第32回 「狂人理論」「狂犬戦術」に取り憑かれたゼレンスキー
国際さて以上のことを確認した上で、ロシアの国連常駐代表ネベンジャが次に指摘したのは、IAEA報告に対する幾つかの疑念と問題点です。ネベンジャ代表はそれを次のように述べています。
つい数時間前に出た、今年4月から9月までのウクライナにおけるIAEA保障措置の実施状況に関する貴殿の報告書では、 砲撃の発生源を直接特定できていないことは遺憾であります。
国際的規制機関の長としての立場は理解できますが、現状では、物事をきちんと具体的固有名詞で呼ぶことが極めて重要です。
もしこの文書が、ザポリージャ原発を訪問した結果だけに焦点を当てたものであれば、あな
たの結論はより明確で曖昧さのないものになったかもしれません。
この文書については、 もう少し検討する時間が必要なので、 詳細は割愛させていただきます。
明らかにしていただきたいのです。
ただ、ザポリージャ原子力発電所を訪問した際、ロシア軍のどのような軍事装備を見たのか、私たちは、キエフ政権の無謀な行動を黙って見ているわけにはいきません。先月、私たちは
この件に関して2度にわたって国連安全保障理事会を招集しました。
私たちは西側諸国の同僚に、この砲撃がヨーロッパ最大の原子力発電所による大惨事、すなわち核爆発による現実的な脅威をもたらす可能性を説明しました。そして西側諸国の代表団に欧州大陸の住民に起こりうる結果について考え、キエフの要人を「包囲」するようお願いしま
した。
残念ながら、私たちの呼びかけは聞き入れられず、西側トップの了解のもとで、キエフ政権は原子力発電所への砲撃を継続しました。彼らは今日もそれを続けています。これについては後で詳しく説明します。
ネベンジャ代表が明らかにしたIAEA報告の疑問・欠点は、次の諸点に要約できます。
(1)残念ながらIAEAの報告書では、誰がザポリージャ原発を攻撃しているのかを確定していない。
(2)しかし、ロシアが原発を攻撃したというのであれば、ロシア軍のどのような軍事装備
をザポリージャ原発で見たのか明らかにすべきだ。
(3)国連安全保障理事会でキエフ政権の行動に歯止めをかけるようお願いしたが、それは実現せず、それどころか西側トップの暗黙の了解で、いまだに砲撃は続いている。
ここで特に注目すべきは、もしロシアが原発を攻撃しているのであれば、そのような攻撃基地・軍事施設はザポリージャのどこにあったのか。それを調べるために査察団が組織されたのではなかったか、と問うている点です。
日本のメディアを読んでいても、この初歩的な疑問を出しているところがひとつもないという驚くべき現状です。基礎的思考力の欠如と言うほか、ありません。
さて次にネベンジャ代表が問題にしたのは、IAEAが視察団をザポリージャ原発に派遣するにあたって、その安全をどう確保するか、それを確保するためにロシアはどのような配慮・努力をしたかという点でした。
それについて、ネベンジャ代表は次のように述べています。
ウクライナの原子力施設の核物理的な安全性を確保するためのIAEAの取り組みを、 ロシア側が当初から一貫して支持してきたことを強調したい。
ロシア側は、 IAEA事務局長R・グロッシ氏と彼の査察団が安全にザポリージャ原子力施設に到着し、 作業を終えてウィーンに戻ることができるよう、 あらゆる手段を講じてきました。
この事実は、国連事務総長の公式代表も指摘し、 「ロシア連邦は、ザポリージャ原子力発電所を訪問したIAEA査察団の安全を確保するために必要なあらゆることを行った」と強調していました。
国連事務総長からは先述のような好意的評価をいただきましたが、 IAEAとしては、 ロシア側との交流、特に査察団の十分な安全性の確保という点でどの程度満足しているのか、事務局長の評価を伺いたいものです。
他方、ロシア側のこのような努力に対してキエフ政権はどう対応したのでしょうか。その悪行ぶりをネベンジャ代表は次のように詳説しています。
残念ながら、我々が懸念していたとおり、ウクライナ側はIAEAのザポリージャ原発訪問をプロパガンダに利用できないと判断し、あらゆる手段で訪問を妨害してきました。
IAEAのザポリージャ原発訪問の当日、9月1日に、ウクライナ軍は、午前5時から原発とエネルゴダール市に対して大規模な砲撃を開始しました。
IAEAチームがすでに原発へ向かっている最後の瞬間まで、 彼らはザポリージャ原発への砲撃を続けました。
ウクライナ軍(AFU)は、ザポリージャ原子力発電所の領域、 IAEA査察団とロシア専門
して砲撃を行いました。
家の会合場所、 すなわちヴァシリエフカ集落付近、 およびエネルゴダールへの移動ルートに対
ザポリージャ原子力発電所の第1発電所から400mの距離で4発の砲弾が爆発しました。ウクライナ軍(AFU)の行動は、 このように、 IAEAの査察官の生命と安全を直接的に脅かしたのです。
しかし、ウクライナ軍の行動は、これにとどまりませんでした。先にカホフカ人造湖からザポリージャ原発方面に破壊工作部隊を送り込んだ記事を紹介しましたが、ネベンジャ代表は、次にそのことにも言及しています。
しかし、キエフ政権はそれだけにとどまりませんでした。IAEAの査察団が原発に到着する直前に、原発を武力で占拠しようというとんでもない挑発に出たのです。
9月1日朝6時、 ウクライナ軍(AFU)はザポリージャ原発を占拠するため、 カホフカ人造湖からザポリージャ原発方面に破壊工作部隊を送り込んだのです。
つまり、ゼレンスキー政権は、西側諸国から武器の供与をゆすり取るために原発周辺で活発な戦闘行為を行ったのです。西側諸国に「ウクライナ軍(AFU)の成功」という印象を与えるためです。これは原発の安全性に重大な損害を与える可能性がありました。
また万が一、 作戦が成功し、 原子力発電所がキエフ当局の支配下に入った場合、IAEAのグロッシ代表と査察団の専門家は、 ウクライナの妨害工作部隊の「人間の盾」になるところでした。
だがしかし、ロシア軍とロシア国家警備隊(ロスグバルデ ィヤ部隊)の効果的な行動と、 地元住民の警戒により、こうした挑発行為は阻止されました。
その結果、ロシア代表とIAEAチームとの会談は予定より4時間も遅れて、 結局、 会談が
おこなわれたのは正午になってからでした。
それはともかく、このようなウクライナ軍(AFU)の砲火の中で、 文字どおり勇気をもって活動したIAEA代表の勇気をたたえたいと思います。
これを読むと、IAEAの査察団が、どのような環境下で検証作業をおこなったのかが、生々しく伝わってきます。ところが、このネベンジャ代表の演説を読んでいると、このような攻撃はIAEAの代表団が査察作業をおこなっている間だけでなく、査察団がウィーンに帰った後でも連日のように続いていたのです。
本当は、このような連日の攻撃がどのようにおこなわれたのか、それに対して地元住民がどのような行動をとったのかも紹介したくなったのですが、今日はここで諦めることにしました。
すでに長くなりすぎていますので読者も疲れてきたことと思いますし、私も正直言って疲れてきたからです。ですから残りは「翻訳グループ」の皆さんに任せて『翻訳NEWS』に譲りたいという気になってきたのです。
しかし他方で、ここまでキエフ軍の非道な攻撃ぶりを紹介したのだから、最後までそれを伝えたいという気持ちも湧いてきて困っています。さもないとキエフ政権の本質が充分に理解してもらえないのではないかとも思うからです。
いずれにしても、今日はここまでにします。
(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体3—8年後にやっと叶えられたドンバス住民の願い—』の第6章から転載)
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国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授