【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

日本復帰50年、沖縄問題は人権問題─今も続く日米の植民地主義と沖縄の自己決定権─(前)

新垣毅

2021年11月、岸田文雄首相は第2次岸田内閣発足に合わせて、新設する人権問題担当の首相補佐官に自民党の中谷元・元防衛相を起用した。中谷氏は中国やミャンマーでの人権侵害を巡り、「人権外交を超党派で考える議員連盟」を設立し、共同代表に就任していた。

このニュースを耳にして頭をよぎったことがある。2015年8月16日のことだ。当時の中谷防衛相は、翁長雄志知事と稲嶺進名護市長(いずれも当時)と相次いで会談し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画に理解を求めた。県庁での会談で「抑止力」維持のために辺野古移設を進めるとする中谷氏に対し、翁長知事は「あなた方は沖縄を領土としてしか見ていないのではないか。140万県民が生活している」と強く批判した。

翁長知事は会談で中国の弾道ミサイルの射程距離に入った沖縄に米軍基地が集中する状況は、標的となった際に「脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘する米政府元高官や専門家の指摘を挙げ、普天間の県外・国外移設を求めた。これに対し中谷氏は「力の空白をつくらない」として県内移設を維持し、ミサイルに対してはミサイル防衛体制を強化すると説明した。知事は会談後、記者団に「県民への思いや歴史に対する認識ではなく、日本の防衛に沖縄が必要だという説明に感じた」と批判した。

中谷氏はじめ日本政府関係者、米政府関係者、有識者といわれる人々、ジャーナリストも含め、沖縄問題に対する基本認識が間違っている人々は多い。沖縄問題を軍事的な安全保障の問題とばかり思い込み、「抑止力」を重視した上で「沖縄の負担軽減を図る」とお題目のように言うが、沖縄の人々の多くにとっては、米軍普天間飛行場の辺野古移設は負担軽減どころか、機能強化という負担増と受け止めている。

沖縄県内に移設すること自体、沖縄の人々の意思ではない。日米政府の押し付けである。この沖縄の意思は県民投票や県知事選挙など主な選挙で示されてきたが、日米政府はそれらを無視し続けている。日本の国土面積のわずか0.6%にすぎない沖縄に、米軍専用施設の約7割を集中させ、米軍絡みの事件事故が繰り返され、人命や人権が侵され続けている上に、意思も無視されている、この状態が沖縄問題だとすれば、沖縄問題はまさに人権問題なのである。

いくら中国や北朝鮮が「脅威」だと叫んだところで、軍事的な安全保障問題にすり替えてはいけない。沖縄に基地を押し付けずに「脅威」を取り除く外交努力をすべきであって、沖縄に「抑止力」を求めるのは、政治の放棄と言っても過言では無い。

国内には沖縄の基地問題以外にも、著しい男女格差、在日韓国・朝鮮人やアイヌの人々、性的少数者への差別など人権問題は山積している。人権外交を掲げるバイデン政権の米国も有色人種への差別など恥ずべき問題を抱えている。

内政が駄目だから外国に言う資格はないという二分法に陥る必要はないが、岸田政権やバイデン政権が人権外交を展開するなら、国内問題の解決もセットで取り組むべきだ。人権は普遍的理念である。外は駄目だが内はいいという二重基準は通用しない。

沖縄の基地問題を現在のように民意を無視し、辺野古新基地建設を強行するという態度を続けるなら、中国の新疆ウイグルやチベット問題を批判する資格はないはずだ。日米両政府にはまずはその基本認識が必要だ。

1.屋良建議書

沖縄は2022年5月15日に、日本復帰50年を迎える。これに合わせてさまざまなメディアや言論機関が「復帰50年」を特集するなど、沖縄がたどってきた道を振り返ると思う。沖縄にとって何が変わり、何が変わらないのか。そんな視点を交えるに違いない。

確かに街は発展した。まだ全国と比べて所得の格差は大きく、貧困問題を抱えているものの、経済は一定の発展を遂げたのは事実である。しかし、どうしても県民の願いと裏腹に変わらないことがある。米軍基地に対する県民の意思を、日米政府が足げにするという状態だ。

復帰を巡る議論をしていた当時、その象徴的な出来事があった。当時の屋良朝苗琉球主席が日本政府に直訴した、いわゆる屋良建議書を巡る動きだ。

「平和な島を建設したいという県民の願いとは相いれない」。屋良主席は返還後も基地が残ることに不満を表明。沖縄で復帰運動を進めていた沖縄祖国復帰協議会は「復帰は当然だ。基地の問題は納得できない」と反発した。沖縄返還に関する日米の共同声明に抗議する県民大会には2万人が参加した。

1971年10月15日、屋良主席は政府が閣議決定した復帰関連7法案の総点検を琉球政府職員に指示する。点検作業は「復帰措置の総点検=『琉球処分』に対する県民の訴え」という文書にまとまり、最後は「復帰措置に関する建議書」(屋良建議書)と題して結実する。地方自治の確立、反戦平和、基本的人権の確立、県民本位の経済開発を基本理念に据え、132ページに及ぶ。基地撤去を前提に、沖縄が自己決定権を行使し、新しい県づくりに臨む考えを盛り込んだ。

屋良朝苗主席

 

日本政府の法案では振興開発計画の策定権者が国になっていたが、「地域住民の総意」を計画に盛り込むことを建議書は求め、国は地方自治体が策定した計画を財政的に裏付けるための「責務を負う」と唱(うた)った。県民意思に基づく計画が大前提だとくぎを刺したのだ。米軍基地に対しては、県民の人権を侵害し、生活を破壊する「悪の根源」と指摘し、撤去を要求。同時に自衛隊の沖縄配備にも反対した。

同年11月17日午後、衆院沖縄返還協定特別委員会は、怒号と罵声の大混乱の中、返還協定を抜き打ちで強行採決した。沖縄での公聴会はなく、参考人も呼ばず、審議はわずか23時間。この日、質問に立つ予定だった沖縄選出の安里積千代、瀬長亀次郎両議員の質問は封じられた。施政権返還前に国政参加が実現したのは、協定の審議に加わるためだったが、沖縄自らの運命に関わる重大局面で、沖縄代表と県民の声は無視された。

屋良主席は建議書に込めた「沖縄最後の訴え」を国会に届けようと、東京・羽田空港に降り立っていた。ホテルで記者団から採決を知らされ絶句した。その日の日記にはこう記した。「党利党略のためには沖縄県民の気持ちと云(い)うのは全くへいり(弊履=破れた草履)の様にふみにじられるものだ。沖縄問題を考える彼等の態度、行動、象徴であるやり方だ」。

この屋良建議書や沖縄国会と言われた審議のやり方は、現在の辺野古新基地建設問題と重なる。米軍基地問題を巡る沖縄の状況は復帰当時と変わっていないのだ。沖縄の意思を無視して日米が基地を強引に押し付けている状況を、沖縄では構造的差別と呼んでいる。構造的差別が連綿と続いている。復帰して50年が経つにもかかわらずにだ。

2.植民地主義と自己決定権

この復帰しても変わらない構造的差別について、沖縄ではさまざまな角度から議論されてきた。復帰当時に叫ばれた復帰論・反復帰論はやがて沖縄の自立論へと受け継がれ、沖縄文化の復興を唱える言説や、独立論も盛んに議論されてきた。そんな中で、ここ約10年の間に強く主張されるようになったのが、沖縄の自己決定権である。

この概念は国際法で規定されている、植民地主義への対抗概念である(詳しくは拙書『沖縄の自己決定権─その歴史的根拠と近未来の展望』2014年、『続沖縄の自己決定権 沖縄のアイデンティティー─「うちなーんちゅ」とは何者か』2016年、いずれも高文研を参照)。

冒頭で翁長知事が中谷氏を批判したように、「国防」という「国益」の名の下で、沖縄を道具のように扱うことを私は植民地主義と呼んでいる。日米は中国や北朝鮮などの「脅威」を理由に、沖縄を道具に扱い続けている。翁長氏が「領土としてしか見ていないのではないか」という批判はまさに、そこに住んでいる140万人県民の命や人権を犠牲にしてもいいという発想が見え隠れしていることに矛先を向けている。植民地主義への批判と読むこともできよう。

Conflict of values

 

この植民地主義から解放されるために、尊重されるべき権利が自己決定権である。読んで字のごとく、自らの運命に関わる大事なことは自分たちで決めるという意味で、国際人権規約では、A規約(社会権)とB規約(自由権)、いずれも第1条、すなわち1丁目1番地でその保障がうたわれている。

国際人権規約が締結された1962年当時は冷戦時代だった。社会主義諸国の人権の考えが社会権に、自由主義諸国のそれは自由権に反映されたが、いずれの国であっても、最も重要な人権として位置付けたのが自己決定権である。イデオロギーを超た理念なのだ。

同規約では「全ての人々は自己決定権を持っている」と規定されている。「全ての人々」は原文では「All peoples」とあり、自己決定権はここでは集団の人権として規定されている。もし、集団の自己決定権が侵害されると、その集団を構成する個々人の人権も侵害される可能性が極めて高いと考えられているからだ。

沖縄の基地問題に当てはめると、「基地をなくしてほしい」あるいは「基地を減らしてほしい」という長年の願いが実現されず、その意思表示をしても無視された状態、すなわち自己決定権が侵害され続けているため、レイプや放火など米軍絡みの事件・事故が繰り返される度に、個々人の人権が侵害され続けている。米軍機による騒音問題も人権問題だ。

 

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新垣毅 新垣毅

琉球新報社編集局次長兼報道本部長兼論説副委員長。沖縄県生まれ。琉球大学卒、法政大学大学院修了。沖縄の自己決定権を問う一連のキャンペーン報道で2015年に「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」を受賞。

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