赤木雅子さん訴訟「認諾」に隠された 安倍晋三「議員辞める」発言の本当の意味

青木泰

2018年3月7日に自らの命を絶った財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん。その死の真相を求めて、妻の雅子さんが提訴した民事裁判で、昨年6月23日、国が1年以上も存在自体を隠してきた「赤木ファイル」を提出した。そして昨年末、岸田政権は、雅子さんの訴えを全面的に認めて(注1)「認諾」し、1億円の賠償金を全額支払い裁判終結を企てた。

この「認諾」に対して、雅子さんは会見で「ふざけんな」と怒りをあらわにした。

国を「認諾」に追い込んだ雅子さんの闘いには、拍手を送りたいが、この裁判の目的は損害賠償ではない。公文書改ざんの目的を含めた、森友事件の真実を明らかにすることである。そうである以上、金で無理やり裁判を終わらせ、真実に蓋をする政権の「認諾」を認めるわけにはいかない。

いま改めて時系列を追って判明するのは、政府の「認諾」の目的が、赤木ファイルが明かした事実を覆い隠すことだったということである。

モリカケ桜に象徴される政治の私物化は、今や地方自治体をはじめ社会の隅々に及んでいる。権力を持つ者が、黒を白にし、情報を閉ざすことが当たり前となってしまった。

赤木ファイルが明らかにした点を切り口にして、国民や国会に求められていることを、今一度探る。現状打破の道を、被害者である赤木雅子さんの闘いに委ねている状況を変えたい。

・国が「認諾」で認めた改ざん業務による赤木さんの死

国は認諾に際して、その理由を裁判でこう述べた。

「原告の夫が強く反発した財務省理財局からの決裁文書の改ざん指示への対応を含め、森友学園案件に係る情報公開請求への対応などの様々な業務に忙殺され、精神面及び肉体面に過剰な負荷が継続したことにより、精神疾患を発症し、自死するに至ったことについて、国家賠償法上の責任を国が認めるのが相当との結論に至った」。

ここでは、国がこれまで認めてこなかった以下の2点、
・改ざんが業務として行なわれたこと
・その業務を一原因として赤木さんが精神疾患を発症、自殺に至ったことを初めて認めている。

赤木ファイルが提出された後も、当時の麻生太郎財務相は、国の責任を明確化し、再調査をしないのかという記者の質問に、財務省として「改ざん調査報告書」(「森友学園との国有地取引をめぐる決裁文書の改ざん問題についての調査報告書」)を出しており、調査の必要はないと発言した。

しかし、「改ざん調査報告書」には、赤木さんが精神を病み、自死したことには一言も触れていない。それだけでなく、赤木さんが上司の指示により改ざん業務を行なったことについては、以下のように極めてあいまいに書いている。

「近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員(注・赤木さんのこと)は、そもそも改ざんを行うことへの強い抵抗感があったこともあり、本省理財局からの度重なる指示に強く反発し、平成29(注・2017)年3月8日(水)までに管財部長に相談をした。また、本省理財局の総務課長と近畿財務局の管財部長との間でも、相談がなされた。結論として、近畿財務局においては、統括管理官の配下職員はこれ以上作業に関与させないこととしつつ、本省理財局が国会対応の観点から作業を行うならば、一定の協力は行うものと整理された」。

3月8日の日付まで入れて、「度重なる指示に強く反発し」「相談した」と書きながら、赤木さんが改ざん作業を行なったという記載はない。また3月8日以降については、「作業に関与させないこと」としたとしている。

この「改ざん調査報告書」の記載では、彼が実際に改ざん行為を行なったかわからないようになっている。それが、財務省=国の見解であった。

それらが「認諾」発表時には、明らかに変わっている。赤木さんが改ざんを業務として行ない、それが死に至る要因となったと認めたのである。

・「改ざん調査報告書」の誤りを明らかにした赤木ファイル

赤木ファイルを見ると、赤木さんは、理財局の指示に基づき、自らが反対した改ざん作業を行なったことがわかる。赤木さんがうつ病を発症し、そして自殺に追い込まれていく経緯を考えると、彼自身が反対した改ざんを業務として強制されたことは、決定的に重要である。ひるがえって、財務省が「改ざん調査報告書」で、赤木さんが改ざんの実行を強制された点を隠したのは、うつ病の発症に影響を与えたことを隠すのが狙いであろう。

赤木ファイルは「本省(注・財務省)の対応(調書等修正指示)」という備忘録(2ページ)と、理財局や近畿財務局(赤木さんが中心)とのやり取りメール約40通(添付ファイルを含む)からなる。そこに、次のように記載されている。

備忘録の要点は、「本省の対応(調書等修正指示)」すなわち改ざん指示は、本省の「議員説明(提出)用に、決裁文書をチェックし、調書の内容について、修正するとの連絡受」から始まり、「本省の問題意識は、調書から相手方(森友)に厚遇したと受け取られるおそれのある部分は削除するとの考え。現場として厚遇した事実もないし、検査院等にも原調書のままで説明するのが適切と繰り返し意見した」(注2)。そして「本省の修正指示を受け、3月7日(略)現場の問題認識として既に決裁済の調書を修正することは問題があり行うべきではないと、本省審理室担当補佐に強く抗議した」と続く。

そのうえで「今回の対応(修正等)は、本省理財局が全責任を負う。美並(注・近畿財務局)局長の責任で対応するとの発言」「(納得できず)」。そして「本件の備忘として、修正等の作業過程を下記のように記録する」と説明は締められる。

備忘録は2月26日から始まり、3月7日、8日、20日、21日と改ざん・廃棄を進め、最後は4月10日、13日まで、その指示を出した者の名前と内容を含めて記録されていた。

この点でも「改ざん調査報告書」は、赤木さんを「3月8日以降作業に関与させない」と記していたのだから、明らかに事実と異なる。これこそ廃棄すべき文書である。

赤木ファイルの、特にメールのやり取りを見ると、財務省理財局からの改ざんの指示は、池田靖統括官と赤木さん(上席管理官)宛てに出されていた。改ざんの実務は赤木さんが中心になって担っていたことがわかる。

赤木さんは赤木ファイルを、検察への報告書として作成した。彼は、改ざんが犯罪行為であることがわかっていた。雅子さんが指摘したように、赤木さんに改ざん指示が下されるまで、誰もチェックすることがなかったのである。

周囲がすべて賛同し、断れば自分の部下に回されかねないなかで応じたとはいえ、この財務省の状況では、自分一人に犯罪行為の責任を押し付けられかねない。赤木さん自身が抵抗し、強制された事実を伝えようとして、この備忘録を残したのであろう。

財務省理財局や近畿財務局のトップは責任をとると言いながら、赤木さんに改ざん業務を押し付けた。彼は、「納得できない」という言葉を添えて、メモしていた。

改ざん問題について明らかにしなければならないのは、改ざんという犯罪行為が業務として押し付けられ、一人の公務員が命を無くしたことである。財務省は、不法な命令をチェックできず、そのしわ寄せを下位の職員に押し付け、自死させた。

現在、真相究明や責任追及を、被害者の妻に任せている状況がある。それは国会が中心となり、また市民が中心となって行わなければならないことである。まず、財務省が責任逃れのために作った「改ざん調査報告書」を廃棄させ、事実の枠組みを正したうえで、国会が中心になった調査委員会で、新たな調査報告書を作る必要がある。

 

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青木泰 青木泰

環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。

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