切り抜ける戦術を必ずや開発するからだと言うのです。

しかも、欧米から送られてきた武器が中古品で役立たなかったり、送られてきた武器の70%が途中で行方不明になり、 前線の兵士にまで届いていないという現実があります。

次の記事は、そのことをよく示しています。ドイツ連邦議会の議員ですら、自国の榴弾砲の大半が正常に作動しないことを認めているのです。

*Most German howitzers in Ukraine out of order – MP(ドイツの榴弾砲の大半は正常に作動しない―ドイツ連邦議会議員)Aug 12, 2022
https://www.rt.com/russia/560728-ukraine-german-howitzers-broken/

*70% of Western weapons sent to Ukraine don’t reach troops – CBS(欧米からウクライナに送られてきた武器の70%が兵士に届いていない)

(副題)Report suggests US appears to be repeating the mistakes of Afghanistan, Iraq, and Syria(アメリカは、アフガン、イラク、シリアでの過ちを繰り返しているようだ、と報告書は示唆)
https://www.rt.com/russia/560419-ukraine-weapons-lost-cbs/ Aug 7, 2022

つまり欧米からウクライナに送られた武器の大半は、地下で密売され、「死の商人」の手に巨大な利益をもたらす源泉になっているわけです。

他方、ウクライナでは、ロシア軍と戦っている前線の兵士には十分な武器が届かないのですから、ロシア軍に勝てるはずはありません。

しかも、それらの武器は地下のルートでイスラム原理主義勢力の手に渡ることにもなります。いつまで経ってもシリアやアフガンに平和が訪れない理由のひとつが、ここにあるのではないかと私は考えています。

このような事態ですから、ゼレンスキー大統領が「普通の戦い方ではロシア軍に勝てないと考え、 原発を攻撃してロシア軍に恐怖を与えよう」という戦術に出たのではないかと、推測されます。

さもないと、あのような狂気の沙汰は理解できないからです。それほどキエフ政権は追い詰められているわけです。

キエフ政権が追い詰められている理由は他にもあります。それは兵士の士気です。

ウクライナでは、ロシア軍と戦っている前線の兵士には十分な武器が届かないのですから、ロシア軍に勝てるはずはありません。当然、兵士の士気も落ちます。

大手メディアの「正義の戦い」という宣伝にのせられて欧米からも多くの志願兵がウク
ライナに来ました。しかし、前線の惨憺たる現状を見た彼らは、早々にウクライナからの脱走を試みています。

その実態も拙著『ウクライナ問題の正体1・2』で詳しく紹介しました。

しかし、このような実態・感情は外国人傭兵だけではなく、ウクライナ兵のなかにも広がっています。それを示しているのが次の記事です。

*Ukrainian POWs reluctant to be exchanged(ウクライナ人の戦争捕虜は捕虜交換に乗り気ではない)Aug 13, 2022
https://www.rt.com/russia/560768-ukrainian-pows-exchange-russia/ 

つまり、ロシア軍によって捕虜にされた兵士ですら、 ﹁捕虜交換﹂でウクライナに帰る機会が与えられたとしても、自分はドンバスに残りたいとすら言っているのです。

なぜなら、帰国しても、またすぐに前線に送られて、死の危険と向き合わねばならないからだ、と語っています。

このような感情はウクライナ兵士に静かに広まりつつあるようです。それどころか、キエフ政権の徴兵に対する無言の抵抗も広まり、ゼレンスキーも兵士集めに苦慮しているようです。

次の記事は、キエフ政権が戦闘員の損失を「囚人」と「女性」で補充しようとしていることを示しています。それほど戦闘人員が不足しているということです。
Ukraine replenishes combat losses with convicts and women(ウクライナは囚人と女性で戦闘損失を補充する)24 Jun, 2022
https://www.rt.com/russia/557750-ukraine-draft-convicts-women/

上の記事によれば、街頭であろうが食堂であろうが、ところ構わず徴集令状をばら撒いているのです。 海外ですら例外ではありません。徴兵令状を避けて、小さな村に隠れ住んだり徴兵令状が今どの地区に配られようとしているのかを知らせるネットも現れ始めているようです(和訳は寺島)。

ロシアが2月下旬に軍事攻勢をかけてから、18歳から60歳までのすべての男性は、国内にどまって戦うようにと言われている。「今、私たちは小さな村に隠れている。主に屋内にいる。街に出るなど滅相もないことだ」と明かした。知人の男性も、このような行動で刑事責任を問われる可能性もあるが、 「それでも前線に行くよりはましだ」

黒海の港町オデッサでは、地元民のなかに、召集を逃れようとしてテレグラムで特別チャンネルを立ち上げ、市内で徴兵通知が配られている地域のデータをリアルタイムで共有する動きもある。

新兵の健康状態も、どうやらキエフ当局はあまり気にしていないようだ。健康診断所には「4人の医師しかいない。外科医、 神経科医、 精神科医、 眼科医。綿密な検査は行われていない。
医師はただ質問をするだけです」 と、ある被徴兵者はRTに語った。

このような状態ですから、ウクライナ軍にとって戦況が好転するはずはありません。

何度も繰りかえしますが、だからこそゼレンスキーは欧州最大の原発攻撃を続け、ロシア軍とプーチン大統領を恐怖に陥れる作戦に出たのだと考えざるを得ません。

これでは、ア メリカ政界の長老キッシンジャー元国務長官が、WEF(世界経済フォーラム)のダボス会議で、 「キエフ政権はドンバスやクリミアを諦め、 一刻も早い停戦を。さもないと核戦争になりかねない」と呼びかけたことは、いつまで経っても実現できないでしょう。

そもそも、芸人だったゼレンスキーが大統領に当選したのは、現職のポロシェンコ大統領がロシア語話者の住むドンバス地区を攻撃し、ロシアとの対立を煽りたてていたのに対して、経済再生や汚職への取り組みなどを公約に掲げ、ロシアとの対話を市民に呼びかけていたからでした。

だからこそ第2回目の決選投票では73.2%の得票率でポロシェンコを破り、圧倒的人気を誇ったのでした。ところが、彼は当選した直後から公約をかなぐり捨て、ポロシェンコと同じ路線を突き進んだのです。民営化はいっそう激しくなり、貧富の格差は広がる一方でした。

これに嫌気がさした国民の多くは、国外脱出を試みましたが、そんなことができるのは一部の富裕層や海外に知人をもつ知識階級やジャーナリストに限られていました。国内に残ってゼレンスキー批判を試みたジャーナリストも、 暗殺の恐怖に常時おびやかされることになり、 事実、 少なからぬひとが暗殺されました。

これも、 『ウクライナ問題の正体1・2』で詳述した通りです。

ところが大手メデ ィアは、ウクライナへの軍事的金銭的援助を呼びかけるのみで、この
ような実態を全く報道してきませんでした。

だから当然、 「ザポリージャ原発を攻撃しているのはロシア軍だ」というゼレンスキーの主張を真に受けた報道しかできません。

だから、またロシアが「IAEA(国際原子力機関)に現地調査をしてゼレンスキーの主張が正しいかどうかを検証するよう」呼びかけても、 国連事務総長がIAEAの調査を阻止する行動に出ていることも、正確に報道していません。

このようなUNとIAEAの奇妙な行動についても、述べたいことは多々あるのですが、もう十分に長くなりすぎていますので、今日はここでいったん休憩させてもらいます。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体3—8年後にやっと叶えられたドンバス住民の願い—』の第4章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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