【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第32回 「狂人理論」「狂犬戦術」に取り憑かれたゼレンスキー

寺島隆吉

前回のブログを書いてから、もう1週間が過ぎました。早く続きを書きたいと焦っていたのですが、 県外に出かけなければならない用事ができて、もう今日になってしまいました。

その間、データマックス社の社長さんから電話があり、 「最近のコロナについてどう思うか、先生の意見をぜひ聞きたい」 「ついては3,000~4,000字でまとめていただけないか。当社のサイトIB(InfromationBank)に載せたい」とのことでした。

拙著『ウクライナ問題の正体1,2』を社長さんに謹呈したところ、 『コロナ騒ぎ謎解き物語』のときと同じように、上記サイトで「先着5名に読者プレゼント」という宣伝をしていただいているのですから、もちろん快諾せざるを得ません。

かといって、ウクライナ情勢も日々、激変していますから、コロナについて書いているうちに、いま書きたいと思っているザポリージャ原発への砲撃やロシアの哲学者アレクサンドル・ドゥーギンの娘が暗殺されたことについては、時期遅れになってしまう恐れもあります。

そういうわけで、この数日間、心が千々に乱れて困っていました。

でも今はウクライナ情勢について書こうと心を決めました。というのは現在の岸田政権は「安倍晋三氏の国葬問題」で世論の批判を浴びていますから、その世論を別の方向にそらすためにはコロナ騒ぎを大きくすることが一番で、当分この騒ぎは続くと判断したからです。

さて前回のブログを私は次のように結びました。

 

それはともかくとしても、ゼレンスキー大統領がこのような手段に訴えなければならないほど追い詰められていることだけは確かでしょう。

なぜなら、アメリカで開発された「狂人理論」 「狂犬戦術」をさらに強化したのが、化学工場を爆破したり原発基地を砲撃する戦術だと考えられるからです。

ところが、この「狂人理論」 「狂犬戦術」をさらに強化したのが、個人の暗殺です。これは既にウクライナ国内では頻々として起きていますが、今ではそれが国外でも実行されるようになりました。

その典型例が、 「有名な」哲学者の娘を自家用車に乗ったまま爆破する事件でした。

これについても書きたいことは多々あるのですが、もう十分に長くなりすぎていますので、今回は、ここで断念します。どうかお許しを。

 

そこで早速、このジャーナリストだったダリヤ・ドゥーギナがモスクワ近郊で殺害された事件に移りたいのですが、その前にどうしても言及しておきたいことがあります。

それはIAEA(国際原子力機関)の代表団14人がザポリージャ原発の現地を視察することになっていたのが、その後どうなったのかの報告も、絶対に欠かすことのできない話題だと思うからです。

このIAEAの代表団がザポリージャ原発の現地に到着し、自分たちの目で原発の敷地を見れば、どちらが原発を攻撃しているのかは歴然としますから、キエフ政権はなんとかそれを妨害しようとしました。

代表団がザポリージャ原発に至る道程をキエフ側が次々と砲撃し、 「危険だから現地に行くのをやめろ」と脅迫する作戦もそのひとつでした。

しかし、そのような困難を克服して何とか代表団は現地に到着することができました。

それを報告した記事が次のものです。

Journalists Witnessed Ukrainian Saboteurs’ Failed Storming of Zaporozhye NPP Posted by Internationalist 360° on September 4, 2022(ジャーナリストが目撃したウクライナ軍の妨害行為、ザポリージャ原発を急襲したが失敗)
https://libya360.wordpress.com/2022/09/04/journalists-witnessed-ukrainian-saboteurs-failed-storming-of-zaporozhye-npp/

IAEA Report on Zaporozhye NPP Mentions “Mysterious Shelling” 52 Times, Doesn’t Name Culprits Posted by Internationalist 360° on September 6, 2022(IAEAの報告:ザポリージャ原発に52回もの「不可思議な爆撃」 、だが犯人は名指しせず)
https://libya360.wordpress.com/2022/09/06/iaea-report-on-zaporozhye-npp-mentions-mysterious-shelling-52-times-doesnt-name-culprits/

最初の記事は、IAEAの調査団に同行した記者団について次のように説明しています。

彼らはフランス、アメリカ、ベトナム、 韓国、 中国などからの、60名以上ものジャーナリス
トでした。

ロシア国防省(MoD)は、 9月1日にウクライナの町エネルゴダールに到着したジャーナリストが、ウクライナの妨害工作員によるザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の襲撃が失敗したのを目撃したと発表した。

国防省は日曜日の声明で、 ジャーナリストは防空壕に隠れながら、ウクライナの大砲による原子力発電所の領域とエネルゴダールの住宅地に対する大規模な砲撃を、自らの目で確認したと発表したのである。

その声明によると、ロシア側は、IAEA(国際原子力機関)事務局の要請により「60名を超える記者が安全に原発施設へ到着できるよう、その安全に万全を尽くした」 。

記者たちは、 フランス、 米国、中国、 デンマーク、日本、 ドイツ、 トルコ、 カタール、 アラブ首長国連邦、 韓国、 ベトナムなどから来ていた。

 

この記事によれば、日本からも記者が参加しているのですが、私が大手メディアを読んでいる限り、キエフ軍がIAEAの検証現場や原発基地周辺を砲撃している報道をみたことがありません。

朝日新聞の記事も、相変わらず原発を攻撃しているのはロシア軍だと言いたげな報道ぶりです。キエフ軍が砲撃している様子を自分の眼で見てほしいと再三にわたってIAEAに要求し、やっと実現した検証作業を、みずから攻撃する馬鹿が、この世にいるでしょうか。
https://www.asahi.com/articles/ASQ9175X9Q91UHBI00G.html?iref=pc_rellink_04

この程度の常識力・判断力が働かない新聞記者を朝日新聞は雇っているのでしょうか。

なぜ朝日新聞は記者を現地に派遣しないのでしょうか。

それに反して、前述の記事はフランスの記者が取材して、次のようなTwitter 記事を発信していることを紹介し、その動画も載せています。

2万人のザポリージャの住民が、 「原子力発電所を砲撃したのはゼレンスキー政権であると
伝えるIAEAへの手紙」に署名した。

西側メディアはもちろん!もちろん!西側メディアはこのことについて一言も語らないし、ましてやビデオを見せることはないだろう。「自由な報道機関」 は、 ただ嘘をつき続けるだろう。

〈動画〉
https://twitter.com/i/status/1565396059874070536(45秒)

ここで「自由な報道機関」にカギ括弧が付いていることに注意してください。いわゆる「自由主義社会」の報道とは、この程度のものと、この記者は言いたかったのでしょう。

だから、この記者が書いた記事を大手メディアが取りあげてくれるとは、彼女も期待していなかったはずです。

先に紹介した記事の2番目は次のものでした。最初の記事はIAEA調査団が到着した翌日(9月2日)のものでしたが、この記事は9月6日付けのものです。

IAEA Report on Zaporozhye NPP Mentions “Mysterious Shelling” 52 Times, Doesn’t Name Culprits Posted by Internationalist 360° on September 6, 2022(IAEAの報告:ザポリージャ原発に52回もの「不可思議な爆撃」 、だが犯人は名指しせず)
https://libya360.wordpress.com/2022/09/06/iaea-report-on-zaporozhye-npp-mentions-mysterious-shelling-52-times-doesnt-name-culprits/

この時点ではザポリージャ原発の現地を訪れたIAEAの視察団が52頁にもおよぶ報告書を発表していますので、それをふまえた記事になっています。ちなみに、この報告書はチェルノブイリその他の原発基地を訪れた報告も付けられています。

ところが不思議なことに、このような大部な報告書にもかかわらず、ザポリージャ原発への砲撃をおこなっているのが誰かについては、 一言の言及もないのです。 「現在の危機的状況を回避するためにはキエフとモスクワの合意が必要だ」と述べるだけでした。

これでは何のための視察・検証だったのかと言いたくなります。こんな程度のコメントなら現地に行かなくても言えることだからです。しかし、ロシアが視察団と記者団の安全を確保するため最大限の努力をしたことだけは認めたようです。

そのことを、この記事は、次のようなツイッターによるコメントと、それに付けられた動画(国連による記者会見)よって紹介しています。

 

国連は、 ウクライナによる湖と陸を使った原発への攻撃を阻止し、国連査察団の安全を確保したロシアに感謝する。

ウクライナは湖と陸の二つの部隊で原発を奪取しようとしたが、 ロシア軍の反撃により攻撃は粉砕された。

〈動画〉
https://twitter.com/i/status/1565438154219323393(1分16秒)

 

このように、国連による記者会見では、 「IAEAがザポリージャ原発の現地で視察している最中にもキエフ軍による非道な攻撃が続いたこと」「それがロシア軍によって阻止されたこと」を明らかにしています。

にもかかわらず、IAEAの公式報告では、ウクライナがザポリージャ原発を攻撃していることを明示していません。

(ちなみに、 前頁の記事で「湖を使った攻撃」というのは、ウクライナを流れるドニエプル川をせきとめて造った「カホフカ人造湖」を船で渡って、ザポリージャ原発を攻撃しようとしたことを示しています。 )

それもそのはずです。IAEAというのは、WHOと同じく、国連機関と言っても、実質的にはアメリカと巨大資本(たとえばビル・ゲイツ財団)の支配下にあるからです。

CIAの指導を受けているキエフ政権は、ザポリージャ原発が危機的状況にあるという口実で、この周辺を国際管理下におくべきだと主張し続けているのですから、この「危機」がキエフ軍の攻撃によってつくり出されていることを認めるわけにはいきません。

なぜなら、キエフ政権が原発とその周辺への攻撃をやめさえすれば、危機はなくなるからです。キエフとワシントンにとって、こんなに都合の悪いことはありません。

しかし他方、ザポリージャ原発とその周辺を国際管理下におき、その平和維持軍をおくとすれば、いよいよNATO軍やアメリカ軍の出番となるでしょうから、こんな都合の良いことはないでしょう。

ドニエプル川とザポリージャ原発の現地

さてキエフ軍が原発に対して非道な攻撃を仕掛けていると言っても、これまでの記事では、その非道ぶりがよく伝わってきません。そう思っていたとき、次の記事を読んで初めて、その非道ぶりが私に生々しく伝わってきました。

そこで以下では、その記事を紹介します。それは、ロシアの国連代表が安全保障理事会で演説した内容です。

*UNSC: Russia Comments on IAEA Nuclear Plant Report Posted by Internationalist 360° on September 6, 2022(国連安全保障理事会:ロシアがIAEAの原発視察報告に意見表明)
https://libya360.wordpress.com/2022/09/06/unsc-russia-comments-on-iaea-nuclear-plant-report/

この記事も先に紹介した記事と同じく「INTERNATIONALIST 360°」というサイトからの記事です。

このサイトは私が敬愛する物理化学者・藤永茂先生(96歳)のブログ「私の闇の奥」でしばしば引用されているので、 最近は、このサイトをなるべく見るようにしています。

今までは、トロント大学名誉教授ミシ ェル・チョスドフスキーが主宰するGR(Global Research)というサイトの情報を利用することが多かったのですが、ウクライナ情勢が緊迫してきたとき、GRの情報に不満を感じ、もっと良い情報源をと探し求めていたとき、見つけたものです。

それはともかく、この記事は「ウクライナ軍によるザポリージャ原子力発電所への攻撃に関する国連安全保障理事会」で、ネベンジャ国連常駐代表が意見表明したものを、そのまま「文字起こし」したものです。

読んでみたら非常に説得力があり、それをそのまま全て翻訳して紹介したいくらいですが、 今はそのゆとりもありませんので、 私が特に紹介したいと思った部分だけにとどめます。

さてネベンジャ国連常駐代表の演説は次のように始まっていました(和訳はすべて寺島、た
だし読みやすくするために原文にはない改行を加えたところもある。)

ザポリージャ原発への非道な攻撃ぶりを糾弾するロシア国連常駐代表ネベンジャ

 

議長、 ロシアの国連常駐代表ネベンジャです。

グテーレス国連事務総長とグロッシIAEA事務局長によるウクライナ報告に感謝します。

グロッシ事務局長がザポリージャ原子力発電所への査察遂行を決定したことに感謝し称賛します。これはIAEA主導の責任ある、かつ勇気ある行動であり、原子力分野におけるIAEAの世界的な役割を確認するものです。

今回の訪問により、事務局長とその一団がザポリージャ原子力発電所の状況をご自身の目で確かめ、あなたが策定した安全原則を私たちが厳格に遵守していることを確認できたことを嬉しく思います。

9月2日の概況説明会での報告でお聞きしたように、発電所職員と発電所を警備するロシア軍との間に確立された協力関係により、発電所がおおむね正常に運転されており、安全に対する「内部」の脅威がないことをご自身の目で確認されたことは極めて重要なことでした。ウクライナ軍による砲撃と破壊工作が唯一の脅威であることを、知ることができたはずだからです。

上記の概況説明では、ザポリージャ原発の物理的な安全性とその完全性がIAEAの最大の関心事であり、 8月の砲撃によりその危険は高まっているという結論でした。私たちの確認も、これと全く同じです。

御覧のとおり、ここでは次のことが確認されています。

(1)IAEA事務局長とその一団がザポリージャ原子力発電所の状況を自身の目で確かめ、IAEAが策定した安全原則をロシアが厳格に遵守していることを確認できた。

(2)原発職員と発電所を警備するロシア軍との間に確立された協力関係により、発電所がおおむね正常に運転されており、安全に対する﹁内部﹂の脅威がないことをご自身の目で確認された。
(3)その結果、ウクライナ軍による砲撃と破壊工作がザポリージャ原発にとって唯一の脅威であることを知ることができた。
(4)ザポリージャ原発の物理的な安全性とその完全性がIAEAの最大の関心事であり、8月の砲撃によりその危険は高まっているという結論を、ロシアも共有する。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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