赤木雅子さん訴訟「認諾」に隠された 安倍晋三「議員辞める」発言の本当の意味
政治・安倍首相「辞める」発言は改ざん指示だった
財務省の「改ざん調査報告書」には、改ざんの目的について、佐川宣寿理財局長(当時)の国会答弁と契約関連文書との齟齬を正すために、直属の部下たちが始めたと書かれていた。それが始まった日付は「平成29(2017)年2月21日」。「近畿理財局、理財局の審議室長が、(略)国会議員団の面会を受けて、(略)政治家関係者に関する取扱いが問題となり得ることが認識された」とある。
財務省の一局長が指示を出したということすら誰も信じないのに、理財局の一部門でしかない審議室の室長や総務課長が、自らの判断で改ざんをスタートさせたとされている。
この点についても、赤木ファイルは事実を明らかにしている。3月8日のメールは理財局の関係者26名に(同報通信を含めると38名)送信され、主要25部署に配布することがメモされている。これは、理財局が組織を挙げて関わっていたことを示している。
それだけでなく、改ざんが誰の指示で進められたのかを、赤木さんは次のように残していた。
前述したように、赤木ファイルは備忘録2ページと財務省理財局からの指示・応答のやり取りメール約40通、添付文書を含めて518ページに上る。改ざんの事実経過を残すべく、赤木さんが選択した最初のメールの送受信日は「2月16日(木曜日、23時16分)」である。すなわち、赤木ファイルに示された改ざんの端緒は、17年2月16日なのだ。メールの内容は、理財局から近畿財務局に決裁文書のコピーを求めるものだった。
これは、安倍晋三首相(当時)が「(森友学園と)私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」と国会で答弁した前日だった。
通常、国会議員は、予算委員会や財政金融委員会など各種委員会での論議にあたり質問予告をする。この日、福島伸享衆院議員(当時民進党)から、安倍首相への質問に向けた資料請求があり、本省理財局が契約関連文書を入手する必要に迫られ、近畿財務局に請求したと思われる。メールでは質問にあたり福島議員から請求があったとしながら、「理財局長には見せるが、福島議員に提出するつもりはない」旨を書いている。
この時点で理財局に送られた契約関連資料は、もちろん改ざん前のものであり、そこには、安倍首相の妻・昭恵氏の名前が掲載されていた。メールを受けて、その事実を知った佐川理財局長は、当然、安倍首相に報告したと考えられる。
そして2月17日、福島議員の質問に答えて、あの「総理も国会議員も辞める」発言が飛び出すことになる。しかし、事前に安倍首相がこの契約関連書類に昭恵氏の名が記載されていることを知っていたのならば、発言の意味は、大きく異なってくる。
普通に考えれば「関与していれば辞める」とは、関与の事実は知らないが、そうしたことがあれば辞めるという決意を示した言葉である。
しかし、安倍首相が妻の名が書かれていることを知りながら、「辞める」と発言したならば、「辞めなくていいように、該当部分を削除(改ざん)せよ」という暗黙の指示であったことが想定できるのである。少なくとも赤木さんは、そのように考えて、赤木ファイルのトップにこのメールを持ってきたといえる。
実際に、昭恵氏に関連する次の記述は削除された。
「H26・4・28(略)打ち合わせの際、『本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは「いい土地ですから、前に進めてください。」とのお言葉をいただいた』という発言があり(森友学園籠池理事長と夫人が現地の前で並んで写っている写真を提示)」。
「H27・1・8 産経新聞社のインターネット記事(略)に森友学園が小学校運営に乗り出している旨の記事が掲載。記事の中で、安倍首相夫人が森友学園に訪問した際に、学園の教育方針に感涙した旨が記載」などだ。
安倍発言の5日後の2月22日には、菅義偉官房長官の下、財務省・国土交通省の関係官僚が集まり、そこで改ざんの指示が決定されたと考えられる。これは立憲民主党の川内博史前衆院議員が後の国会で迫った内容である。
それを受けて、近畿財務局で2月26日(日曜日)から改ざんが始まる。上司の池田統括官から呼び出されたその日を「改ざん記念日」と雅子さんは言う。
前述のように、財務省は、改ざんは佐川理財局長の部下が進めたものであり、佐川氏の国会での答弁と現実の食い違いを糊塗するためと説明していた。
しかし赤木ファイルで示された事実は、安倍首相の「辞める」発言が、実質的な改ざん開始の指示であったということだった。
・赤木ファイルが示した「改ざんは首相の犯罪」
赤木ファイルに示された改ざん(削除)箇所とは、昭恵氏の関連や、佐川理財局長の国会答弁に関わるものにとどまらず、
・前任者である迫田英典理財局長が結んだ契約の核心部分、八億円値引きの算定根拠の書証や写真資料
・国交省(大阪航空局)から財務省(近畿財務局)に報告された資料も削除されていた。
つまり、佐川理財局長の就任時点のことだけでなく、契約時点(16年6月20日)の迫田理財局長、国交省(大阪航空局)に関する事項も含んでいた。改ざん内容は理財局どころか、財務省・国交省・内閣府に及んでいる。
赤木ファイルが事実をもって示したことは、改ざんは、安倍首相の権力をもってしか進めようがない、ということだった。
日本の政治史上で前代未聞の犯罪行為である文書改ざん、その過程で命を落とした赤木さんが遺した「赤木ファイル」によって、首相の犯罪が浮き彫りとなった。
それに蓋をするために、国は「認諾」に走ったといえる。
森友問題で問われているのは、モリカケ桜と続く政治の私物化という権力の犯罪について、その真実を私たち国民が共有し、官僚や政治家の責任を追及し、2度と同じことが行なわれないようにすることである。
しかし現実は、改ざんに抵抗した赤木さんが命を奪われ、もともと安倍首相のお友だちでありながら袂を分かち、批判に転じた籠池夫妻も刑事弾圧を受けている。籠池夫妻への大阪高裁判決は、4月18日に予定されている。
権力に追随する者は出世の栄誉を得て、批判・抵抗する者は、不当な弾圧を受け、命まで失う。そのようなことを絶対に許してはならない。
(注1):国は「認諾」したが、佐川元理財局長は「認諾」せず、裁判は続いている。
(注2):麻生大臣は赤木ファイルの「(森友側を)現場として厚遇した事実もないし」という記述を採り上げ、東京新聞の記者を「勉強不足」となじったが、「現場として」という点がポイントである。9億円を1億円に値引くことが、近畿財務局(財務省)、大阪航空局(国交省)の間で確認されたうえで、契約書を作成する「現場」としては、粛々と売買契約書を作ったという意味でしかない。根拠のない8億円の値引きに赤木さんは関与していない。
(月刊「紙の爆弾」2022年4月号より)
環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。