【連載】横田一の直撃取材レポート

【連載】横田一の直撃取材レポート 汚染水放出強行、原子力ムラに寄り添う岸田政権の口先政治 2023年7月21日

横田一

原発汚染水(処理水)放出問題でも岸田政権(首相)の言行不一致が露わになっている。東日本大震災12年目を前に「被災地の方々がさまざまな課題に直面している現実を心に刻み、復興に全力で取り組んでいく」と意気込んだが、実際には震災復興にマイナスとなる汚染水放出を強行しようとしているのだ。

この問題を担当する西村康稔・経産大臣(兵庫9区。明石市、淡路島)は7月11日、福島県漁連の会合に出席して処理水放出について説明。終了後の会見で「今夏に海洋放出する政府の方針に変わりはない」ことを明言した。

そこで私は「風評被害はもう起きている」と銘打った東京新聞の記事内容を紹介しながら、復興にマイナスになるのではないかと聞いた。

──いま夏に放出すると、風評被害は確実だと。「処理水放出後の海産物は買わない」と海外の取引先の声もあって、このまま今、放出をすると地元の漁業に大打撃を与えて、復興の足かせになるのではないかというふうに考えないのか。

西村 今日も非常に大きな不安、大きな懸念の声を聞きました。私の地元、兵庫県明石市と淡路島は水産業、漁業が盛んなところで、私の親戚も漁業者はいる。地元のそうした関係者の方々からも、地元の組合長からもそうした風評に対する強い懸念を聞いている。そうしたなかで今日、さらに強い声を聞いたので、そうした皆さんの懸念に寄り添いながら、不安な気持ちに寄り添いながら対応をしければならないと改めて今日強く感じたところです。

今日も風評が万が一出た場合の対策について説明をしたが、「販路開拓をしっかりとやってくれ」とか、あるいは「消費者に対してもしっかりと安全性について説明してほしい」という強い声もいただいた。また「(風評被害対策の)予算がどういう時に発動されて、どういうふうに使えるのか。そうしたことも丁寧に説明してほしい」という声もあった。できる限り、漁業者の皆さんに使い勝手のいい仕組みで、(風評被害に)支援がしていけるように考えている。私の方は、海外に対してもこうしたIAEAの報告書であるとか、科学的根拠に基づいたデータもしっかりと示しながら、安全性について丁寧に内外に説明をしていきたいというふうに考えている。風評対策に全力をあげていくという決意で臨んでいきたいと思っている。

 

漁業が盛んな選挙区が地元とは思えない回答ではないか。「風評被害が出たら予算措置(賠償金支払い)で対応する」という漁業関係者の頬を札ビラで叩くかのような強行姿勢が垣間見えたが、とても被災地に寄り添っているようには見えなかったからだ。

質問で一部引用した東京新聞の記事が出たのは7月4日。海産物の養殖加工販売「マルキ遠藤商店」(宮城県石巻市)の苦境を、社長の声を通して次のように伝えていたのだ。

「(ホヤの米国輸出について社長は)『来年はどれだけ注文が取れるか分からない…』と苦悩の表情を見せた。実は4月、米国の取引先から『今年の注文は、水を流す前のものでお願いします』と言い渡された」

悪影響はホタテにも出ていて今年に入って出荷量は激減。輸出先を失ったホタテが国内市場にあふれ、価格が暴落しているというのだ。そして東京新聞の記事は、遠藤社長の悲痛な叫びで締めくくっていた。

「10年かかって震災前の売り上げ以上に盛り返したが、海洋放出で再び先行きは見えなくなった。『10年かけて輸出が再開し、日本全国に営業をかけて販売先が広がり、値段にも影響しなくなった。ようやくという今、なぜ流すのか』と悔しさがにじむ」。

こうした被災地の漁業関係者に西村大臣は寄り添っているといえるのかと思いながら質問を続けた。

──(安全性について説明をしても)海外への「安心」が十分に確保されていないのに放出をしたら(風評)被害が出るのは当たり前ではないか。(今夏の放出は)早すぎるのではないか、時期が・・・。なぜ諸外国の安心を得られるまで待たないのか。

西村 私どもとして丁寧に説明をしていきたいと考えている。

──地元の漁業を潰すつもりなのか。復興の足かせになると思わないのか。

西村 漁業者の皆さんが生業をずっと継続していけるように、責任をもって取り組みます。

“口先政治”とはこのことだ。中国や韓国など諸外国からの理解が不十分なまま海洋放出を始めれば、風評被害が出るのは確実だ。それなのに、「今夏の放出」という政府方針が見直される兆しはまったくない。結局、安倍元首相がよく口にした「東北の復興なくして日本の再生なし」は絵空事にすぎず、「東北の復興を潰して原子力ムラを再生させる」が実態といえる。“安倍背後霊内閣”とも呼ばれる岸田政権(首相)は、言行不一致の“アベ口先政治”も、しっかりと継承しているようなのだ。

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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