【連載】横田一の直撃取材レポート 安倍元首相一周忌談話で露わになった 軽薄な馬場代表と重厚な山本代表
政治安倍晋三元首相の一周忌法要が7月8日、都内の増上寺で営まれた。昭恵夫人や岸田文雄首相や閣僚らが参列。自民党によると、設けられた献花台には約5,000人が訪れたという。
法要後の食事会で岸田首相は「安倍氏の遺志をしっかり継いでいく気持ちで、新しい時代に向かって頑張りたい」と述べた。一方、野党の代表もコメント(談話)を一斉に発表したが、対照的な内容であったのは、日本維新の会とれいわ新選組。“第二自民党安倍派”と呼ぶのがぴったりの維新の馬場伸幸代表は、「今なお、得もいえぬ喪失感に覆われている」と切り出し、2012年2月の安倍元首相との初対面を次のように振り返っていた。
「当時の松井一郎大阪府知事らとともに教育シンポジウムに参加し、ご挨拶させていただいた。無念にも病を得て総理の座を降りられて 4 年半。我が国が進むべき道を熱く説かれる安倍元総理の言葉から、再登板への固い決意と覚悟を感じ取った」
ちなみに維新は、第二次安倍政権の産みの親のような役割をはたしていた。お腹が痛くなって政権を投げ出した「日本政治史最弱の総理経験者」だった安倍氏が再登板する発端こそ、馬場伸幸代表が触れた教育シンポジウム。民主党政権末期、「維新政権誕生か」といわれるほどの勢いがあった維新から「代表になって欲しい」と打診されたことで安倍氏は、汚名を払拭して再浮上、総裁選勝利と第二次安倍政権誕生に結びつく転機となったのだ。
第二次安倍政権の“産みの親”のような維新が対決法案で自公に恩を売る一方、大阪万博やカジノ(IR)などで便宜供与を受ける蜜月関係を築いていったのは、その“出自”からすれば、ごく自然のことなのだ。
そして維新の銃撃事件の捉え方も自民党と同様、安倍家三代にわたる統一教会とのズブズブの関係に目を向けない偏ったものだった。
「暴力で政治家の生命を奪い、言論を封殺しようとするテロリズムは民主主義に対する悪質な挑戦であり、断じて認められない。日本維新の会は改めて、あの蛮行を最大限の厳しい言葉で非難するとともに、志半ばで非業の死を遂げた安倍元総理に深く哀悼の意を表する」。
事件の真相を見極めようとしない姿勢に唖然とした。銃撃事件直後の昨年7月11日の本サイト記事「安倍元首相銃撃 旧統一教会の“広告塔”を狙った計画的犯行?」で私は「『政治テロ』とは言い難い」と強調。街宣中の訴えを妨害する政治的目的ではなく、個人的怨恨が動機の可能性大と指摘した。「政治的目的はなく、個人的な恨みを動機とする犯行を行うに当たって、それが可能だと考えた現場が、たまたま選挙演説の場だったことになる」(昨年7月9日の郷原信郎弁護士のブログ)という個人的怨恨説のほうが山上徹也被告の供述に合致するのだ。
しかし馬場代表は、事件から1年経っても、山上被告の動議(統一教会とのズブズブの関係)に目を向けず、いまだに政治テロ説に固執しているように見える。第二次安倍政権の“産みの親”で便宜供与も受けていた維新の立場からすれば、安倍元首相の不都合な真実を切り捨てたくなる気持ちは分からないわけではないが、「合理的思考力が欠如」「感情論に流されすぎ」などと批判されて政党代表失格の烙印を押されても仕方がないだろう。
これに対して野党第一党党首かと勘違いするほどの正論を訴えていたのが山本太郎代表だ。「安倍元総理が逝去して1年となる。哀悼の意を表する」としたうえで、銃撃事件の真相を次のように捉えていた。
「旧統一協会と一体化した自民党の中でもその広告塔として認知されていた元総理に対し、旧統一協会に家庭を破壊され人生を奪われた者が及んだ凶行であった」。
銃撃事件以降の統一教会関連報道を直視すれば、こうした個人的怨恨説に行き着くのがごく自然ではないか。「野党第一党山本太郎・れいわ新選組代表を目指す」が口癖の馬場代表だが、山本代表のほうがはるかに野党第一党党首に相応しいとしか見えないではないか。
銃撃事件を的確に捉えた山本代表は、具体的な再発防止策も次のように示していた。
「政界では、政治とカルト宗教との癒着へのメスを入れぬまま終わったかのような話になっている。安倍元総理の死を悼むと言うなら、特別委員会の設置を求め、膿を出し切る必要があるのではないだろうか」。
本来なら安倍元首相と近しい関係にあった自民党や維新のなかから、「真相解明と再発防止のために特別委員会を設置しよう」という声が出てきても不思議ではない。しかし実際には、いまだに現実と乖離した政治テロ説を声高に叫び、「民主主義に対する悪質な挑戦」(馬場代表)と決めつけて事足りている。高額献金被害を放置してきた国会議員の怠慢、民主主義の機能不全こそが、銃撃事件を招いた側面は確実にある。このことに自民党と維新の国会議員の大半はまったく気が付いていないのではないか。安倍元首相の一周忌は、自民党と統一教会とのズブズブの関係(選挙支援の見返りに高額献金を長年放置)に目を向けない軽薄な国会議員がいかに多いかを露わにすると同時に、山本代表のように本質を捉える真っ当な政治家が少数ながらも存在することを浮き彫りにする役割をはたしたのだ。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
●ISF主催公開シンポジウム:東アジアの危機と日本・沖縄の平和
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。