【連載】『日本の進路』の特集

自治体外交に大いに展望あり 平和はわれわれがつくる 万国津梁の気概でアジアの共生

『日本の進路』(編集部)
沖縄県副知事 照屋 義実

沖縄県副知事 照屋 義実

 

沖縄県の照屋義実副知事は6月2日、韓国済州道で開催された「第18回済州フォーラム」で基調講演し、沖縄は東アジアでの地域間の信頼醸成と緊張緩和を目指し「21世紀の万国津梁を構築する」と宣言した。沖縄県の地域外交が本格的に始動したこともあり、編集部は照屋副知事にお話を伺った。(見出しとも文責編集部)

済州からのオファー
今回の済州訪問は年度当初の予定には入っていなかったんですが、済州から「平和フォーラムをやるので講演する役目で来てくれませんか」というオファーがあって、「知事が行きましょう」ということになった。ところが5月31日に北朝鮮のJアラート騒動があり、また台風2号襲来があって、危機管理担当の最高責任者として知事は県庁に残らざるを得ない。私が登庁した朝、いきなり知事から「代わりに行ってください」と言われました。しかも、翌日午後に出発する予定が、台風が接近してくると飛行機が飛ばなくなるので、済州に直行便がある関西空港に移動するためその日の夕方に飛行機に乗るという慌ただしさでの出発でした。急でしたがスタッフが数人ついてきてくれ、彼らがしっかりまとめたものがあるので大丈夫だろうと楽観しながら行ったんですね。

平和都市連帯に参加を表明
 フォーラムでは沖縄の地域外交室設置の意義、そこに至る今までの沖縄県民の経験を話しました。先の世界大戦で甚大な被害を受けたということ、さりながら今の「台湾有事」という情勢を考えると、中国とは600年の交流の歴史があり、琉球王国時代からの歴史的な交流を踏まえれば、親しい隣国という関係があるわけです。

一方で台湾とも、戦前は宮古島、石垣、与那国との交流は漁民を中心に盛んで、沖縄の漁民が台湾のキールンに集落をつくってカジキ漁を指導したりした経験もあります。中国、台湾、琉球はきわめて仲良く共存していたという話もしました。

こんにちのように情報が瞬時に伝わる緊迫した世界情勢の中で、東アジアにおける緊張を解く役目を担えるのは沖縄だけではないのかという認識から、地域外交室が立ち上がったということも伝えることができました。

もう一つは、済州が提案した「グローバル平和都市連帯」への参加表明です。この呼びかけはコロナ禍に入る前からありまして、それに応える準備がコロナで中断していました。ですから今回「参加します」という知事のサインを持って行きました。それを済州道の知事にお渡ししたことで、フランスとドイツの都市からも参加があり、4カ国の平和都市連帯ができました。先の大戦で壊滅的な打撃を被った都市を選んで誘致しているわけです。

そういった意味では、国内には広島とか長崎もあるんですから、そういうところに出かけて行って二度と戦場にしないというような決意をしっかりアピールしていく。それが連帯ネットワークですからね。それに参加したということは大きな意義があったと感じます。

沖縄と済州の相似性
 私の個人的な考えを申し上げれば、済州にある4・3平和公園の設立の意義は沖縄とたいへん相似性が高いと思います。

つまり韓国においては第2次大戦後も8年間の内戦、最後は朝鮮戦争があり、その間韓国の国民は分断・対立の中で生きてきたといっても過言ではないですね。特に済州は大変でした。米軍が支配している中でもたらされるさまざまな事件、事故、その被害ということは沖縄県とよく似ている。そのことを改めて実感しました。

4・3事件そのものにからんだ死者は3万人を超えると聞いています。その祈念塔的な場所が4・3平和公園ということもよく理解できました。平和の礎によく似た感じのものもあります。これをつくる際に沖縄の平和祈念公園に視察に来たということでして、沖縄県の大田県政時代の平和行政がそういう面でもかなり影響を与えているということも実感しました。

一方で済州島というのは特別自治道なんですね。国から相当大きな権限を譲り渡してもらって自治道を形成している。しかも、韓国政府から「世界平和の島」に指定されているのです。

沖縄でも、かつて道州制の議論のとき、単独自治州でやるべきだということで沖縄各界、超党派で意見をまとめてその準備をしていたわけです。しかし、道州制そのものが雲散霧消してしまいました。その議論をしているさなかに、済州島から勉強しに来たそうですよ。

結果として済州は特別自治道が実現し、相当に大きな権限をもつようになった。他方、沖縄は沙汰やみになってしまいました。沖縄が自治のあり方について将来を考えていくうえで、済州の行政はどうなっているか、勉強しに行く意義はあるんじゃないかというふうにも申し上げました。

沖縄は「平和の要石」
こんにちまでの間、大田県政から稲嶺、仲井眞、翁長、今の県政と続くわけですが、近隣諸国地域との民間交流は盛んにやっているんですね。芸術家同士の交流とか経済交流とか。その交流の経験を生かして、それを発展的に続けていくことがアジアの平和にとってたいへん有意義だし、また貢献できるということも十分に感じました。

沖縄県の地域的な特性は、米軍が軍事上「太平洋の要石」という位置づけをしたのと同じような位置づけで、「平和の要石」になり得るということは歴史的にも証明されています。大交易時代の「万国津梁」です。

沖縄県の地域外交室はまだ緒に就いたばかりですが、その方向に向かって歩み出した。県内紙社説は、「県の地域外交が本格始動した」と評価してくれていました。そういう意味で、大きな展望をもって、アジアとの共生ということを目標に据えて、大いに働くヒントがあるという気がいたします。

7月には知事が日本国際貿易促進協会(国貿促)の団で北京にまいります。コロナ禍での中断を挟んで、久しぶりの訪中になります。そのあとに時期を見計らって台湾にも行きます。中国の福建そして台湾、沖縄というところの交流を密にしていけば、一定程度といいますか、緊張緩和の一つのモデルがつくれるんじゃないかという感じがしています。そのへんの方向性をしっかり押さえながら、いろいろな政策をつくっていくということですね。

さらに未定ですけれど、フィリピンを中心に1、2カ国を訪問するという計画もあります。フィリピンはクラーク空軍基地、スービック海軍基地を米軍から取り返したという経験があります。スービック基地は民間に開放されたあと町づくりが進んでいる。クラーク基地も国家の下で開発計画が進んでいます。私は県建設業協会会長時代にフィリピンに視察に行きました。返還後の土地利用政策に学ぶものがあるんじゃないかいうことで。フィリピンは中国と米国とを使い分けて対応していますよね。

中国、台湾を基礎にしながらインドネシア、あるいはベトナムあたりにも、という方向性をもっていろんなことができるという気がします。一地方自治体ながら、こういうことができるということを全国自治体にお示しできればいいですね。知事も地域外交を積極的にやると言われています。武田駐済州日本国総領事も「沖縄県の自治体外交を積極的に支援します」と言ってくれましたからね。済州には中国海南島の代表も来られていて、地域として独自外交を展開する重要性を訴えていた。

そういうことが平和を担保するという気がします。平和はわれわれがつくりあげていく。その先兵になるという意気込みでおります。

これは万国津梁の精神、「三韓の秀を鍾め、大明を以て輔車と為し日域を以て唇歯と為して、此の二つの中間に在りて湧出せる蓬莱島なり」の一文から始まるその精神そのものです。これは世界的な位置、特性、役割を認識して発信したメッセージです。その当時の気概をしっかり受け継ぎながら、頑張っていかなきゃいけないと思っています。

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