日本復帰50年、沖縄問題は人権問題─今も続く日米の植民地主義と沖縄の自己決定権─(前)
琉球・沖縄通信安保・基地問題沖縄問題という人権問題は、国際法の地平から見ても大きな問題なのである。
2015年9月21日、当時の翁長知事は、スイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会総会で演説し、日米両政府が進める名護市辺野古の新基地建設に県民が同意していないことを強調し、建設強行は人権侵害に当たり、あらゆる手段で阻止することを国際社会に訴えた。翁長知事は「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている。辺野古の状況を世界から関心を持って見てほしい」と呼び掛けたのだ。
日本の都道府県知事が国連人権理事会で演説するのは初めてで、知事は沖縄県民の過重な基地負担を放置するのは人権問題だと強調した。翁長知事は「沖縄の米軍基地は第2次世界大戦後、米軍に強制接収されてできた。沖縄が自ら望んで土地を提供したものではない」と述べ、米軍普天間飛行場の返還条件として県内に代替施設建設を求める日米両政府の不当性を主張した。
この翁長知事の政治姿勢は、玉城デニー現沖縄県知事に引き継がれている。玉城知事を支える「オール沖縄」勢力もまた、辺野古新基地建設に反対し、政治的な意思表示を続けている。これらの基本認識や訴えは、日本国民にどれだけ届いているだろうか。
3.自己決定権行使としての県民投票
2019年2月24日に実施された沖縄の県民投票は、沖縄が自己決定権を行使した大きな局面であった。米軍普天間飛行場の移設に向けた名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての賛否が問われた。投票率52.5%、有効投票総数のうち埋め立て反対が72.2%で、全有権者数の37.7%を占めた。「賛成」は19.1%、「どちらでもない」は8.8%だった。
反対票は、県民投票条例で「結果を尊重」し、首相と米大統領への通知を義務付けた有権者数の4分の1を大きく上回った。辺野古の新基地建設を巡っては、過去の沖縄県知事選や国政選挙沖縄選挙区で何度も「反対」の民意が示されてきたが、辺野古の賛否に絞った「一つの争点(ワン・イシュー)」を問うた住民投票によって反対の民意はなおさら鮮明になった。1996年に在沖米軍基地の整理・縮小などを問うた県民投票に次ぎ2度目で、特定の基地建設の賛否を問うのは初の機会となった。
しかし、結果に対する日本政府の対応はひどかった。今もそれは変わらない。
当時の安倍晋三首相は結果を「真摯に受け止める」と言いながらも埋め立て工事を強行した。結果を矮小化する発言も相次いだ。当時の岩屋毅防衛相は国会答弁で「一部の反対のご意見があることも承知している」と述べ、7割超が反対した民意を「一部」と断じた。岩屋氏の他にも「有権者の半分しか投票していない」「有権者全体では反対派37%止まりだ」などと指摘した。
しかし投票率の低下は全国的課題であり、先の衆院選で見ると、投票率は小選挙区55.93%、比例代表55.92%で、2017年の前回衆院選(小選挙区、比例代表とも53.68%)を小選挙区で2.25ポイント上回ったが、戦後3番目に低い水準だ。4回連続で50%台だった。それと比べても、候補者同士が激しく争う選挙ではない県民投票で5割以上の人が投票した意味は大きい。
有権者に占める割合に関して言えば、2017年の衆院選で自民党の小選挙区での得票率は約47%で、全有権者の約25%にとどまるにもかかわらず、約74%の議席を獲得した。自民党の政治家が、有権者に占める反対の割合が小さいと批判するのは筋違いと考える。
さらに驚く対応は、安倍首相と岩屋防衛相は県民投票の結果にかかわらず、事前に工事を続ける方針を決めていたことだ。岩屋氏は国会答弁で「あらかじめ事業について継続すると決めていた。安倍晋三首相への報告は逐次行い、了解をいただいていた」と説明した。
これは、沖縄の民意どころか、住民投票制度自体を否定するような態度である。住民が意思を示そうが、最初からお構いなしというのだから、最初から投票結果を足蹴にするつもりだったことを自ら告白したようなものだ。この対応にどれだけの国民が危機感を抱き、怒っているだろうか。本土からはそれがあまり伝わってこない。
岩屋防衛相はさらに「沖縄には沖縄の、国には国の民主主義がある」と発言した。「国の民主主義」に「沖縄の民主主義」は入っていないと言いたかったのか。とすると、沖縄の人々は日本国民ではないということか。恐らく本人は意識していないだろうが、これこそ植民者の考え方そのものに映る。
県民投票の結果に対するこうした対応は、日本の民主主義の危機と言っても過言ではないだろう。しかし、その重大さからすると、日本国民はもっと怒らないといけないはずだ。
県民投票で示した沖縄の民意や、その民意を傷つける発言・対応を、黙殺している本土の国民一人一人にも責任がある。辺野古新基地建設を進めている安倍政権やそれに続く菅政権、岸田政権は国民に選挙で選ばれたからだ。
広島修道大の野村浩也教授は、安倍首相や岩屋防衛相の発言は差別であり、既に大きな暴力へと発展していると指摘する。2019年3月8日付琉球新報で 「差別が制度化されているといっても過言ではない。多数者の少数者への差別の制度化。これを植民地主義という。そして、この植民地主義体制を無意識的に支えている張本人こそ、一人一人の日本人にほかならない」と述べている。
※「日本復帰50年、沖縄問題は人権問題─今も続く日米の植民地主義と沖縄の自己決定権─(後)」は5月14日に掲載します。
琉球新報社編集局次長兼報道本部長兼論説副委員長。沖縄県生まれ。琉球大学卒、法政大学大学院修了。沖縄の自己決定権を問う一連のキャンペーン報道で2015年に「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」を受賞。